薬剤疫学
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26 巻, 1 号
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新型コロナウイルスワクチンの安全性確保に関する4学会共同声明
原著
  • 阿部 大介, 大庭 真梨, 村上 義孝, 久武 真二, 池田 隆徳
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 26 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    [早期公開] 公開日: 2020/12/15
    ジャーナル フリー

    目的:急性心不全により初回入院した 75 歳以上の患者を対象に,入院前後の心不全治療薬の処方変化の実態と,この処方変化が退院後 1 年間の再入院に及ぼす影響を検討した.

    デザイン:後ろ向きコホート研究.

    方法:東邦大学医療センター大森病院循環器内科において,2004年4月から2017年3月に入院した 75 歳以上の初発心不全患者を,電子カルテデータから選択した.この中で退院後の外来受診記録があり,今回の入院期間中に心血管手術および経皮的冠動脈形成術を施行されず,計画再入院,死亡のない 329 人を解析対象者とした.入院および退院時の処方では,急性・慢性心不全診療ガイドラインで推奨される薬剤(angiotensin converting enzyme(ACE)阻害薬,angiotensin Ⅱ receptor blocker(ARB),β 遮断薬,mineralocorticoid receptor antagonist(MRA),利尿薬(以下,クラスⅠ推奨薬))に着目した.この処方情報に基づき,薬剤の増量や追加を確認し,2 群(増量・追加群と減量・維持群)に分類,比較した.主要評価項目は退院後 1 年以内の心不全による再入院とした.

    結果:対象者のうち 231 例が増量・追加群,98 例が減量・維持群に分類された.退院後 1年以内の心不全による再入院率は増量・追加群 26.5%,減量・維持群 31.8%であり,減量・維持群に対する増量・追加群の調整前ハザード比は 0.76(95%信頼区間:0.48-1.21,P 値 0.244).循環器疾患の危険因子を調整した減量・維持群に対する増量・追加群のハザード比は 0.82(95%信頼区間:0.51-1.33,P 値 0.415)であった.

    結論:病院データベースの検討により,急性・慢性心不全診療ガイドラインクラスⅠ推奨薬の増量・追加のあった群では,再入院リスクが低い傾向がみられたものの,統計的な差異は認められなかった.

  • 宮内 秀之, 米田 卓司, 藤原 正和, 馬場 崇充, 宮澤 昇吾, 本郷 良泳, 北西 由武, 小倉 江里子
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 26 巻 1 号 p. 15-26
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    [早期公開] 公開日: 2021/02/03
    ジャーナル フリー

    目的:新たな作用機序を有する抗インフルエンザ薬である baloxavir marboxil(以下,baloxavir)のインフルエンザ外来患者における入院及び死亡の発生頻度について,既存の抗インフルエンザ薬であるノイラミニダーゼ阻害剤と比較検討した.

    研究デザイン:コホート研究

    方法:急性期医療機関由来のデータベースを用いて,2018/2019 年のインフルエンザシーズンにインフルエンザの診断日(Day 1)を有する 1 歳以上の外来患者を研究対象として抽出し,処方された抗インフルエンザ薬に基づき baloxavir 群,oseltamivir 群,zanamivir 群,または laninamivir 群に群別した.主要なアウトカムとして,Day 2〜14 の入院発生割合を集計し,入院発生の有無を応答としたロジスティック回帰モデルを適用し,年齢カテゴリーによる調整済みオッズ比を算出した.その他,死亡について入院と同様の解析を行った.

    結果:入院発生割合について,baloxavir 群(1.37%,223/16,309)は,同じ経口剤のoseltamivir 群(1.37%,655/47,843)と同程度であったが,吸入剤の zanamivir 群(0.77%,19/2,474),laninamivir 群(0.91%,234/25,831)よりもわずかに高かった.調整済みオッズ比(対照群/baloxavir 群)[95%信頼区間]は,oseltamivir 群,zanamivir 群及び laninamivir 群との比較において,それぞれ 1.125[0.961−1.317],1.173[0.726−1.897]及び 0.944[0.783−1.140]であり,差は認められなかった.死亡発生割合について,baloxavir 群(0.03%,n=5),oseltamivir 群(0.03%,n=16),laninamivir 群(0.01%,n=3)と同程度であった.一方,zanamivir 群には死亡の発生はなかったが,zanamivir 群の症例数が少ないことの影響が考えられ,他の抗インフルエンザ薬群と死亡発生割合に明らかな差はないと考えられた.

