薬学教育
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総説
医療人教育の現状と課題―医学教育の立場から
伴 信太郎
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2018 年 2 巻 論文ID: 2018-022

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Abstract

医学教育の基本的構造―必要性と要求からニーズを同定し,さらに現実的制約を勘案してニーズを目標に落とし込み,その目標達成の為の方略・評価を立案するということ―は変わらないが,周囲の社会的環境は大きく変化している.生涯を通じて自己研鑽を求められる医療専門職は,高齢化や医療の専門細分化に直面して医療の社会的側面や社会的責任をより重視した教育を行うことを求められている.その教育を一言で表現すると ‘transprofessional medical education’ と表現できる.これは地域の住民も参加した多職種連携教育である.今日の日本の医学教育は全教育時間の3分の2をモデル・コア・カリキュラムの内容,残りの3分の1を各大学独自のカリキュラムで教育することになっている.しかし,教育は多様であってしかるべきで,薬学教育も医学教育を参考にしつつも,薬学ならではの教育体制を構築されることを祈念している.

はじめに

本稿は,「第2回日本薬学教育学会大会」の基調講演として行った「医療人教育の現状と課題―医学教育から薬学教育に期待するもの―」を踏まえて総説の形に書き直したものである.

出来るだけこれまで本誌に医学教育学会の会員から投稿された原稿1,2) と内容の重複がないように配慮した.

本稿では,まず医学教育の基本的概念となっている「学習/教育のプロセス」の概念について述べ,次いで世界の医療者教育の動向について簡単に触れた後,現在の日本の医学教育システムについて略述し,最後に多職種連携教育に触れ,薬剤師教育の参考に供したい.薬剤師教育にはそぐわないところもあるかと思うが,その点は,薬剤師を取り巻く国内外の状況に置き換えて活用していただければ幸いである.

1.ICT時代の医学教育とは

これまでの医学教育は,専門的な情報を,これから専門家になろうとする人達に伝達していくことが主であると考えられてきたが,現在は,情報は誰でも,どこでも,いつでも手に入る時代であり,『教育とは,学習者の能力を引き出す営み』という原点に立ち戻ると,専門的な情報を伝達することは教育の一部分を占めるに過ぎないことがわかる.極論する人は,「情報へのアクセスの仕方を教えることが現代の教育のあるべき姿で,情報そのものを伝達することは教育ではない」とさえ主張する.一方で「技能」,「態度」については,実務の現場で,指導を受けたり,指導者の背中を見たりしながらでないと学べないことが多い.このような「教育法/指導法」の基本を知っているか否かで,学習者の成長に雲泥の差が生じることを筆者は実感している.

また,医療専門職は生涯学習を続けていく必要があるが,その為には,学生時代から自学自習を進める方法を身につけ,それを習慣化しておくことが望ましく,かつ現代はそのことが容易に実践できる環境になってきている.その為,教育に携わる人は,学習者のモチベーションを引き出すさまざまな工夫をすることが重要となる.

2.学習/教育のプロセス

「学習/教育のプロセス」の全体像を図1で示した.この図は,もともと「教育のプロセス」と呼ばれていたが,「教育の成果は学習者がどう変わっていくかが重要である」という考え方にしたがって「学習のプロセス」と呼ばれるようになってきた.この概念図は,極めて広い視野と深い意味を含んだ図で,教育のみならず様々な組織活動にも役立つ概念図である.まずは,この図に従って,学習/教育(以下,学習)の「ニーズの抽出」,「目標」,「方略」,「評価」について簡単に説明したい.

図1

学習/教育のプロセス

2-1.学習ニーズの抽出

学習を考える時に,まず大切なのは「学習者のニーズ」を把握することである.この「学習者のニーズ」を把握するためには,大別して専門職が「必要」と考えることと,学習者から発生してくる「要求」の両面を考える必要がある.専門職だからこそ先を見通して考えられることがある反面,専門職には日常の学習者の置かれた立場・環境を十分に理解していない面も少なからずあるので,「必要」と「要求」の両面を勘案することが大切となる.

ただし,「要求」を鵜呑みにする必要はない.不適切な「要求」と思われる場合には,その要求の理由となっている背景,価値観,状況などについて学習者の思いに耳を傾け,よく話し合う必要がある.『教育はコミュニケーションである』3) と言われる所以である.

