日本線虫学会誌
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研究資料
激しい下痢症状を呈したイエネコにおける線虫Soboliphyme baturini の寄生事例
浅川 満彦竹内 萌香鳥居 善和
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2017 年 47 巻 1 号 p. 21-22

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抄録

 腎虫類Soboliphyme属はおもにトガリネズミ科とイタチ科に寄生する線虫であるが、今回、消化器症状を呈したイエネコを駆虫したところ、本属線虫が排出された。2015年秋、長野県阿智村にて野外で生活をしていた個体が救護され、一般家庭に飼育された(雄・雑種月齢、来院時推定約5か月齢、体重1.25 kg)。同年11月下旬、扁平な蠕虫をともなった水様下痢便が認められたことから動物病院で受診された。その下痢から猫回虫卵と鞭虫様虫卵が認められたためミルベマイシンを経口的投与した。その結果、多数の猫回虫成虫が排泄されたが、鞭虫様虫卵は消失しなかった。そこで、ブロードラインを皮下投与したところ、体長約3.3 cm、体幅約1.4 mm、直径約2.5 mm の頭胞を有した雌線虫6虫体が糞便とともに排出された。形態を観察したところSoboliphyme baturini と同定された。本種終宿主はイタチ科であるが、ネコは国内初、世界で2例目であった。吸盤状を呈した口腔で胃壁に吸着し、胃粘膜損傷や胃潰瘍が生ずることが知られるので、下痢や血便などを呈した個体では、この線虫による寄生虫病も類症鑑別の対象として念頭に置く必要がある。この種は淡水産ミミズ類を中間宿主とし、時にトガリネズミ類などを待機宿主としているため、特にこのような動物を摂食する傾向のあるネコは注意したい。

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© 2017 日本線虫学会
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