本研究は,私立大学薬学部の6年生に対し実施された,学習に関する任意の個人面談について,面談の前後で学生の「学習への不安感」がどのように変化するかをvisual analog scale(VAS)を用いて客観的に検証した一例である.本結果では,「学習への自信」「課題把握」「学習意欲」「学習への不安」の全項目において,面談は学生の不安感を有意に軽減させる効果を示していた.特に,極度に不安を感じている学生にとって,教員との面談は不安感の劇的な改善に繋がることが示唆された.また,薬剤師として必要な薬学知識の修得を確認する総合演習科目の試験前後で不安感が高まりやすくなることから,適切な介入タイミングの示唆が得られた.学生が援助要請に至るきっかけは学生のジェンダーのみでは説明できず,個人的な要因が複数関与し得るため,面談に至らない学生を支援へ接続する仕組みの整備が重要である.本報告は,薬学部における学生の援助要請行動に基づいた面談の実践例として,その有効性と課題を提示するものである.
This study objectively verified changes in “academic anxiety” before and after voluntary individual academic consultations for sixth-year students at a private pharmacy school, using a visual analog scale (VAS). The results showed that these consultations significantly reduced students’ anxiety across all categories: “academic confidence,” “grasp of issues,” “motivation to learn,” and “anxiety about learning.” In particular, consultations with faculty members led to dramatic improvements in anxiety levels among students experiencing extreme anxiety. Furthermore, it was found that anxiety tends to increase around the time of the examination for the comprehensive exercise course, which provided some insight into the appropriate timing of intervention. The triggers for students to seek help cannot be explained by student’s gender alone, and multiple individual factors may be involved. Therefore, it is crucial to establish a system to connect students who do not reach the consultation stage to support services. This report presents the effectiveness and challenges of consultations based on help-seeking behavior among pharmacy students as a practical case study.
近年,少子化に伴う18歳人口の減少と大学進学率の上昇により,大学入試を取り巻く環境は大きく変化している1).特に,相対的な位置を示す入試難易度指標の数値以上に,高等教育を受ける者が備えるべき絶対的な基礎学力(とりわけ知識・技能)が不足している層の拡大が問題視されている.薬学部においては,進学希望者総数の減少と新設大学増加による定員総数の拡大が相まって,定員充足率の低下が深刻な課題となっている2).入学者選抜の機能不全に起因するこれらの問題は,学力の3要素である「知識・技能」や,困難に直面した際の「主体的に学習に取り組む態度」が不足している学生を入学させることに繋がり,さらにそれらを向上させるための教育方略が十分に整備されていない可能性も指摘されている2).その結果,薬学部では「標準修業年限内の国家試験合格率の低下」という大きな問題が指摘されており,薬学教育の質保証における重大な障壁となっている.
こうした中,教学マネジメントの観点から,個人面談は学生を教育する上で必要かつ重要な大学機能の一つとして捉えられ,成績が振るわないといったことに起因する学習に関する面談も行われている3,4).入学者の多様性に応じた個人面談の需要は年々高まっていると考えられることから,薬学部における面談の方法や効果を評価し検討することは喫緊の課題であると言える.学生に対する個人面談の研究は古くから数多く行われているものの,その中で医療系学部における実践報告は乏しい.例えば医学部では,その専門性のために個人面談のスタイルは一般的な総合大学と比較して趣が異なること5),医学生の悩みは学業に関することが多いことが示されている6,7).薬学部では,6年生の早期に学習に関する個人面談を行うことで国試対策試験の成績向上効果を認めた実践研究や8),動機づけの観点から学生の問題点を分類し,パターンに応じた指導法を検討した報告9) が知られている.近年の薬学部において,学習に関する個人面談は多くの大学で行われているものと推測されるが,少数例のみの報告に留まることを踏まえると,薬学生を対象とした面談効果の検証は十分ではないと考えられる.
