2021 年 33 巻 2 号 p. 194-203
本論では,産業のあり方が労働者の働き方と家族の生活に直接に関連する動態を概観する.具体的には,石炭産業の開発・発展・成熟・衰退というライフサイクルにおける技術革新と,それに呼応した採炭方法ならびに現場作業形態の変更と,労働者家族に焦点をあてる.石炭産業の発展期・最盛期に労働者家族は,炭鉱コミュニティの場や組合・主婦会活動をとおして,生活維持とより豊かな生活を目指して,能動的に産業に関与し続けた.過酷な地下労働を三交代・1週間ごとのシフトで担うという労働形態は,家族の生活時間に多大な影響をおよぼした.労働力の再生産を最優先する生活規範に照らして,性別役割分業は,必然的な選択であった.しかし産業が衰退局面に入ると,こうした体制の維持は困難になり,家族は種々の対応を強いられた.最終盤の炭鉱労働は大規模に機械化された.そこには固定給を得て,持家から出勤する製造業ブルーカラー労働者の姿があった.