薬学教育
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4 巻
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総説
  • 富澤 崇
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-003
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/02
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    テクノロジーの進歩,制度改革,社会構造や価値観の変化を受け,薬剤師の職務内容や範囲,薬剤師の需給バランスが変わっていくと考えられる.したがって,薬学部出身者としての職業人生を豊かなものにするためには,将来に向けたキャリアデザインが必要である.しかしながら,薬学生・薬剤師はキャリアデザインの必要性を感じていないのではないだろうか.そこには,キャリア教育を充実させる意識が大学に欠けていることが根本的な原因として考えられる.その解決のためには,自己を知ること,労働市場を知ること,労働とは何か,キャリアとは何かなどを学習するためのカリキュラムを構築すること,薬剤師のキャリアに関する研究を推進すること,そしてキャリア教育の必要性を認知させるために,学会やメディアを通じて大学教員に啓発活動を行うこと,があると考えられる.

  • ―卒業後に職業を通じて社会で生きていくための教育―
    福島 統
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-013
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/25
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    卒前医療者教育に職業教育の視点が含まれているだろうか.学生は卒前教育を受け,その知識と技能と倫理観を卒後のトレーニングで職場の中で学び続け,専門職業職者としてその役割を患者さんや地域住民という人たちに貢献していくことで,自分の幸せを得ていく.そのために,卒前教育では,学生が卒後のトレーニングとそのあとの生涯学習で学び続ける資質と能力を育てていかなければならない.人は,職業を通じ,自分の能力を他者貢献・社会貢献のために発揮し,他者や社会の役に立つことで生計を立てていく.自分の持っている知識と技能を何の目的に,どのように使うかという職業倫理が重要となる.人が社会とどのようにかかわり,社会に貢献するとはどのようなことかを卒前教育は教えていく必要がある.

誌上シンポジウム:Evidence-Based Medicine(EBM)教育:誰が,何を,どのように教えるか
  • 大津 史子
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2019-031
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/24
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    医療において薬剤師は,個々の患者の医療上の問題を的確に識別し,介入し,最善最良の医療を提供する責任がある.そこで,名城大学では,医薬品情報学教育の目的を,薬学の各教科で得た知識を統合し,机上の知識を実際の医療に適用できる能力に高め,実際に医療を変革できる能力を育成することであると考え,カリキュラムデザインを行ってきた.これらの目的を達成するために,高い問題の識別能力と問題解決能力,具体的には,患者情報を評価する能力,的確な情報源を選択し,迅速に情報を収集し,的確に評価し,他の専門学問の知識を総動員し,対象に適用できる能力の育成が必要である.EBM教育は,この問題解決能力育成の基盤として複数の科目や実習で扱っている.本誌上シンポジウムでは,その中でも「医薬品情報学実習」,「薬物治療マネジメント」,「卒業研究基礎(文献講読セミナー)」に焦点をあて,効果的なEBM教育の組み込みについて紹介する.

  • ~兵庫医療大学における取り組み~
    上田 昌宏, 清水 忠
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2019-033
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/24
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    本研究では,受講生が主体的に論文を評価し,論文データの活用を学習できるチーム基盤型学習(team-based learning: TBL)を取り入れた授業コースにより受講生の論文評価能力が向上するかについて検証を行った.TBL 1回目と2回目の個人準備確認試験(iRAT)を比較した結果,2回目のiRATの平均点が(1回目:4.60 ± 2.11,2回目:6.49 ± 2.11,平均点の差:1.88[95%CI, 1.45–2.31])向上した.アンケートの単純集計から,受講生はチーム議論よりも試験解説で論文内容を理解できたと評価し,EBMの理解においては応用課題演習が重要であると評価していることが示された.さらに,因子分析とiRATの結果から,論文を理解できたと自己評価した受講者はiRATの得点が高い傾向にあった.以上のことから,TBLを取り入れた論文評価学習コースは,EBM実践に必要な論文評価能力の向上に寄与することが明らかとなった.

  • ―設立背景とその影響
    青島 周一
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2019-022
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/24
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    前景疑問に向き合う上で,EBM(Evidence-based Medicine)は優れた方法論の一つですが,臨床医学に関する継続的な学びを実践していくうえでも有用です.とはいえ,EBMスタイルで学ぶことにも,いくつかの障壁が存在します.本稿ではEBMスタイルでの学習を妨げている要因を考察しながら,その障壁を乗り越えるために設立された「薬剤師のジャーナルクラブ」の取り組み概要と,教育プログラムとしての有用性について論じます.

