2020 年 4 巻 論文ID: 2020-011
立命館大学薬学部ではディプロマ・ポリシーにおける教育目標の一つである「国際社会でも活躍できる英語での情報収集・発信能力」を涵養するため,「プロジェクト発信型英語プログラム」(Project-based English Program: PEP)を導入し,専門英語を含む英語科目を系統的に配置している.本稿では,専門性の高い領域での英語発信力を育成するために,専門教員と英語教員がどのようにコラボレーションできるかを,専門教員,専門知識を持たない英語母語話者,社会人による学生のプレゼンテーションの評価分析を元に論じた.専門教員はテーマの絞り込みや深め方,英語教員は成果を広く発信する際にどう社会に関連させ伝えるかという点でアドバイスを行い,学生自身がその中で自分の意見をさらに深めるという協同が実現することにより,発信力を “I(自身)”,“Me(客観的に捉えた自身)”,“Connection(自身と他者あるいは社会とのつながり)” の観点から涵養できるという示唆が得られた.
The College of Pharmaceutical Sciences of Ritsumeikan University has introduced the Project-based English Program (PEP) to meet one of the educational goals of its diploma policy. English courses, including those in specialized scientific fields, are systematically assigned each year. This study delineates how researchers in the fields of pharmacy and life sciences (researcher teachers) and English teachers can collaborate to develop students’ English skills such that they can organize their research outcomes in highly specialized fields in the form of presentations. The discussion was based on an analysis of the evaluations of the students’ presentations that were performed by researcher teachers, native-speaking English teachers, and business professionals. The results suggested that researcher teachers should provide advice on how students can increase the focus and depth of their research topics, while English teachers should teach students to relate their topics to society when presenting their research outcomes. Through this collaboration, students can further develop their opinions and communication and presentation skills from the viewpoints of “I” (subjective self: their own opinion), “Me” (objective self: clarity of their interest), and “Connection” (connection between their research outcome and society).
立命館大学薬学部ではディプロマ・ポリシーにおける教育目標の一つである「国際社会でも活躍できる英語での情報収集・発信能力」 1) を涵養するため,「プロジェクト発信型英語プログラム」(Project-based English Program: PEP)を導入し,専門英語を含む英語科目を系統的に配置している2).「プロジェクト発信型英語プログラム」では,学生が自ら興味・関心を持つテーマを追求し,それを英語で発信しディスカッションすることで,英語を駆使してグローバルに活動できるコミュニケーションの力を段階的に身につけることを目指す2,3).また,低学年時の外国語科目から高学年時の専門英語科目に至るまで一貫したプログラムの中でプロジェクトを通じた教育を実施することで,英語運用能力だけでなく,自ら学ぶ力や協働的課題解決力を育成する4).
本学3年生配当の専門英語科目 “Junior Project 2”(薬学部・生命科学部合同クラス・選択科目)では,学生各自が興味を持つ専門領域のテーマでプロジェクトを立ち上げ,その成果を様々な形式(オーラルプレゼンテーション,要旨のテキスト,ムービー・クリップ)で発信する.
Junior Project 2で学生が取り組むプロジェクトは「実際にデータさえ得られれば,そのまま学会でポスターセッションできるレベルに到達している」 4) という評価が専門教員から得られるほど専門的になることがあり,授業はクラスの運営と英語の指導を行う英語教員と,コンテンツに関する助言と評価の一部を行う専門教員のティーム・ティーチングで実施される.
ティーム・ティーチングは広義では複数の教員が協同で教育活動を行うことを示すが,Dudley-Evansによると,ティーム・ティーチングは教科の専門教員と語学教員が同じクラスルームで教えることであり5,6),そういった形式の協同を成功させるには各々の役割の明確化とコラボレーションが肝要となる5–9).高等教育でのティーム・ティーチングの成功例としては,専門教員が教科に関してのポイントを明確にするための議論を開始したり,学生の貢献を評価したりするアドバイザーの役割を担う一方で,英語教員はコミュニケーションの知識を活用して専門教員と学生間の仲介役を担い,専門教員の議論の学生が理解するのを助け,学生が知りたいであろうことを代わりに質問をする例がある5,6).また,専門教員が主な教員となり,英語教員は言語の専門知識が必要な時に学生を助ける補佐の役割をする例もある9).しかしながら,クラスルームにおける専門教員と英語教員による学際的なコラボレーションは,まだこれから取り組むべき課題である.前述のJunior Project 2においては,基本的に専門教員が内容に関するアドバイスを,英語教員は言語における指導をするように役割を明確化してきたが,これまで想定されてきた互いの役割を越えたコラボレーションを行うことで,より効果的な指導を行える可能性がある.
