2018 年 23 巻 1 号 p. 49-54
近年,日本でも実臨床での患者の治療実態や臨床的・経済的アウトカムが明らかにできるさまざまなリアルワールドデータ (Real World Data:RWD) の活用が進んでいる.RWD は,レセプトデータ,電子診療情報・カルテ情報,疾病登録情報などのデータベースだけではなく,健康調査,プラグマティック試験,ランダム化比較試験の補完的情報も含む.RWD からは実臨床の治療実態だけでなく,アドヒアランスや治療継続率といった治療の効果指標,外来受診や入院などの医療資源の活用状況,医療費,患者の生活の質 (Quality of Life:QOL) をはじめとするアウトカム情報に基づいた,さまざまなリアルワールドエビデンス (Real World Evidence:RWE) が創出可能である.長期の治療効果や疾病経過の情報を必要とする費用対効果評価などの医療技術評価では,RWD は実臨床を反映したモデルを構築するうえで重要な情報となる.ヨーロッパ各国では,すでに医療技術評価が医薬品などの償還可否の判断や薬価の価格調整を含む医療制度の意思決定プロセスに導入され,RWD も医療技術評価の情報として活用されている.革新的医薬品イニシアチブ (Innovative Medicine Initiative:IMI) のコンソーシアムである GetReal は,主なヨーロッパ各国の医療技術評価機構において,薬剤経済分析 (Pharmacoeconomics Analysis:PEA) やアプレイザル (総合的評価) でどの程度 RWD が受け入れられていたかを調査している.その結果によると,疾病の発症率や有病率などの疫学データ,医療費などの費用や医療資源使用など,費用対効果評価への RWD の使用が容認されていたが,比較対照薬との治療効果などの有効性や安全性に係わる RWD の使用は,無作為化比較試験の補完的なデータとしての取り扱いが多かったと報告していた.日本でも費用対効果評価モデルに RWD から得られた疫学データ,治療効果,医療資源使用状況や医療費などの情報を,活用することが増えると予想される.RWD が医療技術評価のどのような情報に適用できるかなど,ガイドラインや指針等での検討が望まれる.