薬剤疫学
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23 巻, 1 号
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企画/HTA (医療技術評価) の昨日・今日・明日
  • 五十嵐 中
    2018 年 23 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー
  • 福田 敬
    2018 年 23 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー
    国民医療費が 40 兆円を超え,毎年 1 兆円前後増加している.その要因としては人口の高齢化だけでなく,医療技術の進歩も影響していると考えられる.新規の医薬品もその1つであり,これにより今まで以上に延命できたり,症状が改善したりといった多くのメリットがもたらされている.一方で,最近発売されている医薬品等の中には高額なものも少なくない.そこで医療費を効率的に使用していくことが重要となる.そこで,公的医療保障制度を有する国においては,医薬品等の費用対効果の評価を行い,公的医療保障制度で給付する範囲や償還価格の設定に応用している国がある.
    日本でも医療の効率的な提供が重要となるため,2012 年に中央社会保険医療協議会の下に費用対効果評価専門部会が設置され,評価対象とする技術や評価手法,評価結果の活用方法などの議論がされている.2015 年には ⌈経済財政運営と改革の基本方針⌋ の中で, 2016 年度診療報酬改定時に医薬品・医療機器について費用対効果の評価を試行的に導入し,その後速やかに本格的な導入をすることを目指すという方針が示されたことにより, 2016 年度から試行的導入が開始された.対象品目は過去4年間に保険収載された品目のうち,加算や売上金額などの要件を満たすもので,医薬品7品目,医療機器6品目である.これらについて,まず企業が費用効果分析のデータを提出し,それに対して公的な専門体制により中立的な立場から再分析を実施する.分析に関しては基本的に ⌈中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン⌋ に沿って行うこととされている.企業の分析および再分析の結果については費用対効果専門組織で総合的評価が行われる.ここでは分析結果の妥当性を検討するだけでなく,倫理的・社会的側面といった費用対効果以外の要素についても考慮する.評価された結果を基に,2018 年度診療報酬改定時に償還価格の調整に用いられる予定である.
    今後は,試行的導入で明らかになった技術的課題への対応策を整理したうえで,制度化については平成 30 年度中に議論される見込みである.技術進歩を促進しつつ,国民皆保険制度を維持していくため,新規医薬品等の費用対効果の適切な評価とそれに基づく合理的な意思決定が期待される.
  • 池田 俊也
    2018 年 23 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    ワクチンの導入にあたってはその有効性と安全性の評価が重要であることは言うまでもないが,定期接種化のように公的な財源を用いて広く導入を行う際にはその費用対効果についても合わせて考慮する必要がある.本稿では,まず諸外国における費用効果分析のワクチン政策への利用状況として,米国 ACIP と英国 JCVI の状況を紹介する.次に,わが国の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会や厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会における取り組み状況について概説する.さらに,研究手法の標準化の必要性を述べるとともに,筆者らがこのほど作成した予防接種の費用対効果の評価に関する研究ガイドラインの概要を述べる.本ガイドラインはすでに中医協で利用されている費用対効果評価の分析ガイドラインを参考に,割引率の値など可能な範囲で統一を図りつつ,生産性損失や herd effect などワクチンに特有の課題を加味することにより策定した.本ガイドラインに準拠して統一的な手法により経済評価が実施することにより,各ワクチンの定期接種化の是非や優先順位,接種対象,接種方法などに関して,財政影響や社会的見地からの価値を踏まえたうえでの科学的議論を行うことが可能となる.

  • 村澤 秀樹, 下妻 晃二郎
    2018 年 23 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    21 世紀に入り,⌈根拠に基づく医療 (evidence-based medicine:EBM)⌋において主眼が置かれる生命延長に加え,生活の質 (quality of life:QOL) の改善を加味した ⌈価値に基づく医療 (value-based medicine:VBM)⌋ の考え方が確立された.VBM の柱である費用効果分析において,QOL と patient-reported outcome (PRO) の評価とその活用が,中医協で示された医療技術評価 (health technology assessment:HTA) の導入の成否の一翼を担っている.PRO は,患者が主観的に知覚した健康状態の計測を目的とした概念を広く傘下とした用語として用いられる.QOL と PRO は,その意味する概念や深さの違いがあるが,PRO は多くの場合,患者自身により報告される臨床試験のエンドポイントとしてQOL を代替し,知覚症状,身体機能,健康の満足度や健康関連 QOL を包含する用語として使用されている.本稿では,中医協の費用対効果評価の分析ガイドラインで使用が例示された,代表的な患者報告アウトカム尺度 (patient-reported outcome measures:PROMs) の 1 つである EuroQol-5 dimension (EQ-5D) について説明する.更に,費用効果分析における QOL/PRO 評価の重要性と課題や,PROMs の国際的標準化の必要性について説明する.最後に,費用対効果評価の試行的導入における QOL/PRO 評価の課題,すなわち,エビデンスデータの必要性,薬剤と医療機器の評価の相違,臨床試験で効用値を測定していない場合に EQ-5D による効用値等に変換するマッピング,そして感度分析における課題を紹介する.わが国において,今後,慎重な費用対効果分析結果による HTA が行われることを期待する.