我々は,これまでの6年生との面談業務の中で,薬剤師国家試験への大きなプレッシャーから不安を訴える学生が多いことを経験しており,面談が終わると幾分かその不安が解消されていることを実感している.そこで本研究では,薬学教育を専門とする教員による学習に関する個人面談が学習に起因する精神的不安の即時的な改善にも寄与していると仮説を立て,面談の実施前後における学生の主観的な「学習への不安感」の変化を,visual analog scale(VAS)を用いて直接的に評価することを試みた.なお,本稿では6年次における国家試験準備という特定の学習活動に焦点を当てるため,大学教育課程を通じた資質・能力の獲得を目指すプロセスを示す「学修」ではなく,「学習」の語を用いている.
2024年度星薬科大学薬学部6年生を対象にメールを送り,面談を受けることができる旨,個々に担当教員が付き個別にかつ自由に面談を受けることが可能であることを説明した.このメールでは,面談の実施に対する強制的な指示は含まず,任意で面談を受けられることの説明に留めた.この説明を受け,星薬科大学薬学教育研究部門の教員との面談を希望した学生に対し個人面談を実施した.担当した教員は,男性3名及び女性2名,平均年齢46歳(標準偏差16.8)であり,年齢は教員経験年数と概ね相関する.面談内容は,これまでの学習状況や学習方法,試験結果の振り返りなどを聴き取り(表S1),学生の学業に関連する問題を整理したうえで,教員から解決に向けた助言や提案を与えた.また,面談時の学生の話と面談後の教員所感について,面談記録簿に記録した.さらに,学生性別と面談希望有無の2変数間の関連性についてピアソンのχ2検定で比較した.
2. 「学習への不安感」の測定項目及び方法「学習への不安感」を「学習への自信(自分に自信が全く持てない~今までにないくらい自信に満ち溢れている)」「課題把握(自身の問題や課題を全く把握できていない~自身の問題や課題のすべてを理解している)」「学習意欲(学習への意欲が全くわいてこない~学習への意欲が満ち溢れている)」「学習への不安(これまでの人生で最も不安だ~全く不安を感じない)」の4項目で評価した.これらの項目は,心理カウンセラーがKJ法によって見出した,面談による学生の「心理的成長」の評価項目10) を参考に,学習面談を希望する学生の不安状態を多面的に測定し学習支援にも活用可能な要素として,個人面談の十分な経験を持つ4名の教員の合議により決定した.なお面談中の限られた時間内で学生の負担を最小限にしつつ即時的に評価する必要があったため,State-Trait Anxiety Inventory(STAI)などの確立された不安尺度11) は用いなかった.
各項目の測定には,10 cmの直線を引き,右端に最も良い状態,左端に最も悪い状態を記したVASを用いた(図S1).本研究では,面談における限られた時間の中で,学生の主観的な状態とその細かな経時的変化を簡潔かつ定量的に把握するための手法として採用した.主に痛みや満足度などの主観的な状態の測定に用いられるVASは,学生の学業に対する不安の測定にも有用であることが先行研究において報告されている12).このVASが書かれた調査票を学生に渡し,回答時の心理状態に相当するスケール上の位置について,面談前は縦線を,面談後は×印をそれぞれ用いて,教員が一旦席を外す形式で回答してもらった.なお,面談前後の心理状態を学生自身が比較できるようにするため,面談前の回答後に調査票を裏返して学生の手元に置かせ,面談後に調査票を表に返し回答させた.回収した調査票のVASの左端から,最小目盛り1 mmの物差しで,最小目盛りの1/10まで回答位置を読み取り,VAS値(cm)とした.さらに,これら4項目の内的整合性を評価するため,Cronbach’s α係数を算出した.
3. VAS測定値の分析 1) クラスター解析標準化した面談前のVAS値4項目を説明変数に,平方ユークリッド距離ward法でクラスター分析した.得られたデンドログラム及び解釈可能なVAS値のパターンを基にクラスター数を決定し,クラスター番号を割り当てた.
2) 多変量分散分析従属変数としてVAS値4項目を,被験者内要因として測定時点(面談前,面談後)を用いた.また,被験者間要因としてクラスター番号,学生の性別を用いた.多変量検定統計量としてWilks’ Lambdaを,効果量としてpartial η2(η2p)を用いた.さらに,多変量分析の詳細な検討のため,各従属変数に対する単変量分散分析と,推定周辺平均に基づいた単純主効果検定を行った(Bonferroni調整).分析にはIBM SPSS Statistics 26を使用し,有意水準は両側検定でα = 0.05とした.
