日本鳥学会誌
Online ISSN : 1881-9710
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72 巻, 1 号
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特集:ペンギンを通して学ぶ生物の環境適応と生物多様性保全
序文
総説
  • 高橋 晃周
    原稿種別: 総説
    2023 年 72 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル オープンアクセス

    地球規模での気候変動は,様々な地域の野生生物に対し直接的または間接的に大きな影響を与えていることが知られている.ペンギンをはじめとする海鳥は,繁殖を行う陸地において,また採食を行う海洋において,気候変動の影響を受けると考えられ,生態系変化の指標種としてその個体数動向や生態変化がモニタリングされている.本論文では,気候変動がペンギン類に与える影響について,その生態的プロセスや将来予測に関する研究をレビューした.気候変動は,繁殖環境や採食環境の変化を通じて,現生のペンギン類18種のうち,13種に影響を与えており,ペンギンの個体数変化に影響する重要な要因となっていた.一方,その影響は複雑であり,同種内でも異なる地域間で,また同一個体群の中でも生活史パラメータ間で,正と負が逆の影響を与える場合があった.ペンギンの個体数変化の将来予測について,南極および亜南極域のペンギンで温暖化の進行の程度に合わせた精緻なシミュレーションが行われ,温暖化対策の重要性を示す結果が得られているものの,結果を解釈する上ではシミュレーションの不確実性についても考慮する必要があることを指摘した.また,気候変動がペンギンに影響を与えるプロセスをより正確に把握するために,採食行動の研究,とくにこれまでデータの少ない非繁殖期の成鳥や幼鳥の研究が今後必要であることを述べた.最後に,気候変動の影響下にあるペンギン個体群の復元力を高め保全を推進するためにも,ペンギン各種に対する人間活動の影響を可能な限り小さくすることが必要であることを論じた.

原著論文
  • 久志本 鉄平, 新田 理枝
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり

    ペンギンの胃内から見つかる石の役割については,潜水時の浮力調節のため,あるいは餌の消化を助けるために飲み込む,もしくは絶食への適応ではないかと考えられてきた.本研究では,胃の中にある石の役割を明らかにするため,飼育下のフンボルトペンギンが小石を飲む行動と吐き戻しする行動を観察し,産卵との関連を調べた.その結果,産卵期のメスにのみ小石を飲み込む行動が確認され,その多くが卵殻形成時期に集中していた.このことから,ペンギンの胃内から見つかる石は,メスが卵殻形成に必要なカルシウムを補給しようとして,誤って小石を飲み込んでいる可能性が考えられ,これまで考えられているような浮力調節や消化や絶食時の適応のために胃石を持つ必要性は低いのではないかと考えられた.

原著論文
  • 井口 学
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 25-45
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    浅い餌場で採餌活動を行う飼育キンクロハジロAythya fuligulaはカイツブリTachybaptus ruficollisと同様に,水面滞在中に取り込んだ酸素の一部を自身の水面での代謝に消費し,残りを後方気嚢に蓄積して潜水活動に用いると仮定する.潜水に用いられる酸素の割合すなわち酸素利用効率ηは水面滞在中の代謝速度EMR,一回換気量VT1,換気速度Vesに対する修正アロメトリー式を用いて定式化し,水面滞在時間Tp,潜水時間Td,最大潜水時間Tdmaxおよび潜水活動中の平均代謝速度MRdに対する予測式を提案した.ただし,潜水時間Tdの予測式の導出に必要となる潜水中の単位時間当たりの総エネルギ損失量は水面滞在中の代謝速度EMRに浮力,流動抵抗,強制対流熱伝達に起因するエネルギ損失量を加えたものであると仮定している.水面滞在時間Tp,潜水時間Td,最大潜水時間Tdmaxおよび潜水活動中の平均代謝速度MRdの予測値を既存の測定値と比較し,修正アロメトリー式,酸素利用効率ηの定式化および潜水中の単位時間当たりの総エネルギ損失に関する仮定の精度を調べた.

  • 田尻 浩伸, 田米 希久代, 中野 夕紀子, 櫻井 佳明, 大河原 恭祐
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 47-56
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり

    石川県加賀市の片野鴨池で越冬するオオヒシクイ Anser fabalis middendorffii は,池の底に沈んでいるヒシ類の実を採食するが,拾い上げたすべての実を採食するわけではなく,採食せずに投棄する場合がある.この行動がオオヒシクイによるヒシ類の実の選択であると考え,調査を行なった.2009年,2015年,2016年と2017年の越冬期前に,鴨池内のオニビシが繁茂している区域にオオヒシクイの採食を阻害するためのネットを設置して非採食区を設定し,翌春に非採食区内とそれ以外(採食区)でヒシ類の実を回収して個数と乾燥重量,サイズを比較した.ヒシ類の実の密度は2016年の越冬期後を除いて非採食区の方が高かった.平均乾燥重量はすべての年で非採食区の方が軽く,2009年と2017年の越冬期後には有意な差が検出された.ヒシ類の実のサイズは2015年を除いて非採食区の方が小さかったが,有意な差は検出されなかった.オオヒシクイが採食したヒシ類の実の大小比と,越冬期後に非採食区から採集したヒシ類の実の大小比には有意な差が検出された.オオヒシクイの採食行動をその結果から失敗,廃棄,小ヒシ採食,大ヒシ採食の4つに分け,それぞれにかかった時間を比較したところ,大ヒシを採食するのに必要な時間は小ヒシを採食する場合と比較して3倍ほど長く,有意な差が検出された.これらの結果から,オオヒシクイは小さい実を選好しており,それによって採食効率を高めている可能性が示唆された.

