薬学教育
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実践報告
病院薬剤師が主導した薬学生の実務実習におけるルーブリック評価トライアル
國津 侑貴上田 智弘平 大樹森田 真也寺田 智祐
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2019 年 3 巻 論文ID: 2019-001

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Abstract

平成31年度より開始となる改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに準拠した実務実習に備え,実習施設である病院の薬剤師が主導となってルーブリック評価表を作成し,トライアルを行った.平成29年度3期からの1年間に当院で実習を行った計35名の実習生を対象としてルーブリック評価を試行した.評価値はいずれも実習経過に沿って上昇し,参加した薬剤師全員,実習生もそのほとんどがルーブリック評価への理解が向上した.評価項目の「具体例」が評価を行う上で有用であった.一方,最終評価が実習中に到達すべき基本目標の段階に到達しなかった実習生が半数以上存在し,薬剤師と実習生で最終評価に乖離がある程度みられたことから,評価項目や到達目標を密に共有する必要があると考えられた.臨床の場で働く薬剤師がルーブリック表をはじめとした目標を作成,評価を実践することが新評価体制のスムーズな導入のカギであると思われる.

目的

改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム1,2) (以下,改訂コアカリ)は平成25年度に策定され,平成27年度よりそれに準拠した薬学教育が開始されている3).5年目となる平成31年度からは,改訂コアカリに準拠した実務実習の実施が求められる.改訂コアカリでは学習成果基盤型教育(outcome based education: OBE)が導入され,アウトカムを意識した実習が必要となる.すなわち,これまで行ってきたSBO(specific behavioral objective)の各項目をこなす実習から,アウトカムを見据えた達成段階を昇る実習へ変化する.さらに評価体系も変化し,ルーブリックを用いた評価を行うこととなる.ルーブリックはパフォーマンスの達成の程度を示す尺度と,それぞれの尺度に見られるパフォーマンスの特徴の説明で構成される評価ツールである4).被評価者と評価者の双方に評価規準と評価基準をあらかじめ提示し,評価の観点を可視化することから,パフォーマンス評価に有効である点,評価者ごとのズレを抑制し,被評価者へのフィードバックを促進する点がルーブリック評価のメリットである4).しかしながら,評価方法の薬学における認知度はあまり高いとは言い難く,被評価者である実習生はもちろん,評価者である薬剤師でも適切に理解している人は多くない.

近年,平成31年度に向けたルーブリックを用いた評価のトライアルが行われているが,その多くは実習生の所属する大学が主導しており5,6),実習を直接指導する施設でトライアルを行い,新たな評価体系の実践から問題点を抽出し,改訂コアカリに準拠した実務実習に備えることが求められている7)

今回,滋賀医科大学医学部附属病院薬剤部(以下,当院薬剤部)においてルーブリック評価に対する薬剤師の理解向上および評価体制の確立を目的としてトライアルを行い,参加者へのアンケートから評価体系移行における問題点を検討した.

方法

日本病院薬剤師会が作成した病院実務実習評価原案8,9) を基にルーブリック評価表を作成した.本来,1段階目の評価項目に達しない場合は評価不能と判定すべきであるが,トライアルを行う上で便宜的に,評価不能を評価段階「0段階」として段階を加えた.また,過去に病院実習におけるパフォーマンス評価を行った鈴木らの報告5) を参考に,評価項目の理解補助のため各評価に「具体例」を加えた.作成したルーブリック評価表を用いて,2017年第3期,2018年第1期,第2期に当院薬剤部で実務実習を行った計35名の実習生を対象としてトライアルを行った.使用したルーブリック評価表を表12に示す.なお,病院実務実習評価原案は2018年2月に改定が行われたため,1回目のトライアルでは2017年6月案8) を基に(表1),2,3回目のトライアルでは2018年2月案9) を基に作成した(表2).

