2019 年 3 巻 論文ID: 2018-035
世界のグローバル化が進み,薬剤師業務における英語の需要が高まる中,学部英語教育の果たす役割は益々重要となる.この時流に応じた優れた薬剤師養成に資する学部英語教育のあり方を,薬剤師の実情・実感と学部英語教育との直接的なかかわりから検討するため,現役薬剤師を対象に1)「職場での英語使用実態と必要性の認識」,2)「学部時代の英語授業内容および有益度の認識」,3)「今後の薬剤師の英語技能に関する意識」の3つの区分から成るwebアンケート調査を行った.最終的に病院薬剤師120名,薬局薬剤師120名のデータが得られ,分析は「病院」群と「薬局」群の間の比較として行われた.結果から,病院薬剤師と薬局薬剤師の間で英語の必要性や学部英語教育の評価で違いが生じるのは,「研究者」としての立ち位置があるか否かによるということ等が示唆されると同時に,大学薬学部の英語教育への貴重なフィードバックが得られた.
薬剤師に求められる専門知識や技能がより高度になり,薬学生が6か年で学修すべき内容は,長期にわたる実務実習を含め,膨大である.その中で英語教育は,薬学教育モデル・コアカリキュラム1) において,「薬剤師として求められる資質」を身につけるための項目のひとつである「研究課題に関する国内外の研究成果を調査し,読解・評価できる」ことを達成するための手段として位置付けられており,併せて「薬学の基礎としての英語」の一般目標,およびそれを支える到達目標が例示されている.その内容を見ると,薬剤師として身につけるべき英語として,「読む」,「書く」,「聞く」,「話す」の4技能にわたって,科学・医療に関連した英語(語彙レベルも含め)を理解・使用できること,および,コミュニケーション・ツールとして一般的な会話や手紙などのやり取りができることがあげられている.
一方,世界のグローバル化が一層進む現在,薬剤師業務に英語の需要がますます大きくなっていながら実態が追い付いていない現況は,薬の適正使用協議会が詳しく報告しており,外国語対応可能な薬剤師の不足,および外国人患者への対応に不安を抱えている薬剤師の実情が示されている2).さらに山田はそうした薬剤師が一般英語と専門英語の両方に対して高い必要性を認識し,実際に就職後,自ら英語学習に当たっていることを報告している3).このような薬剤師の需要に応える活動を提供する側からの研究として,大野らは,薬剤師を対象とした実践英会話講座に関し,その教授内容や自主制作教材の妥当性を検証する目的で,全国薬局薬剤師によるwebアンケート調査を実施し,薬局薬剤師の英語使用の実情や必要な英語がどのようなものであるかを調査している4).その結果,職業上,英語の必要性は感じていても,英語使用には総じて自信がないこと,必要だと認識する英語は今現在の英語使用状況と連動しており,一般英語で事足りると認識するレベルから専門英語のレベルまで,広範にわたることを報告している4).
薬剤師業務に英語の必要性は増し,同時に卒後,その状況に対応するために自ら英語学習を再開する薬剤師が存在している実態に,学部の英語教育はいかに関わっているのか,その現状は明らかではない.そこで本研究では,薬剤師養成に向けた学部英語教育のより良い形を模索することを目的とし,業務に英語を使用している(またはその経験のある)薬剤師を対象に調査を行い,薬剤師養成における学部英語教育と卒後の薬剤師の英語需要を効果的につなぐには何が必要かを考える足掛かりとした.なお,本研究は薬剤師全般を研究対象としているが,業務に対応したニーズを把握する目的から,病院薬剤師と薬局薬剤師の英語使用に関する違いについての比較の観点から論を進める.
2017年2月,(株)ネグジット総研を通して登録済の現役薬剤師モニターを対象にwebアンケート調査を行った(実施日:2017年2月27日~3月9日).アンケート調査票を図1に示す.
アンケート調査票
スクリーニング質問(Q1)で「職業上,英語を使うことがある(または過去にあった)」と答えた病院薬剤師120例(以下「病院」群),薬局薬剤師120例(以下「薬局」群)を選定し,各群120例を得た時点でアンケートを終了した.サンプル数は,第一種の過誤は両側5%,検出力80%,2群の出現割合を10%,25%と仮定した場合,1群につき100例で検出可能となることから,除外データの可能性も考慮し,各群120例と設定した.
2.解析方法 1)回答者の属性属性(Q19~Q24)に関する調査項目のうち,勤務地については,大都市部(人口100万人以上)と非大都市部(人口100万人未満)とに分類した.また,自己申告による英語力については,英検準2,3級取得者およびTOEIC 450点の申告を「初級」,英検2級取得者およびTOEIC 480~602点の申告を「中級」,英検準1,1級取得者およびTOEIC730~860点の申告を「上級」として3つに分類した.「病院」群と「薬局」群の比較は,男女,勤務地,出身大学,年齢分布,英語力に関してはFisherの正確確率検定を,英語力に関してはさらにレベルの重みを考慮したMann-WhitneyのU検定を,年齢,薬剤師の経験年数に関してはUnpaired Studentのt検定を用いた.
2)使用頻度と自己評価「英語スキル別の使用頻度」(Q2)においては「①ほとんど使わない~⑤毎日使う」について,「英語スキル別の自己評価」(Q8)においては「①劣っている~⑤優れている」について,1~5点を付与することによって重みづけを行い,「病院」群と「薬局」群の回答に対する割合の比較はMann-WhitneyのU検定を用いて行った.
