薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
実践報告
福岡大学薬学部における多職種連携に対する学生の認識と教育実践に向けた課題
緒方 憲太郎, 刀根 菜七子, 小迫 知弘, 松尾 宏一, 林 稔展, 山内 淳史, 安高 勇気, 三島 健一, 北島 研, 大田 博, 宮城 由美子, 小玉 正太, 松末 公彦
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2026 年 10 巻 論文ID: e10026

詳細
抄録

医療現場では質の高いチーム医療が実践されているが,さらに変化する医療と多様化する患者対応のために,医療者を目指す学生たちに対して,医療専門職としての資質と能力を涵養することが求められる.多くの医療系大学ではこれに応えるべく,卒前の多職種連携教育(IPE)を実施している.福岡大学では効果的なIPEの実践に向けて,ワークショップと事例検討を実施し,その直後に学生の認識をアンケート調査して,課題を抽出した.教育介入直後の反応を捉えた結果,薬学部,医学科および看護学科において,学生の認識に臨床経験が影響していることが考えられた.さらに薬学部生は,自身の役割や患者・医療スタッフを認識する力が他学科生に比べて十分に育まれていない,あるいはその獲得が遅れている傾向が示唆された.これらは実務実習において初めて培われるべきものではなく,今後,薬学部生が低学年次よりこれらを段階的に学ぶIPEの導入を検討していきたい.

Abstract

Cultivating the qualifications and competencies of students training to become healthcare professionals is necessary to keep pace with ongoing changes in the medical environment and the increasingly diverse needs of patients. Many universities implemented interprofessional education (IPE) programs to encourage high-quality, multidisciplinary team-based care in clinical settings to meet this need. A questionnaire was administered to pharmacy students at Fukuoka University immediately after an educational intervention to examine perceptions and identify areas of program improvement. The results suggested that clinical experiences influenced students’ perceptions in the Schools of Pharmaceutical Sciences, Medicine, and Nursing. Furthermore, students studying pharmacy showed limited or delayed understanding of their professional roles, the patients, and other healthcare professionals, compared to those in other faculties. These competencies should be cultivated through clinical training and a stepwise introduction to IPE from the early stages of medical education. Moving forward, such programs should be further examined and developed.

 目的

チーム医療とは,「医療に従事する多種多様な医療スタッフが,各々の高い専門性を前提に,目的と情報を共有し,業務を分担しつつ互いに連携・補完し合い,患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と一般的に理解されており1),医療現場では質の高いチーム医療が実践されている.また,WHOは連携医療について「あらゆる状況で最高品質のケアを提供するために,異なる専門分野をもつ複数の医療従事者が患者,家族,介護者,コミュニティと連携して包括的サービスを提供すること」と定義し,これを推奨している2).さらに,医療の急速な高度化・複雑化や少子高齢化に伴う医療構造の変化の中で,多様化する患者のニーズへの対応は,医療者の生命倫理やコミュニケーション能力の上に成り立っている.そこで,医療者を目指す学生がこれらを医療現場で実践するためには,卒前教育において医療専門職としての資質と能力を涵養することが求められる.医学3),看護学教育モデル・コア・カリキュラム4) と同様に,令和4年度改訂版薬学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,改訂コアカリ)においても「チーム医療」や「多職種連携」が求められる資質および学修目標に明記されている5).

多職種連携教育(interprofessional education:以下,IPE)とは「複数の専門職が協働し,患者ケアの質を向上させるために互いに学び合う機会」であり6),多くの教育機関で実践されている7–11).一方で,福岡大学(以下,本学)は医学科,看護学科,薬学科を擁するものの,系統的に体系化されたIPEが確立されておらず,これら3学科の学生が正課科目において他学科の学生と協働して学修する機会は,1年次の共通教育科目1科目のみに限られている.さらに,その科目内容は医療に特化したものではなく,本学においてIPEの確立は取り組むべき大きな課題となっている.

本研究では,教育介入として薬学部生と看護学科生に対してワークショップ(以下,WS)を実施し,また医学科生に対しては講義において事例検討を行い,薬学部生と他学科生(医・看)の多職種連携に対する認識を比較し,薬学部生の特徴を明らかにするとともに,IPE実施に向けた薬学部の教育課題を検討することを目的としてアンケート調査を実施した.なお,本調査は,教育効果や多職種連携に対する認識が最も形成されやすい教育介入直後に実施し,そこから得られる気づきや態度変容といった即時的な反応を捉えることをねらいとした.

 方法

1. 教育介入の概要 (図1)
図1

教育介入の概要.薬学部生と看護学科生を対象としたWS,医学科生を対象とした演習講義のスケジュールとその内容.

