薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
原著
薬学英語学習者の到達度テスト後に生じる正感情と影響要因の検討
―動機づけ予測に関連した感情の観点からの考察―
児玉 典子細川 美香藤波 綾小山 淳子竹内 敦子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 2 巻 論文ID: 2018-016

詳細
Abstract

学習者が語学学習の過程で生じる正感情は,学習の動機づけ(学習意欲)にプラス効果を及ぼすことから,正感情とその影響要因は学習意欲の向上に繋げるための教授方略・方策を探る鍵と考える.そこで,薬学英語学習における感情を学習感情(正感情,負感情,重要性の認識)と学習到達度感(テキスト内容の理解,分野横断的内容の関連づけ・統合,専門内容の思考・問題提起,医薬系内容の理解)に分け,学習前後における各感情の変化と正感情に対する影響要因を調べることを研究目的とした.その結果,重要性の認識は学習前後で変わらないが,正感情及び学習到達度感の全項目と,強い負感情の「反抗・腹立たしさ」は高くなり,弱い負感情の「なさけなさ」は低くなることがわかった.また,学習後の正感情に対する影響要因を学習前と比較すると,学習感情では負感情の関与が高まり,学習到達度感では分野横断的内容の関連づけ・統合の関与が明らかとなった.

背景

神戸薬科大学3年生を対象とした薬学英語入門は,英語を学習手段として生命科学の内容を勉強する分野横断型科目である.平成23年から内容(専門教科,時事問題,異文化理解に関する内容)と言語の両方を学ぶ教育方法である内容言語統合型学習1)(CLIL: content and language integrated learning)を一部授業に導入し,CLIL指導のコア(多様な視点・多焦点,安全で豊かな学習環境,本物らしさ,積極的な学習,足場づくり,協力)に基づき授業設計・実施している2).本授業の特徴は,薬学部3年生の知識,技能,経験などを足場とし,批判的思考を重視していることである.しかし,これまでの意識調査結果は,ほとんどの学生が本授業の「重要性・有用性」を感じているにも関わらず,「楽しさ・面白さ」に関連する満足度評価は一般英語の授業と比べて低く,80%の学習者が不安を感じ,一部の学習者は授業の難易度やCLIL型授業に対する「不安・不満・怒り・違和感」などの負感情を示していた.さらに,「楽しい・面白い」の評価がある一方で,「薬学英語の学習を続けたい」と思う学生数が少ない理由として,これらの負感情が学習意欲の維持にマイナスの影響を及ぼしていると考えている.よって,薬学英語入門は学習者の一時的な学習意欲の向上で終わらず,学習の維持が課題となっている.学習者が学業場面において経験する感情は様々であり,学習者の英語力,専門知識量,学習観,自己効力感,自尊感情などの個人的要因,グローバル化社会での英語の必要性や卒業要件の単位取得など社会的要因などによって影響を及ぼされる.そこで,学習者一人一人に対してきめ細やかな指導を行うためには,感情は重要な指標であると考える.

感情の働きには動機づけ機能があり,正感情(喜びなど)は目標達成に報いる行為(接近行動)が動機づけられ,負感情(不安・落胆など)は難しいと思われる挑戦を回避する行為(回避行動)が動機づけられる3).学習意欲研究では,テスト場面で生じる正感情(楽しさ・喜び・希望・誇らしさ・感謝・安らぎ・安堵)や負感情(退屈・不安・恥・怒り・悲しみ・落胆・絶望)を達成関連感情といい,達成関連感情は学習意欲,学習方略,学習の自己調整に影響を及ぼし,その後の学習や達成を規定するというコントロール-価値理論が提唱されている3,4).つまり,達成関連感情を測定することが可能になれば,次のテストへの動機づけを予測することができると考えられている.第二言語習得(SLA: second language acquisition)における学習意欲と感情に関する研究報告では,これまで英語,フランス語,日本語,スペイン語などの外国語不安(第二言語学習の使用や習得に特定的に関わる不安)に関する実証的研究5) が多く報告されてきたが,正感情に関する報告は近年,Maclntyreによってドイツ語学習者の正感情が負感情よりも学習意欲と強い相関性が示された以外はみられない6)

