抄録
本稿は、既存の教育評価手法が、開発途上国において有効な教育政策や教育計画の策定に繋がるためにいかなる課題を有しているかを、手法の理論的比較分析という視点から考察し、認識枠組みとしての総合的教育評価モデルを提案するものである。具体的には、教育評価についての既存の国際学力調査、学校調査、世帯調査を比較・対比させ、課題の抽出を行った。考察結果として、教育評価に使用されるデータの入手方法において、従来の国際学力調査がその対象や実施方法において低所得国への示唆を得ることが困難であること、学校調査や世帯調査も、それぞれ教育を供給する側と需要する側の片方に視点を当てることにより、教育開発に関する包括的な方策を提示するに至っていないことが確認できる。これらの課題は先進国にも共通するものであるが、開発途上国においては各種調査の結果が大きく乖離することがあり、総合の必要性は特に大きい。また、定量的なデータだけでは得られない推論 (inference) を定性的な調査から得ることも、非就学や退学などの問題に対するきめ細かい対応には不可欠となる。