日本口腔顔面痛学会雑誌
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15 巻, 1 号
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総説
  • 和気 裕之, 澁谷 智明, 石垣 尚一, 依田 哲也, 小見山 道, 山口 泰彦, 佐々木 啓一, 松香 芳三, 築山 能大, 角 忠輝, ...
    2023 年 15 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー

    目的と方法:歯科心身症の明確な概念や定義が確立していないため,歯学部教育では教員が独自の解釈で講義を行っているものと思われる.一方,臨床では,歯科医師は歯科心身症を判断する情報が少ない状況で診療に当たっており,医療連携においても支障をきたすことが危惧される.そこで,今回,歯科心身症を概説した後,日本心身医学会の心身症の定義(1991),ICD-10(F54),および米国精神医学会のDSM-5(code316)に準拠した歯科心身症の概念(2021)を作成して提案する.
    結論:全ての疾患は生物-心理-社会的モデルで捉える必要があるが,歯科心身症は特に心理-社会的要因の評価と対応を要する病態であり,以下の2要件を満たす必要がある.
    1.身体疾患(器質的障害ないし機能的障害)がある.
    (注釈)器質的障害には,顎関節症(顎関節円板障害)などが含まれる.一方,機能的障害という用語の範囲は曖昧であり,例えば舌咽神経痛から舌痛症に至るまで,発症機序のかなり明らかな疾患から,未解明の病態まで含まれる可能性がある.どのような病態を身体疾患(機能的障害)に含めるかは慎重な議論が必要である.
    2.発症や経過に心理-社会的要因が重要な影響を与えている.
    (注釈)心理-社会的要因の影響の程度は,疾患ごとに,同一疾患でも個体ごとに,そして,同一個体でも時期ごとに差があるため,特定の疾患を歯科心身症と呼ぶことは好ましくない.
原著論文
  • 飯田 崇, 渡邉 航介, 石井 優貴, 吉田 一央, 岩﨑 正敏, 榊 実加, 小峯 千明, 神尾 直人, 岡部 達, 小見山 道
    2023 年 15 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー
    概要:歯科治療時の大開口をきっかけにして咀嚼筋の筋・筋膜痛等の顎口腔領域における障害が認められる.本研究では,歯科治療中に生じる持続的な開口が顎口腔領域へ及ぼす影響に関する臨床的知見を得るため,歯科治療中において持続的な開口が必要なラバーダム防湿を用いた歯科治療が,咀嚼筋の圧痛へ与える影響について検討を行った.
    方法:根管治療を受ける41名の被験者を対象とし,ラバーダム装着前,撤去後における自力最大開口量,無痛最大開口量,強制最大開口量,両側咬筋の触診を行った.咬筋の触診部位はラバーダム装着前に圧痛を認めた場合は同一箇所の測定とし,ラバーダム装着前に圧痛を認めない場合は両側咬筋表面に設定した測定部位にて計測を行った.
    結果:ラバーダム撤去後の自力最大開口量,無痛最大開口量は,ラバーダム装着前と比較して有意な増加を認めた(P<0.05).根管治療を受けた患者7名(17%)において治療前に咬筋の圧痛を認めたが,治療後にその圧痛は消失した.また,根管治療を受けた患者の4名(10%)において治療前に咬筋の圧痛を認めなかったが,治療後に咬筋の圧痛を認めた.根管治療を受けた患者の30名(73%)はラバーダム装着前後において咬筋の圧痛に変化を認めなかった.
    結論:歯科治療時における持続的な開口は筋伸展訓練に類似した運動であるが,顎顔面領域の痛みを変化させる可能性も示唆された.
症例報告
  • 池田 浩子, 井川 雅子, 高森 康次, 矢郷 香, 内田 育宏
    2023 年 15 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:76歳,男性.両側側頭部の頭痛および両側咬筋部痛を主訴に来院した.一過性の嚥下困難感および視力低下・複視も自覚していた.開口障害はなかったが,両側側頭筋・咬筋の肥大および圧痛を認め顎関節症と診断し開口ストレッチ,歯の接触癖是正を指導した.2週間後両側側頭部の頭痛および両側咬筋部痛の急激な悪化のため受診した.視診にて両側浅側頭動脈の腫脹および右側浅側頭動脈の拍動低下を認めた.両側咬筋部痛については咀嚼開始後に悪化し,その後休むと症状が改善することより顎跛行と考えられた.巨細胞性動脈炎を疑い血液検査を行ったところ,赤血球沈降速度の上昇を認めたため,内科に精査を依頼した結果,翌日入院となりステロイドパルス療法が開始された.動脈生検の結果,巨細胞性動脈炎と確定診断された.ステロイドパルス療法開始後,両側側頭部の頭痛・顎跛行は速やかに改善し,入院後10日で退院となった.以後外来通院でステロイド内服は低用量で継続されているが,症状の再燃は認められない.
    考察:巨細胞性動脈炎の病初期には,顎関節症のような臨床症状を呈することがある.経過中に痛みの急激な悪化,浅側頭動脈の腫脹や顎跛行などの特徴が診られた場合は,巨細胞性動脈炎を疑い精査を行う必要があると考えた.