3)現在の必要性と受けた学部英語教育「職場での英語使用実態と必要性の認識(区分1)」Q3~Q7と「学部時代の英語授業内容および有益度の認識(区分2)」Q9~Q13の質問項目について,「リーディング」,「ライティング」,「リスニング」,「スピーキング」の4つのスキル,および「語彙・表現」の分野ごとに比較を行った.
Q3~Q7においては,「①実際に使用している」,「②実際の使用状況に関わらず必要だと思う」,「③使っていない/必要としていない」から回答を選択させた(①と②のみ同時選択が可能).得られた回答について,①と②の同時選択は【実際に使用し,かつ必要だと思う英語】,①のみは【実際に使用している英語】,②のみは【(実際には使用していないが)必要だと思う英語】,③のみは【使っていないし,必要としていない英語】として,4つに分類した.
Q9~Q13においては,「①自分が受けた英語教育」,「②受講してみたかった/受講して良かった英語教育」,「③受講していない/受講して良くなかった」から回答を選択させた(①と②のみ同時選択が可能).得られた回答について,①と②の同時選択は【実際に受け,かつ受講して良かったと思う英語教育】,①のみは【実際に受けた英語教育】,②のみは【(実際に受けていないが)受講してみたかった英語教育】,③のみは【いずれも該当しない】として,4つに分類した.
4)薬剤師に必要と考える英語教育「今後の薬剤師の英語技能に関する意識(区分3)」の観点から,必要と考える「英語技能(Q15)」および「教育内容(Q16)」,「あなたは就職してから英語学習をしましたか(Q17)」,「英語学習は具体的に何をしましたか(Q18)」について質問した.
なお,上記3)と4)における「病院」群と「薬局」群の回答割合の比較にはFisherの正確確率検定を用い,すべての統計解析には,SPSS(Ver. 21, IBM)を使用した.
3.倫理的配慮個人情報に関しては「北海道薬科大学個人情報保護規程」(2018年4月,北海道科学大学との統合前の名称による)に則り,アンケート依頼文上で,本アンケート結果が統計資料および研究以外に利用されることがないこと,さらに,個人情報に関しては慎重かつ適正に取り扱うこと,を倫理的配慮として明記した.また本調査は,個人情報保護法の改定前に実施されたことから,研究倫理委員会の審査対象外であった.
性別,年齢,年齢分布,薬剤師としての経験年数,勤務地,出身大学,英語力について「病院」群と「薬局」群を比較した結果を表1にまとめた.
病院薬剤師(n = 120) | 薬局薬剤師(n = 120) | 有意差a) | ||
---|---|---|---|---|
Q19 | 男 / 女 | (95/25) | (71/49) | p < 0.01 |
Q20 | 年齢(平均±SD) | 42.1 ± 7.84 | 41.5 ± 7.77 | NS |
年齢分布(20代 / 30代 / 40代 / 50代 / 60代以上) | (3/47/45/23/2) | (2/52/42/22/2) | NS | |
Q21 | 薬剤師としての経験年数(平均±SD) | 18.5 ± 7.9 | 15.8 ± 7.51 | p < 0.01 |
Q22 | 勤務地(人口100万人以上の都市 / 以下の都市) | (31/89) | (32/88) | NS |
Q23 | 出身大学(国公立大学 / 私立大学) | (26/94) | (18/102) | NS |
Q24 | 英語力(英検準2,3級以下相当 / 2級以上相当 / 準1級以上相当) | (19/18/6)n = 43 | (21/23/9)n = 53 | NS |
a)病院薬剤師vs薬局薬剤師
性別,年齢分布,勤務地,出身大学:Fisherの正確確率検定
年齢,経験年数:Unpaired Studentのt検定
英語力:Mann-WhitneyのU検定
「病院」群と「薬局」群の2群間で有意差が認められた属性は,「男女比」と「薬剤師としての勤務年数」の2項目のみで,「病院」群が「薬局」群よりも,男性の占める割合が有意に高いこと(p < 0.01),なおかつ勤務年数が有意に長いこと(p < 0.01)が示された.これは周りの薬剤師や学生の就職状況を思い浮かべてみた際に得られる印象とも一致していると言えるが,男性の占める割合が高いということは一般的にそれに伴う離職率も低いものと予測されるため,薬剤師としての経験年数に有意な差を生んだと考えられる.本研究の結果においてこの2群間の違いが何らかのバイアスを与えている可能性は否めないが,本研究の限界と考える.しかしその一方で病院薬剤師と薬局薬剤師の違いを知るという本研究の目的からすると,2群間の差を含んでもなおその結果を見ていくことは有益であると考える.
2)スキルの使用頻度(Q2)と自己評価(Q8)回答者自身の英語の4つのスキル別の結果について,「使用頻度(Q2)」と「現在の英語力の自己評価(Q8)」に対する回答結果を図2に示す.
英語スキル別の使用頻度と自己評価について.病院:病院薬剤師(n = 120),薬局:薬局薬剤師(n = 120),Mann-WhitneyのU検定.( )の中の数字は,スコア平均値を示す.