  • 齋藤 信也
    2018 年 23 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    HTA (Health Technology Assessment:医療技術評価) の際に,費用対効果の結果以外の要素をいかに扱うべきだろうか? 費用対効果の結果を得るまでの過程をアセスメント (分析) とするなら,その後これに,社会的,倫理的要素等を加味して総合的に評価する過程は,アプレイザルと呼ばれる.このアプレイザルのあり方については,中医協 (中央社会保険医療協議会) 費用対効果評価専門部会で度重なる検討が行われ,その際に評価すべき倫理・社会的要素として,① 公衆衛生的観点での有用性 (感染症対策など) ② 公的医療に含まれない追加的費用 (介護費用や生産性損失など) ③ 長期に重症の状態が続く疾患での延命治療 ④ 代替治療が十分に存在しない疾患の治療 の 4 項目が採用された.当初重要な要素とされたイノベーションの評価は,薬価制度における加算とダブルカウントになる恐れがあるとのことで取り消された.①② に関しては,そうした観点を盛り込んだ費用対効果の結果を得ることは,理論上は可能なことから,アプレイザルの際にアセスメントの一部として扱うのか,それとも,定性的あるいは半定量的な要素として,考慮の対象とするのかについては議論が必要と思われる.一方 ③ については,我が国が範とした英国でも⌈終末期特例⌋という形で,QOL 値を高く評価したり,閾値を柔軟に適応するなどして,対象患者の治療へのアプローチを妨げないような工夫がなされている.ただ英国では,HTA を医薬品の償還の可否判断に用いているからこそ,こうした対応が必須となるわけであり,我が国のように HTA を医薬品の価格調整にのみ用いる場合は,これも価格を決める際に考慮すべき定性的項目の一つということになると考えられる.このように我が国の HTA におけるアプレイザルは英国モデルを下敷きにしているものの,その使用方法が異なるために,これまで議論が輻輳しがちであった.アプレイザルのあり方については,今後の費用対効果評価の本格導入に向けて,その違いに自覚的になったうえで,さらなる議論が必要と考えられた.

  • 廣居 伸蔵, 吉田 真奈美
    2018 年 23 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    2016 年より一定の条件を満たす医薬品・医療機器について費用対効果評価が試行的に導入された.費用対効果評価に必要なデータのうち,患者数や治療実態,評価対象技術や比較対照の費用や有害事象の発現率,合併症の罹患率およびそれぞれの費用については,既存の大規模な医療データベースの利活用によって推定することが可能である.日本の医療経済・アウトカム研究において,主に使用されているデータベースは,レセプトデータベースと,病院のデータベースとに大別され,製薬企業の立場から利用しやすい代表的なデータベースとして,それぞれ,株式会社日本医療データセンターの健康保険組合データベース,メディカル・データ・ビジョン株式会社の DPC 診療データベースがある.各データベースには特色があるため,分析に用いたデータベースの限界が研究結果にどう影響しうるかについて考察することが肝要である.これらのデータベースの限界を克服しうるデータベースとして,レセプト情報・特定健診等情報データベース (NDB) や MID-NET が挙げられる.しかしながら,これらのデータベースであっても,現状ではデータの充足性や一般化可能性に課題がある.また,利用者や利用目的が厳格に制限されているため,製薬企業の立場からは,利用するうえでのハードルが非常に高い.今後は制度化される費用対効果評価の目的においても,これらのデータベースが広く利用可能となることが望まれる.製薬企業では,今後急速に整備が進んでいく医療データベースにキャッチアップして,必要ならば複数のデータベースを組み合わせて,より妥当性のある分析をしうるリテラシー,能力を有することが喫緊に望まれる.これらは製薬企業のみで完結しうるものではなく,アカデミアや外部ベンダーと協働して,日本の費用対効果評価を含む医療経済・アウトカム研究を担う人材のキャリアプランを確立していくことが必要である.

