日本鳥学会誌
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原著論文
志津川湾におけるコクガンの行動圏と環境利用
嶋田 哲郎山田 由美杉野目 斉澤 祐介土方 直哉時田 賢一佐藤 賢二鈴木 卓也本多 正樹太齋 彰浩阿部 拓三
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ジャーナル 認証あり

2023 年 72 巻 2 号 p. 211-222

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抄録

志津川湾におけるコクガンBranta berniclaの行動圏と環境利用を解明するため,2019/20年と2020/21年の2越冬期に,コクガンにGPSロガーを装着して追跡を行い,固定カーネル法(95%および50%の行動圏を推定)を用いたコクガンの日中,夜間の行動圏,環境利用を明らかにした.行動圏の面積をみると,コクガン7個体で個体差がみられたものの,日中では95%行動圏で平均3,316.3 ha,50%行動圏で平均518.7 haであった.夜間では日中と同様な位置に行動圏が主に形成され,95%行動圏で平均9,480.1 ha,50%行動圏で平均1,965.5 haであった.行動圏の環境区分をみると,漁港に強く依存した1個体を除き,日中の95%行動圏,50%行動圏いずれも漁港区域,養殖区域,アマモ場が含まれた.この結果はこれまでの目視観察で明らかとなった採食場所と一致した.コクガンは漁港や養殖筏で海藻類を採食し,それらは湾内に広く分布する一方で,エネルギー量が高く,食物として価値の高いアマモ場は限られた場所に分布した.アマモ場では,アマモはコクガンによる採食可能な水深の範囲が限られたが,アマモ類の中で出現率がもっとも高かった.一方で,タチアマモはアマモより広い範囲でコクガンによる採食が可能であったが,出現率はアマモよりも低かった.希少種であり,ラムサール条約湿地として地域のシンボルのひとつである志津川湾のコクガンを保全するためには,漁港や養殖筏を維持しつつ,アマモ場を保全していくことが重要であると考えられる.

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