薬学教育
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誌上シンポジウム:FD活動からアウトカムをはかる
大阪薬科大学におけるFD活動の新しい取り組み
尾﨑 惠一
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2018 年 2 巻 論文ID: 2018-004

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Abstract

平成19年度の大学設置基準改正におけるFD(Faculty Development)義務化にともない,大阪薬科大学でもFD委員会が設置され,歴代のFD委員長を中心に教育活動の改善や学習環境の整備にむけた取り組みが続けられてきた.この様な活動をさらに発展すべく,私は平成29年度より本学FD委員長を拝命した.FDは教員の授業内容・方法の改善を促す取り組みとされているが,広くは研究も含めて教員の資質の改善・開発を目指すべきものであり,教員の研究能力と教育能力がともに開発されてこそ「大学の教育力向上」が実現されるものである.また一方で,教育現場での主役である学生にも我々との協力体制でFD活動に参画してもらいたいと考えた.そのような考えに基づき,これまでのFD活動の中で踏襲すべきものは踏襲しつつ,現状をさらに改革し発展させるために企画した私の新しいプランとその活動の進捗状況を述べたい.

はじめに

平成29年度より大阪薬科大学FD委員長を拝命した私は,FD活動の現状をさらに改革し発展させるべく新しいプランを企画し,実践しつつある.

これまで本学で伝統的に行われていた「公開授業」に関しては,継続させては行くもののアクティブ・ラーニングを主体とした授業や実習における実地試験など特徴的な授業に限定して公開し,参加教員に回答してもらったアンケートを後日開催予定の教員研修会における検討資料に利用することにした.また,「授業に対する学生アンケート」に関しては,これまで教員個人の授業評価結果が公開されず,教員及び学生に対するフィードバックも不十分であった.そこで,今年度からは教員個人のアンケート結果も含めて全教員,全学生が共有できるように結果を学内公開することとした.そして,その結果をもとに個人レベルで教員の授業改善に役立てようと考えている.

さて,FDは教員の授業内容・方法の改善を促す取り組みとされているが,広くは研究も含めて教員の資質(職能)の改善・開発を目指すべきものであり,教員の研究能力と教育能力がともに開発されてこそ「大学の教育力向上」が実現されるものである.そこで,私は教員の業務を主として「教育業務」と「研究業務」の二つに分けて考え,それぞれの業務発展のためのFD研修会を企画した.教育業務FD研修会は,公開授業の検討会も含めてアクティブ・ラーニング支援FDと題してワークショップ形式で開催し,アクティブ・ラーニング実践経験豊富な他大学講師による講演会を実施した.また,研究業務FD研修会としては,研究支援FDとして本学における研究支援体制を全教員に周知するとともに,研究推進のモチベーション向上のためにノーベル賞級の研究をされている薬学研究者による「薬学トップランナー研究講演会」を開催した.

さらに教育現場の主役である学生にも我々との協力体制でFD活動に参画してもらいたいと考え,学生目線からの授業改善に取り組む学生FD委員会を現在立ち上げたところである.このような活動を中心としたFDの取り組みの具体的な進捗状況とその後の展望について以下に述べる.

FD活動のための新たなプランとその活動の現状

全体像としては,平成29年度前期にFD委員会活動として次のような事業計画を企画し実施している.

  • 1.  公開授業の参観およびその検討会
  • 2.  教員研修会(研究業務研修会と教育業務研修会)の実施
  • 3.  新任若手教員FD事業(外部FD研修会への参加)
  • 4.  学生FD委員会の立ち上げ
  • 5.  今年度の授業,実習に対する学生アンケート実施と来年度以降に向けた新たな検討

1.公開授業

教員相互の授業参観により,教育能力を高めることを目的として毎年実施している.今年度前期は「OBE(Outcome-Based Education)対応の学習方略と評価」をテーマに,「応用分析学」の授業と「分析化学実習」をそれぞれ公開し,希望教員が参観した.「応用分析学」では,反転授業とTBL(Team-Based Learning)を組み合わせたアクティブ・ラーニングを実施した.本学の1学年の学生数が300名を超え,それを2クラスに分けていることから,図1の様に150名の学生の規模でのアクティブ・ラーニングとなり,多くの教員が普段実施できないレベルの授業の参観となった.さらに,授業終了後に実施した受講学生と参観教員に対するアンケートの集計結果は,後日実施する公開授業検討会における資料になるとともに,学会にて公表された.一方,「分析化学実習」では,パフォーマンス評価の前段階評価としての実地試験を参観した.これは学生実習の評価としてはあまり見られない,実技試験を評価に取り入れた新しい試みであった.したがって,ともに参観教員からは今後のアクティブ・ラーニング導入に向けて大いに参考になったとの声が聞かれた.