「病院」群と「薬局」群の2群間の比較では,「リーディング(評価平均「病院」vs「薬局」は3.13対2.25)」と「スピーキング(同,1.82対2.04)」に有意な差があり,「リーディング」では「病院」群が,「スピーキング」では「薬局」群がそれぞれ他方を上回る結果を示し(それぞれp < 0.001とp < 0.05),「リーディング」は「病院」群で,「スピーキング」は「薬局」群でより頻繁に使用されるスキルであることが示された.総じて,「リーディング」と「ライティング」は「病院」群で,「リスニング」と「スピーキング」は「薬局」群で使用頻度がより高くなっている傾向があった.
「英語力の自己評価」(Q8)については,「病院」群と「薬局」群の2群間の比較では,有意差があったのは「スピーキング(評価平均「病院」vs「薬局」は1.70対1.99)」で「薬局」群が有意に「病院」群を上回った(p < 0.05).「リスニング(評価平均「病院」vs「薬局」は1.90対2.13)」と「ライティング(評価平均「病院」vs「薬局」は1.70対1.88)」においても,「薬局」群が「病院」群を上回る傾向がみられ,全体として,「リーディング」を除く全てのスキルにおいて「薬局」群で自己評価が高くなっている傾向があった.以上の結果から,病院薬剤師においては業務に関連して英語を使用する頻度が最も高いのは「リーディング」であり,英語力について最も自己評価が高いのも「リーディング」であることが示された.薬局薬剤師においては同様に「リーディング」が4スキルの中で最大の使用頻度を示してはいるが,自己評価については「リーディング」だけでなく,「リスニング」についても4スキルの中で最も高い評価を示していた.なお,使用頻度,自己評価ともに4スキル間の順位が同じであったことから,日常の使用頻度がそのまま英語使用の自信へとつながっている可能性が考えられる.
2.現在の必要性(区分1)と受けた学部英語教育(区分2)について現在の必要性(区分1)に関するデータを表2に,受けた学部英語教育(区分2)に関するデータを表3に示す.
①②の両方 【実際に使用し,かつ 必要だと思う英語】 |
①のみ 【実際に使用している英語】 |
②のみ 【(実際には使用していないが) 必要と思う英語】 |
③のみ 【使っていないし, 必要としていない英語】 |
χ2検定 | ||
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Q3《リーディングについて》 | ||||||
院内・社内文書 | 病院 | 1(0.8%) | 7(5.8%) | 17(14.2%) | 95(79.2%) | p < 0.05 |
薬局 | 0(0.0%) | 0(0.0%) | 22(18.3%) | 98(81.7%) | ||
契約書 | 病院 | 1(0.8%) | 3(2.5%) | 21(17.5%) | 95(79.2%) | p < 0.05 |
薬局 | 0(0.0%) | 0(0.0%) | 14(11.7%) | 106(88.3%) | ||
薬の添付書 | 病院 | 7(5.8%) | 22(18.3%) | 35(29.2%) | 56(46.7%) | |
薬局 | 7(5.8%) | 15(12.5%) | 50(41.7%) | 48(40.0%) | ||
英字新聞・雑誌 | 病院 | 5(4.2%) | 20(16.7%) | 40(33.3%) | 55(45.8%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 10(8.3%) | 37(30.8%) | 69(57.5%) | ||
専門誌 | 病院 | 14(11.7%) | 36(30.0%) | 47(39.2%) | 23(19.2%) | p < 0.0001 |
薬局 | 3(2.5%) | 18(15.0%) | 50(41.7%) | 49(40.8%) | ||
論文 | 病院 | 22(18.3%) | 57(47.5%) | 32(26.7%) | 9(7.5%) | p < 0.0001 |
薬局 | 10(8.3%) | 26(21.7%) | 49(40.8%) | 35(29.2%) | ||
手紙 | 病院 | 2(1.7%) | 6(5.0%) | 30(25.0%) | 82(68.3%) | |
薬局 | 3(2.5%) | 4(3.3%) | 37(30.8%) | 76(63.3%) | ||
電子メール | 病院 | 6(5.0%) | 10(8.3%) | 39(32.5%) | 65(54.2%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 9(7.5%) | 41(34.2%) | 66(55.0%) | ||
ホームページ閲覧・検索 | 病院 | 13(10.8%) | 36(30.0%) | 39(32.5%) | 32(26.7%) | |
薬局 | 11(9.2%) | 19(15.8%) | 48(40.0%) | 42(35.0%) | ||
その他 | 病院 | 2(1.7%) | 5(4.2%) | 5(4.2%) | 108(90.0%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 7(5.8%) | 7(5.8%) | 105(87.5%) | ||
Q4.《ライティングについて》 | ||||||
院内・社内文書 | 病院 | 0(0.0%) | 4(3.3%) | 17(14.2%) | 99(82.5%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 17(14.2%) | 102(85.0%) | ||
契約書 | 病院 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 16(13.3%) | 102(85.0%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 14(11.7%) | 105(87.5%) | ||
薬の添付書 | 病院 | 1(0.8%) | 8(6.7%) | 27(22.5%) | 84(70.0%) | |
薬局 | 3(2.5%) | 11(9.2%) | 37(30.8%) | 69(57.5%) | ||
論文 | 病院 | 5(4.2%) | 23(19.2%) | 59(49.2%) | 33(27.5%) | p < 0.0001 |
薬局 | 3(2.5%) | 9(7.5%) | 32(26.7%) | 76(63.3%) | ||
手紙 | 病院 | 3(2.5%) | 9(7.5%) | 36(30.0%) | 72(60.0%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 7(5.8%) | 33(27.5%) | 78(65.0%) | ||
電子メール | 病院 | 6(5.0%) | 11(9.2%) | 44(36.7%) | 59(49.2%) | |
薬局 | 5(4.2%) | 9(7.5%) | 32(26.7%) | 74(61.7%) | ||
ホームページ作成 | 病院 | 1(0.8%) | 3(2.5%) | 25(20.8%) | 91(75.8%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 23(19.2%) | 95(79.2%) | ||
