薬学教育
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誌上シンポジウム:医療職専門教育のアクティブ・ラーニングを充実するために―医学教育の取り組みから
アクティブ・ラーニングとは(総論)
泉 美貴小林 直人
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2019 年 3 巻 論文ID: 2019-020

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Abstract

薬学を含む本邦の医療系教育は,長く一方向性で受け身の講義が主体であった.しかし,昨今人口に膾炙しているアクティブ・ラーニングは,学修効果の点でも,近年における医療情報の激増により授業中にすべてを教え込むことが不可能になってきたという社会情勢からもその有用性が増している.本来,アクティブ・ラーニングにおける「アクティブ」とは身体的なアクティビティーの高さではなく,主体的で協同的な深い学びを指している.学生が深く思考するためには,教育者は良い「問い」を発することが重要で,どの手法を用いるかはさほど重要ではない.アクティブ・ラーニングは大教室でも充分に実施が可能で,「シンク・ライト・ペア・シェア」やミニッツ・ペーパーなどは比較的簡単に導入できる.アクティブ・ラーニングを成功させるための重要な要素として,①雰囲気作り,②発問による刺激,③話させる・書かせること,④学生相互での学び,⑤経験や事例を通じた学びがあげられる.

はじめに

本邦の教育機関における授業形態は,初等教育から高等教育を問わず伝統的に大教室での講義形式が主体を占めてきた.中でも薬学部は一学年の学生数が200名を超える大学が稀ではなく,大教室の授業で一人の教育者が多くの学生を長時間集中して聴講させることは容易ではない.寺子屋に端を発するこの教育者主導で学修者が受け身の授業形態は,限られた時間内に一定の情報を多くの学修者に伝達するという点においては一定の機能を果たしてきた.しかし世界的・現代的にみると,この一方向の授業は必ずしも一般的ではない.まず世界的にみると,とりわけ欧米では子どもの頃から授業では常に自分の意見を発することが求められ,相互に討論し,しばしば教え合う学びが一般的である.この形態が学びの定着という点で優れていることは,ラーニング・ピラミッド(図11) に表われている.授業で学んだ内容を2週間後にどれだけ記憶しているか(平均学修定着率)をみると,講義はわずか5%にすぎず,他の受け身の授業形態である読書,視聴覚,デモンストレーションなども学修定着率は低い.定着率が高いのは,グループ討議や体験そして他の人に教えるという,いずれもアクティブ・ラーニングによる授業である.現代的な情勢を踏まえると,学修定着率は低いものの効率良く情報を伝えることを利点とする講義形式でさえ,薬学を含む医療系の学問においては,授業時間内に最新の情報を網羅したすべての情報を伝えることが難しくなってきている.図2は1995年から2010年の15年間にPubMedに掲載された論文数,配列が決定したゲノムの数および生物学的なデータベースの数の変遷を表した折れ線グラフで2),この15年間でそれぞれ2倍,約15倍および約20倍に増加している.同様に,「医学知識や情報が2倍になるのに要する時間」という観点でみれば3),1950年には50年掛かっていたものが1980年には7年に短縮し,2010年には3.5年,2020年には実に0.2年(73日)になると予想されている.これらの数値にみる現代における医療情報の爆発的増加時代にあっては,授業において教育者が学生にすべての情報や知識を伝えようとする試みはもはや不可能であり,教育としての意味を失っていることを認識しなければならない.

図1

ラーニング・ピラミッド(文献1による) 講義形式の授業では学んだ内容は2週間後にはほとんど残らない.

図2

近年の自然科学系学問に関する情報量の増加(Growth of biological data and tools over the last 15 years),文献2による.

さらに,対面授業にはその大きな役割として,学修者に何らかの感動を惹き起こし学びへの動機付けをさせるという側面があり,この対面授業の利点を引き出す意味からも,受け身で情報を受け取るだけの一方向性の授業からアクティブ・ラーニングへの転換が望まれる.

アクティブ・ラーニングの定義

アクティブ・ラーニングが推奨されるとはいえ,何をもってアクティブと定義するかは難しい.本節では,アクティブ・ラーニングとはある特定の授業形態を指すのではないこと,必ずしも特別な技能や設備が必要ではないこと,小グループだけではなく大教室においても実施が可能であることなどについて述べる.

中央教育審議会が平成24年度に提出した答申(表14) やその用語集5) によると,アクティブ・ラーニングは,「伝統的な教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」と定義されている.医学教育のグローバルスタンダード日本版6)(2019年,Ver. 2.31)においては,「学生が自分の学修過程に責任を持てるように,学修意欲を刺激し,準備を促して,学生を支援するようなカリキュラムや教授方法/学修方法を採用しなければならない(B 2.1.2)」とアクティブ・ラーニングが推奨されている.本邦においてこの方向性は,すでに先述の平成24年の中央審議会答申4) において示され,大学教育における根幹として位置づけられているのである.