このように学習意欲の分野及びSLAでは感情に対する研究が注目されつつあるが,日本での英語及び薬学英語習得において学習者の感情の種類や正感情に対する影響要因の検討など,感情を主体とした報告はいまだなされていない.そこで,学習意欲の維持や次の課題(テスト)への動機づけの予測につながる重要な知見を得ることを目的に,感情尺度の作成と,課題遂行後の学習者の感情の変化,正感情とその影響要因を調べるとともに,得られた結果を考察する.

方法

1.調査対象・調査時期・手続き

神戸薬科大学において薬学英語入門II(平成28年度後期,12回)を履修した3年生271名に学習感情と学習到達度感の調査を2回(プレ調査:講義1回目,ポスト調査:講義10回目)実施した.プレ調査は講義1回目(9月)のオリエンテーションを利用し,ポスト調査は講義10回目(12月)の講義時間を利用して実施した(回収率99%と94%).1枚の質問用紙に2種類(学習感情と学習到達度感)の調査内容を作成し,対象者の個人が特定されないように学年,出席番号,氏名は無記入とした.また,調査を無記名とすることで「成績評価に影響するかもしれない」といったバイアスが働かないよう配慮した.学習到達度を学生に意識させるために,30分間の到達度テストをプレ及びポスト調査直前に実施した.到達度テストは,授業で学習した内容に関する英文を学術論文から引用して作成した.調査後,欠損値を含んだ学生を除いた255名(プレ調査)と248名(ポスト調査)を分析対象とした.また,①参加拒否によるいかなる不利益も生じないこと,②研究への参加は自由であること,③個人のプライバシーは保護されること,④調査は定期試験や再試験結果と関係がないこと,の4点について口頭で説明するとともに,質問用紙に「教育に関する研究データとしてのみ使用し,それ以外には使用しない」ことを明記した.プレ及びポスト調査結果から得られたデータはすべてIBM SPSS Statistics 25を用いて平均値と標準偏差を算出するとともに,t検定,因子分析,重回帰分析を行い,有意水準は0.1%,1%,5%と設定した.

2.学習感情尺度

学習感情尺度の質問項目は,予備調査で記述された感情表現や日常において頻度の高いものを49感情選定し,学習感情として文型を変化させることなくそのまま用いた.質問用紙に50項目(Q26とQ36は重複項目)の学習感情と「あなたが到達度テストに取り組んで感じた感情はどれにあてはまりますか」を明記し,回答は「あてはまらない~非常にあてはまる」までの5件法によって評定させた.なお,「非常にあてはまる」を5,「どちらかといえばあてはまる」を4,「どちらともいえない」を3,「どちらかというとあてはまらない」を2,「あてはまらない」を1として得点化した.

3.学習到達度感尺度

学習到達度感尺度の質問項目は,本授業で設定した4つの到達目標に基づいて,①英語で書かれた糖尿病や薬の体内動態に関連する文章を読んで,その大意や内容を説明できる(テキスト内容の理解),②英語で書かれた分野横断的な内容の文章を読んで,各分野を関連づけ・統合することができる(分野横断的内容の関連づけ・統合),③英語で書かれた専門的な内容から命題を引き出し,その思考過程を説明したり,問題点を提起できる(専門内容の思考・問題提起),④英語で書かれた医療や薬学に関する内容の文章を読んで,その大意や内容を説明できる(医薬系内容の理解),という「自分は~できる」感情を用いた.質問用紙に4項目の学習到達度感と「あなたの学習到達度はどれにあてはまりますか」を明記し,回答方法は学習感情と同様に5件法によって評定させた.