    結論:Baloxavir 投与によるインフルエンザ外来患者の入院及び死亡の発生頻度は他の抗インフルエンザ薬と同程度であり,インフルエンザ重症化を抑制する新たな選択肢として期待できることが示唆された.

  • 鯉沼 卓真, 赤沢 学
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 26 巻 1 号 p. 27-40
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    [早期公開] 公開日: 2021/02/03
    ジャーナル フリー

    疫学研究では,時間と共に患者の状態が治療を受けることで変化するプロセスが繰り返される.そのため,この時間経過の表し方によっては時間依存的にバイアスが生じる.本研究は,このバイアスへの対処を含んだ複数の疫学的方法を行い,methotrexate (MTX) 単独投与群と生物学的製剤併用群の間における感染リスクについて,得られた推定値の妥当性を検討することを目的とした.データベースは,JMDC のレセプトデータを使用した.

    このデータベースより,MTX 単独投与患者 2734 人及び生物学的製剤併用患者 1035人の合計 3769人の Rheumatoid Arthritis (RA) 患者を抽出した.その後,RA 患者の疾患時間経過を「経過時間」,「処方回数」,「時期」の 3種類の各時間軸を用いて表現し,各時間軸の同一時点において時間条件付き Propensity Score (PS) マッチングを行った.さらにPS weighting 法も併せて行った.その結果,「経過時間」,「処方回数」,「時期」の各時間軸を用いた感染リスク Odds Ratio (OR) は,それぞれ1.48 (95%CI 0.71-3.11),1.60 (95%CI 0.72-3.55) and 1.04 (95%CI 0.58-1.86) となり,Immortal time (IMT) への未対処及び非時間条件付きPS マッチングに用いた時間軸「経過時間 (IMT 除外かつ非時間条件付きPS マッチング)」の ORは1.14 (95%CI 0.71-1.81) となった.PS weighting 法である Inverse Probability Weighting Estimator (IPW) と Augmented Inverse Probability Weighting Estimator (AIPW) による Average Treatment Effect (ATE) は,それぞれ0.31% (95%CI −0.91-1.53),0.29% (95%CI −0.91-1.49) となり,Average Treatment Effect on the Treated (ATT) は 0.10% (95%CI −1.11-1.32) と推定された.各方法による感染リスクの推定値は,両群間において統計的有意差を認めず,先行研究の生物学的製剤併用による感染リスクは上昇しない,という結果を支持した.このことから,方法論としての各疫学的方法が持つ特徴を視点とした多角的な解析結果が得られた.それにより,疫学的方法論確立へ寄与するものと考えられた.

総説
  • 松田 真一, 深田 信幸, 大石 昌仁, 岡 宏明, 原 良介, 小島 愛, 中野 駿, 元吉 克明, 五十嵐 繁樹, 佐々木 裕子, ...
    原稿種別: 総説
    2021 年 26 巻 1 号 p. 41-54
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    [早期公開] 公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー

    保険請求データベース(DB)や電子カルテ DB 等,日常診療の情報が記録されたリアルワールドデータ(real-world data:RWD)は,薬剤疫学研究における重要なデータ源の一つである.日本において,2018年4月より製造販売後調査の新たなカテゴリーとして,医薬品の製造販売後データベース(製販後 DB)調査が追加された.以降,医薬品リスク管理計画(risk management plan:RMP)において製販後 DB 調査が計画され,製販後 DB 調査の実践が期待されているが,現時点で結果公表まで至ったものはほとんどない.一方,海外においては RWD を用いた DB 研究成果は現時点で多数報告されている.海外と日本では,DB 自体の特性(項目・構造等)の違い,医療環境・慣習の違い等を念頭におく必要はあるが,そのような前提を踏まえて海外 DB 調査論文を精読し,研究仮説,研究デザイン,手法等を吟味することは,日本における製販後 DB 調査の計画・実行・結果の解釈を実践するうえで参考価値があると考えた.本報告の目的は,海外 DB 調査論文の批判的吟味を通じて,DB 調査の特徴や注意点を考察すること,そして,日本における製販後DB 調査の実践に役立つ提言を行うことである.

