国民医療費が 40 兆円を超え,毎年 1 兆円前後増加している.その要因としては人口の高齢化だけでなく,医療技術の進歩も影響していると考えられる.新規の医薬品もその1つであり,これにより今まで以上に延命できたり,症状が改善したりといった多くのメリットがもたらされている.一方で,最近発売されている医薬品等の中には高額なものも少なくない.そこで医療費を効率的に使用していくことが重要となる.そこで,公的医療保障制度を有する国においては,医薬品等の費用対効果の評価を行い,公的医療保障制度で給付する範囲や償還価格の設定に応用している国がある.
日本でも医療の効率的な提供が重要となるため,2012 年に中央社会保険医療協議会の下に費用対効果評価専門部会が設置され,評価対象とする技術や評価手法,評価結果の活用方法などの議論がされている.2015 年には ⌈経済財政運営と改革の基本方針⌋ の中で, 2016 年度診療報酬改定時に医薬品・医療機器について費用対効果の評価を試行的に導入し,その後速やかに本格的な導入をすることを目指すという方針が示されたことにより, 2016 年度から試行的導入が開始された.対象品目は過去4年間に保険収載された品目のうち,加算や売上金額などの要件を満たすもので,医薬品7品目,医療機器6品目である.これらについて,まず企業が費用効果分析のデータを提出し,それに対して公的な専門体制により中立的な立場から再分析を実施する.分析に関しては基本的に ⌈中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン⌋ に沿って行うこととされている.企業の分析および再分析の結果については費用対効果専門組織で総合的評価が行われる.ここでは分析結果の妥当性を検討するだけでなく,倫理的・社会的側面といった費用対効果以外の要素についても考慮する.評価された結果を基に,2018 年度診療報酬改定時に償還価格の調整に用いられる予定である.
今後は,試行的導入で明らかになった技術的課題への対応策を整理したうえで,制度化については平成 30 年度中に議論される見込みである.技術進歩を促進しつつ,国民皆保険制度を維持していくため,新規医薬品等の費用対効果の適切な評価とそれに基づく合理的な意思決定が期待される.
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