表1 トライアル1回目に使用したルーブリック評価表
(a)「処方監査と疑義照会」
該当SBOs 観点 アウトカム
処方せんに基づく調剤 処方せんと疑義照会 処方監査と疑義照会 処方監査と疑義照会を実践する.
処方監査:患者情報と医薬品情報に基づき,処方の妥当性,適切性を判断する.
疑義照会:必要に応じて,疑義照会の必要性を判断し,適切なコミュニケーションの下実施し,記録し,次に活かす.最終的には,医師の処方行動に変容をもたらす.
評価項目
4 3 2 1 0
評価事項 薬物療法におけるアウトカムを達成するために,疑義照会とともに的確な処方提案をする. 患者情報と処方されている医薬品の基本的な医薬品情報に基づき,処方の妥当性を判断する.必要に応じて,疑義照会を適切に行うと共に,チーム内での情報を共有する.疑義照会の必要性に気づき,実践し,その内容を適切に記録する. 処方せんの基本的な不備を指摘し,処方せんに従って調剤する. 処方せん通りに調剤する. 1が達成できていない.
具体例 □疑義照会において処方提案・代替案の提案ができる.
□薬物療法の効果向上のための処方提案ができる.
□実際に医師と会話し,疑義照会・処方提案を行う.
□検査値を含む患者情報から,処方内容の妥当性を判断できる.
□患者情報を活用して処方の疑義を発見・指摘できる.
□疑義照会を実際に行う.(薬剤師を通じてで可)
□疑義照会を行った内容をシステムや日誌等に記録し,チーム内で共有する.
□2錠分3,他剤との日数違い,同処方内の重複など,基本的な疑義を発見できる.
□上記の疑義を指摘(薬剤師に報告)できる.
□明確な疑義がある場合でも,発見の可能不可能に関わらず,処方せん通りの調剤を行う.
(b)「処方せんに基づく医薬品の調製」
該当SBOs 観点 アウトカム
処方せんに基づく調剤 処方せんに基づく医薬品の調製 処方せんに基づく医薬品の調製 監査結果に基づき適正な医薬品調製を実践する.
評価項目
4 3 2 1 0
評価事項 監査・調剤において,特別な注意を要する医薬品を確認し,その適切な取り扱いを行う.調剤業務の中で調製された薬剤の監査を行い,間違いがあれば指摘する. 注射処方せんに従って,無菌的混合操作を実施する.抗がん剤調製において,ケミカルハザード回避操作を適切に実施する. 計数・計量調剤(散剤,水剤,軟膏など)を正確に行う.一包化,錠剤等の粉砕,適切な賦形等,工夫を必要とする調剤について,適切に実施すると共に,その理由を説明する. 計数・計量調剤が不十分である.
ケミカルハザード対象薬の理解が不十分である.
1が達成できていない.
具体例 □特別な注意を要する医薬品(「毒・劇・麻・向・抗悪性腫瘍薬」あるいは「温度・湿度・光等に注意を要する薬」など)を適切に調剤できる.
□調剤された薬剤の監査を行い,間違いがあれば指摘できる.
□特別な注意を要する医薬品(詳細は左記)の取り扱いを理解している.
□調剤時に特別な注意を要する医薬品(詳細は左記)か判断できる.
(□無菌的混合操作を実施できる【製剤室】)
(□ケミカルハザード回避操作を実施できる【化学療法室】)
□計数調剤を正確に行うことができる.
□計量調剤を正確に行うことができる.
□錠剤等の粉砕や賦形方法について正しく理解し,実施できる.
□計数調剤を行う.
□計量調剤を行う.
(□ケミカルハザード対象薬の理解が十分である.【化学療法室】)
表2 トライアル2,3回目に使用したルーブリック評価表
(a)「処方監査と疑義照会」
該当SBOs 観点 アウトカム
処方せんに基づく調剤 処方せんと疑義照会 処方監査と疑義照会 処方監査と疑義照会を実践する.
処方監査:患者情報と医薬品情報に基づき,処方の妥当性,適切性を判断する.
疑義照会:必要に応じて,疑義照会の必要性を判断し,適切なコミュニケーションの下実施し,記録し,次に活かす.最終的には,医師の処方行動に変容をもたらす.
評価項目
4 3 2 1 0
評価事項 明らかな疑義が無くても患者情報などを判断し,より良い処方を提案する. 患者情報や医薬品の情報を考慮して疑義照会を適切に行い,代替案を提示する. 医薬品の基本的な医薬品情報に基づき,処方の妥当性を判断する. 処方せんの形式上の不備が無いか確認し,処方せんに従って調剤する. 1が達成できていない.
具体例 □疑義のある処方について,処方提案・代替案の提案ができる.
□明確が疑義がない処方においても薬物療法の効果向上のための処方提案ができる.
□検査値を含む患者情報から,処方内容の妥当性を判断できる.
□患者情報を活用して処方の疑義を発見・指摘(薬剤師で可)できる.
□医薬品情報(添付文書上の用法・用量等)から処方が妥当か判断できる.
□上記で疑義を発見した場合は確認(薬剤師で可)できる.
□2錠分3,他剤との日数違い,同処方内の重複など,基本的な疑義を発見できる.
(b)「処方せんに基づく医薬品の調製」
該当SBOs 観点 アウトカム
処方せんに基づく調剤 処方せんに基づく医薬品の調製 処方せんに基づく医薬品の調製 監査結果に基づき適正な医薬品調製を実践する.
評価項目
4 3 2 1 0
評価事項 監査・調剤において,特別な注意を要する医薬品を確認し,その適切な取り扱いを行う.調剤業務の中で調製された薬剤の監査を行い,間違いがあれば指摘する. 抗がん剤調製と無菌調製の違いを理解し,適切に実施する. 一包化,錠剤等の粉砕,適切な賦形等,工夫を必要とする調剤について,適切に実施する. 計数・計量調剤(散剤,水剤,軟膏など)を正確に行う. 1が達成できていない.
具体例 □特別な注意を要する医薬品(「毒・劇・麻・向・抗悪性腫瘍薬」あるいは「温度・湿度・光等に注意を要する薬」など)を適切に調剤できる.
□調剤された薬剤の監査を行い,間違いがあれば指摘できる.
□調剤時に特別な注意を要する医薬品(詳細は左記)を判断できる.
(□無菌的混合操作を適切に実施できる【製剤室】)
(□抗がん剤調製を実施できる【化学療法室】)
□錠剤等の粉砕や賦形方法について正しく理解している.
□錠剤等の粉砕や賦形を正しく実施できる.
□計数調剤を正確に行うことができる.
□計量調剤を正確に行うことができる.