4. 倫理的配慮測定にあたり,学生の心理的負担の軽減に努めるため,調査票には学籍番号や氏名など個人情報の記入欄は設けず管理番号を付与し,この管理番号を通常業務として行っている氏名等を含んだ面談記録簿に記録して,回答者と調査票を紐づけ管理した.さらに調査票を提出させる際は,用紙を折り中が見えない回収箱に入れるよう指示し,面談者が学生の心理状態をその場で直接把握できないように配慮した.調査票の集計にあたっては,面談に関与しなかった別の教員が一定期間経過後に回収箱を開封してデータ化し,分析担当者以外の閲覧を制限した.さらに,学生に対しこれらのブラインド化作業を行うこと及び回答内容が成績評価や指導内容に影響しないことを,書面及び口頭で十分に説明し同意を得た.本研究は,星薬科大学倫理審査委員会の承認を得ている(審査番号2024-22).
2024年4月から2025年2月にかけ,6年生79人(28.3%)に延べ177件の個人面談を行い,137件(男性17件,女性120件)の面談で調査票を回収した.面談した学生の人数内訳は,男性14人(在籍86人中16.3%),女性65人(在籍193人中33.7%)であり,χ2検定の結果性別と面談有無は有意に関連した(p = 0.003, φ = 0.178).学生一人当たりの面談回数は平均値2.2,中央値1(第1四分位数1,第3四分位数3,最大値18)であった.全期間の平均VAS値(面談前 ± 標準偏差/面談後 ± 標準偏差)は,学習への自信が2.74 ± 1.73/4.96 ± 2.01,課題把握が3.77 ± 1.93/6.29 ± 1.72,学習意欲が4.99 ± 1.96/7.04 ± 1.58,学習への不安が3.00 ± 1.75/5.09 ± 1.82となった(図1A,表S2).Cronbach’s α係数は,面談前α = 0.662,面談後α = 0.813であり,面談後において高い内的整合性が確認された.面談前から面談後への改善度は,全ての項目において有意であった(p < 0.001, η2p = 0.561–0.638).面談日を6期間に区分してVAS値を集計し,面談前の不安感の推移を確認した結果,学習への自信は一年を通してほぼ一定であった(図1B).また課題把握と学習意欲は9月から11月に向けて低下し,その後上昇した.学習への不安は11月にかけて緩やかに上昇し,その後低下した.

「学習への不安」VAS値の推移.A:全期間の平均値及び標準偏差.n = 137.検定は多変量反復測定分散分析で行った.有意水準α = 0.05(Bonferroni調整).***:p < 0.001.Wilksのラムダ:p < 0.001.球面性の仮定に基づく1変量検定:全ての項目でp < 0.001.効果量η2p:学習への自信=0.603,課題把握=0.638,学習意欲=0.572,学習への不安=0.561.B:VAS値の1年間の平均推移.
面談教員が記録した面談記録簿から,学生の話と面談後の教員所感の一例を抜粋した(表1).なお,固有名詞は文意を変えないよう注意しつつ,一般名詞に置き換えた.学生の話として,「これまで就活を頑張り,MRに内定できた.勉強に全く手をつけておらず,そのことに焦っている(ID2)」「模試の結果が芳しくなくショックを受けた.だからこそこの1ヶ月半かなり頑張ってきたと思う.でも結果が結びついているのかわからなくて,不安すぎて限界を超えちゃいました.先生助けて.(ID130)」などの発言があった.また,これらのケースにおける面談後の教員所感として,「(国家試験への学習を)始めていない自分に不安になっているようだが,今後が見通せたことで(不安が)少し軽減されたようだ.(ID2)」「面談開始直後は涙がとまらなかった,終了時には元の元気を取り戻し,顔色もよくなった.(ID130)」などの変化が得られた.
