2016 年 28 巻 2 号 p. 122-135
本稿では,結婚が職業キャリア形成,とりわけ無業への移動と管理職への移動に与える影響について,男女を比較しながら明らかにする.本稿の特徴は,ライフコース論の視座から,結婚の効果が時間により変わると想定し,セレクションと効果の変化に着目して分析する点にある.2005年SSM調査を用いたイベントヒストリー分析により,以下の点を明らかにした.無業への移動に関して,結婚の効果は結婚の直後から現れ,男性の移動を起こりにくく,女性の移動を起こりやすくする.ただし男性における効果の多くは結婚へのセレクションによるものである.管理職への移動に関して,結婚の効果は結婚から数年間を経てから顕在化し,男性の移動を起こりやすく,女性の移動を起こりにくくする.以上見られた男女で非対称な結婚の効果は,結婚による夫婦間の性別役割分業と,その蓄積の結果として生じる人的資本の格差によって生じているものと見られる.