日本菌学会会報
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57 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 佐藤 博俊
    2016 年 57 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    私はこれまで,DNA塩基配列情報を活用することによって,外生菌根菌オニイグチ属菌において,1)形態的に区別がつきにくいが生殖的に隔離されている種(隠蔽種)がどの程度存在するか,2)隠蔽種を識別することによって宿主植物に対する明確な特異性が見られるようになるのかについて調べる研究を行ってきた.本稿では,先行研究を交えながら,これらの研究を紹介していきたい.

  • 白水 貴
    2016 年 57 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    アカキクラゲ綱を対象に取り組んできた木材腐朽菌の多様性と生態に関する研究成果について解説する.分子系統解析の結果に照らして分類体系を再評価し,新目Unilacrymalesを設立するとともに,複数の科と属が単系統群ではないことを指摘した.また,本綱の宿主再現性を明らかにし,その要因について菌の木材分解効率から説明を試みた.さらに,二核菌糸が一核菌糸よりも高い木材分解効率を示すことを見出し,前者の後者に対する優位性を裏付けた.アカキクラゲ綱の効率的な多様性探索法を検討した結果,子実体採集では得られない未知の初期分岐系統を検出した.この結果に基づき,肉眼で見える子実体を形成せず環境中に潜在している未知系統が,ハラタケ亜門の進化を考えるうえで重要な系統的位置を占めている可能性を指摘した.アカキクラゲ綱を対象とした分類・生態研究を進めることで,木材腐朽菌の多様性と進化に関する理解をより深めることができるであろう.

  • 小長谷 啓介
    2016 年 57 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    Cenococcum geophilum は子のう菌,Dothideomycetes 網に属する不完全菌であり,土壌中に菌核を形成する他に,マツ科,ブナ科,カバノキ科など多様な樹種の細根に感染して,外生菌根と呼ばれる共生体を形成する.本論文では,はじめに本菌の分類と遺伝的多様性に関して,これまでの研究から分かってきた基本的な知見について概説した.次に,Genbankに登録されている世界各地の塩基配列データとフロリダ由来の新規データを用いて,本菌の系統学的多様性を再考した最新の研究成果を紹介した.Cenococcum geophilum には、これまで考えられていた以上に多くの系統群が含まれており、非菌根性で分子系統学的にも他の系統群と明確に区別することができる隠蔽種が存在した。最後に,これらの研究成果をふまえて,菌根形成能などの生態学的特徴や分子系統解析などのDNA情報を活用した分類体系の構築の必要性や,次世代シーケンサーを利用したより詳細な菌株間の分子系統関係の解明など、今後の研究の展望について論じた.

論文
  • 糟谷 大河, 小林 孝人, 黒川 悦子, Hoang N.D. Pham, 保坂 健太郎, 寺嶋 芳江
    2016 年 57 巻 1 号 p. 31-45
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    3種の日本新産のチャツムタケ属菌,Gymnopilus crociphyllus (オオチャツムタケ),G. dilepis (ムラサキチャツムタケ)およびG. suberis (エビイロチャツムタケ)について,本州(茨城県,富山県,石川県,愛知県),鹿児島県(奄美大島)および沖縄県(西表島)で採集された標本に基づき,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.核rDNAのITS領域を用いた分子系統解析の結果,これら3種はそれぞれ,最節約法のブートストラップ値で強く支持される単系統群を形成した.

  • 矢内 美幸, 吉田 信一郎, 上田 成一, 宇田川 俊一
    2016 年 57 巻 1 号 p. 47-58
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    加熱加工食品・飲料の変敗要因になる耐熱性カビとしてユウロチウム目コウジカビ科の子嚢菌 Hamigera 属分離菌株について系統分類学的検討を行なった.食品由来の供試菌として加工用冷凍果実類から加熱処理により分離された7株,ウーロン茶原料から分離された1株の合計8菌株を使用した.β-tubulin,calmodulinの遺伝子塩基配列を解析した結果,分子系統樹において6株がH. avellaneaクレードに含まれ,H. insecticola 2株 (冷凍イチゴ果実,ウーロン茶原料由来菌株),H. paravellanea 1株 (冷凍イチゴ果実由来菌株),Hamigera cf. inflata 3株 (冷凍ラズベリー果実由来菌株)と同定された.これらの菌種は加熱加工食品・飲料関連の基質から初めての検出であり,表現型 (コロニー,形態の性状)による同定の確認を行い,タイプ種 H. avellaneaとの形態学的な相違を精査した.また,冷凍ブルーベリーから分離された2株は H. avellanea クレードとは明確に異なる分岐群を構成し,H. striata と同定された.なお,比較のため H. avellanea として分与された菌株の中で,イタリアのイチゴ加工品由来株が H. insecticola と再同定された.供試菌株から選定した菌種の子嚢胞子は予試験においていずれも強い耐熱性が認められ,新規に同定された Hamigera spp.による変敗の防止には詳細な耐熱性試験の必要性が示唆された.今後,H. avellaneaクレードと予測される耐熱性カビが加熱加工食品・飲料から検出されたときは,β-tubulin遺伝子に基づく分子系統解析と形態の両面から菌種の同定を行なうことが確実な手段と考えられた.

  • 常盤 俊之, 広瀬 大, 石崎 孝之
    2016 年 57 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    多孔菌を寄主とする日本産 Hypomyces 属菌を検討し H. auriculariicola H. khaoyaiensis ならびに H. sibirinae を日本新産種として報告した.このうちの H. auriculariicola H. khaoyaiensisの本邦での発見はタイに次ぐ2例目であり,H. auriculariicolaはウチワタケ(Microporus affinis)を新寄主として報告した.

  • 北林 慶子, 都野 展子, 保坂 健太郎, 矢口 行雄
    2016 年 57 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2016/05/01
    公開日: 2016/08/17
    ジャーナル フリー

    双翅目幼虫は子実体内に多数かつ頻繁に観察されるがその生態は,ほとんど研究されておらず,双翅目幼虫は胞子散布者として機能し得るか否か不明である.本研究では,ハラタケ型子実体内部に生息する双翅目幼虫の生態について,幼虫の子実体内部での摂食対象組織と幼虫による消化が胞子に与える影響を消化管内胞子の外部形態を詳細に観察することによって調べた.ハラタケ亜門4目16科23属114個の子実体から幼虫を3798個体採集した.解剖した幼虫172個体のうち,103個体の消化管内に胞子が存在した.顕微鏡下で消化管内胞子の外部形態に変化は確認されず,トリパンブルー染色においても,対照群胞子より消化管内胞子は6~11%損傷率が高かったが80%程度の胞子は無傷であった.以上より,双翅目昆虫の幼虫による子実体中での胞子摂食が高頻度で起きていること,幼虫の消化管内の胞子の多くはほとんど物理的損傷を受けていないことが示された.

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