面談教員が記録した学生の話と面談後の教員所感の一例
| 調査ID | 面談月 | クラスター | 学生の話 | 面談後の教員所感 |
|---|---|---|---|---|
| 2 | 7 | 1 | これまで就活を頑張り,MRに内定できた.勉強に全く手をつけておらず,そのことに焦っている.先が見えていない. | 始めていない自分に不安になっているようだが,今後が見通せたことで辛い気持ちが少し軽減されたようだ. |
| 115 | 10 | 1 | 公務員試験が9月頭まであったので,夏休みは講義のテキストしかやっていない.(中略)復習が追いつかなくて不安.模試が188点しか取れなくて,親にすごく怒られた.それ以来親と口を利いていない(後略). | 面談中は泣いていたが,終了時はだいぶ元気になった.親の強烈なプレッシャーが少しでも収まることを祈る.(後略) |
| 152 | 12 | 1 | 焦ってしまって学習の優先順位がわからない.先日の講義は,生物・薬理・治療を繋げる内容だったが細かすぎて理解できなかった.あんなに覚えなければいけないなんて無理だと思った.(中略)優先順位をどうつけたら良いかわからないし,間に合わなかったらどうしようと不安でいっぱい.モチベーションも低下中で泣きたい. | 話したらモチベーションが急上昇しました,とのこと.引き続きフォローする. |
| 172 | 12 | 1 | (国家試験に)受かる気がしません.模試の点数が前回とほとんど変わっていない.前の模試の時よりは文章が分かるようになってはいるが,解けない.総合演習科目の試験後は気が抜けてしまって講習会に参加しているだけで,自習時間がとれていません. | やる気が出ました.と帰っていった. |
| 205 | 1 | 1 | (前略),(試験結果を)計算しなおしたらあと8点足りないことが分かり,生きた心地がしない.今日は食事が喉を通らない.人生で一番不安だ.どうしよう.気分転換って言っても今更勉強以外のことをできる気分でもない.でも自分が一番伸びたと思うから,それを励みに頑張りたい. | 分かる範囲が増えてきて勉強も苦ではなくなってきた様子.話したら気持ちが楽になったと帰っていった. |
| 130 | 10 | 2 | 模試の結果が芳しくなくショックを受けた.だからこそこの1ヶ月半かなり頑張ってきたと思う.でも結果が結びついているのかわからなくて,不安すぎて限界を超えちゃいました.先生助けて. | 面談開始直後は涙がとまらなかった.終了時には元の元気を取り戻し,顔色もよくなった. |
| 184 | 11 | 2 | 総合演習科目の試験では物理化学生物を捨てて,薬理薬治を徹底的にやったら,やっただけの手ごたえは得られた.合格が見込めると思ったら,勉強のモチベーションが下がった.やることが多くて,なにからどれをやればいいかわからない. | 総合演習科目の試験合格者にありがちなモチベーションダウン状態.定期的に面談してフォローする |
| 174 | 9 | 3 | 国家試験過去問は必須問題を中心にやっていて,他にも問題集をやった.2つ選べの理論問題で1つは選べたがもう1つが選べず,やっているのに伸びずに不安だ. | しっかり学習できているので,面談にてよく話して不安を除けば問題ない.適時フォローする. |
| 284 | 1 | 3 | 国試に受かるビジョンが見えなくて不安です.模試では必須問題で70%かつ合計で60%を超えないといけないけど達成できていない.やっぱり薬理が苦手なままです.講義資料の問題を解いていて,周りの友人よりも時間がかかってしまうので自分が要領が悪いと思ってしまう,(中略).やりたいことがあって優先順位がわからない. | 講義資料を集中してやります!頑張ります!と言って帰宅. |
「学生の話」は聴き取り時に学生が話した内容の要約を,「面談後の教員所感」は学生の様子の変化を教員の主観で捉えたものをそれぞれ記述した.
