日本鳥学会誌
Online ISSN : 1881-9710
Print ISSN : 0913-400X
ISSN-L : 0913-400X
総説
気候変動がペンギンに与える影響
高橋 晃周
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2023 年 72 巻 1 号 p. 3-15

詳細
抄録

地球規模での気候変動は,様々な地域の野生生物に対し直接的または間接的に大きな影響を与えていることが知られている.ペンギンをはじめとする海鳥は,繁殖を行う陸地において,また採食を行う海洋において,気候変動の影響を受けると考えられ,生態系変化の指標種としてその個体数動向や生態変化がモニタリングされている.本論文では,気候変動がペンギン類に与える影響について,その生態的プロセスや将来予測に関する研究をレビューした.気候変動は,繁殖環境や採食環境の変化を通じて,現生のペンギン類18種のうち,13種に影響を与えており,ペンギンの個体数変化に影響する重要な要因となっていた.一方,その影響は複雑であり,同種内でも異なる地域間で,また同一個体群の中でも生活史パラメータ間で,正と負が逆の影響を与える場合があった.ペンギンの個体数変化の将来予測について,南極および亜南極域のペンギンで温暖化の進行の程度に合わせた精緻なシミュレーションが行われ,温暖化対策の重要性を示す結果が得られているものの,結果を解釈する上ではシミュレーションの不確実性についても考慮する必要があることを指摘した.また,気候変動がペンギンに影響を与えるプロセスをより正確に把握するために,採食行動の研究,とくにこれまでデータの少ない非繁殖期の成鳥や幼鳥の研究が今後必要であることを述べた.最後に,気候変動の影響下にあるペンギン個体群の復元力を高め保全を推進するためにも,ペンギン各種に対する人間活動の影響を可能な限り小さくすることが必要であることを論じた.

著者関連情報
© 2023 日本鳥学会
前の記事 次の記事
feedback
Top