結果

1.学習感情の因子分析

学習感情(50項目)のプレ調査結果に対して,主因子法を用いて因子の抽出を行った.十分な因子負荷量(.40)を示さなかった8項目を削除して再度因子分析(主因子法,Promax回転)を行った結果,項目数は42となった.Promax回転後における各質問項目の因子負荷量及び因子間相関を表1に示す.下位尺度間の相関係数は,第1因子と第2因子との間では.145,第1因子と第3因子との間では.185,第2因子と第3因子との間では.034であった.第1因子は「怖い・切ない」が高い因子負荷量を示しており,「自信喪失・不満・腹立たしさ」などの負の感情に関連した項目を含むことから,この因子を「負感情」とした.第2因子は「幸福感・高揚感」が高い因子負荷量を示しており,「自慢・自信・充実感」などの正の感情に関連した項目を含むことから,この因子を正感情とした.第3因子は,「大事である・大切」を含むことから「重要性の認識」とした.これらの結果から,「負感情」の下位尺度は22項目,「正感情」の下位尺度は18項目,「重要性の認識」の下位尺度は2項目で構成される.さらに,Cronbackのα係数を用いて下位尺度の内部整合性を調べた結果,「負感情」は.961,「正感情」は.957,「重要性の認識」は.809であり,これら下位尺度の内的整合性が確認された.そこで,学習感情尺度の各下位尺度については,項目平均点を各尺度得点とした.

表1 学習感情尺度の因子分析結果(主因子法・Promax回転)

削除された項目(Q3しんどい;Q18困難;Q19冒険;Q26疲労感;Q30わずらわしさ;Q36疲労感;Q40緊張感;Q49疑問)

2.学習感情の変化

学習経験の有無による学習感情の変化について調べるために,プレ及びポスト調査結果を用いて学習感情の各下位尺度得点の平均値及び標準偏差を比較するとともに,対応のないt検定を行った(表2).t検定の結果,正感情においてプレ・ポスト間の平均値に有意な増加がみられたが,負感情と重要性の認識では平均値の差はみられなかった.次に,正感情と負感情において,プレ・ポスト間の各質問項目の平均値の差についてt検定を用いて検討した(表3).正感情では,すべての項目においてプレ・ポスト間の平均値に有意な増加がみられた.負感情では,3項目(Q11違和感,Q41反抗,Q44腹立たしさ)において有意な増加がみられ,1項目(Q45なさけなさ)において減少がみられた.これらの結果に対して重要性の認識では,2項目においてプレ・ポスト間の平均値に有意な差はみられなかった.

表2 学習感情下位尺度・学習到達度感尺度の平均値・標準偏差・t
プレ調査 ポスト調査 t
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
学習感情下位尺度
  正感情 1.88 0.73 2.18 0.78 –4.428***
  負感情 2.71 0.93 2.69 0.85 0.289
  重要性認識 3.20 1.10 3.17 1.05 0.300
学習到達度感尺度
  テキスト内容の理解(T1) 2.44 0.96 3.13 0.87 –8.543***
  分野横断的内容の関連づけ・統合(T2) 2.42 0.94 2.96 0.86 –6.647***
  専門内容の思考・問題提起(T3) 2.19 0.86 2.85 0.87 –8.571***
  医薬系内容の理解(T4) 2.40 0.96 2.97 0.89 –6.927***