面談前VAS値をもとにクラスター解析した結果,解釈可能な3つのクラスターが得られた(図2A).クラスター1(n = 38)はVAS値が4項目とも低いため「強度不安型」と,クラスター2(n = 57)は値が中程度なため「中度不安型」と名付けた.クラスター3(n = 42)は課題把握と意欲のVAS値が高く意欲的なものの,自信と不安の値が低いため,「低自己肯定感型」と名付けた.多変量分散分析の結果,測定時点の主効果(p < 0.001, η2p = 0.750),クラスターの主効果(p < 0.001, η2p = 0.472)及び交互作用(p < 0.001, η2p = 0.217)が有意であった.単純主効果を確認した結果,クラスター1(強度不安型)は他のクラスターと比較して,どの項目においても面談前のVAS値が有意に低いものの,面談後は大幅に上昇し他のクラスターと差がみられなかった(図2B).全ての検定結果を表S3に示す.

面談に来る学生の不安パターン.A:クラスター解析結果.バーは標準偏差を示す.B:クラスター毎のVAS値.検定は多変量反復測定二元配置分散分析で行った.有意水準α = 0.05(Bonferroni調整).* p < 0.05.
調査票を回答した71名のうち,面談回数が1回のみであった学生を単回利用群(計41名,男性7名,女性34名),2回以上の面談を行った学生を継続利用群(計30名,男性3名,女性27名)と定義した.両群間における性別構成については有意な差は認められなかった(χ2検定,p = 0.340).継続利用群における「学習への自信」の面談前スコア(平均 ± 標準誤差)を比較した結果,初回2.19 ± 0.23,2回目2.90 ± 0.28,3回目以降3.21 ± 0.31と上昇が認められた(図3A).また,面談による不安の改善度(ΔVAS)は,利用形態に関わらず全項目で概ね2.0 cm前後の改善が認められた.単回利用群は,9月に面談が集中する傾向にあり(図3B),クラスター3に属する学生が約50%であった(図3C).一方,継続相談群は4月〜8月の前期から面談を希望する傾向が見られ,クラスター1および2が70%以上であった.

単回利用または継続利用者別の集計値.調査票回答人数:単回利用 男性7人女性34人,継続利用 男性3人女性27人,χ2 test p = 0.340.調査票枚数:単回利用n = 41,継続利用1回目n = 30,継続利用2回目n = 30,継続利用3回目以降n = 36.A:面談前後のVAS平均値.エラーバーは標準誤差を示す.B:面談実施区分の分布.C:所属クラスターの分布.
学生の性別で集計した結果,面談件数は男性17件,女性120件であり,男女別VAS平均値(面談前/面談後)は,学習への自信(男性2.25/3.91,女性2.81/5.11),課題把握(男性3.75/6.26,女性3.77/6.29),学習意欲(男性4.55/6.33,女性5.05/7.14),学習への不安(男性3.60/4.94,女性2.91/5.11)であった(図S2A).多変量分散分析の結果,学生性別(p = 0.028, η2p = 0.078)及び時間の主効果(p < 0.001, η2p = 0.455)が有意であり,交互作用は有意でなかった.学生性別で1変量検定した結果,学習への自信(p = 0.041, η2p = 0.031)のみ女性が有意に高かった.全ての検定結果は表S4に示した.なお,教員経験年数による面談効果の可能性を考慮し,教員別のVAS値を視覚的に確認した結果,教員年齢による明確な影響は観察されなかった(図S2B).
本研究では,薬学部6年生を対象とした教員による個人面談が,「学習への自信」「課題把握」「学習意欲」「学習への不安」の4つの側面において,学生の主観的な不安感を有意に改善させることが示された.これは,学習に関する個人面談が試験成績を向上させる8) だけでなく,学生の学習に起因する不安感の改善にも寄与するという本研究の仮説を強く支持するものである.また,本研究で用いたVAS尺度の信頼性を検証する目的でα係数を算出した結果,面談前は0.662と許容できる値を示し,面談後は0.813と大幅に上昇し,高い内的整合性が確認された.面談前のα係数は,学生が単に不安であるというだけでなく,「自信」や「意欲」,「課題把握」といった心理的側面がバラバラで,比較的一貫性のない状態であったことを示唆している.これらの側面が,教員との面談を通じて整理された結果,統合された一貫性の高い心理状態へと変化したことが,α係数の大幅な上昇に反映されたと考えられる.このように学生の心理的な安定に繋がった理由を面談のプロセスと学生の様子(表1)から考察すると,教員との対話を通じて自身の課題を整理でき見通しがたったこと,また教員から励まされモチベーションが高まったことが大きく寄与していると推測された.なお,本研究の知見は面談を自ら希望した学生群に限定される点に留意が必要である.