表1 中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(2012年8月28日,文献4)から引用
生涯にわたって学び続ける力,主体的に考える力を持った人材は,学生からみて受動的な教育の場では育成することができない.従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から,教員と学生が意思疎通を図りつつ,一緒になって切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である.すなわち個々の学生の認知的,倫理的,社会的能力を引き出し,それを鍛えるディスカッションやディベートといった双方向の講義,演習,実験,実習や実技等を中心とした授業への転換によって,学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を進めることが求められる.学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ,生涯学び続ける力を修得できるのである.

さらに踏み込んだ表現で溝上らは7),アクティブ・ラーニングにおける重要性を,「アクティブ・ラーニングとは一方的な,知識伝授型の講義を聞くという(受動的)学習を乗り越える意味でのあらゆる能動的な学習のこと.能動的な学習には,書く・話す・発表するなどの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」と述べている(下線は筆者).つまりアクティブ・ラーニングとは単に学修における方法論を指すのではなく,学修者が自らの頭で考えること,それを表出することにより共有するというプロセスこそが重要であり,受動的な講義と決定的に異なる点である.医療系の大学であれば,実験,研究,医療施設での臨床実習など,身体をアクティブに動かすという外的活動の機会は実は豊富にある.しかし,Hay 8) や松下ら9) はこれを「Surface learning浅い学び」と呼び分けて,アクティブ・ラーニングの目的は頭をアクティブに働かせて深く考えるという内的活動における能動性を重視した「Deep Learning『深い』学び」でなければならないと強調している.

学びの深さと活動性とを別の次元として捉えたイメージを図3に示す.従来型の講義は,外的な活動性が低く知的にも浅い学修(左下)であったかもしれない.また,たとえ身体的な活動性が高くとも知識や理解と接続しなければ,その結果は「浅い」学び(左上)でしかない.目指すアクティブ・ラーニングは,右上に位置づけられる活動的で深い学びでなければならない.

図3

活動性の高さと学びの深さとは別の次元だと考えられる(原図は愛媛大学教育企画室による).

以上のように考えを進めていくと,アクティブ・ラーニングにより深い学びを目指すためには,学生にとっては教室でも病棟でも「頭を使って考える」ことへの,教育者にとっては何を教えたかではなく「学生が何を学んだか」への,パラダイムシフトが必要であることが理解できる.それでは,とかく受動的な学生にどうすれば考えさせることができるだろうか.この重要な命題に対する一つの回答が,「発問」である.中井ら10,11) は発問の意義について,「問いには力があり,問われると人は考える.問うことはわかっている人(教員)が,分かっていない人(学修者)に対して,教育的な意図を持って問うという伝統的な教育技法である」と述べている.発問による学びは,ソクラテスやプラトンの時代(ソクラテス式問答法Socratic method)から現代に通じる普遍的な優れた教育技法といえ興味深い.

アクティブ・ラーニングの技法

これまで述べてきたようにアクティブ・ラーニングの本質は,「問いかけ」により学修者に自分で考えさせること,考えを表出することにより仲間と共に学ぶことである.アクティブ・ラーニングというととかく,グループ活動やPBL(problem-based learning)などを連想しがちだが,どの手法を用いても目的が達成されれば手段に優劣はない.表2にいくつかの技法を示すが,もちろんこれらがアクティブ・ラーニングの全てではなく,ここでお伝えしたいのは,あくまで多様なタイプの実践があるということであり,いくらでも工夫の余地はある.例えば,レスポンス・アナライザーには,カード型や机上据置き型(例:アクティブ・ラーニング支援システムLenon, TERADA.LENON)があるが,導入は高額で授業の準備にかなりの手間が掛かる.最近ではスマートホンにインストールすれば無料でその場で参加者が投票できるアプリがあり(SurveyMonckyサーベイモンキー,Kahootカフー,Qualtricsクアルトリクスなど),授業中にその場で学生に質問に答えさせることが出来る.回答の集計はもちろん,誰が早く押したかなども解るので,デジタルネイティブ世代の学生には大変好評である.

表2 アクティブ・ラーニングの様々な手法(適宜組み合わせて授業に取り入れることも可能)
□ミニッツ・ペーパー □ 1分間レポート □問答法 □ペア/グループワーク(Think-[Write]-Pair-Share,ラウンドロビン) □ピア・インストラクション □ペア・リーディング/ジグゾー法 □レスポンス・アナライザー/スマホ(回答を表示する機器)の利用 □プレゼンテーション □輪読会(読書会) □ピア・ティーチング □ディスカッション □ケース・メソッド □ディベート □ロール・プレイ □シミュレーション(シミュレーター有り/無し) □ CBL(Case-Based Lecture) □ TBL(Team-Based Learning) □ PBL(Problem-Based Learning) □協同学習/問題解決学習 □サービスラーニング □フィールドワーク(視察,現地調査) □実習(臨床実習,臨地実習) □実験 □実技 □研究室配属