  • 高垣 伸匡, 水野 成人, 田内 義彦, 竹内 雅代, 福岡 敏雄
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2019-032
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/24
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    Evidence-Based Medicine(EBM)は日本でも普及している医療従事者の行動様式,思考形式である.イギリスにはEBMの学習者を支援するCASP(Critical Appraisals Skills Programme)という組織が存在する.1999年に倉敷中央病院総合診療科兼研修医教育部長の福岡敏雄が日本支部としてCASP Japanを設立し,CASPワークショップをはじめ,EBM学習を提供してきた.内容は臨床疫学や教育手法など多岐にわたり,短時間で楽しんで学べるよう工夫されている.一方,日本において薬学生がEBMについての教育をうける機会は乏しいのが現状である.筆者らは2010年12月から,Student CASPと称する,学生を対象としたCASPワークショップを神戸薬科大学,同志社女子大学薬学部,摂南大学薬学部などで開催してきた.このうち神戸薬科大学でのStudent CASPワークショップの紹介,およびアンケート結果を若干の文献的考察を加えて報告する.

誌上シンポジウム:高大接続から考えてみよう―思考力・判断力 どうとらえ,どう測定するか―
  • ― 「思考力」をどう捉えるか―
    山地 弘起
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-031
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/16
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    今日の大学入試改革は,高校教育および大学教育の改革と一体となって,高大接続を円滑化することを目的としている.そのなかで,大学入試センター試験に代わって2021年度入試から実施される大学入学共通テストでは,マークシート式問題で「思考力・判断力・表現力」を評価する工夫・改善がなされる.本稿では,まず大学入学共通テストのねらいを概観したうえで,「思考力・判断力・表現力」のなかでも明確な定義が難しい思考力に焦点を当て,多肢選択式の共通試験において扱うことのできる思考力とはどのようなものかを吟味した.そして,各科目での論理的思考や批判的思考を支える関連づけの技能に着目し,それらを習得知識とともに活用する問題,あるいは思考の成果としての深い理解を問う問題を工夫することで,思考する力を間接的に評価する方向を示した.

  • ―生徒の学びはどう変わり,大学はどう受け止めるのか―
    山田 剛史
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-036
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/16
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    加速的な人口減少に端を発する人口動態の変化やAI等の技術革新に伴う産業構造の転換など,学生を待ち受ける社会環境の大きな変化は,学校教育全体に大きな影響を与えている.現在進められている高大接続改革の主眼は,点としての入試改革や,大学・高等学校における教育改革を別個に進めることのみに非ず,学校から社会へのトランジションを円滑に進めるために,共通の枠組み・言語の元で,学校段階を超えて生徒・学生の学びと成長を最大化しようとするものである.

    これまで行われてきた座学中心の授業や暗記型の学習といった狭義の学力養成から,主体的・対話的で深い学びや探究的な学び,社会に開かれた教育課程の実現へと教授・学習パラダイムの転換が図られる.社会(出口),高校(入口)双方が大きく変わろうとする中で,大学はそれをどう受け止め,教育の転換を図ることが求められるのだろうか.教育政策,統計データ,実践を踏まえて考えたい.

誌上シンポジウム:若手薬剤師が考える薬学教育の課題とその対策
  • ―臨床研究結果の教育への応用に着目した検討―
    庄司 雅紀
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-020
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
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    薬剤師業務の比重は世界的に「対物から対人へ」とシフトされつつある.対人業務の強化は,医薬分業の意義を確立し,患者の薬物治療をより円滑に実践するうえで重要である.これを実践するためには,薬剤師のコミュニケーション能力の向上が不可欠である.現在,6年制薬学教育内に設けられた臨床実習の事前学習で,学生は服薬指導や疑義照会,在宅業務等で必要となる基本的な医療コミュニケーションについて網羅的に学習することが可能である.しかし,今後対人業務の強化を目指すためには,コミュニケーション能力を更に向上させるための追加的な教育が必要ではないかと考えられる.私はこの具体的な方法として,既存の面談技術や取り組みの,薬学教育への応用が効果的ではないかと考えている.本稿では,既存の面談技術や取り組みを薬剤師版に応用した介入効果を取り上げ,医療コミュニケーション教育への応用の可能性について議論したい.