Junior Project 2の目標は,専門分野のテーマを基にプロジェクトを行い,成果を発信することであるが,学生が将来持つ成果発信の機会は必ずしも研究発表だけではない.「専門分野」が持つ意味も,学生の進路によって学術領域以外に,研究機関,企業,医療施設など多岐に渡り,いかなる分野に所属しようと,専門性の異なるプロフェッショナルとの学際的なコラボレーションが求められる機会があるといえる.本稿では,専門分野の教員,専門知識を持たない英語母語話者,専門知識を持たない社会人といった,異なる分野に所属するプロフェッショナルによる学生のプレゼンテーションの評価を比較分析することで,専門性の高いテーマでの学生の英語発信力を育成するために,薬学・生命科学専門分野の教員と英語教員がどのようにコラボレーションできるかを論じる.
2016年に開講されたJunior Project 2(3年生配当選択科目,全15回)を分析の対象とした.Junior Project 2の到達目標は下に示す通りである.
各自が選ぶ専門分野のテーマを基にプロジェクトを行い,その成果を英語で発信することを目指す.P1~JP1の集大成として,各自のプロジェクトの成果発表に必要なプロフェッショナル・スキルを学び,アカデミック・ライティング,アカデミック・プレゼンテーションの向上を目指す.(Junior Project 2シラバスより)
当該年度の受講生は,プロジェクトの成果として英語による要旨の執筆とムービー・クリップの製作を行った.また,同内容をオーラルプレゼンテーションにより報告した.
専門教員は15回中5回の授業を担当し,学生が取り組むプロジェクトの内容に対するコンサルテーション(第3週,第4週),中間発表のフィードバック(第8週),最終発表の内容の評価(第14週,第15週)を担当した.英語教員は15回全ての授業を担当した.コンサルテーションとフィードバックの回は両教員が同じクラスルーム内で学生の指導を行った.
2.参加者とプレゼンテーションの評価全受講者17名のうち,最終週の発表会でプレゼンテーションを行った9名について,そのプレゼンテーションを専門分野の教員(専門教員)5名,英語母語話者教員(NE教員)10名,社会人(企業)10名が評価した.専門教員はこの授業を担当した薬学あるいは生命科学分野の教員であり,各教員が学生何名かに対して授業内でコンサルテーションとフィードバックを行っていた.専門教員は必ずしも学生の選んだ特定のテーマの専門教員ではなかった.NE教員は他大学より招聘された大学英語教員であり,薬学・生命科学分野の専門知識は問われなかった.企業はこの発表会のために一般企業より招聘された社会人であり,英語力及び薬学・生命科学分野の専門知識は問われなかった.授業を担当した英語教員は3名と数が限られていたため,今回の評価分析には加えなかった.
評価には「発信型」の英語能力評価モデルとしてプロジェクト発信型英語プログラムが開発するPEP-R(Project-based English Program References)4,10) の一部を用いた.PEP-RはJunior Project 2の到達目標における「プレゼンテーション」のみを評価するのではなく,「プロジェクトとその成果の発信」を包括的に評価するものである.プロジェクトを行う者の視点をI(自身),Me(客観的に捉えた自身),Connection(自身と他者あるいは社会とのつながり)に分け,プロジェクトの成果発表であるプレゼンテーションが自身の興味・関心を中心に据えながらも(I),他者にとっても説得力のあるものであり(Me),さらに自身のプロジェクトの成果の社会的影響を踏まえているか(Connection)を評価する3項目が主となっている10).今回はプレゼンテーションのみを評価したため,上記の3項目に加え,評価者がプレゼンテーションから直感的に受け取る「感銘」や「自信」に関する2項目を加えた5項目で評価を行った(表1).
表1が示すように,Q1.とQ2.については1が最低点,5が最高点の5段階評価で,Q3.からQ5.については5段階のルーブリックで評価した.また,評価者は任意で「この発表について,感心した点,ポジティブに評価したい点があればご自由にご記入ください.」(ポジィティブ・コメント),「残念に思った点,こうした方がいいとアドバイスされたい点があればご遠慮無くご記入ください.」(改善点)の2点について自由に記述した.
3.分析方法評価項目の関連性を検討するため,各項目のPearsonの相関係数を評価者全体および評価者グループ内(専門教員,NE教員,企業)で求めた.また,分散分析を行い,平均点を評価者グループ間および発表者間で比較した.自由記述によるポジティブ・コメントおよび改善点を収集し,統計分析の解釈の補助に使用するとともに,カテゴリ分けによる分析を行った.
