抄録
心疾患後, 臥床傾向となっていた 90 歳代前半の女性に対し,作業療法で,若い頃から続けていた短歌を詠むことを勧めた. 女性は「家庭人であり短歌を詠む人でもある」という自己イメージを持っており, 短歌を詠み始めてから周囲の変化に気づくようになった. そして,自己イメージに近づくとともに,生活を律する存在として自ら変化していった. 退院時は,自由を謡歌でき家族と医療・福祉職種とともに営む一人暮らしに帰ることができた. 女性の変化には,短歌を詠むことを促し,短歌を詠む人として接する支援が重要であった. また,この変化は,Wilcock による"doing, being, becoming, belonging"の過程に沿って,超高齢者であっても, 意味のある作業に従事することにより自分らしさと役割を取り戻し,なりたい自分になり,健康になれることを示していた.