薬学教育
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実践報告
薬学部生のキャリアに対する意識調査
―女子学生が考えるキャリアとは―
前田 徹平松 佑彩佐伯 憲一水谷 秀樹吉川 昌江青柳 裕矢野 玲子高橋 誠弥原﨑 周平日野 知証
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2018 年 2 巻 論文ID: 2018-028

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Abstract

薬学部卒業生の進路は多岐にわたるため,キャリア形成を促し,ライフプランを構築するためのキャリア教育は大学教育の重要な柱の一つである.本学は女子大学であるため,結婚・出産など女性特有のライフイベントを踏まえた上でキャリア形成を図る必要がある.在校生964名を対象とし,キャリア意識や将来のキャリアプランについてアンケート調査を行った.回収率は56.2%であり,回答者の87.6%が「キャリアプランを考えることは必要」と回答したが,実際に考えたことのある学生は57.2%であった.調査結果から,回答者の71.1%が結婚・出産を踏まえた上で「生涯働き続けたい」と就業継続の意識が非常に高く,また学年により必要な情報や問題点が異なることがわかった.今後,学生のニーズや薬剤師を取り巻く社会的背景の変化も踏まえた上で,結婚・出産など女性特有のライフイベントを考慮したキャリア教育に取り組む必要がある.

目的

6年制薬学教育が始まって12年が経過した.2018年3月には第7期生が卒業し,毎年9,000人前後の薬剤師が誕生している.薬学部卒業生の進路は非常に多岐にわたるため1,2),個々の学生が自分の将来について深く考え,納得した上でキャリアプランを構築する,いわゆるキャリアの発達を促すためのキャリア教育は,専門教育と同様に大学教育の重要な柱の一つである.

キャリア教育とは,中央教育審議会において「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」と定義される3).大学におけるキャリア教育は合谷4) によれば「学生が自己の将来像を描き,それに基づき主体的に進路を選択でき,将来像の具現化に向けて行動する能力や態度を育てること」とあり,学生が卒業後も自らの資質を向上させ,仕事や家庭,地域との関わりなどを通じて自分の役割を果たしながら自分らしい生き方を実現していくための能力や態度と捉えられる.

本学は女子大学であるため,結婚・出産とそれに伴う離職などの女性特有のライフイベントを踏まえた上でキャリア形成を図るための教育を実施する必要があるが,薬学部が2005年に開設されて以来,学生のキャリア意識に関する調査はほとんど行われていない.そこで,薬学部女子学生が考えるキャリアに対する意識を把握し,それを活かした適切なキャリア教育に資するため,キャリアに対する意識およびライフイベントを通しての将来のキャリアプランについてアンケート調査を行ったので報告する.

方法

アンケート調査は2017年4月の時点で金城学院大学薬学部に在籍する女子学生964名を対象とし,2017年5月に実施した.アンケート調査は無記名式とし,Google が提供しているアンケート集計サービス「Googleフォーム」を利用し,学内メールシステムを用いて送付および回答集計を行った.調査項目は(1)薬学部への入学動機や薬剤師に対するイメージ,(2)大学の学生生活や学び,(3)将来の進路や方向性,(4)働き方やキャリアプラン,(5)就職活動やキャリア支援の5つのカテゴリーに分け,計22項目について選択式(一部自由記載)とした(図1).なお,本アンケート調査は薬学部の学生団体である薬学部学生会が中心となり実施した.

図1

アンケート調査項目

表1に示す結果のうちQ7とQ14について,1–4年と5–6年でχ2検定を用いて比較した.有意水準はp < 0.05とした.統計解析はSPSS Statistics®24(IBM)を用いた.

表1 アンケート調査結果

倫理面での配慮は,アンケート調査への協力は任意であること,個人情報保護のため無記名であること,調査結果が学会や科学専門誌などの発表に使用される場合があること,個人が特定されることは決してないことを記載した文書をメールで送付し,回答を依頼した.また,薬学部学生生活委員会において事前に調査項目や質問内容の妥当性,倫理性について検討を行うとともに,収集した情報については,金城学院個人情報保護規程に準じた取り扱いを行った.

結果

アンケート調査の全設問の結果は表1に示すとおりである.

