2016 年 28 巻 2 号 p. 111-121
本稿では,サービス付き高齢者向け住宅の入居者8名へのインタビュー調査から,人々が高齢者像や世代間関係における規範を参照しながら,自らの入居選択を納得性の高いものとして説明していく局面に焦点をあて,おもに「自立」意識が果たす役割について考察した.語りのなかでは「従来の規範」が否定されるとともに,「子どもに迷惑をかけない」「子どもは拠り所」という一見相反する規範が共存し,いずれも入居選択を前向きに位置づけていた.「迷惑をかけない」という言い回しは自己の決定を正当化すると同時に,子どもからのサポートへの期待を含み,「迷惑」は文脈にあわせて読みかえられていた.他方,「子どもが拠り所」とする規範は,ときに世代間関係やアイデンティティの再編を要請していた.人々はこうした言説上の「戦略」によって,自己の一貫性を保持しつつ「自立」意識と現状の調整を行い,自らの選択を積極的に支えていたといえる.