日本口腔顔面痛学会雑誌
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口腔内特発性疼痛のとらえ方と三環系抗うつ薬の効果
井川 雅子山田 和男
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2010 年 3 巻 1 号 p. 21-31

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抄録

非定型歯痛(AO),非定型顔面痛(AF),舌痛症,口腔内灼熱性疼痛(BMS)は,器質的原因がほとんど認められず,心理的要因と強く関連して発症する傾向が高いことから,心因性疼痛,疼痛性障害,Functional Somatic Syndromes,特発性疼痛などという用語が用いられてきた.
しかしながら,近年の脳科学の研究から,特発性疼痛のメカニズムの解明が進み,侵害刺激の入力がなくても,心理的要因(情動や認知)や過去の経験などが直接脳に作用して痛覚認知を修飾し,慢性疼痛の状態に陥る可能性があることがわかってきた.また,これらが中枢性の疼痛であることから,抗うつ薬や認知行動療法が奏効する可能性が高いことも示唆されている.
本論文ではこれらの概念と,著者らが行っている薬物療法を具体的に解説する.第一選択は三環系抗うつ薬のアミトリプチリンであり,平均約80mg/dayを使用する.三環系抗うつ薬単独で奏効しない場合でも,抗精神病薬や炭酸リチウム,バルプロ酸ナトリウムなどの追加による増強療法で効果が得られる場合が多い.また,これらの特発性疼痛は再発する傾向があるため,再発予防のためには,疼痛が消失した後も約6か月から1年間の維持療法を行う必要がある.
著者らは,舌痛症やBMSは,AOやAFに比較して治りやすいという印象をもっている.しかし,特に高齢者の難治性の舌痛症の中には,認知力やIQが低下した患者が散見され,数年後に認知症が顕在化する症例もある.治療のゴールを設定するためにも診断時に鑑別が必要であると考えている.

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© 2010 日本口腔顔面痛学会
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