図1

公開授業の風景

2.教員研修会

夏期の比較的時間のある8月下旬に,次のように半日がかりの研修会を2回行った.まず,8月23日(水)に本学研究委員会と共催で「研究推進力の向上」をテーマに「研究業務研修会を実施した(図2左).

図2

研究業務研修会,薬学トップランナー講演会の案内

第1部では研究委員長より本学の様々な研究支援プログラムについて紹介してもらい,教員の研究推進のモチベーションアップをはかった.さらに,9月からの科学研究費取得のための申請に向けての気合を入れてもらい,本学教員の科研費取得率向上を目指すこととした.

第2部では「薬学トップランナー研究講演会」と銘打って,京都大学大学院理学研究科教授の森和俊先生をお招きした.森先生はERストレス研究において世界のトップレベルにあり,ラスカー賞を2014年に受賞されたノーベル賞受賞目前の薬学研究トップランナーである.そこで,低学年の学生にもわかりやすく興味が持てる様にと「田舎者の少年がどうやってラスカー賞の受賞者になったか?」と題して,ERストレス研究はもとより研究を進めていくうえでの苦労話などをお伺いした(図2左).こちらは広く学生にも公開し,教職員とあわせて320名近い参加者があり,大盛況であった(図3).また,「こんな偉い先生の話がきけて幸せだった」,「毎年このような世界レベルの先生の講演を聞いてみたい」というような感想をのべた学生や,「研究の苦労話や激しい競争のお話を聞けて,大いにモチベーションが上がった」というような教員の感想もあり,今後もこのような講演会を含めた研究業務研修会を開催していきたいと考えている.

図3

薬学トップランナー講演会の風景

2回目の研修会としては,次の週の8月30日(水)に本学教務部委員会と共催で「アクティブ・ラーニング導入支援」をテーマに「教育業務研修会」を開催した.第1部ではまず,本学教務部長からカリキュラムポリシーについての説明が行われ,そのポリシーを念頭に教育活動を実施することが改めて確認された.次にFD委員長の私からは,今年度より一部の授業に導入しているアクティブ・ラーニング用ライブアクションアプリ:レスポン(朝日ネット)の使用事例報告を行い,その使用法や効果について検証した.まだ,一部の授業でしか使用されていないことから,あらかじめ参加教員全員にスマートフォンなどにアプリをダウンロードしてもらい,研修会当日に参加教員が私の担当学生となってアプリで回答するという体験ワークショップも実施した.具体的には,私が担当している生物学において使用した質問に回答してもらい,リアルタイムに全員の回答を皆で共有できるその授業の雰囲気を教員に実体験していただいた(図4).結果として,おおむね好評であった.

図4

教育業務研修会の案内と参加教員の反応

また,他のFD委員からは,前述の公開授業に関するアンケート資料を用いた実施報告が行われ,参観に行くことができなかった教員も改めてアクティブ・ラーニングの実施事例を知る機会となった.第2部では長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授,西田孝洋先生をお招きし,「ICTとアナログを融合したアクティブ・ラーニング:ポートフォリオとGPAの今後の可能性」と題して教育講演会を行った.国立総合大学レベルの規模とその薬学部単独レベルの規模のそれぞれで行われるアクティブ・ラーニングや今までのアナログ的教育との融合という興味深い教育方法について学ぶことができた.さらに,本学では導入が遅れている,ポートフォリオやGPA制度の実際についても拝聴することができた(図5).

図5

アクティブ・ラーニング講演会の風景と教育研修会参加教員の反応

3.新任(若手)FD事業

新規採用教員の方2名に,それぞれ以下のような外部団体が主催する研修会に参加いただいた.

  • ・  日本私立大学連盟主催 平成23年度FD推進ワークショップ(新任専任教員向け)「大学職員の職能開発とFD」(1泊2日)
  • ・  関西地区FD連絡協議会主催 「授業の基本」 ワークショップ(半日)

前者の方は,1泊2日ということで,新任教員としてはややハードな研修会であったと思われるが,様々な分野の教員と議論でき,いい経験になったとの参加教員からの感想をいただいた.また,後者の研修会では,「基本の基本」としてチョークの持ち方・黒板消しの使い方から発声法,視線の移し方など授業中に使うスキルの指導があり,将来様々な授業を担当される助教クラスの教員には大変有意義な機会だったと思われる.また,グループワークで「教材研究」をするなど,今後の魅力ある授業つくりのために大変参考になったということである.

