2023 年 15 巻 1 号 p. 1-11
目的と方法:歯科心身症の明確な概念や定義が確立していないため,歯学部教育では教員が独自の解釈で講義を行っているものと思われる.一方,臨床では,歯科医師は歯科心身症を判断する情報が少ない状況で診療に当たっており,医療連携においても支障をきたすことが危惧される.そこで,今回,歯科心身症を概説した後,日本心身医学会の心身症の定義(1991),ICD-10(F54),および米国精神医学会のDSM-5(code316)に準拠した歯科心身症の概念(2021)を作成して提案する.
結論:全ての疾患は生物-心理-社会的モデルで捉える必要があるが,歯科心身症は特に心理-社会的要因の評価と対応を要する病態であり,以下の2要件を満たす必要がある.
1.身体疾患(器質的障害ないし機能的障害)がある.
(注釈)器質的障害には,顎関節症(顎関節円板障害)などが含まれる.一方,機能的障害という用語の範囲は曖昧であり,例えば舌咽神経痛から舌痛症に至るまで,発症機序のかなり明らかな疾患から,未解明の病態まで含まれる可能性がある.どのような病態を身体疾患(機能的障害)に含めるかは慎重な議論が必要である.
2.発症や経過に心理-社会的要因が重要な影響を与えている.
(注釈)心理-社会的要因の影響の程度は,疾患ごとに,同一疾患でも個体ごとに,そして,同一個体でも時期ごとに差があるため,特定の疾患を歯科心身症と呼ぶことは好ましくない.