抄録
著名な画家によって描かれた絵画は,画家が主題として描いたフォーカルポイントに鑑賞者の注視点が惹きつけられ,視線の動き に規則性があると考え研究を行ってきた。このような絵画鑑賞時の注視点のデータベースを作成することにより,人の視線予測を目指して研究されている顕著性マップと実際の視線との一致度の評価に役立てることができる。その成果として,顕著性マップのアルゴリズムにフォーカルポイントを組み込むことにより,顕著性マップと視線の一致度が向上す るこ と を示している。しかし,絵画の中にはフォーカルポイントや顕著性のある部分を必ずしも注視されないものも存在する。先行研究では絵画の鑑賞時間を 15 秒と短めに設定したため ,注視箇所の多い絵画において,フォーカルポイントや顕著性のある部分を時間内に注視するに至らなかった可能性があると仮定した。そこで鑑賞時間を 30 秒に設定し,前半と後半の 15 秒の注視点を比較した。その結果,後半の 15 秒に新たな箇所を注視するわけではなく,前半の 15 秒に注視した部分をあらためて見る傾向があることが示され,鑑賞時間を延ばしても必ずしも 注視 行動は変化しないことが示唆された。