    本稿が,今後の製販後 DB 調査を計画・実施するうえでの一助になれば幸いである.

特別企画/様々な立場からみたCOVID-19
  • 村上 恭子
    原稿種別: その他
    2021 年 26 巻 1 号 p. 55
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    ジャーナル フリー
  • 五十嵐 中
    原稿種別: 論説
    2021 年 26 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    ジャーナル フリー

    「限りある医療資源の最適配分」…医療経済学の根本をなす概念である.しかしなぜ資源が有限なのかについて,これまでは医療予算などの金銭的なアプローチに限定されていたがゆえに,資源配分すなわち供給の最適化に関する議論は進展しなかった.新型コロナウイルス感染症によって物理的なヒト・モノなどの医療資源に限りがあることが可視化され,資源配分の議論はオカネの議論から供給の議論に変貌を遂げた.

    狭義の HTA の研究として,Kohli らの仮想 COVID-19 ワクチンの費用対効果評価がある.優先順位の決め方を年齢・リスク・職業の 3 種設定し,グループごとの増分費用効果比を算出した.どの状況下でも,高齢者への接種は費用削減かつ QALY が増加する dominant(優位)の状態になった.職種で区切った場合に最優先となる医療・介護スタッフその他への接種も,ICER は 20,000 ドル/QALY と良好であった.

    もっとも,COVID-19 のような多方面に影響を与える疾患への介入を,既存の HTA の枠組みで評価することは疑問視されている.Appleby らは,ヘルスケア領域と経済が密接不可分であることを指摘しつつ,広い視点からの評価が必要と強調している.

    医薬品の価値(value)を考える時,費用対効果(cost/QALY)は価値の構成要素であり,その他にどのような要素があるかを広く考えていくのが昨今の潮流である.COVID-19 によって,病院に「行かずに済む」ことなど,新たな価値の要素が生まれた.多数あり得る評価軸を一朝一夕に確立することは現実的ではないが,各々の評価軸候補で,定量的・あるいは定性的に評価が可能かについて,実証的な研究を進めていく必要がある.

  • 和田 一郎
    原稿種別: 論説
    2021 年 26 巻 1 号 p. 63-70
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,社会の様々な領域に多大な影響を及ぼしている.わが国の政策の特徴を社会福祉や政策科学で活用されるアナロジー(analogy)の視点をもとに検討した.その結果,わが国の統計は実態を表していない,世界基準の政策対応ができない,現場の過酷な負担によりシステムが維持されている,地方自治体が国の政策と異なる方向性が取れる,非専門家が社会を混乱させる,集中投資や支援ができずに結果として他の分野に影響を及ぼすことが明らかになった.これを今回のCOVID-19 対応に適応すると,統計の課題,世界標準の政策対応ができない,政策の目的と手段が混乱する,人の命を軽視する世論誘導の増加,リソース不足により最適な対策が取れず悪化し他の分野に影響を及ぼすなどの課題となった.よって COVID-19 による社会への影響の被害にあった個人へのケアや補償が十分実施されず経済や社会の回復が遅れることが推測された.今後の対応として,一定レベル以上の感染症は災害として対応する,危機管理組織の設立と経験の蓄積,適切な統計情報の運用について提示し,危機になってからではなく普段からの準備を行い被害にあった方々の発見や支援等のシステムも併せて検討すべきと提言した.これらはすべて政治によって解決できるものである.つまりわが国の課題はすべて政治に集約できるため,政治による適切な政策が実行されない限り,現状の国民に過度に負担がかかる社会は長期的に続くと予測した.