*** p < .001

表3 学習感情項目の平均値・標準偏差・t
質問項目 プレ調査 ポスト調査 t 質問項目 プレ調査 ポスト調査 t
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
正感情 負感情
Q1 楽しい 1.93 0.98 2.28 1.00 –3.945*** Q4 恐ろしい 2.82 1.33 2.85 1.18 –0.208
Q2 うきうき 1.80 0.95 2.20 0.99 –4.688*** Q9 はずかしい 2.90 1.31 2.83 1.14 0.617
Q5 優越感 1.68 0.88 2.01 0.93 –4.123*** Q10 切ない 2.77 1.32 2.71 1.17 0.530
Q6 自信 1.78 0.90 2.09 0.98 –3.771*** Q11 違和感 2.34 1.06 2.54 1.08 –2.169*
Q7 安心感 1.83 0.89 2.10 0.92 –3.385** Q12 不満 2.62 1.22 2.71 1.08 –0.878
Q8 自慢 1.58 0.79 1.98 0.95 –5.132*** Q13 怖い 2.60 1.32 2.55 1.15 0.467
Q15 満足感 1.90 0.94 2.20 1.00 –3.473** Q14 劣等感 2.98 1.32 2.85 1.18 1.160
Q16 高揚感 1.75 0.91 2.09 0.95 –4.092*** Q21 いじわる 2.49 1.20 2.46 1.12 0.335
Q17 やわらかい 1.82 0.96 2.07 0.97 –2.946** Q23 後悔 2.73 1.24 2.74 1.17 –0.079
Q20 やさしい 1.85 0.92 2.17 0.96 –3.858*** Q24 反省 3.09 1.29 3.01 1.17 0.748
Q22 わくわく 1.91 0.97 2.11 0.97 –2.313* Q25 自信喪失 3.09 1.28 3.02 1.13 0.615
Q27 充実感 2.11 0.95 2.44 1.08 –3.681*** Q31 罪悪感 2.29 1.18 2.40 1.09 –1.035
Q28 達成感 2.18 1.03 2.46 1.10 –2.896** Q32 悪い 2.90 1.30 2.69 1.16 1.935
Q29 幸福感 1.87 0.96 2.09 0.99 –2.562* Q34 もどかしい 2.73 1.25 2.61 1.08 1.118
Q33 よい 2.07 0.96 2.33 0.97 –3.018** Q35 焦燥感 2.90 1.27 2.85 1.16 0.473
Q39 喜び 1.82 0.92 2.17 0.96 –4.237*** Q37 あわれむ 2.41 1.21 2.42 1.14 –0.034
Q42 面白い 2.06 1.03 2.27 1.03 –2.313* Q38 不安 3.14 1.35 2.93 1.16 1.869
Q46 うれしい 1.89 0.98 2.13 0.98 –2.690** Q41 反抗 2.07 1.01 2.29 1.06 –2.425*
Q43 悲しい 2.51 1.31 2.51 1.13 0.052
重要性の認識 Q44 腹立たしさ 2.25 1.22 2.47 1.10 –2.134*
Q48 大事である 3.00 1.25 2.96 1.19 0.333 Q45 なさけなさ 3.04 1.32 2.76 1.25 2.419*
Q50 大切 3.39 1.15 3.37 1.14 0.208 Q47 心配 3.06 1.32 3.05 1.20 0.128

* p < .05,** p < .01,*** p < .001

3.学習到達度感の変化

学習経験の有無による学習到達度感の変化について調べるために,プレ及びポスト調査結果を用いてテキスト内容の理解(T1),分野横断的内容の関連づけ・統合(T2),専門内容の思考・問題提起(T3),医薬系内容の理解(T4)の平均値及び標準偏差を比較するとともに,対応のないt検定を行った(表2).t検定の結果,すべての項目においてプレ・ポスト間の平均値に有意な増加がみられた.また,4項目の中で最も高い変化率を示した項目は,T3であった.