各項目の評価の平均点を表2に,評価項目の相関分析の結果を表3–6に示す.全体では評価項目全てに正の相関が見られた(表3).評価者グループ内の相関分析の結果,専門教員とNE教員の間で「感銘」と相関の強い評価項目に違いがみられた.専門教員内では「感銘」と「自分なりの意見」に強い相関(.704)が見られた一方で(表4),NE教員内では「感銘」と「社会との関わりを踏まえた自分の意見」に強い相関(.724)が見られた(表5).企業では相関の強い(.700以上の)項目は見られなかった(表6).
専門教員 | NE教員 | 企業 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
Q. 1 感銘 | 4.11 | 3.80 | 3.87 | 3.90 |
Q. 2 自信 | 4.39 | 4.11 | 4.07 | 4.18 |
Q. 3 関心の明確さ | 4.48 | 3.91 | 3.84 | 4.08 |
Q. 4 自分なりの意見 | 3.89 | 3.65 | 3.85 | 3.76 |
Q. 5 社会との関わり | 3.91 | 3.54 | 3.75 | 3.70 |
全項目 | 4.16 | 3.80 | 3.88 | 3.92 |
感銘 | 自信 | 関心の明確さ | 自分なりの意見 | 社会との関わり | |
---|---|---|---|---|---|
感銘 | 1 | .560 | .652 | .677 | .687 |
自信 | .560 | 1 | .472 | .520 | .507 |
関心の明確さ | .652 | .472 | 1 | .583 | .610 |
自分なりの意見 | .677 | .520 | .583 | 1 | .633 |
社会との関わり | .687 | .507 | .610 | .633 | 1 |
感銘 | 自信 | 関心の明確さ | 自分なりの意見 | 社会との関わり | |
---|---|---|---|---|---|
感銘 | 1 | .438 | .493 | .704 | .541 |
自信 | .438 | 1 | .496 | .573 | .523 |
関心の明確さ | .493 | .496 | 1 | .563 | .651 |
自分なりの意見 | .704 | .573 | .563 | 1 | .697 |
社会との関わり | .541 | .523 | .651 | .697 | 1 |
感銘 | 自信 | 関心の明確さ | 自分なりの意見 | 社会との関わり | |
---|---|---|---|---|---|
感銘 | 1 | .590 | .662 | .687 | .724 |
自信 | .590 | 1 | .445 | .526 | .529 |
関心の明確さ | .662 | .445 | 1 | .619 | .611 |
自分なりの意見 | .687 | .526 | .619 | 1 | .633 |
社会との関わり | .724 | .529 | .611 | .655 | 1 |
感銘 | 自信 | 関心の明確さ | 自分なりの意見 | 社会との関わり | |
---|---|---|---|---|---|
感銘 | 1 | .542 | .685 | .660 | .652 |
自信 | .542 | 1 | .485 | .483 | .422 |
関心の明確さ | .685 | .485 | 1 | .548 | .541 |
自分なりの意見 | .660 | .483 | .548 | 1 | .547 |
社会との関わり | .652 | .422 | .541 | .547 | 1 |
評価者グループ間で評価項目ごとの平均点を分散分析により比較すると,「関心の明確さ」の評価に有意差が見られた(F(2, 192) = 6.73, p < .001).「関心の明確さ」の平均点は表2に示された通り(専門教員4.48点;NE教員3.91点;企業3.84点)であるが,TukeyのHSD法による多重比較の結果,専門教員とNE教員間,専門教員と企業間に有意差が見られた(それぞれp < .001;p < .05).結果として,専門教員は他評価者グループよりも学生の「関心の明確さ」を高く評価していた.
3.評価項目の平均点:発表者間の分散分析各発表者が得た点数の平均と,分散分析により評価者グループ間で平均点に有意差が見られた項目を表7に示す.全体の平均点が上位2名の発表者A,Bはどの評価者グループにおいても,評価が高かった.また下位2名の発表者H,Iはどの評価者グループにおいても,評価が低かった.
発表者Cの評価は全体では3位であり,専門教員と企業は高く評価したが(9名中2位),NE教員の評価は高くなかった(9名中5位).自由記述のポジティブ・コメントの中で,専門教員と企業は発表者Cを「独創性」「オリジナリティ」「ユニーク」などの言葉で評価していた.NE教員は発表者Cを「自信」や「動画の使用」についてポジティブに評価していた一方で,「発音」,「ボディ・ランゲージ」,「話す速度(速すぎる)」,「レーザーポインタの使用」に関して改善点を挙げていた.つまり,専門教員・企業はプレゼンテーションの内容を高く評価していたのに対し,NE教員は伝達の仕方に関する改善点を多数指摘していた.
