薬学教育
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誌上シンポジウム:多職種連携教育
医系総合大学における体系的,段階的なチーム医療教育
木内 祐二
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2019 年 3 巻 論文ID: 2019-010

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Abstract

医学部・歯学部・薬学部・保健医療学部からなる医系総合大学の昭和大学では,チーム医療に積極的に貢献できる医療人の養成を目的に,全学部,全学年にわたる体系的,段階的な学部連携教育を導入している.低学年ではチーム医療の基盤作りとして,大学内外での体験実習(早期体験実習など)や問題解決型学習(PBLチュートリアル),高学年では実践力の習得を目標に,大学内外の病院や地域社会での参加型のチーム医療学習を,原則的に4学部合同カリキュラムとして実施している.さらに,平成26年以降は,在宅医療や地域のチーム医療に関する学内外での体系的,段階的な教育の拡充を進めている.全学を挙げたこうした取り組みにより,将来,さまざまな医療現場で患者中心のチーム医療を積極的に推進する医療人が育つことを期待している.

はじめに

現代の医療では,多様な医療現場で,多くの職種が連携・協調し,情報の共有と十分な討議により患者中心の最善の医療を協力して実施するチーム医療が求められている.在宅医療から高度医療まで多職種連携が前提の医療も多く,情報共有の不足による医療ミス,医師不足・偏在などの課題の解決にもチーム医療の実践が望まれている1).医・歯・薬・看護などの医療系大学教育においても,チーム医療教育の実践が求められているが25),チーム医療を志向した参加型の学部カリキュラムの整備は全国的にはまだ不十分である.本シンポジウムでは,病院および地域・在宅におけるチーム医療を推進するため,体系的,段階的な多職種連携教育(Interprofessional Education: IPE)に積極的に取り組んでいる昭和大学の例を紹介したい6)

昭和大学の特色

昭和大学は,医学部,歯学部,薬学部,保健医療学部(看護学科,理学療法学科,作業療法学科)からなる医系総合大学(1学年約600人)であり,大学の教育理念に「学部の枠を越えてともに学び,互いに理解し合え,協力できる人材を育成する」ことを明記し,チーム医療に積極的に貢献できる人材養成を全学部に共通する教育の目的としている.

1年次は山梨県富士吉田市で4学部学生が全寮制教育を行い,2年次以降は東京都品川区の旗の台キャンパスで医・歯・薬学部,大学病院が併置された環境で学習し,各学部の学生,教員の学部間交流が日常的である.また,全国の医系大学で最大規模の附属8病院で多彩な臨床実習と各学部の学生受入れができるという特色を持つ.こうした学習環境を活かし,チーム医療の実践に必要な多様な能力の修得を目的に,様々なチーム医療学習カリキュラムを導入している.

体系的・段階的なチーム医療学習

大学の教育理念を具現化するため,平成18年度から,全学的にカリキュラムの改善・整備を進め,文部科学省の「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」(平成18~20年度)および「大学教育・学生支援推進事業」の「大学教育推進プログラム」(平成21~23年度)の支援を受け,全学年にわたる学部連携教育カリキュラムを構築した.6年間にわたって,体系的,段階的に学習の場と内容を広げ,確実にチーム医療に必要な能力を修得する学習となるように工夫している.すなわち,低学年では,チーム医療の基盤作りとして,大学内外での各種の体験実習やPBL(Problem-based learning)チュートリアルなどの問題解決型学習,高学年では,大学内外の医療施設や地域社会での実践的なチーム医療学習を,いずれも原則的に4学部合同カリキュラムとして実施している(図1).以下にこのプログラムによる代表的なチーム医療学習について概説する.

図1

昭和大学の体系的・段階的なチーム医療学習の全体像

1.学部合同早期体験実習

1年次の全寮制の環境を活かした必修の実習として,2週間にわたる体験実習を行っている(図2).4学部合同の学生グループで,①病院見学(1日,病院の各部署の見学),②福祉施設体験(3日,施設利用者に対するサポートの体験),③AED+心肺蘇生(半日)および外科的救急処置(半日)の実習を行い,さらに,各学部独自の体験実習も3日間実施する.最終日には,学部合同グループによる発表と討議を行う.病院10ヶ所,福祉施設等39ヶ所という全国の医療系学部の中でも最大の規模・内容となっているが,チーム医療の実際を見聞し,その重要性を学ぶとともに,学習に対するモチベーション付けに有用な実習となっている.

