症例の概要:患者は40歳女性である.初診時の主訴は左のこめかみや顎,後頭部や後頸部の痛みであった.平成14年に下顎右側第三大臼歯の抜歯を行ったが,直後より疼痛が出現した.耳鼻科にも受診したが明らかな異常は認められず,平成20年に当科へ受診した.
疼痛の範囲や強度は日によって変化し,疼痛のため睡眠が困難であった.全顎的に歯肉の発赤およびプラークの付着を認めたが,ロキソプロフェンナトリウムを服用するも,疼痛の軽減は得られなかった.当科では慢性辺縁性歯周炎および左側非定型顔面痛と診断した.
一般心理療法を行ったところ,日中の疼痛は軽減した.夜間の疼痛に対して立効散2.5gを処方したところ,睡眠可能となった.そこで中断していた歯科治療を再開した.歯科治療を行うと数日間疼痛が再燃したが,立効散の服用でコントロール可能であった.初診から約14ヶ月で,口腔内は機能的および審美的に回復した.
考察:非定型顔面痛の発生機序は,いまだ確立されていないが,非定型顔面痛の発生要因には,心理的要因や神経学的要因などが提唱されている.本症例では,立効散が神経学的要因に対して効果を発揮したと考える.立効散の局所麻酔様作用によって一次神経の興奮が抑制され,中枢への情報伝達が減少し,疼痛が軽減したのではないかと考えている.
結論:歯科治療を契機とした非定型顔面痛の症例では,立効散の使用は有効と思われた.
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