1) 薬学部生と看護学科生を対象としたワークショップ

薬学部生と看護学科生を対象に,2024年8月24日に多職種連携を学ぶことを目的とした任意参加のWSを開催した.本WSについては5月より学内ポータルシステム等を用いて薬学部4年生および看護学科3年生に告知し,7月より薬学部5年生および看護学科4年生へ募集を拡大した.開催内容は講演と事例検討の2部構成とした.まず,乳がん体験者・患者会による「患者の思い,家族の祈り」と題した基調講演を行い,乳がん患者・体験者の生の声を通じて,患者・家族の悩みや患者視点でのチーム医療について学んだ.次に事例検討では,治癒を目指す早期乳がん事例と進行乳がん事例の2つのシナリオを提示し,それぞれ『患者・家族が抱える問題』,『対応策』,『他職種との協働』,『各職種の役割』などについて個人で検討を行った後,SGDを経て全体発表を行った.なお,本事例では治療目標およびそれに対する治療方針を明示し,疾患や薬物療法に関する専門知識やエビデンスを必要としない内容とした.その上で,患者・家族の社会的背景,心理的背景,生活習慣,価値観,今後の希望などを踏まえて問題点を抽出し,その解決に向けた多職種協働や各職種の役割について検討・議論することを目的とした.

2) 医学科生を対象とした演習講義

医学科3年生に対して,同年12月18日の講義科目『腫瘍・血液学』における多職種連携に関する演習(1コマ)において,WSと同一の事例を用いて検討を行い,SGDおよび全体発表を実施した.

2. 対象

WS参加の薬学部生,看護学科生各29名と医学科講義出席者78名のうち,アンケートに回答した薬学部生,看護学科生各28名(アンケート回収率各97%)および医学科生60名(同77%)を本研究の対象とした.なお,2024年度の各学科の学生数は薬学部4・5年生各208名,看護学科3年生102名,同4年生100名および医学科3年生115名であった.

3. アンケート方法

アンケートは,基調講演に関する項目(Q.1~6),事例検討に関する項目(Q.7~13),SGDに関する項目(Q.14~21),その他(Q.22)で構成し,WSまたは講義終了時にMicrosoft Formsを用いて実施した.また,Q.1~5およびQ.7~21の20項目は,0(全くできない/全く理解していない)~10(よくできる/よく理解している)の11段階から選択するリッカート尺度による選択式回答とし,Q.6およびQ.22は自由記述回答形式とした.なお,医学科生からは事例検討に関する項目(Q.7~13)とその他(Q.22)の回答を得た.

4. 統計解析

選択式回答では,アンケートの中間回答が選択されやすい影響の排除と,群間差を明確にする目的で,回答を0~6(未達成/理解不足),7~8(概ね達成/理解),9~10(十分達成/理解)の3つに分類し,薬学部生と看護学科生の2群間でMann-Whitney U検定を用いて比較した.さらに医学科生を加えた3群間で事例検討に関するQ.7~13について同様の分類を行い,Kruskal-Wallis検定を用いて比較した.有意差が認められた場合には,多重比較としてDunn-Bonferroni法を用いた.なお,統計解析はIBM SPSS Statisticsを使用し,有意水準は5%(p < 0.05)とした.

5. 自由記述回答の解析

自由記述回答はKH Coder 3を用いてテキストマイニング12,13) を行った.KH Coder での解析対象語は上位60語であり,出現回数 3 回以上の名詞,サ変名詞,形容動詞,ナイ形容,副詞可能,タグ,感動詞,動詞,形容詞,副詞,名詞C,とした.Q.22では外部変数を学部・学科(医・看・薬)とし,強制抽出する語句として “インフォームド・コンセント” を設定した.

6. 倫理的配慮

本研究は,福岡大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号;25-02-02).

 結果

1. 基調講演・SGD関連項目(薬学部・看護学科対象)

基調講演・SGDに関する選択式回答項目(Q.1~5およびQ.14~21)を薬学部生と看護学科生で比較した結果,13項目中7項目に有意差が認められ,いずれも薬学部生より看護学科生のスコアが高かった(表1).その7項目の内訳は,基調講演に関する項目で『Q.2患者・家族の気持ちに寄り添うこと』,『Q.3患者・家族の話を傾聴すること』,『Q.4患者・家族との会話から問題点を見出すこと』,『Q.5患者・家族に対して,医療人としてふさわしい関わり方を考えること』の4項目,さらにSGDに関する項目では,『Q.14患者の状況を理解したうえで,治癒に向けたグループとしての目標(事例1)を考えること』,『Q.18他職種の意見を聞いた上で,さらに自分の意見や提案を述べること』および『Q.21多職種と連携して,患者・家族が抱える問題への解決策を見いだすこと』の3項目であった.