評価者グループ間でいずれかの項目の平均点に差があったのは発表者C,E,H,Iの4名であった(表7).特に「関心の明確さ」に関しては,C,H,Iの3名に対して専門教員とNE教員での評価に有意差が見られた(発表者C:F(2, 18) = 6.06,p < .01;発表者H:F(2, 20) = 5.76,p < .01;発表者I:F(2, 18) = 6.06,p < .01).いずれにおいても,専門教員はNE教員より「関心の明確さ」を高く評価した(表8).
専門教員 | NE教員 | 企業 | 全体 | 評価者グループ間で有意差のある項目 | |
---|---|---|---|---|---|
発表者A | 4.56 | 4.63 | 4.57 | 4.59 | |
発表者B | 4.40 | 4.36 | 4.29 | 4.34 | |
発表者C | 4.44 | 4.08 | 4.38 | 4.27 | 関心の明確さ |
発表者D | 4.28 | 3.94 | 4.22 | 4.11 | |
発表者E | 4.40 | 4.12 | 3.88 | 4.08 | 自信 |
発表者F | 4.12 | 4.18 | 3.86 | 4.04 | |
発表者G | 3.88 | 3.38 | 3.70 | 3.61 | |
発表者H | 3.64 | 2.84 | 3.49 | 3.26 | 関心の明確さ,感銘 |
発表者I | 3.84 | 2.74 | 3.49 | 3.25 | 関心の明確さ |
専門教員 | NE教員 | 企業 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
発表者C | 4.60 | 4.00 | 4.33 | 4.24 |
発表者H | 4.00 | 2.70 | 3.63 | 3.30 |
発表者I | 4.20 | 2.80 | 3.33 | 3.29 |
発表者Hは「感銘」においても,専門教員とNE教員での評価に有意差が見られ,専門教員はNE教員より「感銘」に高い点を与えた(F(2, 22) = 6.53, p < .001)(表9).自由記述で専門教員と企業は発表者Hを「内容がおもしろい」「因果関係についてもよく説明できている」「専門的な内容でしたが,図や関係図が多く理解しやすかった」「…の必要性について迫真力があった」「よく調べられている」等ポジティブに評価した一方で,NE教員のコメントには内容に関するものはなく,「アイコンタクト」に関するポジティブな評価に加え,「話す速度が速すぎる」,「情報が多すぎる」,「スライドのページ送りが速すぎる」,「明確に話すべき」など,伝達の仕方に関する改善点の指摘が多く見られた.
専門教員 | NE教員 | 企業 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
発表者H | 3.80 | 2.50 | 3.40 | 3.12 |
発表者Eの評価は全体では5位であり(表7),「関心の明確さ」には有意差が見られなかったが,「自信」を専門教員もNE教員も企業より有意に高く評価した(F(2, 21) = 6.55, p < .001)(表10).全ての専門教員が発表者Eの「自信」に満点を与えていた.専門教員はコメントで「情報がわかりやすい」「適切な情報量」「具体的に知ることができた」「よく絞り込んでいた」「まとめ方がおもしろかった」等をポジティブに評価していた.
専門教員 | NE教員 | 企業 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
発表者E | 5.00 | 4.60 | 4.33 | 3.89 |
自由記述に得られたコメントを精査し,ポジティブ・コメントをプロジェクトの内容に関するものを “Contents”,伝え方(発音,発声,ジェスチャー等を含む)に関するものを “Delivery”,プレゼンテーションの構成に関するものを “Organization” の3つに分類した.改善点には,「アドバイス」を記入するように指示があったことも影響し,英語表現の改善点や不明確な点が多数指摘されていた.この2つは切り離せない例が多かったため “English/Clarity”として前述の “Contents”,“Delivery”,“Organization” に加え,改善点を4つに分類した.分類はコメントを1文毎に区切り,それぞれが上記4つのどれに言及しているかを質的に精査した.
分類したコメント数はポジティブ・コメントが223,改善点が213であった.全体の割合を図1,2に示す.ポジティブ・コメントの内訳は,ContentsとDeliveryが90%以上を占め,専門教員はContents,NE教員はDeliveryに関するコメントの割合が過半数を占めた(図1).改善点については,専門教員はContents,NE教員はDeliveryとEnglish/Clarity,企業はContentsとDeliveryに関する改善点が,他の評価者グループに比べて多数見られた(図1).
