日本鳥学会誌
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総説(黒田賞)
遺跡から出土する鳥骨の生物学,「考古鳥類学」の現状と展望
江田 真毅
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キーワード: 集団構造, 小進化, 食性, 分布, 保全
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2019 年 68 巻 2 号 p. 289-306

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抄録

日本において動物考古学は,遺跡から出土する動物遺体を資料として人類の過去を研究する考古学の一分野である.一方,動物遺体の分析からは,動物の過去の生態も復元できる.日本でも遺跡から出土した哺乳類の骨からその分布や大きさの時代的変化を復元する考古動物学的研究の例がいくつかある.しかし,小論で「考古鳥類学」的研究と呼ぶ遺跡から出土する鳥骨に着目して,動物側の視点からその過去の様相を調べる研究はほとんどなかった.日本には600種を超える鳥類が分布しており,その生態は多様である.歴史的な環境の変化に対する各種の応答も様々であったと考えられるため,哺乳類とは異なる生態変化の様相を検出できる可能性がある.遺跡から出土した骨を同定し,さらに骨の形態やDNA,組織,安定同位体比などを調べることで,分布や形態,集団構造,遺伝的多様性,食性など当時の鳥類の生態を復元できる.筆者らがこれまで取り組んできたアホウドリPhoebastria albatrusの研究では,この種がかつては日本海北部やオホーツク海南部にも分布していたことが分かった.また約1,000年前のアホウドリには体サイズと食性の異なる2つの集団があり,さらに2つの集団の子孫は現在鳥島と尖閣諸島に生息していることも明らかになった.これらの知見は,実際には2種からなる可能性があるこの危急種の保全の方向性を決定づける重要なものである.今後,次世代シーケンサーによるゲノムの比較や,コラーゲンタンパク分析が遺跡出土の鳥骨に応用されることで,考古鳥類学の発展が期待される.これまで鳥類の研究は主に進化的時間スケールと生態的時間スケールで進められてきた.考古鳥類学的研究から得られる情報は,これらの時間スケールの間を埋めるものであり,日本においても今後さらなる研究の発展が期待される.

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