2022 年 52 巻 1 号 p. 1-12
重度の聴覚障害者にとって, 他者と同じ音高・音程で歌うことは非常に困難である。学校教育現場でも, 聴覚障害児に対する音高・音程を合わせて歌うための積極的な指導がなされてきたとは言い難い。しかし, 聴者を対象とした研究では, 内的フィードバック能力 (歌いながら自分自身の歌唱の音高・音程が合っているかどうかの認知) の獲得により, 音高が合っている心地よさ, 歌唱者本人が歌えるという自信などにも繋がることが明らかである。そこで本研究では, 先天性の重度の感音性難聴の大学生を対象に内的フィードバック能力に着目した歌唱活動のセッションの実施と分析を行った。その結果, 重度の感音性難聴の学生であっても, 内的フィードバック能力が獲得でき, そのことに伴い, 自己の発声を受容し, 「歌う」発声を楽しむ姿が認められたことから, 聴覚障害者への内的フィードバック能力獲得のための指導の重要性が示された。