翻訳 | 病院 | 3(2.5%) | 9(7.5%) | 39(32.5%) | 69(57.5%) | |
薬局 | 3(2.5%) | 12(10.0%) | 36(30.0%) | 69(57.5%) | ||
その他 | 病院 | 1(0.8%) | 4(3.3%) | 5(4.2%) | 110(91.7%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 5(4.2%) | 5(4.2%) | 108(90.0%) | ||
Q5.《リスニングについて》 | ||||||
電話 | 病院 | 1(0.8%) | 7(5.8%) | 44(36.7%) | 68(56.7%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 8(6.7%) | 54(45.0%) | 56(46.7%) | ||
会議 | 病院 | 2(1.7%) | 3(2.5%) | 32(26.7%) | 83(69.2%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 3(2.5%) | 32(26.7%) | 85(70.8%) | ||
テレビ会議 | 病院 | 0(0.0%) | 3(2.5%) | 33(27.5%) | 84(70.0%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 30(25.0%) | 89(74.2%) | ||
プレゼンテーション | 病院 | 5(4.2%) | 12(10.0%) | 55(45.8%) | 48(40.0%) | p < 0.01 |
薬局 | 1(0.8%) | 5(4.2%) | 40(33.3%) | 74(61.7%) | ||
講演 | 病院 | 8(6.7%) | 19(15.8%) | 57(47.5%) | 36(30.0%) | p < 0.001 |
薬局 | 1(0.8%) | 6(5.0%) | 52(43.3%) | 61(50.8%) | ||
商談 | 病院 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 19(15.8%) | 99(82.5%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 3(2.5%) | 25(20.8%) | 90(75.0%) | ||
ラジオ・テレビ放送 | 病院 | 3(2.5%) | 5(4.2%) | 41(34.2%) | 71(59.2%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 7(5.8%) | 40(33.3%) | 71(59.2%) | ||
その他 | 病院 | 4(3.3%) | 10(8.3%) | 5(4.2%) | 101(84.2%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 7(5.8%) | 6(5.0%) | 105(87.5%) | ||
Q6.《スピーキングについて》 | ||||||
職場内コミュニケーション | 病院 | 0(0.0%) | 6(5.0%) | 28(23.3%) | 86(71.7%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 3(2.5%) | 27(22.5%) | 88(73.3%) | ||
電話 | 病院 | 1(0.8%) | 6(5.0%) | 34(28.3%) | 79(65.8%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 3(2.5%) | 45(37.5%) | 70(58.3%) | ||
会議 | 病院 | 0(0.0%) | 4(3.3%) | 27(22.5%) | 89(74.2%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 22(18.3%) | 96(80.0%) | ||
テレビ会議 | 病院 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 29(24.2%) | 89(74.2%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 0(0.0%) | 21(17.5%) | 98(81.7%) | ||
プレゼンテーション | 病院 | 2(1.7%) | 6(5.0%) | 46(38.3%) | 66(55.0%) | p < 0.05 |
薬局 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 34(28.3%) | 84(70.0%) | ||
講演 | 病院 | 1(0.8%) | 6(5.0%) | 54(45.0%) | 59(49.2%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 1(0.8%) | 42(35.0%) | 76(63.3%) | ||
商談 | 病院 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 21(17.5%) | 98(81.7%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 0(0.0%) | 23(19.2%) | 96(80.0%) | ||
海外視察 | 病院 | 4(3.3%) | 4(3.3%) | 56(46.7%) | 56(46.7%) | |
薬局 | 3(2.5%) | 3(2.5%) | 49(40.8%) | 65(54.2%) | ||
患者/顧客対応 | 病院 | 11(9.2%) | 24(20.0%) | 63(52.5%) | 22(18.3%) | |
薬局 | 13(10.8%) | 28(23.3%) | 56(46.7%) | 23(19.2%) | ||
通訳 | 病院 | 1(0.8%) | 5(4.2%) | 42(35.0%) | 72(60.0%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 5(4.2%) | 37(30.8%) | 77(64.2%) | ||
Q7.《語彙・表現について》 | ||||||
一般的な挨拶 | 病院 | 13(10.8%) | 28(23.3%) | 63(52.5%) | 16(13.3%) | |
薬局 | 11(9.2%) | 33(27.5%) | 64(53.3%) | 12(10.0%) | ||
共感 | 病院 | 8(6.7%) | 18(15.0%) | 71(59.2%) | 23(19.2%) | |
薬局 | 12(10.0%) | 21(17.5%) | 66(55.0%) | 21(17.5%) | ||
身体部分 | 病院 | 14(11.7%) | 35(29.2%) | 64(53.3%) | 7(5.8%) | |
薬局 | 13(10.8%) | 36(30.0%) | 58(48.3%) | 13(10.8%) | ||
疾患名 | 病院 | 14(11.7%) | 40(33.3%) | 57(47.5%) | 9(7.5%) | |