4.学生FD委員会の立ち上げ

大学で最多数かつ授業の主役である学生の意見を授業改善に反映すべく,1~4年次の20名程度の有志から構成される学生FD委員会を立ち上げた.彼らは,学生FD委員募集の私の呼びかけに集まってくれた「大学教育や教員に物申すことができる,物申したい」学生たちであった.今後教員FD委員会とも連携して,具体的な活動を開始していく予定である.

5.授業評価アンケート

本学では,授業改善に生かすべく,すべての授業,実習に対して毎年学生にアンケート調査を実施してきた.しかし,これまで教員個人データについての結果は一切公開されておらず,教員個人にはその結果が返されるが,当事者ではない教員や学生には一切開示されていなかった.したがって,自分たちの意見が本当に反映されているのかという疑念を抱く学生も少なくなかった.また,個々の教員に対しても,学生のメッセージが強くは響かない可能性が高かった.そこで,今年度から学内専用のWEBページ,あるいは書面ですべてを公開することとし,教員および学生への結果のフィードバックを強化していくことにした.

今後の展望

1.公開授業

本学には新任教員も多数いることから,引き続き公開授業とその検討会を行うことで,お互いに高めあっていくことは必須である.一方で,アクティブ・ラーニングを主体としている授業などは積極的にいつでも参観できるように教員参加をさらに促したいと考えている.

2.教員研修会

今後も,教育,研究に活躍されている様々な学外の先生方をお招きし,本学教員が新しい教育方法やエキサイティングな研究に触れる機会を作っていきたいと思う.その結果,外部からの刺激を大いに受けることで教員個人の総合能力が改善され,大学としての教育力がさらに向上していくことを期待している.

実際,11月には本学助教会セミナーが久しぶりに開催され,助教間の研究紹介による交流会がとり行われた.また,私に招待講演を依頼してくださり,これまでの研究成果の発表の機会を与えていただいた.このように,研究業務研修会開催によって,若い教員の研究遂行へのモチベーションアップに少しは貢献できたのではないかと思う.

また後日談として,「薬学トップランナー研究講演会」でお世話になった森和俊先生は,2017年のノーベル生理学医学賞は逃されたものの,「生命科学ブレイクスルー賞」を受賞された.本学としても心からお祝い申し上げるとともに,またいつかご講演を賜りたい.このようなすごい刺激が本学教員や学生に加わることは,本学の様々なアクティビティ向上につながる可能性があり喜ばしいことと思う.

教育業務研修会の成果としては,来年度以降のアクティブ・ラーニング用ライブアクションアプリ:レスポンの教員利用率が上昇すること,様々な手法のアクティブ・ラーニングを取り入れた授業が増加することを期待したい.

3.新任(若手)FD事業

先述の様に本学助教会に参加する機会を得,助教との交わりが増えたことで,順次若い助教の先生方を外部団体が主催するFD研修会へと派遣していくことができそうである.外部とのつながり,異なる学術分野の先生方との交流も含めて,積極的に参加してもらうことで将来必ず役立つ経験ができるものと信じている.

4.学生FD委員会

学生FD委員会発足後,教員FD委員会との交流会を一度実施した.

今後の授業アンケート改善に向けての学生FD委員との意見交換ができた.また,学生目線での授業改善法,アイデアなども積極的に発表してもらうことができ,非常に参考になった.これからも,交流会を継続していくことで,教員FD委員と学生FD委員の協力体制で授業改善,教育システム整備に努めていく所存である.

5.授業評価アンケート

学生FD委員の意見も参考にしながら,アンケートの質問内容を単純明快なものに修正していく.さらに,将来的には紙ベースのアンケートを廃止し,Web上で行えるように計画している.

授業アンケートは,十数コマの授業の最後に評価して行うような風潮があるが,それでは評価した学生の声がすぐに反映されるかどうかわからない.実際,改善を求めても,その学生が受ける授業には間に合わない.

そこで,例えばアクティブ・ラーニング用ライブアクションアプリ:レスポンを毎回授業で利用して学生の声を聞き,授業の途中からでも教員がその学生の声を授業に反映させて改善していくことが,本当の意味で学生の利益につながるのではないかと考えている.従って,前者のアンケートと後者のレスポンの二本立て授業評価が有効ではないかと目下検討中である.

以上これらの展望とともに,本学のFD活動によるアウトカムが今後どのようにあらわれるのかは少々怖いものの,期待したいところである.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

 
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