  • 酒井 理佐, 山田 和佳, 西澤 文吾, 越智 大介, 新妻 靖章, 綿貫 豊
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり

    北太平洋西部の日本列島本州沖にて2014年から2018年に混獲されたコアホウドリPhoebastria immutabilis 96個体とクロアシアホウドリP. nigripes 25個体の胃内容物を調べた.胃内にプラスチックを持っていた個体の割合はコアホウドリ(91%)の方がクロアシアホウドリ(48%)より高く,この傾向は北太平洋中央部での先行研究と同じであり,また,飲み込んでいた硬質プラスチックあるいはレジンペレット各々の重量と長さそれぞれの平均はコアホウドリ(0.073 g, 8.25 mm)の方がクロアシアホウドリ(0.031 g, 5.86 mm)より大きかった.このプラスチック負荷の種間の差が,利用海域と食性の種間差によって説明できるとする強い証拠は,本研究では得られなかった.北太平洋でのこれら2種のプラスチック負荷は,南太平洋西部で混獲された,あるいは海岸に漂着したアホウドリ科より高く,その影響が懸念される.

  • 田悟 和巳, 横山 陽子, 谷口 裕紀, 柏原 聡, 樋口 広芳
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり

    日本で絶滅が危惧されているチゴモズLanius tigrinusの分布調査を,秋田県から新潟県の日本海沿岸部で行った.現地調査で雄の成鳥を111個体確認し,つがい数密度は5.1 /km2であった.この結果をもとにMaxentにより秋田県から新潟県のチゴモズの分布域を推定したところ,沿岸域のクロマツ林と耕作地(草地含む)が隣接する環境が主な生息地であり,生息面積は31.3 km2,つがい数は160つがいと推定された.近年,国内でチゴモズがまとまって分布する地域はほかに知られていないため,このつがい数は国内の個体数の大部分を占めていると考えられる.モデル作成に関連した主な環境要素はクロマツ林と耕作(草地含む)であり,チゴモズの保全には,クロマツ林と耕作地(草地含む)をセットで保全することが重要である.

短報
  • 水谷 晃, 山本 誉士, 伊澤 雅子, 河野 裕美
    原稿種別: 短報
    2023 年 72 巻 1 号 p. 77-83
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    八重山諸島西表島において,カンムリワシSpilornis cheela perplexusのロードセンサスを行い,出現個体数に対する時間帯や気象条件の影響を調べた.出現個体数は朝に最も多く,次いで夕に多かった.どちらの時間帯も,出現個体数は,風速に対して負の相関がみられたが,湿度および気温に関連は認められなかった.カンムリワシが止まり木で索餌する際の体の角度は,風速の増加に伴って有意に前傾姿勢になった.夜行性の両生類や爬虫類を主要な餌とするカンムリワシにとって,朝や夕はそれらの捕獲の可能性が高まるものと考えられる.一方,待ち伏せ採餌者である本種にとって,風はエネルギーの支出を生じさせるため,出現個体数に負の影響を与えるものと推察された.本種の個体数動態を把握するためのロードセンサスの結果を解析するうえで,時間や風速は考慮すべきであるといえる.

技術報告
  • 山本 彩織, 楠田 哲士, 小林 篤, 松村 秀一, 白石 利郎, 土井 守, 中村 浩志
    2023 年 72 巻 1 号 p. 85-93
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/05/11
    ジャーナル 認証あり

    非侵襲的な試料として排泄糞を用いたニホンライチョウLagopus muta japonicaのDNA性判別法の確立を試みた.まず,性別既知のスバールバルライチョウL. m. hyperboreusの血液由来DNAを用いて,他のライチョウ類での性判別報告があるプライマー2550F/2718RとP2/P8が利用可能かを検討した.PCR後の電気泳動にて増幅断片長の差が明瞭であった2550F/2718Rが本種の性判別により適していた.次に,2550F/2718Rからの増幅産物のシーケンスデータをもとに,標的領域を短くしたプライマーLm-F/Lm-Rを設計し,2550F/2718RとLm-F/Lm-Rも用いて,生息地で採取したニホンライチョウ糞132検体で性判別を行った.増幅断片から性判別ができた検体は2550F/2718Rで68検体,Lm-F/Lm-Rで89検体であった.性判別ができた検体での採取時の外観情報との一致率は,2550F/2718Rで88.2%,Lm-F/Lm-Rで85.4%であった.Z染色体由来バンドの出現率は,2550F/2718Rで43.6%であったのに対し,Lm-F/Lm-Rでは64.4%となり,PCRの増幅成功率の向上が認められた.増幅の標的領域を短くすることで,性判別効率を向上させることができた.

観察記録
その他
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