  • 芳竹 美帆
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-019
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
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    病棟専任薬剤師として業務を行う上で様々な問合せをうけるが,単に『返答する』だけでなく,症例に対し『ディスカッションできる』薬剤師が求められている事を昨今強く感じている.しかし,そのためには薬に関する知識に加え,病態に関する知識や症例自体を多角的に評価する能力も求められるため,多くの知識と経験が必要不可欠である.当院では実際の症例を通して得た知識の共有と多角的評価の気づきを目的とし,若手薬剤師を中心に症例検討会を実施し,様々な切り口で議論を交わしている.当院の薬学実務実習生には,実際に症例検討会を見学・体験してもらい,病態評価の訓練としてもらっている.今回,実際に筆者が本症例検討会で取り上げた症例を提示し,多角的な病態評価の重要性について,またその為に必要な大学における教育体制について考えていきたい.

  • 森川 祥彦, 池村 健治, 岩本 卓也
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-044
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
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    改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム(改訂コアカリ)に「災害時医療と薬剤師」の項目が新設された.災害時医療教育の教育プログラムに決まった方法はなく,教育現場や施設により異なる.三重大学医学部附属病院薬剤部における災害時医療の実習では,災害時の医療ニーズやマネジメントについての講義を行い,①災害に対する病院薬剤師としての備え,②支援に向かうまたは支援を受ける病院薬剤師として必要な対応の2課題についてブレインストーミングを実施し,KJ法を用いた学生の意見を集約している.ブレインストーミングの結果から,災害時医療の「モノ」に関する理解はできているが,「体制整備」に関する理解は乏しいことが明らかとなった.また,実習前後のアンケート結果から,ブレインストーミングのような体験型学習が効果的であることが示唆された.今後の課題としては,災害時の薬薬連携について意識できるような教育の実施が必要と考えられる.

誌上シンポジウム:薬学教育における臨床研究の効果―医療現場の教育に学ぶ―
原著
  • ―薬学・生命科学専門分野の教員と英語教員はどのようにコラボレーションできるか―
    近藤 雪絵, 木村 修平, 山中 司, 山下 美朋, 井之上 浩一
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-011
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/16
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    立命館大学薬学部ではディプロマ・ポリシーにおける教育目標の一つである「国際社会でも活躍できる英語での情報収集・発信能力」を涵養するため,「プロジェクト発信型英語プログラム」(Project-based English Program: PEP)を導入し,専門英語を含む英語科目を系統的に配置している.本稿では,専門性の高い領域での英語発信力を育成するために,専門教員と英語教員がどのようにコラボレーションできるかを,専門教員,専門知識を持たない英語母語話者,社会人による学生のプレゼンテーションの評価分析を元に論じた.専門教員はテーマの絞り込みや深め方,英語教員は成果を広く発信する際にどう社会に関連させ伝えるかという点でアドバイスを行い,学生自身がその中で自分の意見をさらに深めるという協同が実現することにより,発信力を “I(自身)”,“Me(客観的に捉えた自身)”,“Connection(自身と他者あるいは社会とのつながり)” の観点から涵養できるという示唆が得られた.

  • ―グループワークのファシリテーション導入による学修効果の検討―
    栗尾 和佐子, 木下 将吾, 小倉 力斗, 出納 いずみ, 永田 実沙, 上田 昌宏, 串畑 太郎, 安原 智久, 曽根 知道
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-032
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/16
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    本学では1年次基礎実験実習に2年生が支援・指導を行うピアサポートを実施している.2018年度より,実習終了後に行っていた実習内容の口頭試問を廃し,2年生がファシリテーターを務めるグループワークを導入した.グループワーク導入により,2年生にもたらす教育効果を実習支援後のレポートのSCAT法による分析結果とルーブリックによるパフォーマンスの自己評価より検証した.また,1年生の実習に対するパフォーマンスにもたらす効果を,2年生が1年生をルーブリックで評価した結果を用いて,2017年度と2018年度を比較した.その結果,グループワークのファシリテーターを務めた2018年度の2年生は2017年度と比べて,指導方法を考えて実行する課題発見・問題解決能力,行動力が養われ,教育への意識が向上することが示された.また,2018年度の1年生はグループワークを通じて,実習についての思考や課題発見・問題解決能力が養われることが明らかとなった.

