2024 年 36 巻 1 号 p. 7-20
本稿の目的は,自助グループに参加経験のないトランスジェンダー男性の子を持つ父親が,子をどのように「受け容れ」ているのか,父親の主観的経験から明らかにすることである.性的マイノリティの親に着目した研究では,主に自助グループに参加経験のある親(特に母親)に焦点が当てられ,異性愛/ジェンダー規範が子の「受け容れ」に影響すると示されてきた.そのため親は子を「受け容れ」る際,性の多様性概念に関する情報に触れ認識を変容させる“規範解体型の「受け容れ」”が多く見られる.しかし,本調査の結果,「経済的自立」や「女性の所有」などの既存の規範を利用して子を理解する“規範機能型の「受け容れ」”が析出された.また,本調査の父親は,娘/息子両方の性質を認識したまま子と関係を継続しており,シスジェンダーの父子関係とは違う関係性が明らかとなった.以上の結果から,性の多様性概念を知る以外に,父子関係が継続できる可能性と危険性が示唆された.