シミュレーション教育は外的能動性の高い代表的な手法であるが,決して高額なシミュレーターを用いる教育だけを指すのではなく,デブリーフィングにおいて学生が深く考えることが最も重要である.デブリーフィングとはシミュレーション後にパフォーマンスを振り返る機会で,ここでも学生は主体的に互いに議論しながら省察を深めていくことが期待される.教育者は解説をするのではなく,やはり問いを発し,聞かれた場合も即答はせずに問いで返すことにより,学生自らが必要な技術や知識に気づくことができるようサポートする.シミュレーションの際は,スマホの動画機能などを用いて学生同士で記録すればブリーフィングが楽しく振り返りの内容も深まる.

なお,授業のすべての時間をアクティブ・ラーニングで実施する必要はなく,従来型の講義にアクティブ・ラーニングを適宜組み合わせることが現実的である.

大教室でできるアクティブ・ラーニング

ここでは,大教室において,特別な装置や仕掛けがなくとも可能なアクティブ・ラーニングの手法を紹介する10).「シンク・ライト・ペア・シェア(Think, Write, Pair, Share)」は,教育者によって発せられた問いに対し,学生が考え(think),考えた内容を書くことにより表出させ(write),それを隣の学生と二人で共有し(pair),更にペア同士あるいはより多人数で共有(share)することを指す.これらは「アクティブ・ラーニング」と大上段に位置づけるほどもなく,多くの教育者はすでに多かれ少なかれ実施していると思われ,アクティブ・ラーニングが特別の技法ではないことが理解して頂けよう.バズ学習(buzz learning)は,周囲の学生とグループを作り討論することで,ザワザワとうるさい(buzz)ためにこの名前がある.やはり特別な手法ではないが,話し合いの人数は6名程度で,時間は6分間(1人1分間)が適当であるという(6・6討議法).ラウンド・ロビン(round robin)は,小グループで意見を表出するにあたり発言の機会を全員に保証するため,発言する順番を決めて行うスタイルを指す.また考えを「書く」という方法では,ミニッツ・ペーパーは授業での興味・関心・感想,あるいは理解できたことや疑問点などを数分で記入してもらい回収する紙のことを指す.当日レポート方式(Timed essay,Brief report of the day)は,授業の最初に課題を与えられ,学生は授業を聞きながら構想を練り,授業の最後に時間を与えられてレポートを書いて提出する.

アクティブ・ラーニングの5つのコア

アクティブ・ラーニングを成功させるには,コアとなる要素がいくつかある10)図4).何より重要なのは「雰囲気作り」である.人前で自分の意見を述べることに慣れていない学生には,それが許されるある程度リラックスした環境が欠かせない.全員の前で恥をかきたくない雰囲気を払拭する方法としては,“いじられキャラ”を利用する方法がある.授業の際に教室に早めに到着し,休憩中の学生らからそのクラスの人気者を聞いておく.授業ではその“人気者”に集中してやり取りをすると,授業は必ずと言って良いほど盛り上がる.授業中に学生が寝る,私語,内職などが目立つ場合には,机間を歩き回ることをお薦めする.むろん歩き回る際にマイクを向けて「発問で刺激」すれば学生はなお真剣に聞くようになる.さらにそれを「話させて」共有させたり,言葉にして「書かせ」たりすることで,学生は「相互に学ぶ」ことができる.アクティブ・ラーニングの教材には,臨床現場における「症例(経験)や事例を使用」することで,学修者はより臨場感のある学びとなる.

図4

アクティブ・ラーニングを成功させるための「コア」となる要素(文献10を元に作図).

まとめ

1.学修内容の定着という学修効果の点でも,最近の医療情報の爆発的増加という点においても,一方向性の授業からアクティブ・ラーニングへの転換が望まれている.

2.アクティブ・ラーニングとは,主体的,協同的な深い学びである.深く考えさせるためには,教育者は教えるのではなく「発問」することが重要である.

3.教育者は,「何を教えたか」から「学修者が何を学んだか」へ,パラダイムシフトをする必要がある.

4.アクティブ・ラーニングには多数の技法があるが,技法間に優劣はなく,従来型の講義にアクティブ・ラーニングを適宜組み合わせて実施すると良い.

5.アクティブ・ラーニングは大教室でも実施可能で,「Think, Write, Pair, Share」,buzz学習,ラウンド・ロビンおよび,ミニッツ・ペーパーや当日レポート方式はその代表例である.

6.アクティブ・ラーニングのコアとして,発言しやすい雰囲気を作る,発問(問いかけ)で考えさせる,話させる・書かせる,学生相互に学ばせる,経験や事例から学ばせる,などが重要である.

7.授業中に学生が話しを聞いていないと嘆いておられる先生方は,明日から机間を歩いて,「発問」をしましょう!

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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