2-2.目標

次に,ニーズを抽出しても,その全てを満たすことは通常は不可能である.実際の現場では,「人」・「もの」・「お金」・「時間」・「場所」などの制約があるからである(図1).

ここで大切なのは,「目標を達成するのは学習者である」ということであり,教員・指導者など学習を援助する人の役割は,あくまでも学習者の個性や準備状態を勘案しながら,側面からサポートするということである.援助し過ぎないことは重要で,『教え過ぎると人は学ばなくなる』という教育に関する箴言がある.これは,実は教育に限ったことではなく,援助し過ぎると援助される人の自助努力が阻害されて,かえって本人にはマイナスの結果になってしまう場合が少なくない(援助し過ぎる人は‘イネイブラー’と呼ばれる.アルコール依存などの嗜癖の問題の時によく使われるが,もっと一般的に考えてよいと筆者は考えている).

2-3.方略

学習者の目標達成へのサポートの仕方には様々なやり方があり,これを方略と呼んでいる(図1).方略とは「学習過程の進行を考えながら,学習方法を,その為の資源(人・もの・お金・時間・場所など)を考えながら組み合わせること」と定義される.

2-3-1.学習方法

学習方法には,「講義をする」,「実習する」等の方法がすぐに思い浮かぶが,適切な学習方法を考える時に参考になるのが,「学習のピラミッド」と言われているものである(図24).これを見ると,講義の学習効率の悪さがよくわかる.講義には,一度に多数の人を相手にできるというメリットはあるが,一方通行になりがちで,よほど工夫しないと効果は上がらない.むしろ課題図書やインターネットでアクセスできる視聴覚教材を示して自学自習してもらう方が学習効率は良くなる.自学自習した結果をレポートにして提出してもらうと,さらにプラスαの効果が期待できる.もっと効果が上がるのが小グループで討論をしたり,実際に体験したりすることであるが,案外知られていないのが,「教え役になってもらうというのが学習者にとって一番勉強になる」ということである.『教えることは二度学ぶことである』という教育に関する箴言がある.上級生で優秀な人を選んで下級生の学習援助者になってもらう,というような方略は非常に有用である.特に基本的な知識や技能の教育では,そのような学習方略が可能であろう.また,前述した「小グループで討論」はお互いに教え合うという側面もある.

図2

学習のピラミッド

2-3-2.学習場所

昨今シミュレーターを使った学習が喧伝されることが増えているが,学習場所として最も望ましいのは現場であり,いわゆるOJT(On the Job Training)である.臨床現場を軽視して,シミュレーションに走るのは本末転倒であり,まず臨床現場でどのような学習が可能かを考えるべきである.しかし,学習者の個性や準備状態,患者安全などを考えると適宜シミュレーションを活用することで学習の多様性が増えることは間違いがない.

2-3-3.方略のまとめ

ここで強調しておきたいのは,学習方略は工夫次第でいくらでも創造的な構築が可能であるということである.

2-4.評価

評価については,詳述は避けるが,『評価無くして改善なし』,『評価は隠されカリキュラム(hidden curriculum)である』など,評価は「学習/教育のプロセス」の中でも最も重要なものであり,奥が深い.詳細は文献に示した図書を参考にしていただきたい5)

3.世界の医学教育―100年の変遷

次に,世界の医学教育がどのように変遷してきたかについて概略を紹介したい(図3).2010年の英雑誌ランセットにエポック・メイキングな論文6) が掲載された.図3は,この論文に出ている図に,筆者が説明の矢印を入れたものである.図の中で, ‘instructional’ というのは,「どのようなことを,どのように学ぶか」ということで,‘institutional’ とは,「どういう場で学ぶか」ということである.1900年代初頭までは,医学教育は現場で経験的に学ぶ徒弟制度で伝承されて来たが,それを一変させたのが1910年に米国で出された ‘Flexner report’ 6) であった.この報告では,医学教育は科学的に実践すべきで,大学医学部をその教育拠点とすることを推進するとともに,当時の米国の医学部における教育の質の悪さを指弾し,その数を半減させた.この ‘Flexner report’ の影響は,その後ヨーロッパにまで及んだ.

