2021 年 62 巻 1 号 p. 1-11
本研究では,19科31種の宿主植物から得られた樹木寄生性の狭義Botryosphaeria属菌と推定される50株を供試し,分子系統解析に基づく分類学的検討を行った.rDNA ITS, rpb2, tef1-α, tub2領域の部分塩基配列からなる多遺伝子領域結合配列を用いることにより,供試菌株のうちタカノツメ由来1株は海外産B. qingyuanensisともに独立したクレードを形成した.その他,49株とB. dothideaおよび複数の近縁種は単一のクレードを形成し,種複合体となった.この種複合体クレード内では,宿主に対応する形のサブクレードが見られ,クルミ褐色枝枯病やハンノキ類ギグナルディア胴枯病に由来する菌株が,それぞれサブクレードを形成し,宿主植物の分類群の違いや形態的特徴が,本属種の特徴付けに有効である可能性が示唆された.しかしながら,本研究にて行った4領域を用いた系統解析の分解能は十分ではないため,今後は,この種複合体に対し明瞭な識別感度をもつ遺伝子領域に基づく系統解析を行うとともに,種々の表現形質を明らかにする必要がある.