図2

4学部合同の早期体験実習の実施風景(1年)

2.多様なチーム医療の見学学習

医・歯・薬学部の2・3年次では,各学部がそれぞれ,学内外の医療・福祉の現場で,多職種が協力した医療・福祉のプロセスと連携の実際を,見学を通して学習する.医学部では,2年次「病院体験実習」で,大学病院で看護師,薬剤師,その他の医療スタッフの業務見学・体験実習を行う.薬学部では,2年次「診療の流れを知る」で,大学病院の看護見学,病院・診療所の医師の外来診療見学,病院薬剤師業務見学を行う.3年次「救急医療・外科医療と薬剤師」では,大学付属病院の手術部,救命救急センターで体験学習を行う.歯学部では,2年次「福祉と健康」で,介護福祉施設で高齢者・障害者の介助の補助を行う.これ以外にも,大学内外の医療・福祉施設で多彩な体験実習を実施しており,チーム医療・福祉のプロセスを多面的に学習できるように工夫している.

3.学部連携型PBLチュートリアルによる問題解決型学習

PBLチュートリアルでは,臨床推論(問題点抽出),患者の問題解決,統合的学習・知識の総合,自学自習,能動的学習,医療コミュニケーションなどの能力の修得が期待され,チーム医療・患者中心の医療の学習に有用であり,また,実践医療のシミュレーションともなる.

昭和大学では,病院でのチーム医療学習を目的に4学部連携型のPBLチュートリアルを1・3・4年次(保健医療学部は1・2・3年次)に実施し,その内容も学年に従い,徐々に臨床の場面設定に近づける累進型としている.1年次では,チーム内でのコミュニケーションや情報共有に慣れるとともに,学習項目を見出し自学自習の習慣づけを行うことを主な目標としている入門用PBLと位置づけ,討議の内容や結論が必ずしもグループ間で一致する必要はないが(拡散型),学年が進むに従い,実際の医療を想定し,患者が抱える問題を推論し,最善の問題解決を求めるものとなるため,討議や結論がグループ間で同様なものになる(収束型).(なお,1・2・4年次に実施している在宅医療に関わるPBLチュートリアルに関しては後述する.)

1年次には,福祉・介護,終末期医療,寮生活,栄養・健康に関する話題など,身近な話題をもとにしたシナリオで,富士吉田キャンパスで1年間に2回×3週(コアタイム2回+発表会)のPBLチュートリアルを実施している(図3).3年次(保健医療学部は2年次)「臨床シナリオ学部連携PBLチュートリアル」では,ある程度複雑で全学部学生が関心を持つ臨床症例をもとにしたシナリオやビデオを用意し,週1回×3週(コアタイム2日+発表会1日)実施している.3年生になると,それぞれの職種の視点で患者症例を解析し,他学部の学生にも判りやすく説明し,全員で患者の多様な問題点を抽出して治療やケアの全般について提案を行う積極的な取り組みが認められ,その提案も実際の医療に比べて遜色ない場合も多く,チーム医療学習におけるPBLチュートリアルの有用性を実感するものとなっている.4年次(保健医療学部は3年次)「病棟実習シミュレーションPBLチュートリアル」も,1回×3週(コアタイム2日+発表会1日)で実施するが,学部連携病棟実習の事前学習として位置づけ,診療録,看護記録などの病棟で用いられている書式で入院患者を提示し,入院後の問題を自らが診療録などから抽出することから取り組み,小グループ討議でチーム医療による最善の治療やケアをまとめる.

図3

学部連携型PBLチュートリアルの実際(1年)

1学年の4学部生600人を学部混合の70前後のグループに分けて,学部連携型PBLチュートリアルを実施するには,学習環境の整備(PBLルームやIT支援システムなど)とともに,全学部学生が関心を持つシナリオの作成と,標準的な指導を行うための教員(ファシリテーター)の養成などの準備が必要であり,円滑な運営にかなりの手間を要する.しかし,この学習により,チーム医療の有用性を学生自身が実感するとともに,病棟での医療チームの討議を模擬体験することで,チーム医療実践のためのシミュレーションにもなっている.

4.学部連携病棟実習

昭和大学では,医・歯・薬学部5年生(平成30年度からは6年生),保健医療学部4年生の学部合同チーム(4~6人程度,約120チーム)による1週間の学部連携病棟実習を必修で実施している.実施病棟は附属7病院の約40病棟で,120チームの実習を行うために4・5・6月の3期に分けて実施する.実習では,同じ患者を学部合同チームが連携,協力しながら担当し,毎朝夕にミーティングをして,患者情報の共有と治療・ケアについて討議,提案するとともに,他学部の学生の活動を見学することで相互理解を深める実習である(図4).実習の指導(ミーティングや金曜午後の発表会のファシリテート)や評価のために,4学部から指導担当教員を病棟ごとに派遣し,多職種の病棟スタッフとともに協力しながら学生の支援を行っている.

