日本鳥学会誌
Online ISSN : 1881-9710
Print ISSN : 0913-400X
ISSN-L : 0913-400X
総説
コウノトリ育む農法の確立―野生復帰を支える農業を目指して―
西村 いつき江崎 保男
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 68 巻 2 号 p. 217-231

詳細
抄録

本稿では,兵庫県がコウノトリ野生復帰事業を契機に県北の但馬地域で開発した,コウノトリ育む農法Stork-Friendly Farming Method (SFFM)の確立過程とその技術,普及啓発の歴史を述べる.この農法は,コウノトリCiconia boycianaの餌動物が一年中生息できる環境と稲作を両立させるため,化学肥料と農薬に頼らない抑草技術及び病害虫抑制技術を体系化したものである.主な技術を稲刈り後の秋季から時系列上に並べると,堆肥(牛糞堆肥・発酵鶏糞)と有機資材(米ぬか等)の投入,冬期湛水,早期湛水,複数回代かき,田植え直後の有機資材の投入,深水管理,中干し延期,であり,年に複数回行う畦畔の草刈りも含まれる.農法確立の過程では,農学分野で必要性が論じられながらも,農業現場で重視されてこなかった生態学の活用,特に水田雑草の生態を利用し,地域に特有の生態系を有効に活用することに重点を置いた.普及啓発では,農業者だけでなく,住民・消費者・小中学生を対象にして野生復帰の意義と必要性を啓発しつつ,育む農法の役割(餌場機能)と効果(抑草・病害虫抑制・付加価値・食の安全)の周知を行い,育む農法の実践者と,米を買い支える消費者を増やしてきた.その結果,野生復帰事業を活用した農産物のブランド化と,コウノトリをシンボルとする環境と経済の融合が実現した.

著者関連情報
© 2019 日本鳥学会
前の記事 次の記事
feedback
Top