薬局 | 14(11.7%) | 33(27.5%) | 60(50.0%) | 13(10.8%) | ||
症状 | 病院 | 15(12.5%) | 43(35.8%) | 53(44.2%) | 9(7.5%) | |
薬局 | 16(13.3%) | 34(28.3%) | 59(49.2%) | 11(9.2%) | ||
薬効 | 病院 | 16(13.3%) | 42(35.0%) | 55(45.8%) | 7(5.8%) | |
薬局 | 14(11.7%) | 32(26.7%) | 63(52.5%) | 11(9.2%) | ||
副作用 | 病院 | 15(12.5%) | 37(30.8%) | 59(49.2%) | 9(7.5%) | |
薬局 | 9(7.5%) | 28(23.3%) | 72(60.0%) | 11(9.2%) | ||
用法・用量 | 病院 | 18(15.0%) | 36(30.0%) | 56(46.7%) | 10(8.3%) | |
薬局 | 14(11.7%) | 39(32.5%) | 55(45.8%) | 12(10.0%) | ||
その他 | 病院 | 2(1.7%) | 3(2.5%) | 6(5.0%) | 109(90.8%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 4(3.3%) | 4(3.3%) | 111(92.5%) |
①②の両方 【実際に受け,かつ受講して 良かったと思う英語教育】 |
①のみ 【実際に受けた英語教育】 |
②のみ 【(実際に受けていないが) 受講してみたかった英語教育】 |
③のみ 【いずれも該当しない】 |
χ2検定 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
Q9.《リーディングについて》 | ||||||
ヘルスサイエンス系の英文 | 病院 | 7(5.8%) | 17(14.2%) | 57(47.5%) | 39(32.5%) | |
薬局 | 6(5.0%) | 16(13.3%) | 56(46.7%) | 42(35.0%) | ||
論文のアブストラクト | 病院 | 6(5.0%) | 24(20.0%) | 62(51.7%) | 28(23.3%) | p < 0.05 |
薬局 | 4(3.3%) | 20(16.7%) | 48(40.0%) | 48(40.0%) | ||
医療関連論文 | 病院 | 9(7.5%) | 24(20.0%) | 61(50.8%) | 26(21.7%) | p < 0.05 |
薬局 | 4(3.3%) | 22(18.3%) | 49(40.8%) | 45(37.5%) | ||
薬の添付書 | 病院 | 3(2.5%) | 17(14.2%) | 62(51.7%) | 38(31.7%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 7(5.8%) | 76(63.3%) | 35(29.2%) | ||
文学作品 | 病院 | 1(0.8%) | 20(16.7%) | 30(25.0%) | 69(57.5%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 18(15.0%) | 39(32.5%) | 62(51.7%) | ||
一般英文 | 病院 | 4(3.3%) | 27(22.5%) | 46(38.3%) | 43(35.8%) | |
薬局 | 6(5.0%) | 20(16.7%) | 50(41.7%) | 44(36.7%) | ||
新聞・ニュース | 病院 | 1(0.8%) | 14(11.7%) | 46(38.3%) | 59(49.2%) | |
薬局 | 3(2.5%) | 11(9.2%) | 56(46.7%) | 50(41.7%) | ||
英文法 | 病院 | 8(6.7%) | 45(37.5%) | 20(16.7%) | 47(39.2%) | |
薬局 | 12(10.0%) | 47(39.2%) | 25(20.8%) | 36(30.0%) | ||
その他 | 病院 | 1(0.8%) | 3(2.5%) | 4(3.3%) | 112(93.3%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 3(2.5%) | 11(9.2%) | 105(87.5%) | ||
Q10.《ライティングについて》 | ||||||
英語例文暗記 | 病院 | 3(2.5%) | 37(30.8%) | 31(25.8%) | 49(40.8%) | |
薬局 | 5(4.2%) | 42(35.0%) | 25(20.8%) | 48(40.0%) | ||
日本語1文を英語に | 病院 | 5(4.2%) | 40(33.3%) | 32(26.7%) | 43(35.8%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 45(37.5%) | 31(25.8%) | 40(33.3%) | ||
5文程度の英作文 | 病院 | 3(2.5%) | 40(33.3%) | 35(29.2%) | 42(35.0%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 37(30.8%) | 29(24.2%) | 50(41.7%) | ||
長文エッセイ作文 | 病院 | 1(0.8%) | 9(7.5%) | 37(30.8%) | 73(60.8%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 6(5.0%) | 37(30.8%) | 75(62.5%) | ||
エッセイの書き方 | 病院 | 0(0.0%) | 3(2.5%) | 33(27.5%) | 84(70.0%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 1(0.8%) | 35(29.2%) | 82(68.3%) | ||
英語科学論文の書き方 | 病院 | 1(0.8%) | 9(7.5%) | 71(59.2%) | 39(32.5%) | p < 0.05 |
薬局 | 1(0.8%) | 14(11.7%) | 48(40.0%) | 57(47.5%) | ||
アブストラクトを書く | 病院 | 2(1.7%) | 5(4.2%) | 65(54.2%) | 48(40.0%) | p < 0.05 |
薬局 | 2(1.7%) | 11(9.2%) | 44(36.7%) | 63(52.5%) | ||
その他 | 病院 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 2(1.7%) | 116(96.7%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 2(1.7%) | 116(96.7%) | ||
Q11.《リスニングについて》 | ||||||
一般的リスニング教材 | 病院 | 4(3.3%) | 40(33.3%) | 33(27.5%) | 43(35.8%) | |
薬局 | 7(5.8%) | 42(35.0%) | 38(31.7%) | 33(27.5%) | ||
