薬学教育
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誌上シンポジウム:6年制薬学教育のアウトカムと質保証
第2サイクル評価基準案―アウトカムと質保証―
長谷川 洋一小澤 光一郎中村 明弘
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2018 年 2 巻 論文ID: 2018-017

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Abstract

2013年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムは,学習成果(アウトカム)を重視する「学習成果基盤型教育」の考え方が取り入れられた.また,2013年からスタートした薬学教育第三者評価は,2020年度から第2サイクルが始まる.そこで,高大接続システム改革会議「最終報告」並びに「卒業認定・学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針及び入学者受入れの方針の策定及び運用に関するガイドライン」など高等教育の質保証に関する議論を踏まえ,第2サイクルに向けた評価基準の改定作業を行った.改定では,三つの方針の策定・運用,教育課程と学修成果,PDCAサイクル等による内部質保証を重視した.また,第1サイクルの評価結果に基づいて基準のスリム化と明確化を図り,8項目,19基準,53観点に整理したので,その概要について解説する.

改定までの経緯

2013年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラム(以下,「改訂モデルコア」)では,「学習成果基盤型教育」の考え方に基づいて,卒業時までに修得されるべき「薬剤師として求められる基本的な資質」が設定され,“何が出来るようになったのか”,“何が身についたのか”など,学習成果(アウトカム)が重視されるようになった.また,2017年4月からは,学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第165条の2(以下,「省令第165条の2」)に基づき,各大学はいわゆる三つの方針(ディプロマ・ポリシー(DP),カリキュラム・ポリシー(CP),アドミッション・ポリシー(AP))について,一貫性をもって一体的に策定し公表することとなった.

一方,大学機関別認証評価においては,主に大学基準協会,大学改革支援・学位授与機構,日本高等教育評価機構が受審評価を行っており,2018年度から第3サイクルが開始となるため評価基準の改定13) がなされている.内部質保証を重視した評価制度への転換と,高大接続システム改革会議等で指摘されている学修成果にかかる評価の充実や三つの方針に基づく大学教育の質の転換など,各大学の取組みを促進するような評価制度へと改善・発展させていくことが必要とされている.

そのような中,現在実施されている薬学教育第三者評価(以下,「第1サイクル」)は,分野別評価として2013年度にスタートし,2019年度で全大学が受審を終えることになる.2020年度からは第2サイクルの薬学教育第三者評価(以下,「第2サイクル」)がスタートする予定である.

薬学教育第三者評価では,薬剤師養成教育プログラムの質保証として,大学自ら薬学教育プログラムを自己点検・評価し,その結果に基づき改善を図るPDCAサイクルの実効性の確保に重点をおいていることはいうまでもない.そこで,2015年11月に第2サイクルに向けた基準改定ワーキンググループ(表1)を設置し,今後10年間の大学教育及び薬剤師養成に関するビジョン,大学機関別認証評価における内部質保証の評価を視野に入れて改定作業を行い,別添のとおり改定基準を策定した.各大学での「三つの方針に基づく薬学教育のPDCAサイクル」が教育の質保証として機能し,第2サイクルの評価が教育の質向上につながることを目指して改定を行ったので,以下にその概要を紹介する.なお,2017年6月23日~7月31日に実施した全大学・関係団体・一般からの意見聴取に寄せられた意見を踏まえ,新たに修正した箇所も本稿に含めた.

表1 評価基準改定ワーキンググループ
荒田洋一郎(帝京大学) 中村 明弘(昭和大学)
石井伊都子(日本病院薬剤師会) 長谷川洋一(名城大学)
入江 徹美(熊本大学) 安原 智久(摂南大学)
大橋 綾子(岩手医科大学) 吉川 貴士(同志社大学)
大河原 晋(横浜薬科大学) 渡邊 大記(日本薬剤師会)
小澤光一郎(広島大学) 渡邊真知子(帝京大学)
黒澤菜穂子(北海道薬科大学) 計 13名

基準改定の考え方

前述した背景のもと,基準改定にあたっては,以下の点を基本方針に,改定作業を開始した.

