日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
Print ISSN : 2187-0411
7 巻, 1 号
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原著
  • 大谷 知子, 賀勢 泰子, 國友 一史, 下岡 和美, 川添 和義, 佐藤 陽一, 山内 あい子
    原稿種別: 原著
    2018 年 7 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/27
    ジャーナル フリー

    寝たきり高齢患者のための有効で安全な薬物療法を行うためには、加齢が薬物体内動態に影響を及ぼすため、腎機能の正確な評価が必要である。日本では、酵素法により測定された血清クレアチニン(SCr)値を基にした日本人向け推算糸球体濾過量(eGFR)やCockcroft-Gault(CG)式により算出した推定クレアチニンクリアランス(eCCr)が患者の腎機能の指標として使用されている。しかし、eGFRやeCCrを高齢患者にそのまま使用するにはいくつかの問題があり、CG式は、外国人母集団のデータを基に作成された式であること、Jaffe法により比色法で測定されたSCr値を用いていることである。これらの問題点に対処するため、これまでSCr値に対する様々な補正プロトコールが提案されている。本研究の目的は、寝たきり高齢患者を対象に、24時間蓄尿法による実測CCr(mCCr)と比較して、eCCrを算出する最も精度の高いSCr補正方法を決定することである。2014年8月から2015年5月に鳴門山上病院入院中の65歳以上の患者を対象に、mCCrを測定した。次の(a)~(e)の方法で求めたSCr値を基にCG式からeCCrを算出し、mCCrと比較した。(a)酵素法で測定したSCr値、(b)+0.2補正法:酵素法SCr値に0.2 mg/dLを加えてJaffe法の値に換算したSCr値、(c)Dooley法:SCr値<0.06 mmol/Lの場合0.06 mmol/Lに補正、(d)Smythe法:SCr値<1.0 mg/dLの場合1.0 mg/dLに補正、(e)古久保法:男性はSCr値<0.8 mg/dLの場合0.8 mg/dLに、女性はSCr値<0.6 mg/dLの場合0.6 mg/dLに補正した。mCCr(対照群)と各群のeCCrをDunnett検定により比較した結果、(a)群と(d)群においてmCCrとの間に各々有意な差(p<0.05)が認められた。Bland-Altman分析を行った結果、(b)群、(c)群および(e)群において、eCCrとmCCrとの間に一致性が認められた。予測精度をmCCrの±30%以内のeCCrを有する患者のパーセンテージとして比較した結果、(b)群で75.6%と最も高く、続いて(c)群で71.1%であった。異なる補正方法によるeCCrとmCCrとを比較した結果、酵素法で測定したSCr値に0.2 mg/dLを加えてJaffe法に近似させたSCr値を使った方が、eCCrとmCCrとの一致性がより高いことが明らかとなった。

  • 坂本 愛, 浦田 元樹, 岩川 真也, 田中 香奈, 北村 芳子
    原稿種別: 原著
    2018 年 7 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/27
    ジャーナル フリー

    高齢者におけるポリファーマシーは、潜在的に不適切な薬物が増加することで、有害事象が増加する危険性がある。慢性腎臓病(CKD)患者は、一般的に服用薬が増加する傾向にあるとされるが、CKD病期に応じた変化や、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用程度については明らかではない。そこで、2016年1~6月に入院した65歳以上の647例を対象として、CKDの糸球体濾過量(GFR)区分で群分けを行い、入院時の常用薬のうち定時服用薬について、服用薬と用法の種類を調査した。服用薬の種類が6種類以上でポリファーマシーと定義した。加えて、高齢者および腎機能低下患者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用状況と入院中の中止・他剤への変更状況について調査した。その結果、ポリファーマシーの割合はG1/2群の42.0%に比しG4、G5D群ではそれぞれ84.1、90.5%と有意に高く、用法の種類もG4群以降にG1/2群に比べ有意な増加が認められた。高齢者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合は、G1/2群の50.7%に比しG4、G5D群ではそれぞれ84.1、71.4%と有意に高かったが、腎機能低下患者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合は、各GFR区分において33~50%程度で、有意な差は認められなかった。有害事象の潜在的リスク因子となる薬物は、GFR区分に応じて種類に特徴を認め、入院中に中止・他剤への変更となった割合はG4、G5群が他のGFR区分と比較して明らかに高かった。本検討より、CKDを有する高齢者では病期の進行に伴いポリファーマシーの割合は増加し、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合も増加する傾向にあることが明らかとなった。そして、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物はCKD病期に応じた薬学的管理が重要であると示唆された。

短報
  • 浅川 杏子, 清水 忠洋, 齊藤 安昌, 鎌田 泉, 曾根原 亘
    原稿種別: 短報
    2018 年 7 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/27
    ジャーナル フリー

    抗菌薬TDMガイドライン改訂版では、糸球体濾過量(eGFR)80mL/min/1.73m2以上の腎機能正常患者について、目標トラフを速やかに達成するため初回負荷投与が推奨され、推奨用量が規定されている。しかし、eGFR 80mL/min/1.73m2未満の腎機能低下患者では、臨床的な安全性の検討が限られていることから初回負荷投与は推奨されていない。薬物動態から、腎機能低下時は定常状態への到達が遅延するため負荷投与が望ましい。そこで、腎機能低下患者における初回負荷投与の有用性と安全性について、定常状態でのトラフ値の治療域到達割合と腎障害の発現割合を指標に検討を行った。2015年1月から2016年12月の間に当院でバンコマイシンを投与した症例について、後方視的にカルテ調査を行った。1日1回投与のeGFR 30-80mL/min/1.73m2のうち解析対象症例は22例だった。初回投与量で標準投与群16例、初回負荷投与群6例に分け、定常状態でのトラフ値の治療域到達率、腎障害発現率を比較した。定常状態でのトラフ値の治療域到達割合は負荷投与群83.3%、標準投与群50%で、有意差を認めないものの、負荷投与群で治療域到達割合が高い傾向が見られた。腎障害の発現割合は負荷投与群0%、標準投与群12.5%で、両群で有意差を認めなかった。今回の調査は症例数が少なく、高齢の軽度腎機能低下者(eGFR 60-80mL/min/1.73m2)を中心とした調査結果だが、定常状態でのトラフ値の治療域到達割合および腎障害の発現割合とも、負荷投与群、標準投与群の両群間で同程度であり、腎機能低下患者でも負荷投与を安全に実施できることが示唆された。

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