本トライアルでは,当院の実習カリキュラムの中で比較的全期間を通して行われている調剤室における実習に関連した2項目,「処方監査と疑義照会」「処方せんに基づく医薬品の調製」のみの評価を行った.評価時期はトライアル1回目,2回目は実習3週目,5週目,8週目,11週目の計4回,トライアル3回目は実習2週目,4週目,6週目,8週目,11週目の計5回に設定した.評価者は調剤室の薬剤師と実習生自身とし,実習期間を通して1名の薬剤師が特定の1名の実習生を評価した.11週目の評価終了時に,評価者へルーブリック評価および今回のトライアルについて,以下の項目についてアンケート調査を行い,結果の解析を行った.トライアルへの参加が2回目あるいは3回目となる薬剤師は自由意見のみを11週目の評価終了時に収集した.

アンケート項目:評価方法に対する理解,従来のSBO評価と比較した評価の難易度・評価にかかる時間・評価形式の適切さ,実習生としての項目内容の難易度,具体例の有用性,自由意見

なお,参加した薬剤師のうち1名はルーブリック評価およびアンケート項目の作成に携わっていたため,アンケート調査対象から除外した.

本研究は,実務実習に対するアンケート結果を解析したものであり,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の範囲に該当しない研究であるため,倫理審査委員会の承認申請は行っていない.参加者への倫理的配慮として,全てのトライアルにおいて,実習生,薬剤師ともに評価,アンケートを行う際に,本研究への協力に対して任意であること,個人情報を保護した上で発表に用いることを口頭にて説明した上で実施し,回答が得られなかった評価,アンケート項目については「無回答」として集計を行った.

結果

参加者は1回目のトライアルで薬剤師,実習生ともに11名,2,3回目のトライアルがそれぞれ12名であった.また,1回目のトライアルに参加した11名の薬剤師のうち,9名は2,3回目のトライアルにも参加した.

安原らの報告6) を参考に,順位変数であるルーブリック評価の結果を平均値で議論することは必ずしも適切ではないが,視覚的に理解しやすいため,図1a,bに薬剤師による評価の平均値の推移,図1c,dに実習生による自己評価の平均値の推移を示す.実習を経過するごとに評価の平均値はおおむね上昇していた.