  • ①  6年制薬学教育課程の整備と実施からより内容重視へ
  • ②  三つの方針の策定・運用と学修成果(アウトカム)の評価
  • ③  三つの方針に基づいた自己点検・評価の実行
  • ④  第1サイクルの評価結果に基づく基準のスリム化と明確化

なかでも,三つの方針については,2016年3月31日に中央教育審議会大学分科会大学教育部会がまとめた「三つのポリシーの策定及び運用に関するガイドライン」 4) に示された各ポリシーの基本的な考え方(表2)に基づき,評価基準の基本的な考え方の整合を図った.

また,第1サイクルの評価において各大学で所定の水準に達していることが確認された基準については,包括的にまとめたり観点に移行したりして整理・統合を行った.一方,第1サイクルの評価で所定の水準への到達が不十分な基準は,第2サイクルで重点化した.併せて基準・観点の記載内容を明確にし,「注釈」で例示を示すこととした.

表2 各ポリシーの基本的な考え方
ディプロマ・ポリシー 各大学,学部・学科等の教育理念に基づき,どのような力を身につけたものに卒業を認定し,学位を授与するのかを定める基本的な方針であり,学生の学修成果の目標ともなるもの.
カリキュラム・ポリシー ディプロマ・ポリシーの達成のために,どのような教育課程を編成し,どのような教育内容・方法を実施し,学修成果をどのように評価するのかを定める基本的な方針.
アドミッション・ポリシー 各大学,学部・学科等の教育理念,ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ,どのように入学者を受け入れるかを定める基本的な方針であり,受け入れる学生に求める学習成果(「学力の3要素」についてどのような成果を求めるか)を示すもの.
※(1) 知識・技能, (2) 思考力・判断力・表現力等の能力, (3) 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度

「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン(2016年3月31日)

第2サイクルでは,第1サイクルのように「観点をすべて満たせば基準を満たす」という構成ではなく,あくまで基準の記載内容に基づいて点検・評価することとした.観点は,基準への適合又は卓越性を判断するときに重点的に求められる内容と位置づけた.その理由としては,第1サイクルを通して評価基準に対する理解が高まっていることが挙げられる.各大学で実施できている(基準を満たしている)内容については,前述のとおり観点から注釈へ,あるいは基準に包括することで,基準中心の考え方に移行した.項目の整理も行った結果,第2サイクルの基準では大項目・中項目の区別を外した.さらに,学生の支援に関する基準については,第1サイクルで各大学が基準を満たしていることを踏まえ,機関別認証評価と重複している内容については削除した.

基準構成

現行基準と改定基準の項目構成比較を表3に示す.

表3 評価基準の構成比較
改定案
項 目
1 教育研究上の目的と三つの方針
2 内部質保証
3 薬学教育カリキュラム 3-1 教育課程の編成
3-2 教育課程の実施
3-3 学修成果の評価
4 学生の受入れ
5 教員組織・職員組織
6 学生の支援
7 施設・設備
8 社会連携・社会貢献
現 行
大項目 中項目
教育研究上の目的 1 教育研究上の目的
薬学教育カリキュラム 2 カリキュラム編成
3 医療人教員の基本的内容
4 薬学専門教育の内容
5 実務実習
6 問題解決能力の醸成のための教育
学生 7 学生の受入
8 成績評価・進級・学士課程修了認定
9 学生の支援
教員組織・職員組織 10 教員組織・職員組織
学習環境 11 学習環境
外部対応 12 社会との連携
点検 13 自己点検・評価

まず,薬学教育の根幹ともいうべき「1. 教育研究上の目的と三つの方針」に基づいて行われている薬学教育プログラムの質の保証を自己点検・評価によってマネージメントできていることを確認するため「2. 内部質保証」を設定した.これによって,各大学が組織的に,計画的に改善に繋げる仕組みを機能させているかが見えてくる.これらに続いて「3. 薬学教育カリキュラム」では,「3-1. 教育課程の編成」,「3-2. 教育課程の実施」,「3-3. 学修成果の評価」の3部でまとめ,教育プログラムを具体的にどのように編成し,実施したら,どのような成果(資質・能力の向上又は修得)が得られたのかを観ることした.これまで複数の中項目に分かれていた項目を整理し,特に省令第165条の2に規定されている卒業の認定に関する方針(ディプロマ・ポリシー)と教育課程の編成及び実施に関する方針(カリキュラム・ポリシー)の一貫性を意識した構成とした.薬学を学ぶために必要な資質・能力の評価については,「4. 学生の受入れ」で確認する.そして,「5. 教員組織・職員組織」,「6. 学生の支援」,「7. 施設・設備」によって学生に対する学修支援体制を確認することとした.最後に「8. 社会連携・社会貢献」で大学と社会の連携,大学が社会にどのような貢献を行っているか実際の取組みを確認することとした.各項目について,以下に概説する.