表1

ワークショップの基調講演・グループディスカッションに関する薬学部生と看護学科生の達成度の比較

基調講演
基調講演で患者の声を聞いて,現時点でのあなたのスキルに近いと思うものを選んでください n(%) p値
十分達成(9,10) 概ね達成(7,8) 未達成(0~6)
Q.1 患者・家族の気持ちを具体的に想像すること N 3(11%) 21(75%) 4(14%) 0.147
P 3(11%) 15(54%) 10(36%)
Q.2 患者・家族の気持ちに寄り添うこと N 6(21%) 18(64%) 4(14%) 0.013*
P 0(0%) 19(68%) 9(32%)
Q.3 患者・家族の話を傾聴すること N 10(36%) 17(61%) 1(4%) 0.001*
P 3(11%) 15(54%) 10(36%)
Q.4 患者・家族との会話から問題点を見出すこと N 2(7%) 22(79%) 4(14%) <0.001*
P 1(4%) 10(36%) 17(61%)
Q.5 患者・家族に対して,医療人としてふさわしい関わり方を考えること N 3(11%) 18(64%) 7(25%) 0.041*
P 3(11%) 9(32%) 16(57%)

SGD
SGDでの,あなたの達成度に近いものを選んでください n(%) p値
十分達成(9,10) 概ね達成(7,8) 未達成(0~6)
Q.14 患者の状況を理解した上で,治癒に向けたグループとしての目標(事例1)を考えること N 11(39%) 16(57%) 1(4%) 0.020*
P 4(14%) 20(71%) 4(14%)
Q.15 患者の状況を理解した上で,延命に向けたグループとしての目標(事例2)を考えること N 10(36%) 13(46%) 5(18%) 0.085
P 4(14%) 16(57%) 8(29%)
Q.16 他職種の目線での捉え方を理解しようとすること N 11(39%) 15(54%) 2(7%) 0.584
P 10(36%) 14(50%) 4(14%)
Q.17 他職種に自分の意見を伝えること N 10(36%) 14(50%) 4(14%) 0.177
P 6(21%) 15(54%) 7(25%)
Q.18 他職種の意見を聞いた上で,さらに自分の意見や提案を述べること N 10(36%) 15(54%) 3(11%) 0.045*
P 6(21%) 12(43%) 10(36%)
Q.19 他職種の意見を聞いて,否定せず相手の考え方や意見を尊重すること N 16(57%) 11(39%) 1(4%) 0.057
P 10(36%) 13(46%) 5(18%)
Q.20 いずれかの職種の意見に偏ることなく,グループの意見をまとめること N 9(32%) 15(54%) 4(14%) 0.243
P 6(21%) 15(54%) 7(25%)
Q.21 多職種と連携して,患者・家族が抱える問題への解決策を見いだすこと N 12(43%) 15(54%) 1(4%) 0.005*
P 3(11%) 21(75%) 4(14%)

N;看護学科生,P;薬学部生,*;p < 0.05

2. 事例検討関連項目(3学科対象)

事例検討に関する項目(Q.7~13)を薬学部生,看護学科生および医学科生の3群で解析した結果,7項目中『Q.7患者・家族がどのような問題を抱えているのか』,『Q.8患者・家族の問題を解決するためには,どのような点に着目すべきか』,『Q.11多職種連携での医師の役割』,『Q.12多職種連携での看護師の役割』の4項目に有意差が認められた.このうち『Q.7』,『Q.8』,『Q.11』では薬学部生より医学科生のスコアが高く,さらに,『Q.11』では医学科生が看護学科生より,『Q.12』では看護学科生が医学科生および薬学部生より,それぞれ有意に高いスコアを示した.その一方で『Q.13多職種連携での薬剤師の役割』では3学科間で差は認めなかった(表2).