4.正感情に対する影響要因

1)相関係数,偏相関係数

正感情に対する影響要因を調べるため,学習感情下位尺度の正感情,負感情,重要性の認識と,T1からT4の各変数間の相関係数と偏相関係数を算出した.表4(右上)に示したように相関係数では,プレ・ポスト調査結果ともに正感情と他の変数間において有意な正の相関がみられた.また,プレ・ポスト調査結果を比較すると,正感情と負感情,正感情と重要性の認識間の相関係数は,それぞれr = .142(**p < .01)からr = .300(*p < .05),r = .311(**p < .01)からr = .398(**p < .01)になった.一方,正感情と学習到達度感尺度の各変数(T1~T4)間の相関をプレ及びポスト調査結果で比較すると,すべての変数間において弱い相関がポスト調査結果で示された.さらに,正感情と相関が最も高い学習到達度感尺度の変数は,T1及びT3(r = .419, **p < .01)からT2(r = .344, **p < .01)に変化した.

表4 プレ調査及びポスト調査の学習感情下位尺度と学習到達度感尺度の相関,偏相関
プレ調査 ポスト調査
正感情 負感情 重要性の
認識
T1 T2 T3 T4 正感情 負感情 重要性の
認識
T1 T2 T3 T4
正感情 .142** .311** .419** .391** .419** .376** .300* .398** .321** .344** .283** .292**
負感情 .170** .270** –.180** –.130* –.117 –.161** .268*** .334** –.071 –.120 –.071 –.081
重要性の認識 .235*** .260*** .121 .122 .102 .198** .271*** .262*** .162* .174** .174** .105
テキスト内容の理解(T1) .181** –.112 –.049 .747** .692** .758** .061 –.008 .030 .780** .718** .752**
分野横断的内容の関連づけ・統合(T2) .022 –.007 .021 .375*** .773** .706** .157* –.164* .051 .369*** .798** .765**
専門内容の思考・問題提起(T3) .160* .025 –.119 .019 .445*** .761** –.049 .018 .084 .103 .412*** .775**
医薬系内容の理解(T4) –.036 –.102 .201** .411*** .068 .421*** .050 .010 –.104 .318*** .204** .374***

表中の右上が相関係数,左下が偏相関係数

*p < .05,**p < .01,***p < .001

次に,正感情と求められる2変数以外の変数を統制した偏相関係数を算出した.表4(左下)に示したように正感情と他の変数間の偏相関係数を調べた結果,正感情と負感情間の偏相関係数(r = .17, **p < .01)は,プレ調査結果では正感情と重要性の認識の偏相関係数(r = .235, **p < .01)よりも小さかったが,ポスト調査結果ではほぼ同程度の値であった.また,プレ調査及びポスト調査結果において最も大きい偏相関係数がみられる変数は,学習感情尺度においては両調査とも重要性の認識であり,学習到達度感尺度ではそれぞれT1(プレ調査)及びT2(ポスト調査)であった.

2)重回帰分析

相関係数及び偏相関係数の結果から,正感情と5変数(負感情,重要性の認識,T1,T2,T3)の間に関連性があることがわかった.そこで次に,正感情に対する影響要因を調べるために正感情を従属変数,負感情,重要性の認識,学習到達度感尺度の4項目(T1~T4)を独立変数とする重回帰分析を行った(表5).なお,多重共線性の発生を考慮するとともに,変数はステップワイズ法を用いて投入した.重決定係数(R2)は,プレ及びポスト調査においてR2 = .296及びR2 = .291であった.表5に示されるように,プレ調査結果において,正感情から負感情,T1,T3への標準偏回帰係数(β)は有意であり,重要性の認識では有意な係数が得られた.よって正感情に与える影響力の強さは,標準偏回帰係数の大きい順に,T1,T3,重要性の認識,負感情であった.一方,ポスト調査結果では,正感情から負感情,重要性の認識,T2への標準偏回帰係数(β)は有意であり,標準偏回帰係数の最も大きい変数はT2に対してみられ,負感情と重要性の認識への係数は同程度であった.さらに,プレ・ポスト調査結果を比較すると,正感情から負感情への標準回帰係数が.159(**p < .01)から.254(***p < .001)に変化した.そこで,負感情の各項目の影響因子を調べるため重回帰分析を行った結果を表5に示す.プレ調査結果からは,負感情の4項目(Q11違和感,Q31罪悪感,Q41反抗,Q44腹立たしい)の標準偏回帰係数において正の値が得られ,3項目(Q14劣等感,Q25自信喪失,Q32悪い)の係数において負の値が得られた.ポスト調査結果からは,負感情の6項目(Q11違和感,Q21いじわる,Q24反省,Q34もどかしい,Q41反抗,Q44腹立たしい)では正の値が得られ,5項目(Q12不満,Q14劣等感,Q25自信喪失,Q32悪い,Q45なさけなさ)では負の値が得られた.