1. 回収率および学年構成

アンケートの回収率は56.2%(964名中,542名が回答)であった.また回答者の学年別内訳は1年生から6年生まで,ほぼ均等な割合であった(表1-A:Q1).

2. 薬学部への入学動機や薬剤師に対するイメージ

薬学部に入学した理由としては,「薬剤師の資格が取れる」が457名(84.3%)と最も多く,次いで「医療に興味がある」,「家族が勧めた」,「就職に有利」の順であった.また,「人の役に立ちたい」が151名(27.9%),「素敵な薬剤師に出会った」が40名(7.4%),「社会的に尊敬される仕事」が37名(6.8%)など,薬剤師への憧れから薬学部への入学を希望した学生も見られた.一方,「特に理由はない」は13名(2.4%)と僅かであった(表1-A:Q2,図2)(複数回答可).

図2

薬学部への入学動機や薬剤師に対するイメージ

薬学部(薬剤師)を目指した時期としては,「高校1・2年の頃」が215名(39.7%)と最も多く,「中学生以前から」の173名(31.9%)と合わせると,71.6%の学生が大学受験期より前から薬学部(薬剤師)を目指していた(表1-A:Q3).

学生が描く「薬剤師のイメージ」については,「医療の専門職」が403名(74.4%)と最も多く,次いで「責任の重い仕事」,「患者さんから信頼される」,「化学薬品に精通している」の順であった.また,医療人として備えているべき心構えである「奉仕の精神が必要」(158名(29.2%)),「患者さんに対するサービス業」(119名(22.0%))などを職種のイメージとして捉えている学生も見られた(表1-A:Q4)(複数回答可).

3. 大学での学生生活

大学生活の中で現在最も重点をおいていることについては,「勉強や研究を第一においた生活」が278名(51.3%)と半数以上を占めた.一方,勉強・趣味・アルバイトなどを「ほどほどに組み合わせた生活」を送っている学生も117名(21.6%)に見られた(表1-B:Q5).

大学生活の充実度については,「充実している」,「まあまあ充実している」を合わせて468名(86.3%)の学生が充実している学生生活を送っていると回答した.しかし,「充実していない」と回答した学生も12名(2.2%)存在した(表1-B:Q6).

これまでの学生生活を通じて,理想とする薬剤師像を持っている学生は365名(67.3%)であった(表1-B:Q7).学年別の比率は図3に示すとおりであり,2,3,4年生は平均を下回っていた.また低学年(1–4年)と高学年(5–6年)に分けて解析したところ,「持っている」と答えた学生は,1–4年では64.5%であったが,5–6年では77.9%であり,理想の薬剤師像を「持っている」学生は5–6年において有意に増加した(1–4年と5–6年群間比較,χ2検定,p < 0.01).

図3

理想の薬剤師像(学年別)

4. 将来の進路希望

将来希望する職種については,保険薬局(359名)と病院薬剤師(353名)がともに65%を超える高い割合を占め,次いでドラッグストアが227名(41.9%)であり,医療現場で薬剤師として就業したい学生が大半を占めていた.一方で,公務員や保健所,衛生研究所などの行政機関,製薬企業,大学院進学を希望している学生も見られた.(表1-C:Q8,図4-A)(複数回答可).

図4

将来の進路希望や方向性

今後,積極的に身に付けたいこととして,「薬や病気の知識」を509名(93.9%)とほとんどの学生が選択し,次いで「コミュニケーション技法」,「OTC薬やセルフメディケーション」の順であった.また,「経営やマネージメント」についても80人(14.8%)の学生が学ぶ必要性を感じていた(表1-C:Q9,図4-B)(複数回答可).

薬剤師として身に付けたい専門性としては,289名(53.3%)が「臨床経験を積み,幅広い知識を獲得しているジェネラリスト」を目指しており,一方で「専門薬剤師のような,特定の分野におけるスペシャリスト」は212名(39.1%)であった.また,「マネージャーや経営者」を目指す学生も41名(7.6%)見られた(表1-C:Q10,図4-C).

5. 働き方やキャリアプラン

就職時の雇用形態としては,正規雇用の従業員を希望する学生が482名(88.9%)を占めたが,一部に,非正規雇用(契約・派遣社員やアルバイト)でも可という意見も見られた(表1-D:Q11).

