薬剤疫学
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特別企画/様々な立場からみたCOVID-19
1.COVID-19 と HTA
五十嵐 中
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キーワード: 医療資源, QALY, HTA, 医薬品の価値
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2021 年 26 巻 1 号 p. 56-62

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抄録

「限りある医療資源の最適配分」…医療経済学の根本をなす概念である.しかしなぜ資源が有限なのかについて,これまでは医療予算などの金銭的なアプローチに限定されていたがゆえに,資源配分すなわち供給の最適化に関する議論は進展しなかった.新型コロナウイルス感染症によって物理的なヒト・モノなどの医療資源に限りがあることが可視化され,資源配分の議論はオカネの議論から供給の議論に変貌を遂げた.

狭義の HTA の研究として,Kohli らの仮想 COVID-19 ワクチンの費用対効果評価がある.優先順位の決め方を年齢・リスク・職業の 3 種設定し,グループごとの増分費用効果比を算出した.どの状況下でも,高齢者への接種は費用削減かつ QALY が増加する dominant(優位)の状態になった.職種で区切った場合に最優先となる医療・介護スタッフその他への接種も,ICER は 20,000 ドル/QALY と良好であった.

もっとも,COVID-19 のような多方面に影響を与える疾患への介入を,既存の HTA の枠組みで評価することは疑問視されている.Appleby らは,ヘルスケア領域と経済が密接不可分であることを指摘しつつ,広い視点からの評価が必要と強調している.

医薬品の価値(value)を考える時,費用対効果(cost/QALY)は価値の構成要素であり,その他にどのような要素があるかを広く考えていくのが昨今の潮流である.COVID-19 によって,病院に「行かずに済む」ことなど,新たな価値の要素が生まれた.多数あり得る評価軸を一朝一夕に確立することは現実的ではないが,各々の評価軸候補で,定量的・あるいは定性的に評価が可能かについて,実証的な研究を進めていく必要がある.

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© 2021 日本薬剤疫学会
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