  • 永田 実沙, 上田 昌宏, 串畑 太郎, 安原 智久, 曾根 知道
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-025
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
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    Evidence levelの高い教育研究として,海外の医学教育分野ではシステマティック・レビュー等が発表されているが,日本の薬学領域の教育研究ではこれまでにevidence levelの高い検証はなされていない.本研究では教育実践に対する効果測定を行った研究が比較的蓄積されている早期臨床体験を対象としてシステマティック・レビュー及びメタアナリシスを行い,早期臨床体験の効果と薬学領域の教育研究の質の検証を行った.「薬学部」と「早期体験学習」または「早期臨床体験」の検索語を用いて論文を検索し,最終的に6文献を対象とし学習モチベーションの向上に関して効果量(比率)を算出した.その結果,早期臨床体験が学生の学習モチベーションの向上にある程度ポジティブに作用していることが明らかとなった.しかし,用いた論文のほとんどが2014年度以前の1~2年生を対象としたものであり,研究間で研究手法・検討項目の幅があり,薬学教育研究の成果は,メタアナリシスに耐える十分な蓄積がないことも示唆された.

  • 徳永 仁, 橋本 明満, 今田 史希, 瀬戸口 奈央, 緒方 賢次, 尾池 康暢, 髙村 徳人
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-026
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
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    電子付録

    薬学部におけるシミュレーション教育の効果についての客観的な報告は少ない.そこで本研究ではシミュレーション教育を導入した実習前後の調査から教育効果について検討した.シミュレーションで扱った疾患(症例)は,2013年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムに代表的8疾患として提示された「がん(慢性骨髄性白血病),高血圧症(本態性高血圧症),糖尿病(高・低血糖),心疾患(うっ血性心不全),脳血管障害(脳内出血〔クモ膜下出血〕),精神神経疾患(てんかん),免疫・アレルギー疾患(アナフィラキシーショック),感染症(尿路感染症)」である.シミュレーションを行った結果,ペーパー試験の正答率は40.0%から67.8%と有意に上昇した.通常,学習者は講義などの座学をとおして知識を学ぶが,今回の結果からシミュレーション教育が知識の修得に有効であることが示唆された.

  • 上田 昌宏, 山田 諒, 串畑 太郎, 永田 実沙, 栗尾 和佐子, 安原 智久, 曽根 知道
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-028
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー HTML

    学習方略の適切な設定は,効果的な教育を行う上で必須であるが,方略を比較,検証した研究は少ない.今回,防災に対する意識を涵養するため,シミュレーション(HUG)と講演を組み合わせた学習プログラムをデザインしたが,学習環境の制限により,方略の順序が異なる2クラスでの実施となった.本研究では,順序違いが学習効果に及ぼす影響を検証した.プログラム前後に防災に関するアンケート調査を実施し,Fisherの正確確率検定を行った.その結果,HUG先行群では,災害現場での行動に自信を持ち,上位年次での災害研修への参加意欲につながることが示され,講演先行群では,災害支援への意欲が向上することが示唆された.どちらの方略でも,受講者が災害医療を考えるきっかけとなり,被災地の様子をイメージできることが示された.1回の測定だが,学習効果に違いが出たことから,学習目標に合わせた方略をデザインし,教育を行う必要があることが示唆された.

  • 山内 理恵, 大野 修司, 中島 りり子, 井上 信宏, 久保 元, 浅井 和範
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-012
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
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    薬剤師国家試験の必須問題はCBTと共通点があり,その多くは4年次までに習得した基本的知識で対応できる.本研究では,星薬科大学の2015年度から2018年度に在籍した6年次生について,模擬試験等の成績を元に必須問題への学習到達度と国家試験成績との関連を検討した.各試験における必須問題の正答率は,6年次の9月以降大きな変動が認められなかった.また,国家試験合格者とそれ以外の学生との間には9月の段階で大きな差が生じており,合格者の正答率は常に70%以上を推移し,それ以外の学生ではほぼ70%を下回った.また,9月以降において必須問題の成績は大きく変動しなかった.これは全ての学生で必須問題に加え理論問題や実践問題への対策に多くの学習時間が費やされるためと考えられた.以上より,早期から基本的知識を身に付け,必須問題に対応できる能力を養うことが重要であると推測された.