図1

薬剤師,実習生による評価の平均値の推移.(a)薬剤師の評価「処方監査と疑義照会」.(b)薬剤師の評価「処方せんに基づく医薬品の調製」.(c)実習生の評価「処方監査と疑義照会」.(d)実習生の評価「処方せんに基づく医薬品の調製」.(e)薬剤師と実習生の評価の平均値の推移「処方監査と疑義照会」.(f)薬剤師と実習生の評価の平均値の推移「処方せんに基づく医薬品の調製」.

3回分のトライアルを集計した結果,薬剤師による最終評価は「処方監査と疑義照会」,「処方せんに基づく医薬品の調製」それぞれで2.34 ± 0.75,2.46 ± 0.77,実習生による最終自己評価は2.00 ± 0.83,2.31 ± 0.67であった.最終評価にて3段階目(実習中に到達すべき基本目標の段階)以上となった実習生は,薬剤師による評価でそれぞれ46%(16名/35名),63%(22名/35名),実習生による自己評価で29%(10名/35名),43%(15名/35名)であった.薬剤師側,実習生側で被評価者を対応させた最終評価を図2に示す.トライアル1回目と2,3回目で用いたルーブリックは内容が異なり,一部の評価項目は段階が変更されている項目も存在するため,トライアル1回目と2,3回目で分けて示した.薬剤師と実習生で最終評価が同等であったのは1回目のトライアルではそれぞれ55%(6名/11名),27%(3名/11名),2,3回目のトライアルではそれぞれ42%(10名/24名),67%(16名/24名)であり,おおむね同等から実習生側が少し低い評価となっていた.

図2

薬剤師,実習生による最終評価の対応図.(a)「処方監査と疑義照会」トライアル1回目.(b)「処方せんに基づく医薬品の調製」トライアル2回目.(c)「処方監査と疑義照会」トライアル2回目と3回目の合計.(d)「処方せんに基づく医薬品の調製」トライアル2回目と3回目の合計.バブルの大きさ及び数字は(該当)人数を示す.

アンケート調査の結果を表3に示す.トライアル以前から理解していた者を含めると,薬剤師は全員,実習生も1名を除いたほぼ全員がルーブリック評価を理解できるようになっていた.従来のSBOごとに行う評価(以下,SBO評価)と比較して,評価の難易度,評価にかかる時間についての回答は,薬剤師では各選択肢で拮抗していたが,実習生は「容易になった」,「短縮した」と回答がそれぞれ41%,49%と,薬剤師と比較して多く見られた.項目内容の難易度については,“実習生として「難しすぎる」”という回答が薬剤師では42%で見られたが,実習生では20%であった.本評価形式自体の適切さについては,判断できない回答が薬剤師,実習生それぞれ67%,74%であった.また,項目ごとの「具体例」については薬剤師,実習生それぞれで85%,86%が有用と回答した.

表3 トライアルについてのアンケート結果.括弧内は割合(%)
設問および回答の選択肢 薬剤師
13名
実習生
35名
評価方法に対する理解
 トライアル以前から理解していた 1 (8) 3 (9)
 (トライアルにより)理解できるようになった 12 (92) 30 (88)
 理解できなかった 0 (0) 1 (3)
 無回答 1
評価の難易度(従来のSBO評価と比較して)
 容易になった 4 (33) 14 (41)
 不変 4 (33) 10 (29)
 難化した 4 (33) 10 (29)
 無回答 1 1
評価にかかる時間(従来のSBO評価と比較して)
 短縮した 4 (33) 17 (49)
 不変 5 (42) 13 (37)
 延長した 3 (25) 5 (14)
 無回答 1
項目内容の難易度(実習生として)
 容易すぎる 0 (0) 0 (0)
 適切 7 (58) 28 (80)
 難しすぎる 5 (42) 7 (20)
 無回答 1
評価形式の適切さ(従来のSBO評価と比較して)
 より適切 3 (25) 9 (26)
 不適切 1 (8) 0 (0)
 どちらとも言えない 8 (67) 26 (74)
 無回答 1
具体例の有用性
 役立った 11 (85) 30 (86)
 役立たなかった 0 (0) 0 (0)
 どちらとも言えない 2 (15) 5 (14)

記述意見として,薬剤師側からは「実習生との情報共有が時間的に困難であり,評価時点での明確な到達点,あるいは目標共有の方法が課題である」という意見が3件あげられたほか,「定期的な評価を行うことを意識することで,実習生の成長を感じながら実習指導ができた」という意見がみられた.実習生からは,「触れたことのない評価に戸惑う」との意見もみられたが,「自身の現在段階を評価できることで,次の段階へ進むためにどのようなステップを踏めばよいか理解しながら実習を行うことができた」との意見が2件みられた.

