2009 年 50 巻 2 号 論文ID: jjom.H20-11
2007年に発生した果実加工品の変敗事故から原因菌として分離した耐熱性カビの生育性状と子嚢胞子の微細構造をSEMにより観察した結果,子嚢菌類ユウロチウム目の日本未記録種Neosartorya paulistensis Horie et al. (アナモルフ:Aspergillus paulistensis)と同定した.また,rDNAのβ−tubulin,calmodulin,actin遺伝子の塩基配列を解析し,得られた遺伝子型から同定結果を確認した.N. paulistensisの子嚢胞子はN. glabraの特徴に極めて類似するが,系統樹上の位置はN. glabraと離れ,N. spinosaに近接した系統群に含まれた. 本種の子嚢胞子の耐熱性は,ブドウ果汁を加熱媒体としたとき,D83℃=48.6 min,D85℃=16.2 min,D87℃=6.9 minを示し,比較に用いたN. glabra,N. spinosaの食品由来株の中間であった.また,z値は4.4℃であった.これらの耐熱性数値は本種について最初の知見であり,2007年に発生した変敗事故が加熱殺菌不足によることを推定した.