図4

学部連携病棟実習の実施風景(医・歯・薬6年,保健医療4年)

円滑な実習の実施のために,事前に各病棟のスタッフ(医師,歯科医師,薬剤師,看護師,リハビリ技師)や指導担当教員を集め,ワークショップ形式で学部生ごとの詳細なスケジュール作成(図5)と指導方法の説明を行った.

図5

学部連携病棟実習の1週間のスケジュール例(腎臓内科病棟)

学生は分担,協力しながら多くの患者情報を収集・検討し,それぞれの学部実習では気付くことのない幅広い視点から討議を行い,入院中から退院後までにわたる多彩な治療やケアを提案した.また,他学部の学生の実習や業務を見学することで,相互の職能に対する理解を深めている.

5.学部連携地域医療実習(在宅)

平成23年度から,医・歯・薬学部6年生,保健医療学部4年生を対象に,在宅医療をチームで実施している地域で,学部連携地域医療実習(2週間)を選択実習として実施している.診療所,歯科診療所,薬局,訪問看護ステーション,福祉介護施設などの連携の取れた地域で,複数学部の学生グループ(1グループ4名程度)が在宅患者を担当し,在宅医療を各専門職の立場から理解し,最善の医療・介護を医療チームとして討議し提案するとともに,在宅医療に関わる様々な専門職の役割を相互に理解することを目的とした実習である.現在,東京都内(大田区,江東区,品川区),富士吉田市,横浜市,川崎市の医療チームの協力を得て,実習を実施している.

難治神経疾患,脳血管障害後遺症や認知症などの患者を担当し,数回,担当患者宅を訪問するが,それ以外にも医療スタッフと10~20名の在宅患者宅への訪問に同行する(図6図7).ほぼ毎日,学生グループは診療所の医師を交えてミーティングを行い,担当患者の病態,治療やケアについて討議し,最終日に実習のまとめを発表する.学生は在宅患者に対するチーム医療,生活支援やリハビリテーションの目的や重要性とともに,地域医療における多職種連携の難しさについても実感し,こうした課題解決のための提案を行うグループも多い.

図6

学部連携在宅医療実習のスケジュール例(医・歯・薬6年,保健医療4年)

図7

学部連携在宅医療実習の実施風景

在宅チーム医療を実践する医療人養成プログラム

上述のように,昭和大学では,4学部が連携したチーム医療教育カリキュラムを実施してきたが,さらに地域医療におけるチーム医療実習の構築を目指し,新たに平成26~30年度文部科学省「課題解決型高度医療人材養成プログラム」の採択事業「在宅チーム医療教育推進プロジェクト~患者と家族の思いを支え,在宅チーム医療を実践する医療人養成プログラム~」に全学を挙げて取り組んだ.多様な実習や演習を取り入れた体系的,段階的な在宅チーム医療教育カリキュラムを構築しているので,その概要を紹介したい.

1.在宅チーム医療教育推進プロジェクトの目的と概要

在宅医療や介護においては,患者や家族の思い(ナラティブ:narrative)をもとに,QOLの維持向上を支援するとともに,また多様な疾患を合併することの多い在宅患者の病状を把握するため,地域の多職種が連携・協力したチーム医療での取り組みが必要である.本プロジェクトでは,こうした社会のニーズに応える「在宅チーム医療で活躍できる医療人」に求められる資質,すなわち「思いを受容し支える力(態度)」,「チームでの問題発見・解決能力(知識)」,「在宅医療実践力(技能)」を修得するプログラムとなっている(図8).

図8

在宅チーム医療教育推進プロジェクト~患者と家族の思いを支え,在宅チーム医療を実践する医療人養成プログラム~の概要

「思いを受容し支える力」は,学習者が患者と家族のナラティブに共感し,受け入れ,支えるコミュニケーションや医療ヒューマニズムの能力(態度),「チームでの問題発見・解決能力」は,多職種が連携・協働し,最善の治療とケアを立案・実践する能力(知識),「在宅医療実践力」は,QOLやADL(activities of daily living:日常生活動作)を評価及び支援する多職種が共有すべき能力(技能)であり,これらの能力を4学部学生が連携して体系的,段階的に修得するカリキュラムである.

2.高齢者宅訪問実習(早期体験実習)

従来からの1年次早期体験実習に,4学部合同の学生グループで高齢者宅訪問実習(半日)を行い,高齢者の思い(ナラティブ)や健康上の問題点や不安,生活上の不便を知る体験学習を取り入れた(図9).学生が在宅高齢者の生活の現実とコミュニケーションの重要性やナラティブを考え,リハビリテーションや生活支援の意義を知る基礎学習の一つと位置付けている.