英語ニュース | 病院 | 0(0.0%) | 15(12.5%) | 58(48.3%) | 47(39.2%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 12(10.0%) | 62(51.7%) | 44(36.7%) | ||
一般的な映画・動画 | 病院 | 0(0.0%) | 20(16.7%) | 55(45.8%) | 45(37.5%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 16(13.3%) | 54(45.0%) | 46(38.3%) | ||
洋楽を聞く | 病院 | 0(0.0%) | 20(16.7%) | 41(34.2%) | 59(49.2%) | |
薬局 | 5(4.2%) | 22(18.3%) | 42(35.0%) | 51(42.5%) | ||
TOEICや英検 | 病院 | 1(0.8%) | 18(15.0%) | 50(41.7%) | 51(42.5%) | |
薬局 | 6(5.0%) | 17(14.2%) | 46(38.3%) | 51(42.5%) | ||
医療系の会話 | 病院 | 1(0.8%) | 11(9.2%) | 70(58.3%) | 38(31.7%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 10(8.3%) | 65(54.2%) | 41(34.2%) | ||
医療関連の映画・動画 | 病院 | 0(0.0%) | 10(8.3%) | 63(52.5%) | 47(39.2%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 8(6.7%) | 62(51.7%) | 50(41.7%) | ||
その他 | 病院 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 4(3.3%) | 114(95.0%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 2(1.7%) | 117(97.5%) | ||
Q12.《スピーキングについて》 | ||||||
英文復唱 | 病院 | 5(4.2%) | 26(21.7%) | 36(30.0%) | 53(44.2%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 27(22.5%) | 37(30.8%) | 54(45.0%) | ||
英文暗唱 | 病院 | 4(3.3%) | 25(20.8%) | 31(25.8%) | 60(50.0%) | |
薬局 | 2(1.7%) | 30(25.0%) | 33(27.5%) | 55(45.8%) | ||
一般会話練習 | 病院 | 4(3.3%) | 30(25.0%) | 49(40.8%) | 37(30.8%) | |
薬局 | 10(8.3%) | 30(25.0%) | 48(40.0%) | 32(26.7%) | ||
薬剤師と患者のロールプレイ | 病院 | 1(0.8%) | 10(8.3%) | 61(50.8%) | 48(40.0%) | |
薬局 | 1(0.8%) | 10(8.3%) | 70(58.3%) | 39(32.5%) | ||
シナリオのロールプレイ | 病院 | 0(0.0%) | 6(5.0%) | 54(45.0%) | 60(50.0%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 4(3.3%) | 51(42.5%) | 65(54.2%) | ||
オーラルプレゼンテーション | 病院 | 1(0.8%) | 4(3.3%) | 63(52.5%) | 52(43.3%) | |
薬局 | 3(2.5%) | 4(3.3%) | 55(45.8%) | 58(48.3%) | ||
その他 | 病院 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 3(2.5%) | 116(96.7%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 1(0.8%) | 3(2.5%) | 116(96.7%) | ||
Q13.《語彙・表現について》 | ||||||
一般的な挨拶 | 病院 | 8(6.7%) | 42(35.0%) | 47(39.2%) | 23(19.2%) | |
薬局 | 13(10.8%) | 42(35.0%) | 42(35.0%) | 23(19.2%) | ||
共感 | 病院 | 2(1.7%) | 21(17.5%) | 64(53.3%) | 33(27.5%) | |
薬局 | 9(7.5%) | 19(15.8%) | 59(49.2%) | 33(27.5%) | ||
身体部分 | 病院 | 5(4.2%) | 19(15.8%) | 77(64.2%) | 19(15.8%) | |
薬局 | 11(9.2%) | 27(22.5%) | 58(48.3%) | 24(20.0%) | ||
疾患名 | 病院 | 4(3.3%) | 16(13.3%) | 81(67.5%) | 19(15.8%) | |
薬局 | 7(5.8%) | 22(18.3%) | 69(57.5%) | 22(18.3%) | ||
症状 | 病院 | 4(3.3%) | 16(13.3%) | 80(66.7%) | 20(16.7%) | |
薬局 | 6(5.0%) | 21(17.5%) | 74(61.7%) | 19(15.8%) | ||
薬効 | 病院 | 3(2.5%) | 16(13.3%) | 82(68.3%) | 19(15.8%) | |
薬局 | 6(5.0%) | 20(16.7%) | 74(61.7%) | 20(16.7%) | ||
副作用 | 病院 | 2(1.7%) | 12(10.0%) | 84(70.0%) | 22(18.3%) | |
薬局 | 4(3.3%) | 15(12.5%) | 80(66.7%) | 21(17.5%) | ||
用法・用量 | 病院 | 3(2.5%) | 20(16.7%) | 78(65.0%) | 19(15.8%) | |
薬局 | 8(6.7%) | 19(15.8%) | 72(60.0%) | 21(17.5%) | ||
その他 | 病院 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 8(6.7%) | 110(91.7%) | |
薬局 | 0(0.0%) | 2(1.7%) | 2(1.7%) | 116(96.7%) |
「現在の必要性(Q3)」については,「病院」群と「薬局」群の比較において有意差を示したのは,「論文」,「専門誌」,「院内文書」,「契約書」(それぞれp < 0.0001,p < 0.0001,p < 0.05,p < 0.05)で,いずれも「病院」群側で実際の使用を示す回答(①②回答と①のみ回答)が高くなっていた.これは先のQ2(スキル別使用頻度)で示された結果と合わせると,「病院」群において,より専門・研究のためのリーディングが必要とされていることが推察される(表2).