クラスター分析で見出された3つの不安パターンから,面談前の学習への不安感には個人差があり,分類されたパターンによって面談後の改善度に差があることが示された(図2B).特に,「クラスター1:強度不安型」の学生は面談前のVAS値が極めて低く,「勉強に全く手をつけておらず,そのことに焦っている.先が見えていない.(ID2)」「模試が188点しか取れなくて,親にすごく怒られた.それ以来親と口を利いていない(ID115)」「間に合わなかったらどうしようと不安でいっぱい.モチベーションも低下中で泣きたい(ID152)」「生きた心地がしない.今日は食事が喉を通らない.人生で一番不安だ.(ID205)」といったように,面談月を問わず現在の自分が「人生のどん底」のような状態であると認識していた.こうした学生に対し,教員が面談の中で心理的安全性を確保し,問題解決の糸口を提供すること自体が学生にとっての大きな前進となり,面談後の教員所感からは「面談中は泣いていたが,終了時はだいぶ元気になった(ID115)」「話したらモチベーションが急上昇しました(ID152)」などの劇的な反応が伺えた.このように「どん底」から抜け出せたという飛躍感から,VAS値の劇的な改善に繋がったと考えられる.一方,クラスター2や3の学生は,「徹底的にやったら,やっただけの手ごたえは得られた.合格が見込めると思ったら,勉強のモチベーションが下がった(ID184)」「国家試験過去問は必須問題を中心にやっていて,他にも問題集をやった.2つ選べの理論問題で1つは選べたがもう1つが選べず,やっているのに伸びずに不安だ(ID174)」など,すでに学習に手を付け課題を把握しているものの,一時的に目標を見失っている状態と考えられる.この場合,学生は面談によって以前より良い状態にはなるものの,クラスター1の学生のような飛躍感は得られず,VAS値の改善度はある程度の水準で頭打ちになったと推察される.以上のことから,個人面談は不安感の軽減を通じて,特に不安が大きく学習に手を付けられないような学生に対し,援助要請行動さえ起これば学習ともう一度向き合い直すきっかけを与える役割がある可能性が示唆された.
VAS値の年間推移から,薬学部6年生の学習スケジュールが精神状態と関連していることが伺えた(図1B).本学では,薬剤師に必要な薬学知識の修得を確認する総合演習科目を6年次後期に開講し,その科目の単位認定試験を11月中旬に実施している.学生は,卒業を左右する試験に向け学習を進めたものの,「やっているのに伸びずに不安だ(ID174)」「この1ヶ月半かなり頑張ってきたと思う.でも結果が結びついているのかわからなくて(ID130)」といったように,思うように結果が出なかったり,潜在的な課題の多さに気づいたりして,「課題把握」と「学習意欲」のVAS値が徐々に低下していったと考えられる.このような時期を経て,総合演習科目の試験後には「合格が見込めると思ったら,勉強のモチベーションが下がった(ID184)」など学習意欲の低下を体感するものの,「(国家試験に)受かる気がしません(ID172)」「国試に受かるビジョンが見えなくて不安です(ID284)」のように,国家試験日の近づきに対し不安を覚えつつも回避できないことを感じ,覚悟を決めた結果学習意欲が高まっていったと推測できる.以上のように,総合演習科目の試験を境に不安感が悪化していることを考慮すると,このような試験を控えた時期に教員からの積極的な介入と支援を行うことが,個人面談を実施する上での重要な戦略である可能性が示唆された.ただし,この知見も自ら援助を要請した学生のデータに基づくものであり,援助を要請しない学生の不安のピーク時期が異なる可能性には留意が必要である.