働き方については,「専門知識が活かせる仕事」が489名(90.2%)と最も多く,「社会に貢献」,「自分らしさを発揮」,「人の役に立つ」の順に続き,医療人としての心構えを踏まえた上で働きたいという傾向が見られた.一方で,「高い地位につく」,「采配が振るえる」,「積極的に転職する」,「独立する」を選択した学生は少数であった(表1-D:Q12)(複数回答可).

将来の仕事と結婚・出産を踏まえたライフプランとしては,「結婚後も仕事と家事・育児を両立」が209名(38.6%)と最も多く,次いで「結婚後は出産を契機に離職するが,その後復職」の176名(32.5%)と合わせると,回答した学生の71.1%が「生涯働き続けたい」と考えていることがわかった(表1-D:Q13,図5).なお,100名(18.5%)は,「今はまだ分からない」と回答した.

図5

仕事と結婚・出産を踏まえたライフプラン

自分の将来についての見通し(キャリアプラン)については,「かなりある」「まあまあある」を合わせて310名(57.2%)の学生が「考えたことがある」と回答したが,216名(39.9%)の学生は,現在までにあまり考える機会がないことがわかった(表1-E:Q14,図6-A).学年別に見ると,高学年になるほど自分のキャリアプランを考える学生が増加している傾向が見られた(図6-B).低学年(1–4年)と高学年(5–6年)に分けて解析したところ,「かなりある」「まあまあある」と答えた学生は,1–4年では54.7%,5–6年では61.6%であり,「あまりない」「ほとんどない」「興味がない」と答えた学生に比べて多かったが,有意差はなかった(1–4年と5–6年群間比較,χ2検定,p = 0.14).

図6

将来についての見通し(キャリアプラン)

キャリアプランのなかで最も重要なものとして,「仕事,職業に関すること」が最も多く,次いで「仕事と結婚・家庭のこと」,「資格をとること」の順であった.「仕事,職業」および「仕事と結婚・家庭」を合わせると,56.3%であった.(表1-E:Q15).キャリアプランを考える必要性については,「今,この時点から必要」が286名(52.8%)と半数以上であり,「すでに考えている」学生も含めて87.6%の学生が,キャリアプランを考えることの必要性を感じている(表1-E:Q16,図6-C).

6. 就職活動やキャリア支援に関する項目

就職に関しての不安については,520名(95.9%)の学生が「ある」と回答し,その内訳は国家試験を考えるだけで精一杯(59.6%),社会にでることの漠然とした不安(46.9%),就職に対する全般的な不安(37.3%)の順であった(表1-F:Q17)(複数回答可).不安に思う内容を上位5項目について学年別に見ると,6年生は「国家試験」が最も多く,「社会にでることの漠然とした不安」や「就職できるかどうかの不安」は3,4,5年生で多く見られた.また「情報不足」と回答したのは2,3年生の低学年に多く見られ,学年により違いがあることがわかった(図7-A).

図7

就職活動やキャリア支援

就職に関する相談(人生設計に関する相談を含む)については,「相談をしたことがある」学生は227名(41.9%)であり,半数に満たなかった(表1-F:Q18).相談相手としては,「先生」が161名(29.7%)と最も多く,ついで「学生(先輩・友人)」であった(表1-F:Q19).一方で,相談を希望する学生は439名(81.0%)と高い比率を占めており(表1-F:Q20,図7-B),キャリア支援のためのセミナーや講座の受講を希望する学生は392名(72.3%)と高い希望率であった(表1-F:Q21).

このアンケートは,自分の将来やキャリアを考えるきっかけになりましたか?との設問に対し,397名(73.2%)の学生が,「きっかけになった」と回答した(表1-F:Q22).

考察

薬学部の学生に対するキャリア意識などの調査報告はほとんど見られないため,電通育英会が全国の4年制大学,医系・薬系6年制大学に通う1年生・3年生2,000名の男女に対して実施した大学生のキャリア意識調査5) の中で類似した項目を比較した.「勉強や研究を第一においた生活」や「学生生活の充実度」,「正規雇用を希望する」の項目では本調査の方が高い値を示したが,概ね本学学生は電通育英会の調査結果と類似した傾向にあり,全国の学部を問わない男女を含む大学生と大きな違いは見られなかった(図8).

