抄録
この論文では過去20年にわたる家族社会学における質的研究の動向をふりかえり,その現状と課題を考察する.『家族社会学研究』(1989-2010)における質的研究を,論文数,データとその収集方法,方法論,主題といった観点から検討する.論文数が増加してくるのは2000年以降のことであり,そこでは個人の経験に焦点をあて,面接調査によってえられた「語り」をデータとして使用する研究が多いが,方法論や理論的な想定については十分には議論されてこなかった.こうした検討をふまえて,方法の妥当性と知見の一般化可能性という課題について議論する.調査研究過程の手続きの有意関連性を示し,理論的想定を明らかにすることの重要性を指摘するが,このことは家族社会学における知見の意義を明確にするという意味でも重要である.さらに,この知見の一般化可能性という水準において,量的研究との関係を考えることを提案する.