  • 大西 佳恵
    2018 年 23 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    近年,日本でも実臨床での患者の治療実態や臨床的・経済的アウトカムが明らかにできるさまざまなリアルワールドデータ (Real World Data:RWD) の活用が進んでいる.RWD は,レセプトデータ,電子診療情報・カルテ情報,疾病登録情報などのデータベースだけではなく,健康調査,プラグマティック試験,ランダム化比較試験の補完的情報も含む.RWD からは実臨床の治療実態だけでなく,アドヒアランスや治療継続率といった治療の効果指標,外来受診や入院などの医療資源の活用状況,医療費,患者の生活の質 (Quality of Life:QOL) をはじめとするアウトカム情報に基づいた,さまざまなリアルワールドエビデンス (Real World Evidence:RWE) が創出可能である.長期の治療効果や疾病経過の情報を必要とする費用対効果評価などの医療技術評価では,RWD は実臨床を反映したモデルを構築するうえで重要な情報となる.ヨーロッパ各国では,すでに医療技術評価が医薬品などの償還可否の判断や薬価の価格調整を含む医療制度の意思決定プロセスに導入され,RWD も医療技術評価の情報として活用されている.革新的医薬品イニシアチブ (Innovative Medicine Initiative:IMI) のコンソーシアムである GetReal は,主なヨーロッパ各国の医療技術評価機構において,薬剤経済分析 (Pharmacoeconomics Analysis:PEA) やアプレイザル (総合的評価) でどの程度 RWD が受け入れられていたかを調査している.その結果によると,疾病の発症率や有病率などの疫学データ,医療費などの費用や医療資源使用など,費用対効果評価への RWD の使用が容認されていたが,比較対照薬との治療効果などの有効性や安全性に係わる RWD の使用は,無作為化比較試験の補完的なデータとしての取り扱いが多かったと報告していた.日本でも費用対効果評価モデルに RWD から得られた疫学データ,治療効果,医療資源使用状況や医療費などの情報を,活用することが増えると予想される.RWD が医療技術評価のどのような情報に適用できるかなど,ガイドラインや指針等での検討が望まれる.

  • 天野 慎介
    2018 年 23 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    国内では国民皆保険制度と高額療養費制度により,患者は比較的低い負担で高度な医療を受けることが可能である.これらの制度にもかかわらず,治療に伴う経済的負担が大きいと感じる患者は一定数おり,がん患者団体は経済的負担の軽減を求めてきた.一方で,新規治療薬の薬価が高騰する中で,保険適用を見直すべきとの主張もみられる.医療技術評価に関しては,コストをカットする観点から費用対効果が導入されており,その総合的評価に患者は現在参画していない.

  • 桜井 なおみ
    2018 年 23 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/07/09
    ジャーナル フリー

    ここ数年で登場した,がんの新薬はとても ⌈高額⌋ で,患者数の多いがんで使われ始めると,今後,国民皆保険制度が破たんするのではないかと危惧する声がある.同じような議論は諸外国でもすでに議論されており,イギリスやフランス,韓国や台湾などでは,⌈費用対効果評価⌋を導入し,国の予算計画や,健康保険内での収載の可否判断ツールとして使用されている.こうした問題に対応するため,我が国においても,2012 年 5 月に,中央社会保険医療協議会 (以下,中医協) の中に ⌈費用対効果評価専門部会⌋ が設置され,導入に向けた議論が続けられてきた.部会では,⌈感覚⌋ や ⌈価値観⌋ で語られてきた ⌈高額な薬剤⌋ の定義や評価を ⌈一定の基準⌋ で考え,薬の価格に反映させていく方向性が定められ,来年度から本格的に導入される計画である.こうした評価を薬価や国の予算計画に反映させていくことは ⌈持続可能な医療政策⌋ を考えていくうえでとても重要であるが,その一方,評価結果によっては企業の開発意欲の減退や撤退,薬価ラグなどの問題が生じることが推測されよう.また,特に欧州では,薬の評価の場に,その疾患経験を有した患者参画やアウトカム評価が行われ,家族介護や就労などを含めた実態,データ解析が導入されている.また,その場に参加する患者向けの教育やガイドラインもある.さらに,その検討過程も透明化されている.一方の日本では,まず,中医協の存在すら国民に知られていない実情があるほか,議論の場への当該疾病を有した患者参加も模擬パネル検討時にすら行われていない.また,評価にも患者アウトカムの項目は掲載されていない.これは,評価する人材育成も含め,早急に対応すべき課題と考えられる.欧米諸外国に遅れて費用対効果評価が導入される日本では,過去の教訓を活かした日本ならではの仕組みづくりが大切である.

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