1.教育研究上の目的と三つの方針

2017年4月より新たに三つの方針の策定と公表が義務付けられたことから,現行基準中項目「教育研究上の目的」を「1. 教育研究上の目的と三つの方針」とし,再編成を行った.

中でも,現行基準において,複数の中項目に記載されていた三つの方針に関する観点を集約するとともに,三つの方針の義務化に伴い,現行基準の観点(1-1-5)を基準として位置づけることとした.また,「三つの方針」の定義と,教育研究上の目的の策定単位について注釈に明示した.

2.内部質保証

本項は,現行基準の中項目13を再編成した.機関別認証評価における基準との整合を図るため,項目も「自己点検・評価」から「内部質保証」に変更した.内部質保証とは,PDCA サイクル等の方法を適切に機能させることによって,質の向上を図り,教育・学習その他サービスが一定水準にあることを大学自らの責任で説明・証明していく学内の恒常的・継続的プロセス5) のことをいう.本項は,第1サイクルでの達成度が低いため,第2サイクルにおいてより各大学・学部の自己点検・評価を重視し,実効性に焦点を当てることとした.特に,大学が目指している教育研究の方向を積極的にアピールすることも可能であり,7年に一度の受審時だけでなく,組織的・計画的に自己点検・評価が実施されていることを求めるものである.

また,自己点検・評価は,質的・量的な解析に基づいて実施されることを求めることとし,例えば次のような例示を挙げたので参考にしていただきたい.

  • ・  学習ポートフォリオ等を活用した学習達成度
  • ・  卒業の認定に関する方針に掲げた学修成果の達成度
  • ・  在籍(留年・休学・退学等)及び卒業状況(入学者に対する標準修業年限内の卒業者の割合等)の入学年次別分析 等

3.薬学教育カリキュラム

本項は,今回の改定で最も大きく再編成された項目である.現行基準の「2. カリキュラム編成」,「3. 医療人教育の基本的内容」,「4. 薬学専門教育の内容」,「5. 実務実習」,「6. 問題解決能力の醸成のための教育」及び「8. 成績評価・進級・学士課程修了認定」を再編成し,「3. 薬学教育カリキュラム」とした.ただし,その内容は大きく3つに区分し,「3-1. 教育課程の編成」,「3-2. 教育課程の実施」及び「3-3. 学修成果の評価」とした.

3-1.教育課程の編成

カリキュラムが,カリキュラム・ポリシーに基づいて編成されているかを見る.体系的に構築され,効果的に編成されていることをカリキュラムマップやカリキュラムツリー等を用いて示す必要がある.カリキュラムが薬学共用試験や薬剤師国家試験の合格率の向上のみを目指したものでないことは第2サイクルでも引き続き求められる.

3-2.教育課程の実施

カリキュラム・ポリシーに基づいて編成された教育課程が実施され,評価されているかを見る.カリキュラム・ポリシーは,ディプロマ・ポリシーの達成のためにどのような教育課程を編成し,どのような教育内容・方法を実施し,学修成果をどのように評価するのかを定める基本的な方針である.特に学習目標の達成に適した学習方略を用いてカリキュラムが実施され,各科目の成績,進級,卒業認定といったコースレベルの学習成果の評価が公正かつ厳格に行われているかどうかを見ることになる.

また,現行基準の中項目であった「実務実習」については,新たに「薬学実務実習に関するガイドライン」 6) が策定されたことから,ガイドラインに準拠した実習を基準として配置した.

一方,薬学研究については,あくまで研究活動を通じた研究能力の醸成という教育上の位置づけで,教員の研究活動(5教員組織・職員組織)とは区別される.