図3

世界の医学教育―100年の変遷(文献6の図を一部改変)

その後の医学教育に大きな変革をもたらしたのが,1960年後半からMcMaster大学を中心に展開されたPBL(Problem-Based Learning)カリキュラムである.それまでの「学」体系教育から,現場での問題解決に即した,問題発見→情報収集→問題解決へと推論する学習を推奨した.また,教育のフィールドとして,大学病院だけではなく,関連施設も活用した教育へと転換を目指した.

今,医学教育は第3の転換点にさしかかっている,とこの論文では指摘している.すなわち,医学教育は社会が求めるニーズを勘案しながら,卒業時に医学生が身に付けておくべき臨床能力(コンピテンス)を勘案して,その到達点を目指して体系的に医学教育カリキュラムを構築することが求められている(Outcome-Based Medical Education成果基盤型医学教育).その為には,大学附属病院やその関連施設のみならず,地域の病院や診療所などもその教育フィールドとして考慮し,医療関係の多職種のみならず,住民をも巻き込んだ ‘transprofessional’ な教育の構築が求められていると主張している6)

4.日本の医学教育の全体像

次に,現在の日本の医学教育の全体像の概略をご紹介しておきたい(図4).医学教育は6年間で,国内の82の大学医学部・医科大学では「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に準拠した教育が行われている.この「医学教育モデル・コア・カリキュラム」には,卒業までに学生が最低限履修すべき教育内容が示されており,全体の3分の2の時間数でコア・カリキュラムを履修し,残りの3分の1は,各大学独自の選択プログラムを履修することを推奨している.

図4

日本の医学教育の全体像

多くの大学では最後の2年間が実習に充てられているが,実習へ行く前に「共用試験」で基本的臨床能力が身についているか否かを確認する.CBT(Computer-Based Testing)は知識の試験で,OSCE(Objective Structured Clinical Examination)は「客観的臨床能力試験」と訳され実技試験である.

卒業後は,国家試験があり,合格すると医籍登録がなされ,これは臨床医のいわゆる戸籍となりうる.昔の医籍登録は,国家試験に関するものしかなかったが,今は2年間の臨床研修が義務化され,研修終了後にもう一度医籍登録があり,この2回の登録がないと臨床ができないという時代になっている.すなわち,今の医学教育は,将来どのような専門領域に行く人も皆8年間で基本的な臨床能力を身につけるようなシステムになっている.

その後,後期研修,生涯研修(生涯研修は,昔はCME[Continuing Medical Education]と言われてたが,最近はCPD[Continuing Professional Development]と表現されることが多くなっている)と,医師は継続的な学習を求められている.後期研修は,専門医としての基盤的研修,さらにその後に専門性を深める専門的研修(所謂3階建ての2階),さらに超専門能力獲得(3階)と続く.たとえば内科領域の場合は,専門医としての基盤的研修は内科,専門性を深める専門的研修は消化器内科,腎臓内科,循環器内科等であり,超専門研修は消化器内科の場合には,例えば内視鏡専門医研修というように深化させていくことになる.

5.おわりに―多職種連携の時代

今,医学教育は大きな転換を迫られている.これにはいくつかの背景があるが,情報通信技術(ICT)の発達,人口の高齢化,医学・医療の専門細分化,医療関連職種の多様化の4つが主たる背景要因であり,これらを背景とした医療・社会保障費の財政的逼迫が転換を待ったなしの状況に追い込んでいると言ってよいだろう.今日の超高齢社会において,安心して生活できるような体制を維持するためには,いろいろな職種が,それぞれの専門性を発揮しながら,チームとして医療現場に参画することが必須となっている.その為には,これまでの医療者教育の在り方にも大きな変革が求められており,これは世界的な動向であり,それが前述の『‘transprofessional’ な教育』である.

今後は,大学病院,センター病院など最先端医療を担う機関では,学問の進歩という歴史をみると,さらに専門細分化が進んでいくことは間違いない.一方で『可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるような地域の包括的な支援・サービス提供体制』が社会の喫緊のニーズとなっている.それは,総合性をどう獲得していくかという仕組み作りであり,専門細分化だけが進んでは全体的な医療・ケアが成り立たないというのが,現在われわれが直面している大きな問題である.このような,地域包括ケアに対する医学教育は,全く不十分な状態である.そしてこの地域包括ケアシステムの構築には多職種連携が不可欠であるのはいうまでもない.これが,世界が共通して迎えている医学教育の第3の転換点で,日本がその先頭に立つことを求められていると言ってよい.

本稿に関して特に申告すべき利益相反はない.

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