考察

トライアルを行った結果,参加した薬剤師及び実習生のほとんどでルーブリック評価への理解向上がみられ,平成31年度より開始となる改訂コアカリに準拠した実務実習を行う前段階として,トライアルは非常に効果的であった.今回のトライアルでは,病院薬剤師が「具体例」を作成,トライアルを主導した点がこの結果に大きく寄与したと思われる.この「具体例」については過去に鈴木らが,評価者がイメージしやすく,かつ大学が求める基準を明確にするため,各尺度に対して業務の中での具体事例や判断基準をルーブリックに付記した結果,「評価基準が行動評価指針としてイメージすることができた」と回答した評価者は60~70%,「具体事例が参考になった」と回答した評価者は80~100%であったと報告している5).日本病院薬剤師会が作成した病院実務実習評価原案 8,9) では,全実習機関に対応するために抽象的な表現が多く,個々の薬剤師が評価を行うには判断の難しい部分も大きい.そのため,「具体例」のようなそれぞれの実習施設に則して項目内容を噛み砕くことは,新たな評価体系という壁を乗り越える有用な一手と考えられる.

3回のトライアルを通して,「処方監査と疑義照会」「処方せんに基づく医薬品の調製」ともにそれぞれ評価値は実習経過にしたがって上昇した.トライアル1回目と2,3回目で用いたルーブリックでは評価項目の変更があったが,評価の平均値の推移は同様に上昇を示した.当院薬剤部のカリキュラムでは病棟実習を並行しながら11週目まで調剤室実習が組まれている.そのため,実習全体を通して評価値は継続的に上昇していた.しかしながら,実習終了時の到達評価が3段階以上となった実習生は半数程度であった.また,項目内容について薬剤師,実習生ともに“実習生として「難しすぎる」”との回答が多く見られた.評価の難易度の調整あるいは実習内容の再構築を行う必要があると考えられたが,薬剤師と実習生の間で最終評価の乖離がある程度みられた点,薬剤師からの記述意見を考慮すると,薬剤師と実習生間で目標がうまく共有できていなかった可能性も考えられた.

従来のSBO評価との比較では,難易度や評価自体の適切性については,アンケートからは判断しかねる結果となったが,評価にかかる時間については,実習生で特に短縮したと回答が多かった.従来は一項目ずつ行っていた評価を一つのアウトカムについてその達成度を評価することで,より自身の位置を把握し,自己評価を行いやすくなったのではないかと考えられ,記述意見からもそのような意見が挙がった.このように,ルーブリック評価は評価に用いるだけでなく,実習生の目標を示し,学習を促進させる効果が期待されている10,11).また,日本病院薬剤師会は新評価基準について,薬剤師が指導するための指針でもあると述べている9).これらから,薬剤師と実習生が互いに現段階を確認しつつ,目標(次の段階)に到達するために必要な能力はなにかを分析,継続的にフォローしていく体制が必要と考えられる.

今回は一施設の結果であり,参加した薬剤師・実習生が少なく,統計学的解析は行えなかった.さらに,薬剤師側は複数回のトライアルに参加したものが多く,評価能力の向上がルーブリック評価あるいは実習生の評価への到達に影響した可能性も考えられたが,参加した実習生が異なることから影響を評価することは困難であった.しかしながら,トライアルを行うことで,薬剤師の評価方法への理解が向上することが確認された.また,自由意見から,ルーブリック評価のメリットでもある,評価基準の提示により,現段階から次の段階へステップアップするための目標把握が可能となったとの意見もみられた.薬剤師と実習生の目標を共有した実習が求められる中で,臨床の場で働く薬剤師が自らの手でルーブリック表をはじめとした目標の作成や評価の実践を行うことが新評価体制のスムーズな導入のカギであると思われる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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