2021 年 33 巻 2 号 p. 183-193
本稿では,1930年代の都市近郊農家における世帯経済と労働配分の動態的分析を行う.そのために利用するのは,福岡県農会が1931年から41年にかけて実施した「農家経済調査」データである.労働力の「充実期」「逼迫期」「縮小期」にある13世帯の事例分析を行い,生産,消費,労働供給の単位である農家が市場経済に対応するために講じた家族戦略を検討した.その結果,(1)ライフサイクル段階によって家族戦略は異なる様相を示すこと,(2)いずれのライフサイクル段階においても,北九州工業地帯に隣接し,男性の地域労働市場が広く展開していたことが家族戦略の内容に影響を与えていることが明らかとなった.