「リーディング」についての「受けた学部英語教育(Q9)」では,「病院」群と「薬局」群の比較において有意差を示したのは,「論文のアブストラクト」,「医療関連論文」(いずれもp < 0.05)で,「病院」群でより高い需要を示しており(表3),ここでも「病院」群の,研究を志向する特徴が表れていると考えられる.また,実際に受講したことを示す度数よりも,(現在の状況を考えると当時)受講していたかったことを示す度数(②のみ回答)が上回っているところから,学部時代のうちにこのような英語に触れておくことが有用であると認識していることが窺える.
2)ライティングについて(Q4, Q10)「現在の必要性(Q4)」については,「病院」群,「薬局」群間の有意差は「論文」で見られ(p < 0.0001),先のリーディング同様,「病院」群でより大きな使用実態と必要性の認識が示され,このことは「病院」群がより研究と密接にあることを示唆しているといえる(表2).
次に,「ライティング」についての「受けた学部英語教育(Q10)」では,「病院」群と「薬局」群の比較において有意差を示したのは,「英語科学論文の書き方」,「アブストラクトを書く」(いずれもp < 0.05)であり,ここでも「病院」群の研究者として要求される特徴が表れていると考えられる(表3).
3)リスニングについて(Q5, Q11)「現在の必要性(Q5)」については,「病院」群と「薬局」群の有意差は「講演」と「プレゼンテーション」で見られ(それぞれp < 0.001,p < 0.01),いずれも「病院」群側で使用実態,必要性の認識が高かった.これは先のQ2(スキル別使用頻度)で示された結果とも一貫性を示しており,リーディングや論文作成と同様,講演やプレゼンテーションを聞く機会が「病院」群でより頻繁で必要性が高いと認識されていることが明らかとなった.概して,「病院」群は研究志向が要求されるという特徴をより濃く持ち合わせていると解釈できる(表2).
「リスニング」についての「受けた学部英語教育(Q11)」では,「病院」群と「薬局」群の有意な差は見られなかった(表3).ただし,興味深い結果として,実際に受けた英語教育に「一般的リスニング教材」をはじめとする映画や洋楽の回答が多く,受けたかった英語教育に「医療系の会話」,「医療関連の映画・動画」の回答が多いことは,現在の業務に直結する英語教育を学部時代から望んでいることの現れであるとともに,回答者らの学部時代の英語教育がまだ従来の伝統的なものであったことを示すものとなっている.
4)スピーキングについて(Q6, Q12)「現在の必要性(Q5)」については,「病院」群と「薬局」群の有意差は「プレゼンテーション」で見られ(p < 0.05),「病院」群側で使用実態,必要性の認識が高かった.また,どちらの薬剤師も英語「スピーキング」といえば患者/顧客との対応に最も多く使用され,最も必要と認識されていることが示された(表2).
「スピーキング」についての「受けた学部英語教育(Q12)」では,「病院」群と「薬局」群の間に有意な差はなかった(表3).しかし,上記「リスニング」と同様,回答者らの,現在の業務に直結した学部での英語教育を望む傾向と,回答者らの学部時代の実際の英語教育の様子が垣間見られる.
5)語彙・表現について(Q7, Q13)「現在の必要性(Q7)」については,「語彙・表現」で「病院」群と「薬局」群の有意な差は見られず(表2),病院・薬局を問わず,選択肢にあげた項目ほぼすべてについて,「使用実態」(21.7%~48.3%)と「必要性の認識」(56.7%~67.5%)の総和で9割を占めるという結果となり,薬剤師のこれら語彙・表現に対する大きな需要が示された.
「語彙・表現」についての「受けた学部英語教育(Q13)」でも,「病院」群と「薬局」群の間に有意差はなく,「〈あれば〉受講したかった」(②のみ回答)との回答を合わせると,「共感」を除くすべての項目が80%を超える割合を占めており,薬剤師としての現在の使用実態,必要性を反映した結果となっている(表3).
3.薬剤師に必要と考える英語教育(区分3)について薬剤師の業務上の英語の必要性に鑑み,今後の学部英語教育が力を入れるべき英語,あるいは卒後自分が取り組んだ英語学習について質問した,Q15~Q18の回答結果を図3に示す.
薬剤師に必要と考える英語教育について(Q15~Q18)(区分3).病院:病院薬剤師(n = 120),薬局:薬局薬剤師(n = 120),Fisherの正確確率検定.ただし,3-④(Q18)については,3-③(Q17)のYes回答者のみを対象としている.
