日本菌学会会報
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論文
耐熱性カビとして食品から分離されたHamigera属菌種の同定
矢内 美幸吉田 信一郎上田 成一宇田川 俊一
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2016 年 57 巻 1 号 p. 47-58

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抄録

加熱加工食品・飲料の変敗要因になる耐熱性カビとしてユウロチウム目コウジカビ科の子嚢菌 Hamigera 属分離菌株について系統分類学的検討を行なった.食品由来の供試菌として加工用冷凍果実類から加熱処理により分離された7株,ウーロン茶原料から分離された1株の合計8菌株を使用した.β-tubulin,calmodulinの遺伝子塩基配列を解析した結果,分子系統樹において6株がH. avellaneaクレードに含まれ,H. insecticola 2株 (冷凍イチゴ果実,ウーロン茶原料由来菌株),H. paravellanea 1株 (冷凍イチゴ果実由来菌株),Hamigera cf. inflata 3株 (冷凍ラズベリー果実由来菌株)と同定された.これらの菌種は加熱加工食品・飲料関連の基質から初めての検出であり,表現型 (コロニー,形態の性状)による同定の確認を行い,タイプ種 H. avellaneaとの形態学的な相違を精査した.また,冷凍ブルーベリーから分離された2株は H. avellanea クレードとは明確に異なる分岐群を構成し,H. striata と同定された.なお,比較のため H. avellanea として分与された菌株の中で,イタリアのイチゴ加工品由来株が H. insecticola と再同定された.供試菌株から選定した菌種の子嚢胞子は予試験においていずれも強い耐熱性が認められ,新規に同定された Hamigera spp.による変敗の防止には詳細な耐熱性試験の必要性が示唆された.今後,H. avellaneaクレードと予測される耐熱性カビが加熱加工食品・飲料から検出されたときは,β-tubulin遺伝子に基づく分子系統解析と形態の両面から菌種の同定を行なうことが確実な手段と考えられた.

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