表5 プレ調査及びポスト調査の正感情に対する諸要因の効果
学習感情及び学習到達度感 プレ調査 ポスト調査
β β
負感情 .159** .254***
 Q11 違和感 .173* .270***
 Q12 不満 –.196**
 Q14 劣等感 –.192* –.172*
 Q21 いじわる .255***
 Q24 反省 .320***
 Q25 自信喪失 –.182* –.215**
 Q31 罪悪感 .215**
 Q32 悪い –.270*** –.390***
 Q34 もどかしい .278***
 Q41 反抗 .274** .241***
 Q44 腹立たしい .236** .257***
 Q45 なさけなさ –.194*
重要性の認識 .213*** .255***
テキスト内容の理解(T1) .257**
分野横断的内容の関連づけ・統合(T2) .330***
専門内容の思考・問題提起(T3) .237**
医薬系内容の理解(T4)

*p < .05,**p < .01,***p < .001

考察

動機づけ研究において近年,速水はCarverの仮説7) を引用し,負感情の中でも「不満・怒り」という強い負感情は自律的な「楽しい・面白い・誇り」という正感情よりも予想される努力量(動機づけ)が高く,中間の負感情(不安・恥),弱い負感情(退屈・悲しみ・落胆・無力)の順に低くなるという感情の強さについて言及している8)表3の結果から,学習後は高い動機づけに繋がる正感情と,強い負感情と考えられる「反抗・腹立たしさ」が高まり,弱い負感情と考えられる「なさけなさ」が低くなったが,中間の負感情と考えられる「不安・恥ずかしい」は変化がないことが明らかとなった.さらに,正感情の中でも「自慢・うきうき・喜び」などの強い感情は大きく変化するが「安心感・リラックス」などの弱い感情は変化しないことがわかった.また,テスト場面で生じる達成関連感情では,「喜び・希望・誇らしさ・感謝」と「不安・恥・怒り」が活性化感情,「安らぎ・安堵」と「悲しみ・落胆・絶望」が不活性化感情に分類されている3,4).例えば,テストの結果が自分自身の努力や能力によるとして学習者が「喜び」(活性化)を感じるならば次のテストへ向けて学習する行為が動機づけられるが,「不安・怒り(活性化)」を感じるなら学習を回避したり,障害を取り除く行為が動機づけられる.本研究において,学習後の「自慢・うきうき・喜び」が高くなり,「なさけなさ」が低くなった結果から,学習前よりも学習者の学習意欲の維持や次の課題(テスト)への動機づけが高まっていると考えられる.「腹立たしさ」は表5の結果から正の影響要因と考えると,テストという障害を克服しようとする行為へ動機づけられたと考えられる.