表2

事例検討に関する薬学部生,医学科生および看護学科生の理解度の比較

3. 自由記述回答

薬学部生と看護学科生の『Q.6基調講演で患者の声を聞いて,学部生のうちにさらに修得しておくべきだと感じたこと』に対する自由記述回答の共起ネットワークから,「患者を知る」,「専門知識を習得する」,「他職種を理解する」,「経験談を聞く」,「相手の立場を考える」,「傾聴」などの記載が確認された(図2a).また,3学科生対象の『Q.22医療における多職種連携の中で,あなたはどのように患者に関わることができると思いますか』の解析結果において,医学科の頻出語として「治療(15回)」,「方針(7回)」,「説明(6回)」,「信頼(4回)」,「インフォームド・コンセント(3回)」などが挙がり,これらは他の2学科ではみられなかった.さらに,「チーム医療のリーダーとして,しっかり場を仕切ることができる」,「医師として治療方針を俯瞰的に捉え,他職種の意見を取り入れながら治療を進める」など,リーダーシップに関する記述が多くみられた.同様に看護学科では「聞く(7回)」,「関わる(5回)」,「職種(5回)」,「存在(4回)」などが挙がり,「患者の思いを聞き,必要なことを考え他職種に橋渡しする」,「患者の身近な存在として寄り添う立場で関わることができる」ほか,患者の身近な存在として看護師が患者の声を直接聞くことを意識した記述が多くみられた.また,薬学部生では「薬(16回)」,「提供(7回)」,「正しい(6回)」,「知識(3回)」などが挙がり,「薬に関わる情報の提供」,「正しい薬の提供を行い,選択肢を広げることや不安を解消すること」など,薬を通じた患者との関わりを意識した記述が多くみられた.薬学部生,看護学科生の頻出語である「不安」,「寄り添う」および「情報」は医学科では頻出しない,あるいは記述がみられなかった(図2b).

図2

自由記述回答のテキストマイニング.a:薬学部生と看護学科生における『学部生のうちにさらに修得しておくべきだと感じたこと』に対する共起ネットワーク.共起関係が強いほど太い線で描写され,関連した語句がsubgraph(色で識別)として集まる.また,円の大きさで出現数(frequency)を表す.b:薬学部生,医学科生および看護学科生の『医療における多職種連携の中で,あなたはどのように患者に関わることができると思いますか』に対する対応分析.外部変数は学部・学科(医・看・薬)とした.原点に近いほど特徴のない語句であり,中心から離れた語句が各学科の特徴を示す語句である.

 考察

本研究では,すべてのアンケート項目について3学科間で検討したわけではないが,選択式回答20項目中11項目において薬学部生のスコアが他学科生よりも有意に低く,その逆の結果はみられなかった.薬学部生と看護学科生の比較では,基調講演に関する5項目中4項目,さらにSGDに関する8項目中3項目において,薬学部生のスコアが有意に低かった(表1).また,医学科生を加えた事例検討に関する3群比較では,7項目中4項目において,薬学部生のスコアが他学科生より有意に低かった(表2).これらの結果より,薬学部生は患者・家族の視点に立った理解が十分ではない可能性や,各医療スタッフの役割に関する理解が相対的に遅れている傾向が示唆された.

この背景には,3学科の教育課程の構造的な違いや,それに伴う臨床実践経験の差が大きく影響していると考えられる.看護学科のカリキュラムでは,必修臨地実習(基礎,各領域,総合など)が,1年次に2科目(計2週間),2年次に2科目(計3週間),3年次に6科目(計13週間),4年次に2科目(計5週間)の合計12科目(計23週間)実施され,さらに選択実習が3科目設けられている.これは薬学部の主な臨床実習である1年次早期臨床体験および5年次実務実習に費やす時間とほぼ同等である.一方で,教育課程の構造には違いがみられる.薬学部では,1年次から積み上げた知識を5年次の実務実習で適用する構造であるのに対し,看護学科では1年次から4年次までの各学年において領域を横断しながら段階的に実習が組み込まれ,講義と実習が循環する構造となっている.そのため,本WSに参加した看護学科生は全員が臨床実習経験を有していたのに対し,薬学部生のうち実務実習経験者は3名のみであった.薬学部の教育課程においては,実務実習以外では患者の話を聴く機会や,患者あるいは他職種と直接関わる学修機会が比較的少ない.そのため「患者・家族を理解すること」や「患者・家族の視点に立つこと」など,患者のナラティブや意思決定を尊重して支援する姿勢14,15) を,より一層涵養する必要があると考えられる.また,他職種の専門職能や自他尊重に基づくコミュニケーションについて理解し,良好な相互理解に基づく連携を築くとともに,自身の考えや感情を適切に伝えるためのコミュニケーション能力を養う訓練も必要である16).今回のWSでは,患者の声を実際に聴くことにより,医療の中心は患者であることを理解し,患者の視点に立つことを狙いとした.さらに,SGDは実臨床における多職種カンファレンスに通じる内容とした.今回のアンケート結果から,薬学部生に対してはこのような学修機会を設けることが必要であると考えられた.また,医学科のカリキュラムでは,短期間の1年次看護実習や1・3年次のクリニカル・クラークシップ体験の後,4年次から6年次まで本格的なクリニカル・クラークシップが実施される.医師は診断や治療方針の決定など医療における責任を負う立場にあり,医学教育モデル・コア・カリキュラム3) の「医学生に求めたいこと」には「リーダーの役割を担い」と明記されている.さらに,厚生労働省が取りまとめた「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」17) においても,医師はチームリーダーとして位置付けられている.このように医学教育では,医師がチームの責任者としてリーダーシップを担うことを前提に教育が進められる.

