抄録
目的:心理ストレスは,顎顔面部の痛みを増大させる.そしてその生体基盤は脳神経系の機能変化によることが知られる.本稿では,心理ストレスが顎顔面痛を増大させる生体メカニズムを,脳神経科学的な観点から具体化することを目的とする.
研究の選択:痛みは脳内ネットワークである下行性疼痛制御系によって調節される.そして下行性疼痛制御系の機能変調が,痛みを増大させる生体基盤である.中でも,延髄の大縫線核を発する下行性投射は,三叉神経脊髄路核尾側亜核・頚髄部(Vc-C2)に存在する侵害受容ニューロンの機能を調節し,顎顔面痛を調節する.よってストレス状態における大縫線核~Vc-C2 部の機能変化を明らかにすることは,ストレス誘発性の顎顔面痛の脳メカニズムと治療法の開発に向け,有用な情報をもたらす.よってこれらの現象を主に基礎的な見地から概説する.
結果:複数の心理ストレス処置を加えると顎顔面部の深部組織由来の侵害応答が三叉神経脊髄路核尾側亜核・頚髄部(Vc-C2)および大縫線核で増大させることが明らかとなった.これらの結果は概ね,脊髄領域での痛みモデルでの知見と一致することから,心理ストレスによる侵害応答の増大は,痛みの部位に非特異的に生じるものと思われる.
結論:心理ストレスによる顎顔面部の侵害応答の増大は下行性疼痛制御系の機能変調に起因することが示唆される.