抗菌薬TDMガイドライン改訂版では、糸球体濾過量(eGFR)80mL/min/1.73m2以上の腎機能正常患者について、目標トラフを速やかに達成するため初回負荷投与が推奨され、推奨用量が規定されている。しかし、eGFR 80mL/min/1.73m2未満の腎機能低下患者では、臨床的な安全性の検討が限られていることから初回負荷投与は推奨されていない。薬物動態から、腎機能低下時は定常状態への到達が遅延するため負荷投与が望ましい。そこで、腎機能低下患者における初回負荷投与の有用性と安全性について、定常状態でのトラフ値の治療域到達割合と腎障害の発現割合を指標に検討を行った。2015年1月から2016年12月の間に当院でバンコマイシンを投与した症例について、後方視的にカルテ調査を行った。1日1回投与のeGFR 30-80mL/min/1.73m2のうち解析対象症例は22例だった。初回投与量で標準投与群16例、初回負荷投与群6例に分け、定常状態でのトラフ値の治療域到達率、腎障害発現率を比較した。定常状態でのトラフ値の治療域到達割合は負荷投与群83.3%、標準投与群50%で、有意差を認めないものの、負荷投与群で治療域到達割合が高い傾向が見られた。腎障害の発現割合は負荷投与群0%、標準投与群12.5%で、両群で有意差を認めなかった。今回の調査は症例数が少なく、高齢の軽度腎機能低下者(eGFR 60-80mL/min/1.73m2)を中心とした調査結果だが、定常状態でのトラフ値の治療域到達割合および腎障害の発現割合とも、負荷投与群、標準投与群の両群間で同程度であり、腎機能低下患者でも負荷投与を安全に実施できることが示唆された。