評価者グループごとのポジティブ・コメントの割合(全体)
評価者グループごとの改善点の割合(全体)
次に,上位3名,下位3名へのポジティブ・コメントの割合を図3,4に示す.上位3名には,どの評価者グループもContents,Delivery,Organizationに関するコメントを行い,DeliveryはNE教員,OrganizationはNE教員と専門教員の割合が高かった.下位3名にはOrganizationに関するコメントがないのが特徴的であり,専門教員と企業はContents,NE教員はDeliveryの割合が高かった.
評価者グループごとのポジティブ・コメントの割合(上位3名)
評価者グループごとのポジティブ・コメントの割合(下位3名)
最後に,上位3名と下位3名への改善点の割合を図5,6に示す.上位3名への改善点で特徴的なのは,専門教員,企業におけるContentsの割合が下位に比べて高いことである.専門教員は上位3名に対し,Deliveryに関するコメントを行わなかった.下位3名に対しては,どの評価グループもDeliveryに対するコメントの割合が高かった.専門教員においても,Contentsより,English/Clarityに対するコメントの割合の方が高かった.NE教員は下位3名よりも,上位3名に対してEnglish/Clarityに関するコメントの割合が高いのが特徴的であった.
評価者グループごとの改善点の割合(上位3名)
評価者グループごとの改善点の割合(下位3名)
専門教員はプレゼンテーションに自分なりの意見が見られるほど,NE教員は自分の意見に社会との関わりが見られるほど,感銘を受ける傾向が見られた.専門性の高いテーマでの発信は,その専門分野に詳しいオーディエンスを対象に行う機会が想定されるが,専門教員,つまり専門分野の研究者に感銘を与えるには,単に情報を伝達するだけでなく,独創性の高いコンテンツを発信することが重要であるといえる.これは,専門教員が「関心の明確さ」を他の評価者グループよりも高く評価していることからもいえることである.その一方で,専門分野外のプロフェッショナルに感銘を与えるには,自分のコンテンツに「社会とのつながり」を持たせることが重要となる.自分なりの意見(I),関心の明確さ(Me),社会とのつながり(Connection)は各々が単体ではなく相乗的に発展することで,プロジェクト自体が独自のものとして有機的に発展すると考えられる.専門教員が関心を明確にする手助けをし(Meの観点),英語教員はプロジェクトの成果が社会にどう影響しうるかを考察する手助けをし(Connectionの観点),学生自身がその中で自分なりの意見をさらに深める(Iの観点)という協同の形が実現することにより,学生がプロジェクトの成果を英語で発信する力が効果的に涵養できるという示唆が得られる.
評価が上位・下位の学生へのコメントには,NE教員はDelivery,専門教員はContentsへのアドバイスが多く見られた.これは内容に関するアドバイスは専門教員,英語に対するアドバイスは英語教員が行うという授業のティーム・ティーチングのデザインから当然と言える結果であるが,上位層のOrganizationの改善に向けては専門教員と英語教員の両グループがアドバイスをしていたことから,両者がより協同を深められる可能性が認められる.下位層の学生は,まず基本的なDeliveryをブラッシュアップすることが求められるが,英語がすでに流暢な上位層の学生にもOrganizationには改善の余地があり,アドバイスを専門教員と英語教員の協同で行うことで,コンテンツをプレゼンテーションに落とし込む際の発信力が高まることが示唆される.また,NE教員のEnglish/Clarityに対するコメントは上位層に多くみられたことから,プレゼンテーションの評価が高い学生に対しても,英語表現や伝えるべきことを明確にするための助言を専門教員・英語教員が協同で行うことで,専門的な内容にも対応できると考えられる.
本研究の薬学・生命科学専門分野の教員と英語教員はどのようにコラボレーションできるかという問いに対して,専門教員は学生のテーマの絞り込みや深め方,英語教員は深まったコンテンツを広く発信する際にどう社会に関連させ伝えるかという点でアドバイスを行うことで互いの役割が明確化することがわかった.また,コンテンツが仕上がった時点で,それを発表する際にどのように構成していくのか,どのような専門的な英語を使うのかという点は専門教員・英語教員が協同でアドバイスすることで,学生の発信力の向上により貢献できるという可能性が示唆された.さらに,プロジェクトをI,Me,Connectionの観点から専門教員・英語教員・学生の協同により有機的に発展させられる可能性も示唆された.
本研究は選択授業の受講生という限られた人数の参加者を対象としたため,今後同様のルーブリックを用いた評価をより広い対象の授業でも行い,今回の結果が一般化できるか検証する必要がある.当学部には,ティーム・ティーチングが実施される英語の授業が複数あるため,本研究で得られた示唆を元に協同を深め,さらなる検証を行う予定である.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.