  • 相徳 泰子
    原稿種別: 論説
    2021 年 26 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    ジャーナル フリー

    COVID-19 パンデミックはあらゆる国民,産業,行政,アカデミアに大きなインパクトを与え,様々な資源や活動の本質的な価値を考えさせられる機会となった.製薬産業においても,COVID-19 に対するワクチン,感染症への治療薬という新たなニーズに対して,急速に研究開発を進め,予防と治療に全力を尽くしている.この研究開発から生まれた新たなソリューションに対する価値評価についてはあまり議論されていないのが現状である.HTA という観点ではワクチンや治療薬の価値評価のこれまでの指針では費用対効果に重点を置いていたが,パンデミックを経験する中で,定量的評価である費用と効用以外に検討すべき要素について,既報の論文や産業界の視点について,言及した.

  • 今川 昌之
    原稿種別: 論説
    2021 年 26 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    ジャーナル フリー

    2019 年末に中国の武漢で報告された原因不明の肺炎は,その後の研究で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因の肺炎と判明し COVID-19 と命名された.その感染流行は瞬く間に全世界に拡大し,2021年1月時点で感染者数は 9,000 万人を超え,死亡者数は 200 万人を超えている.人類はペストやスペイン風邪以来の未曾有の危機を迎えており,前例のないスピードでワクチンや治療薬の開発を加速させることによって COVID-19 パンデミックの終息を成し遂げようとしている一方,Vaccine Hesitancy と呼ばれるワクチン接種を躊躇する動きもみられ,接種が思うように進まないことで集団免疫獲得へのハードルが高くなっている.また,将来に備え,新興・再興感染症が蔓延した際に輸入ワクチンのみに頼ることなく,自国でワクチンの研究開発・生産できる体制を構築することは重要な課題である.本稿では,これら課題及び解決策に対して,ワクチン産業及びプライベートセクターの立場から提言する.

  • 杉浦 亙
    原稿種別: 論説
    2021 年 26 巻 1 号 p. 91-97
    発行日: 2021/06/20
    公開日: 2021/07/26
    ジャーナル フリー

    新興感染症を制圧するためには治療薬の開発が重要である.しかし新興感染症では,パンデミック発生時点では有効な治療薬は存在しないことが多い.このような状況下で先ず取られる治療薬の開発手段は既存薬の中から治療効果がある薬剤の探索 repurposing であり,この 1 年間様々な COVID-19 治療薬の候補が検討されてきた.その結果,抗ウイルス剤としては Ebola の治療薬として開発が進められていた remdesivir,サイトカインストームを抑えるための抗炎症薬としては dexamethasone の 2 剤が治療薬として承認された.いずれの薬剤も海外での臨床試験の結果に基づく承認である.我が国でも多くの候補薬が提唱され,臨床試験が進められてきたが,明確な結論が得られた試験は数少ない.その中の一つ喘息治療 ciclesonide の有効性と安全性を検証する単盲検無作為割付比較試験(Randomized clinical trial:RCT)では,目標症例数 90 例の登録完了に 181 日を要した. 一方で同時期に実施されていた,ciclesonide の「観察研究」では 180 日間でその 30 倍にも達する 3,000 人が登録されており,現場の医師にとって RCT に参加するハードルが高いことがわかる.要因は様々であろうが,RCT を実施するにあたって投入できる人的リソースの不足などが課題として挙げられよう.今回のパンデミックを教訓に,これらの課題を解決すべく,また次の新興感染症も見据えた RCT を支援する司令塔の役割を担う組織の設立が切望される.SARS-CoV-2 は感染を拡大しつつ,変異の選択と淘汰を経てヒトを宿主とするウイルスとしての姿を整えつつあるようであるが,ヒトとの共存関係が落ち着くまでには相当の時間を有するのであろうか.予防ワクチンが開発・実用化され,治療薬についても間違いなく研究開発が進展しており,COVID-19 の制御が可能となり,社会活動の再開ができる日はそう遠くないことを期待する.

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