図3-①は,「病院」群,「薬局」群がそれぞれ学部英語教育において力を入れるべき英語技能と考えるもの上位2つ(Q15)を選んだ結果を示している.総合的に見ると高い割合を有するのは「スピーキング」と「リスニング」である.「病院」群では「スピーキング」,「リスニング」と同様に「リーディング」の高い必要性が示されている.これに対し「薬局」群では「スピーキング」と「リスニング」に高い必要性が示され,「リーディング」の必要性は「病院」群ほどではなかった.この結果は学部英語教育において力を入れるべきと考える教育内容上位2つ(Q16)を選んだ結果とも一致している.なお,「病院」群,「薬局」群の比較では,「リーディング」,「スピーキング」,「ライティング」に有意差(いずれもp < 0.001)がみられた.
図3-②においては,「病院」群,「薬局」群の比較で,「薬学分野の読み物」(p < 0.01)と「薬学分野にとらわれない基本的な語彙や表現」(p < 0.05)に有意差がみられた.「病院」群では「薬学分野の読み物を扱うべき」という志向が強く,一方,「薬局」群は「薬学分野にとらわれない一般的なオーラルコミュニケーション」およびそのための「基本的な語彙や表現」という,平常のコミュニケーションに役立つ英語を志向していることが窺われる.
図3-③は,就職してから,英語学習を行ったか否かについて(Q17)の結果を示しているが,「病院」群も「薬局」群も英語学習を「行った」,「行っていない」の比は半々であり有意差はなかった.
図3-④は,Q17の質問に対して英語学習を行ったとの回答をした薬剤師に対して,さらにどのような学習手段を用いて行ったのか(Q18)(複数回答可)を求めた結果である.「病院」群,「薬局」群を併せてみたときに高い割合を有する学習手段は,「新聞,雑誌,本を読む」,「市販の教材で学習」,「英語放送の視聴」,「語学学校や英会話学校に通う」,「インターネット学習サイトを利用」,「ラジオやテレビの英語講座で学習」であるが,「病院」群と「薬局」群で分けてみると,「病院」群では「新聞,雑誌,本を読む」,「市販の教材で学習」,「インターネット学習サイトを利用」において「薬局」群での割合を大きく超え(p < 0.05),「薬局」群では「語学学校や英会話学校に通う」における度数が突出して「病院」群での割合を上回っている(p < 0.01)ことが示された.このことは,例えば両群の勤務時間の差異が影響している可能性も考えられるが,「薬局」群が対人のコミュニケーションのための英語力をより必要としている意識の現れとも解釈でき,本論文の先の結果とも一致する.
本研究の結果,頻繁に必要とされる英語スキルが「リーディング」であることが明らかとなった.特に病院薬剤師では論文や専門誌を読むことでの需要が大きく,論文の「ライティング」の需要の高さとともに病院薬剤師を特徴づける結果を呈していた.また「リスニング」,「スピーキング」については全体として「患者/顧客対応」のための需要が最も大きく,外国人対応が今日の薬剤師業務にすでに当然のものとなりつつある実態が浮かび上がった.「病院」群ではさらに「プレゼンテーション」のための「リスニング」,「スピーキング」の需要もあり,先の「論文」の「リーディング」,「ライティング」と合わせて,「病院」群がより研究と密接な日常を過ごしていることが窺えた.
以上の実態・必要性の認識をもって学部時代の英語教育を評価すると,実際に受講したものについてはある程度の有益性は認めながらも,現在の薬剤師業務に直結する英語教育,つまりはESP(English for specific purposes:特定の目的のための英語)5) を志向する英語教育を有益と認識していることが示された.今回,回答者となった30~40代を中心とする薬剤師が学部生だったころ,つまり今から10~25年前の日本の大学英語教育では,まだESPの理論を反映した英語教育が十分には実践されておらず,英文法や英米文学作品を教材とした,いわゆる「教養英語」が主体だったことが想像され,実際,本調査の「学部時代に受けた英語教育」の調査結果でも,「教養英語」を中心に「ESPを志向する英語」が混在した結果となっていた.しかし,実際に薬剤師となった今,学部時代の英語教育が直接,役立つものとなっていないと考えていることが窺え,今後の学部教育についても薬剤師業務に直結したものを望んでいることが分かった.この点については,実際に薬学部で英語教育に携わる側からのジレンマとその対応策などの実践も報告されており6),今後,関連分野が連携をとる中で研究を深めていくことが急務となる.
本研究では,薬剤師業務において英語がどのような場面で実際に使用され,その必要性が認識されているのかを,病院薬剤師と薬局薬剤師の対比を通して明らかにしようとした.その結果,病院薬剤師と薬局薬剤師の間で,「研究活動のための英語」vs「患者との直接のコミュニケーションのための英語」という,業務環境からくる英語使用および必要性の点で違いがあることが明らかになった.このことは,進路指導に絡めて学生の英語学習への動機づけを行う上で有効なデータとなり得ると考える.また,回答者である薬剤師の学部時代の英語教育の評価を得たことで,薬学部英語教育の変遷を垣間見るとともに,今後向かうべき方向が示されたと言ってよい.ますますグローバル化が進む現代において,将来の薬剤師業務に資する英語教育の在り方を,ESPの枠組みの中で関連分野に携る教員の連携をもって考えていくこと,さらには卒後の薬剤師教育にもそれを生かしていくシステムづくりが肝要と考える.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.