以上のことより,臨床での実習経験は学生たちに大きく影響を及ぼし,また,他学科生は早い段階から自身の専門職としての役割を認識している可能性がある.このことは『Q.22医療における多職種連携の中で,あなたはどのように患者に関わることができると思いますか』に対する自由記述回答にも表れている.その解析において,医学科生は自らを医療における中心的役割を担う存在であると認識しており,チームリーダーとしての在り方やインフォームド・コンセント,患者の意思決定支援,治療方針決定などの責任を担っていることを強く自覚していると考えられる.さらに,他職種との協働についても言及がみられた.一方,看護学科生は患者とその思いに寄り添い,患者に最も身近な存在として全人的に支援するという意識が強く,患者のみならず他職種間の橋渡し的な関係性を築く存在としての自覚もうかがえる.また,薬学部生は自らの役割を,患者に正確な薬剤および薬物療法に関する情報を提供することと捉える傾向があり,この認識が前述した「薬・知識」を中心とした学習姿勢につながっていると推測される.一方で,頻出語には看護学科生と同様に「不安」や「寄り添う」も挙がっており,患者の心理的側面に配慮しようとする兆しもみられた.

改訂コアカリ5) の基本理念には,多様な時代の変化や予測困難な出来事に柔軟に対応し,生涯にわたって活躍し,社会のニーズに応える医療人の養成が必須であると記されており,大学ではこのような医療者教育を具現化することが求められている.これに対応するため,IPEに関しては,模擬患者を起用した例8) や実務実習において他学部生と共同で実施されている例9) などの実践方法のほか,オンラインの活用10) や他大学との連携11) によるプログラム構築の成果も報告されており,今後も各施設の教育環境や体制に応じた,より効果的なIPEの実践が期待される.これらの取り組みや国内先行研究において,本研究と共通する点として,教育介入直後の評価において学生の認識変化がみられ,多職種連携の必要性や他職種への理解が促進されること18),さらに臨床実習の経験が調査結果に影響する可能性19) が示されている点が挙げられる.一方で,本研究の特徴は,医看薬3学科生を対象に共通事例を用いて比較検討を行い,薬学部生の特徴的な認識を明らかにした点にある.また,本研究は単なる意識調査にとどまらず,今後のIPE実践に向けた教育課題の抽出に踏み込んだ点にも意義がある.具体的には,薬学部生においては患者視点の理解や各職種の役割認識を早期から涵養するための学修機会が必要であることなど,教育改善に資する示唆を提示した.この課題を解決する取り組みの一つとして,他学科生と共に学ぶIPEの実施は大きな意義を有すると考えられる.

本研究にはいくつかの限界がある.第一に,本研究の対象は任意参加型のWS参加者および講義参加者のうち,アンケート回答者に限定しており,学生の全体像を必ずしも反映していない可能性がある.第二に,3学科とも全体数に対する参加者の割合が低く,さらに夏季休暇中に任意参加で実施したWSでは,学習意欲や関心の高い学生の参加に偏っていた可能性がある.第三に,本研究のデータはWSや演習直後のアンケート結果に基づいており,教育介入による即時的な反応を捉える一方で,教育介入時の感受性や一時的な影響が結果に反映されている可能性がある.そのため,本研究の結果は必ずしも長期的な意識や態度の変容を示すものではないと考えられる.また,各学科において統一した実施形態で検討していないため,得られた結果を学科間で単純に比較することには慎重さが求められる.以上の点を踏まえて結果を解釈する必要はあるが,本研究で得られたデータは学生の自由意思に基づく貴重なものであり,今後のIPE実施に向けた教育課題を検討する上で有益な知見であると考えられる.

薬学部生が患者の抱える問題や医療スタッフの存在を意識し,医療チームの一員としての自覚を持つことは,5年次の実務実習において初めて培われるべきものではない.その準備段階として,低学年時から段階的な学びを支えるIPEを導入することが効果的であると考えられる.本研究の結果は,薬学部教育において患者視点の理解や各職種の役割認識を早期から涵養する教育の必要性を示唆するものであり,今後のIPE実践や教育プログラムの検討に有用な知見を提供するものと考えられる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2026 日本薬学教育学会
feedback
Top