表2の結果から,正感情と同様に学習前後で学習到達度感が増加することが明らかとなった.そこで,学習感情の下位尺度と学習到達度感尺度の各変数間の相関係数を算出して正感情を中心に考察すると(表4右上),学習前後で正感情と他の学習感情の各変数間(負感情・重要性の認識)での相関係数は増加したが,正感情と学習到達度感の各変数間(T1・T2・T3・T4)での相関係数は減少した.この結果から,学習前よりも学習後は正感情と他の学習感情の関連が強くなり,正感情と学習到達度感の関連が弱くなることが明らかとなった.さらに,正感情と求められる2変数以外の変数を統制した偏相関係数を算出したところ,正感情と正の偏相関が強い変数は,学習感情ではプレ調査では重要性の認識においてみられたが,ポスト調査の負感情と重要性の認識の偏相関は同程度であった(表4左下).また,学習到達度感ではT1とT3(プレ調査),T2(ポスト調査)と異なる結果が得られた.これらの結果から,薬学英語学習の負感情は,学習後は正感情に対して重要性の認識と同程度の影響を及ぼし,また,T1やT3よりもT2がより正感情に影響を及ぼす可能性が考えられた.そこで,正感情に対する影響要因をステップワイズ法による重回帰分析を用いて調べたところ,上述の可能性を支持する偏相関と同様の結果が得られた(表5).

動機づけ研究において「反抗」という負感情は,学習の動機づけを高めることが言及されている8)表5の結果から,負感情が正感情に対する影響要因であることが明らかとなったため,次に,正感情に対する負感情の影響要因が22項目のうちどの感情であるかを重回帰分析によって調べた(表5).プレ・ポスト調査ともに,「反抗・腹立たしい」といった負感情は正の影響因子であり,「自信喪失・劣等感・なさけなさ」という負感情は負の影響因子であることが明らかとなった.また,ポスト調査結果の「不満」は正感情に対する負の影響要因となり,最も強い正の影響因子は「反省」であった.豊田9) は努力と結果(成功・失敗)の随伴性の有無による感情の変化を報告している.よって,「反省」は努力不足が原因であるという認識が生じ,努力すれば目標達成できるという期待感が生じて正感情に正の影響を及したと考えられる.一方,「不満」が正感情に負の影響を及ぼす理由は,努力したけれど良い結果が得られないという意欲衰退に起因するかもしれない.これまでのSLAでは,「不安・焦り」などの負感情を積み重ねることで,学習性無力感が生まれて学習者にマイナス効果を与えるため,負感情に対応するための具体的な方策が示されている10).しかし,本研究結果から「不安・焦り」は正感情の影響要因ではないことがわかった.また,正感情の強い感情(うきうき・喜び・自慢・楽しい・面白い)と弱い感情(安心感)について重回帰分析を行った結果,両者に共通して,「腹立たしさ」が正の影響要因となり,一方,「楽しい」を除いて「自信喪失」が負の影響要因であることがわかった(data not shown).

外国語の研究分野では,負感情は学習者の学習を妨げ,学習意欲の低下に繫がることから,負感情を軽減させ,正感情(楽しい・面白い)を引き出す授業方略・方策が重要視されている.これまで我々は,薬学英語学習において,負感情は学習者にマイナス効果を与える要因と考えていたが,本研究結果から学習後では正感情や学習到達度感とともに強い負感情もまた増加するという新しい知見が得られた.近年,学習意欲研究では,負感情の強さと学習動機づけに焦点を当て,強い負感情は高い学習意欲に繋がる可能性を言及している8).また,上淵は分析的,批判的思考を要する課題では,負感情の方が適した情報処理を促す可能性を指摘している11).よって,正感情及び負感情をモニタリングしながら授業レベルを段階的に上げるなど,感情を指標とした教授方略・方策が必要と考えられる.

最後に本研究の限界点を挙げると,本研究で作成した感情尺度は学習者の使用頻度の高い感情表現(単語)で構成されている.よって,学習者の動機づけの予測の指標となるが,動機づけの低い学習者へ対策を検討するためには,記述式やインタビューなどの質的分析を行い,感情が生じる原因が反映される尺度を作成することが望ましいと考える.

謝辞

本研究は,神戸薬科大学 平成28年度学長裁量経費による教育改革プログラムの助成を受けて実施されたものであり,北河学長をはじめ本研究にご協力頂きました学生の皆様に深く感謝申し上げます.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2018 日本薬学教育学会
feedback
Top