    結論:巨細胞性動脈炎は顎関節症と誤認する可能性がある.顎関節症の鑑別疾患として歯科医師も本疾患の病態を理解しておく必要があると考えられた.
  • 山下 薫, 吉嶺 秀星, 宇都 明莉, 比嘉 憂理奈, 四道 瑠美, 橋口 浩平, 白川 由紀恵, 杉村 光隆
    2023 年 15 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:38歳女性.下顎管に近接している38抜歯後に左側オトガイ部の知覚異常を認めた.ビタミンB12製剤内服で経過観察されていたが,内服開始後1か月経過しても症状に変化がなく,ペインクリニックでの加療を希望されたため,当院へ紹介となった.左側第3枝三叉神経ニューロパチーの診断のもと,星状神経節ブロックと鍼治療を行なった.星状神経節ブロックによる治療が20回終了したところで症状はDysesthesiaからParesthesiaへ変化していたが,著明な改善が認められないため,患者は治療継続を迷っていた.精密触覚機能検査,電流知覚閾値検査を行ったところ数値上改善を認め,その結果をフィードバックしたところ患者は治療継続を希望した.10回の鍼治療終了後,再度検査を行い,精密触覚機能検査,電流知覚閾値検査においてさらに改善を認め,その結果を患者にフィードバックしたところ,これまでの治療内容と現在の症状に納得し,治療終了を希望したため,終診となった.
    考察:本症例のように患者の訴えに著明な改善が認められなくても,検査値が改善しているケースがある.検査結果に基づいた適切な病態説明は,患者の治療継続と良好な経過へつながる可能性があると考えられた.
    結論:自覚症状の著明な改善が認められず,治療継続を迷っている口腔顔面痛患者において,定量的な検査と改善した検査結果のフィードバックは,患者の治療に対するモチベーションを維持し,その意思決定に有用である.
  • 廣瀬(澤野) 詩季子, 野口 智康, 福田 謙一
    2023 年 15 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:三叉神経痛治療の第一選択薬であるカルバマゼピン(以下CBZ)は眠気やめまい,ふらつきなどの様々な副作用が知られている.発疹は比較的高率に出現し,時に薬剤過敏症症候群やStevens-Johnson症候群,中毒性表皮壊死症などの報告もある.私たちは,2016年1月から2021年12月の6年間に東京歯科大学水道橋病院ペインクリニック科を受診し三叉神経痛の診断を受けCBZを処方された195例のうち発疹が発生した5症例の経過と対応を報告する.
    考察:CBZは三叉神経痛の第一選択薬であり,診断や鑑別にも用いられている.副作用で代替薬による治療に変更した場合はペインコントロールにしばしば難渋する.良好なコントロールが得られない場合は外科療法や定位放射線治療,神経ブロックの適応となる.当科では,CBZの継続ができない場合はプレガバリンやアミトリプチリンの単独もしくは併用で投与し,薬物療法で良好な鎮痛が得られない場合は外科療法や定位放射線治療を医科に依頼している.三叉神経痛は病状増悪に伴いCBZの増量を余儀なくされるため肝障害などの副作用も発現しやすくなる.そのためCBZの投与開始後は重篤な副作用の早期発見のために,長期にわたり定期的な血液検査を行い,肝機能状態や血液像などの全身状態の確認が必要であると再認識できた.
    結論:CBZの投与には注意を要するものの,三叉神経痛の治療の第一選択としてCBZを安全に使用できるものと考えられた.
  • 山元 宏允, 野末 雅子, 野口 智康, 福田 謙一
    2023 年 15 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は73歳の女性で,主訴は左側上唇の痺れと顔面の運動麻痺であった.近医で上顎左側臼歯部に口腔インプラント2本埋入後,方向性の位置異常と上顎洞内インプラント迷入が認められたため口腔インプラント2本除去した.その直後より左側上唇の違和感・運動異常・鼻からの水漏れの症状を自覚した.上顎洞瘻孔に対しステロイドとクラリスロマイシンが処方され上顎洞粘膜閉鎖術が行われたが,症状は残遺した.その症状を改善するため,当科へ紹介来院した.左側眼窩下神経感覚障害,左側末梢性顔面神経麻痺と診断された.ビタミンB12製剤の処方,低出力レーザー光処理(low-level laser treatment:LLLT)の星状神経節近傍照射(stellate ganglion area irradiation:SGR),近赤外線照射にて治療を行うも特に顕著な効果が認められなかったため,鍼治療を施術した.顔面神経麻痺は柳原法で24から40点に回復し,感覚神経障害も静的触覚閾値検査(Semmes Weinstein Monofilament Test:SWテスト)で患側1.0gから0.008gと,明らかな改善が確認された.患者は,感覚も運動も明らかな回復を自覚し,満足を得た.
    考察:末梢性の運動神経麻痺や感覚障害に対する治療法は,光線療法,星状神経節ブロック,ステロイド薬,ビタミン製剤などが主に行われているが,鍼治療も治療の選択肢のひとつになりうると考えられた.
    結論:鍼治療は,末梢性神経損傷の回復に有効であると考えられた.
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