面談回数の観点から分析した結果,本実践における個人面談は学生の利用形態に応じて即時性と継続性の二つの役割を担うとともに,年間を通じた心理的インフラとして機能していることが示された.まず,単回利用群は初めての模擬試験が実施される9月に来室が集中し,クラスター3(低自己肯定感型)が多くを占めた.彼らはもともと学習意欲は高いものの,模試の結果を受けて緊急避難的に援助要請を行った群と推察され,一度の面談で心理的安定や見通しを得ることで,その後の自律的な学習へ移行できた学生が多かったと考えられる.これに対し,継続利用群では回数を重ねるごとに面談前の「自信」スコアが向上する傾向が認められた.これは,「自信」が平均的には年間を通して変動しないことを考慮すると,初回の面談で得られた大きな不安軽減効果が継続的な援助要請を動機づけ,関わりを重ねる中で自己効力感の定着が促進された結果と捉えられるだろう.また,こうした利用形態の違いに関わらず,不安の改善度が面談回数や時期に左右されずほぼ一定に維持されていた点は重要である.これは,試験スケジュールに応じて新たな壁に直面する学生に対し,個人面談が常に一定の心理的安心感を提供し続ける心理的インフラとして機能していることを示している.
学生性別に着目すると,女子学生の方が「自信」が高く(図S2A),また面談利用率が男子学生と比較して高く,女性の方が支援を求めることに積極的である傾向が明らかとなった.一般に男性は,伝統的な男性的役割の意識から困難な状況を自力で解決すべきだと考え,援助を求める行為に抵抗を感じやすいことが知られていることから13),面談利用率に違いが生じた可能性が考えられた.一方で,面談を希望しなかった実数を面談希望者から計算すると,女子学生は128名であり男子学生の72名を大幅に上回っている.この事実は,援助要請の障壁が単に男性的役割規範といったジェンダー固有の課題に留まらず,個人的な要因が複合的に存在していることを示唆している.試験成績が低く潜在的に面談が必要であるものの,援助要請ができない学生では,危機感の欠如や留年経験の有無,自己解決の選好,あるいは所属研究室ですでに十分なサポートを得ている,といったような個人的な要因が複雑に絡み合っていると推察される.今後の支援体制構築においては,性別による傾向を把握しつつも,単に面談機会を設けるだけでなく個々の学生の状況に応じた柔軟な働きかけを検討することが,薬学部での教育実践における重要な課題と言える.
本研究は個人面談の有効性を示したが,いくつかの限界も存在する.第1に,対象者のバイアスである.本研究で得られたデータの回答者は,単一の薬学部かつ面談を自ら希望した学生であるため,一定の援助要請スキルがある「もともと面談に前向きな学生」という属性を有する.したがって,本研究の知見が薬学部6年生全体に普遍的に当てはまるかは明らかでなく,特に最も必要性の高い課題であると指摘される14) 「悩みを抱えていながら相談に来ない学生への対応」という点は調査対象外となっている.この課題は,単に学習支援を行う教員組織だけで解決できるものではなく,潜在的な支援ニーズを持つ学生を大学全体で協力して早期発見するなど,より広範な学生層を対象とした取り組みが必要である.第2に,面談内容の詳細な質的分析や,面談者のスキルが面談効果に与える影響についての検討には至っていない.今後は,個々の面談についてより深く解析することで,質の高い個人面談の提供に向けた示唆が得られるだろう.第3に,本研究は面談による中期的な改善効果を測定したものではない.例えば面談1週間後にVASを再測定することで,課題の明確化や自信の維持など,実質的な不安の解消に繋がっているかどうかを評価することが可能になると考えられる.
本研究は,特定の薬学部6年生を対象とした教員による個人面談が,学生が持つ学習に対する不安感を軽減する上で有効な手段である可能性を実践的に示した.特に「強度不安型」の学生が面談後に劇的な改善を示したことは,援助要請行動さえ起これば,面談が学習への再起のきっかけとして極めて有効であることを示唆している.本研究の知見は,あくまで自ら援助要請できた学生群に限定されるという限界があり,「悩みを抱えながら相談に来ない学生」への支援体制を構築すること,及び援助要請の障壁を取り除くための柔軟なアプローチが,今後の薬学部での教育実践における重要な課題である.また個々の教員も,FDなどの研修機会で多様な面談技術を獲得することが,学生の成長を促進する上で有効であろう.
本研究にご協力いただいた星薬科大学学生に感謝いたします.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.