なお,現行基準で「学生の支援」として位置づけていた履修指導は,カリキュラムの実施の一部であることから,改定基準では教育課程の実施に配置した.

3-3.学修成果の評価

教育課程修了時(プログラムレベル)に学生が身につけた資質・能力(学修成果)の評価の実施について見る.本項は,機関別認証評価でも重点化されており,第1サイクルにおいて達成度が低いところでもあったことから,第2サイクルで重視する項目である.前述の卒業認定については,卒業に必要な単位数が修得できているかどうかが中心となるが,本項では学修成果に焦点を当て,学修成果の評価が教育課程の進行に対応して実施されているかどうかを見ることになる.そのためには,評価計画も含めたカリキュラム・ポリシーの策定が前提となり,理想でもある.

4.学生の受入れ

薬学部においても今後改革が求められる入学者選抜の在り方について,各大学が取り組むべき方向性を基準に盛り込むこととした.そこで,高大接続システム改革会議「最終報告」7) 及び高大接続改革答申8) に共通した定義として用いられている「学力の3要素」を引用した.すなわち,「学力の3要素」とは,(1)知識・技能,(2)思考力・判断力・表現力等の能力,(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度を指す.高大接続システム改革会議では,この「学力の3要素」を踏まえた指導が十分浸透していないことが課題として指摘されている.そこで,本項では特に,学力の3要素が多面的・総合的に評価されていること(観点4-1-2),医療人を目指す者としての資質・能力を評価するための工夫(観点4-1-3),評価結果の検証と試験方式の見直し等の改善・向上に繋げているか(観点4-1-5)の実効性が問われる.

なお,入学を希望する者への合理的配慮については,現行基準項目「6学生の支援」観点6-5から移行した.

5.教育組織・職員組織

本項は,第1サイクルにおいて達成度が高いことから,現行基準をできるだけ観点に移行し,再編成した.

特に,今後の薬学教育を担っていく若手教員の養成が課題であることを踏まえ,新たに観点として設定した.

6.学生の支援

本項も,第1サイクルにおいて達成度が高いことから,現行基準をできるだけ観点に,観点を注釈に移行し,再編成した.

なお,機関別認証評価における大学基準13) と重複する内容(経済的支援,健康維持,ハラスメント防止,障がいのある学生に対する施設・設備及び学修・生活上の支援等)については,薬学に特化した項目ではなく,大学全体の取り組みや支援体制が構築され評価されるものであることに鑑みて,第2サイクルの分野別評価では基準・観点から外すこととした.しかし,学部での活動(運用)は社会から求められる当然のこととして自己点検・評価していくものであることを念頭に置いておかねばならない.

7.施設・設備

本項も,第1サイクルにおいて達成度が高いことから,現行基準をできるだけ観点に,観点を注釈に移行し,再編成した.ただし,現行の基準において設定されていた施設・設備(教室,実験実習室,動物実験施設,薬用植物園,図書室,模擬薬局等)については,教育を実施するための構造上の環境であることから,ひとまとめにした.

8.社会連携・社会貢献

本項も,第1サイクルにおいて達成度が高いことから,現行基準をできるだけ観点に,観点を注釈に移行し,再編成した.

最後に

第2サイクルにおける評価基準は,上述したとおり,教育の質保証と教育の質向上をより目指すものである.2015年10月より開始した基準改定作業は2年以上続き,2017年6月22日からの全大学・関係団体・一般からの意見聴取と再検討を経て,2018年1月に最終案をまとめることができた.第2サイクルの基準数は19,観点数は53となり,現行基準(基準数が57,観点数が176)と比較して約3分の1にスリム化することができた.注釈に掲げた例示のみに囚われず,各大学の特色を存分に活かした取組みを期待するものである.

第1サイクルでは,薬学教育6年制プログラムのスタートにあたり,主に教育課程の構築・整備と実施を対象とした評価が行われてきた.第2サイクルでは図1に示すように,各大学の教育研究活動全てが,教育の質保証を行っていく中で,7年に一度の受審評価のみならず,恒常的・継続的に自己点検・評価し,薬学教育プログラムの検証に付されることが求められる.そして,その結果を改善・改革につなげ,教育の質の向上を目指すことが重要である.

図1

学修成果に基づくカリキュラムと質保証の枠組み

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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