音楽科の授業では, 音楽を演奏したり, つくったり, 鑑賞したりするのに対し, 生活の中では多くの人々が再生機器による音楽鑑賞を主として行っており, 両者の音楽行為には隔たりがあるようにみえる。しかし, トゥリノによる音楽の領域区分を用いて, 学校の内と外の音楽行為がどのような価値観に基づいているかについて比較すると, 両者ともにサウンドの質の良し悪しで音楽行為を価値づけている点で共通している可能性があることが明らかとなる。そして, その共通する価値観は, 演奏することよりも聴き手にまわる人々を増やすという課題を生んでいる。そのため, より多くの人々が音楽科教育の中だけでなく, 生涯を通して演奏にかかわり続けるためには, その価値観を転換させることが必要となる。それは, 音楽とは「演奏者/聴き手」と分化して行われ, サウンドの質で判断するものであるという価値観を偏重することからの脱却を意味する。