図8

本調査と電通育英会調査結果の比較

また本学は女子大学であるため,①出産や育児による中途退職や復職,②仕事と子育ての両立,③職業生活に関連した女性の自立支援など,将来,女性として解決すべき課題を抱えている.上田らの女子医学生を対象とした調査6) では,女子医学生は①将来の妊娠出産や家庭生活に対して既に不安を持っており,②人生設計は既に妊娠出産や家庭生活を強く意識したものになっていることから,女子医学生に対するキャリア支援とワーク・ライフ・バランスに関連する教育の必要性を示唆している.本調査の結果から,アンケートに回答した本学学生の71.1%が「生涯働き続けたい」と,就業継続の意識が非常に高いことがわかった.また,薬剤師として目指す専門性として,「ジェネラリスト」を目指している学生が53.3%であった.これは一般的に薬剤師として求められている「ジェネラリスト」を志向する意識の現れと考えられる.なお,学年ごとに解析したが,大きな違いは見られなかった.向井らの報告7) では,卒後の進路が決まっている 6 年次学生への調査で,病院就職予定群の女子学生のジェネラリスト志向が高いなど,女子学生において薬局就職予定群と病院就職予定群の専門性に大きな違いが見られ,理由の一つとして実務実習で得られた情報と経験を挙げている.本調査の対象学生のうち1–5年生(86.2%)はまだ実務実習を経験していないこと,今回の調査では進路別の専門性の調査を行っていないため,今後,実務実習の前後で同様の調査を行うなど,希望する進路の違いによる専門性の指向を明確にすることにより,学生が求める薬剤師のキャリアパスを適切に提示できると考えられる.

また「マネージャーや経営者」を目指している学生が7.6%見られたこと,今後学んでいきたいこととして,14.8%の学生が「経営やマネージメント」を挙げていることがわかった.井上の報告8,9) においても,文系の女子大生ではあるが,7.5%の学生が「リーダー型人材」を志向しており,マネージメントや経営に興味を持っている女子学生も少なからず存在するといえる.

就職活動やキャリア支援に関しては,95.9%の学生が就職や自分の将来に何らかの不安を持っているが,56.5%の学生が「相談したことがない」と回答した.一方で,相談を希望する学生は81.0%と高い比率を占めている.本学においては,就職活動はキャリア支援センター,学生生活全般の相談は担当教員が相談窓口となっているが,さらに学生が相談しやすい体制の整備や学生への周知が必要と思われる.

今回の調査結果から,生涯を通じて就業継続の意思を持っている学生が回答者全体の71.1%に上り,専門知識を活かした仕事に就き,社会に貢献しながら仕事と家庭の両立を図り,自分らしさを発揮できるような働き方を希望していることがわかった.薬局・医療施設に従事する薬剤師の男女比は2016年末の時点で女性が65.9%と高い比率を占めており10),また男女雇用機会均等法や女性活躍推進法,さらには少子高齢化社会という社会状況の中で,女性薬剤師が生涯にわたり薬剤師として働く意識の醸成やリーダーシップを発揮できる力を身につけるための教育が求められる.

一方で,2年,3年においては「Q7 理想の薬剤師像」や「Q14 キャリアプランを考えたこと」のポジティブな回答の割合が下がっていることから,これら中間学年に対しては外部講師も含めたキャリア支援のためのセミナーの開催など,学生のキャリア意識を高めるような積極的な働きかけが必要と考える.また,ほとんどの学生が就職や自分の将来に何らかの不安を持っており,学生が知りたいことや求めている情報は学年ごとに違いがあることが明らかとなった.

今後,学生のニーズや薬剤師を取り巻く社会的背景の変化も踏まえた上でタイムリーな情報提供や働きかけを行うとともに,結婚・出産とそれに伴う離職など女性特有のライフイベントを考慮したキャリア形成を図り,女性である特性を活かしつつ自分らしい生き方を実現していくためのキャリア教育に取り組んでいきたい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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© 2018 日本薬学教育学会
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