抄録
症例の概要:患者は妊娠29週目の36歳妊婦.2回のCOVID-19罹患を経験した.1回目は,初診時から2年前の妊娠していない時で,激しい頭痛だけが出現した.2回目は1回目から2年後で妊娠25週目であった.2回目の罹患後,患者は顔面痛とクレンチングを新たに発症し,さらに既存の頭痛と上顎前歯部歯肉痛を悪化させた.2回目の罹患前は,歯肉痛は上顎前歯部に限局していたが,罹患後,歯肉痛は下顎前歯部にまで拡大した.また,頭痛と上顎前歯部歯肉痛は妊娠していない時よりも強かった.出産後,クレンチングを防ぐためにナイトガードを製作した.7か月追跡調査し,出産後1か月から3か月で頭痛と上下顎前歯部歯肉痛は消失した.出産後7か月で,疲労時の頭痛を除き,クレンチングの自覚はなくなり,上下顎前歯部の歯肉痛は出現しなくなった.
考察:既存の頭痛は片頭痛と緊張型頭痛の合併と考えられた.また,歯肉痛は緊張型頭痛および筋筋膜性歯痛に関連していると考えられた.COVID-19罹患後の既存症状の増悪は,妊娠中における抗ウイルス免疫力の低下および,COVID-19のデルタ変異株とオミクロン変異株の違いが関係していると考えられた.
結論:妊娠中のCOVID-19罹患は既存症状を増悪させた.妊婦はウイルス罹患に注意する必要がある.また,複雑な口腔顔面痛の所見を有する患者では,複数の症状が複雑に絡み合う可能性があるため,歯原性歯痛のみではなく,非歯原性歯痛も含めて,患者の経過を注意深く観察する必要がある.