図9

早期体験実習での高齢者宅訪問実習

3.在宅医療に関わる学部連携PBLチュートリアル

昭和大学では,前述のように,入院患者の症例を用いた4学部連携型のPBLチュートリアルは,3・4年次(保健医療学部は2・3年次)に実施していた.新たに,在宅医療をテーマに,高齢者の抱える疾患,家族の負担,高齢者や家族のナラティブに対して,家族や医療チームとしてどのように対応すべきかを討議するため,認知症の高齢者とその家族に関わる一連のドラマ仕立てのビデオを作成し,1・2・4年次(保健医療学部は1・2・3年次)に4学部連携型のPBLチュートリアルを導入,実施している.

学年が進むに従い,保健・医療に関する専門知識,在宅患者のナラティブの理解,患者支援のための技能の学習を経験するため,入院治療,在宅医療ともに,学生グループの討議がより深くなり,患者と家族を支える適切で具体的な提案ができるようになることを学生自身も実感している.

4.在宅医療支援演習と高齢者コミュニケーション演習

3年次(保健医療学部は2年次)には,在宅医療で求められる介護,ケア,リハビリテーション,フィジカルアセスメントの各種の技能を学ぶ在宅医療支援演習と,在宅高齢者を演じる模擬患者と在宅訪問時の面談のロールプレイ行う高齢者コミュニケーション演習を行っている.

在宅医療支援演習では,以下の5つの技能実習をローテーションで実施する(図10).

図10

在宅医療支援演習の実施風景

1)口腔ケア実習:患者の口腔内の評価,日常的な口腔ケアの支援と摂食嚥下機能のスクリーニング検査を実施できるようになるため,シミュレータを用いた口腔内評価・義歯の着脱,摂食嚥下機能のスクリーニングテスト,ブラッシングの基本を実践する.

2)フィジカルアセスメント実習:基本的な身体所見を得る技能を身につけるため,学生間またはシミュレータを用いて,脈拍/血圧の測定,呼吸音/心音の聴診の評価を行う.

3)移動・体位変換等の実習:在宅高齢者における療養生活の援助のため,特に車椅子からベッドや椅子等への移乗介助,ベッド上での体位変換,更衣介助および歩行介助について,学生間で互いに体験しながら実施する.

4)食事・服薬支援実習:運動障害のある患者への食事や服薬の支援のために,医療・介護の現場で用いられている様々な工夫のうち,食事用自助具,服薬支援法(トリダス・レターオープナー,簡易懸濁法など),を学生間で互いに体験しながら実施する.

5)在宅での生活支援:在宅で療養している高齢者への療養生活の援助方法として,排泄援助,清潔の援助(洗髪),紙おむつの交換を含む更衣介助など,学生間で互いに体験しながら実施する.

学生は在宅での医療や支援を,医師,歯科医師,看護師,薬剤師,作業療法士,理学療法士から直接指導を受けながら,シミュレータも活用して全員が実施するため,その目的や意義,実施上のポイントを体験を通して深く理解するとともに,在宅における多職種連携の重要性,相互理解や情報共有の必要性も実感できる学習となっている.

一方,高齢者コミュニケーション演習(図11)では,脳梗塞後遺症などを持つ在宅患者(模擬患者)に対して,在宅訪問の場面での面談を交代(約10分×6回)で行って,日常生活を把握し,健康上,生活上の不安や希望を聞き,そのあとに,学生相互と模擬患者からのフィードバックを受ける.このロールプレイにより,患者の立場に立った在宅医療支援,生活支援を行うためには,病状,ADLやQOLの把握とともに,患者のナラティブ(思い)や生活史,家庭環境の理解が必須であることを学習する.ナラティブを引き出すことを重視したこの学習に,学生は初めは戸惑っていたが,徐々に患者の思いや生活に寄り添うことの重要性に気づき,適切なコミュニケーションの在り方を学習できたと思われる.

図11

高齢者コミュニケーション演習の実施風景

また,医・歯・薬学部6年生,保健医療学部4年生を対象にした学部連携地域医療実習(2週間の選択実習)は,今後,履修を希望する学生数の増加に備え,東京都内(大田区,江東区,品川区など),富士吉田市,横浜市,川崎市など,実施地域の拡充を図っている.

まとめ

昭和大学では,上述したような体系的,段階的なチーム医療教育カリキュラムにより,将来,病院,在宅などの多様な場面でチーム医療を円滑,効果的に実践できる医療者の養成に取り組んでいる.このように,低学年からの連続性ある体系的なチーム医療学習が,チーム医療を日常の医療の中で実践・定着化するために望ましいと考えている.こうしたカリキュラムが社会のニーズに応えるチーム医療の習得に本当に有用であったかは,卒後の実践医療の中で検証されるまで待たなければならないが,昭和大学の取り組みの効果が確認され,さらに改善を加えながら全国のチーム医療学習のモデルの一つとなることを期待したい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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