  • 安原 智久, 串畑 太郎, 永田 実沙, 岩田 加奈, 曽根 知道
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-021
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/19
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    電子付録

    6年制薬学教育では研究能力の養成が求められているが社会調査研究に関してはほとんど行われていない.我々は将来の就職先に関わらず臨床上の問題を抽出し,適切な測定と統計解析の実践による研究ができる薬剤師の養成を目指し,基礎的な知識・理解を担保するチーム基盤型学習(TBL)と自由度の高い問題解決型学習(PBL)を共存させたハイブリッド型演習プログラムを構築した.学生の演習への意欲を高めるため,本演習はARCSモデルによる教育デザインを行い,自分たちを対象としてテーマを自由に設定し,アンケートを自作し実際に調査するという実践(Does)を行った.演習終了後に行ったアンケートからは,本演習に対して肯定感の高い層は,評価の追求や競争心の有無に関わらず,将来の研究や学会発表に対して高い関心を示した.本演習が,社会調査研究を担う能力を有する薬剤師の養成という目的を達成する可能性のある教育プログラムであることが示唆された.

  • 青江 麻衣, 朴 炫宣, 安原 智久, 串畑 太郎, 上田 昌宏, 永田 実沙, 江﨑 誠治
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-029
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー HTML

    大阪大谷大学で,薬学生にとって基本となる50個の化合物を題材とした構造式かるたを作成した.その「かるた」を活用し,薬学部初年次学生を対象に,学習に対する動機付け及び有機化学の基礎となる事項の理解や知識の定着につながるよう学習方略を立案・実践し,試験とアンケートにより評価した.アンケート結果を用いたクラスター分析より,学生は4つのクラスターに分けられた.また,自由記述について,各クラスターを目的変数として対応分析を行った結果,化学を好きと評し,「かるた」への興味をもつ傾向にある成績上位群では「復習-新しい-知識」,化学を嫌いと評する傾向にある成績下位群では「構造-覚える」などの抽出語との関連が確認された.これより,本方略を知識定着への手段とした群や「かるた」の内容の短期記憶の手段とした群などを見出すことができ,成績下位群ほど,短期記憶に頼る傾向がみられることが明らかとなった.

短報
  • 藤田 快男, 平井 一行
    原稿種別: 短報
    2020 年 4 巻 論文ID: 2019-034
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/23
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    全国より収集されたレセプト情報は,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)に格納されている.厚生労働省は汎用性が高く,様々なニーズに一定程度応えうる基礎的なデータをNDBより抽出し,NDBオープンデータとして2016年より公開した.この医療ビッグデータは全国規模での医薬品使用実績を知りうるエビデンスレベルの高い情報源であり,薬学教育に反映させることが有益であり,実状把握能力の育成が課題発見能力への発展に繋がると考えた.本稿では,年齢別処方実績,市場動向推移,複数の効能・適応を持つ医薬品に焦点を絞り,NDBオープンデータ・薬剤データの薬学教育への有用性と限界点について述べる.

  • 阿登 大次郎, 小竹 武, 小森 浩二, 森山 博由, 井上 知美, 三田村 しのぶ, 日高 眞理, 水野 直子, 廣瀬 隆, 吉田 彰彦, ...
    原稿種別: 短報
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-033
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/25
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    電子付録

    本研究は,処方解析報告書を連携ツールとした薬局病院合同教育プログラムが,実習生の処方解析能力にどのような影響を与えたかについて検証することを目的とした.処方解析報告書は,採択理由などを含む4つの大項目で構成された書式を作成した.実習生は本報告書を週1例以上提出し,実習開始1,6,11週目に報告書の内容と自身の考察を発表した.提出された報告書と発表内容に対して評価チームの薬剤師および大学教員がルーブリックを用いて評価した.実習生の報告書と発表に対する評価結果および実習後アンケートの結果から,実習11週目には,1,6週目と比べてルーブリックの全項目が有意に向上し,特に疾患を意識した症例選択能力が向上したと考えられた.また,アンケート調査から,実習生が本プログラムにより自身の成長を実感していることが明らかになったが,発表会後のフィードバック方法に今後の課題が見出された.

実践報告
  • 三浦 健, 安井 菜穂美, 篠塚 和正, 三木 知博, 野坂 和人
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 4 巻 論文ID: 2019-027
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/02
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    習熟度別講義において,通常,クラス判定テストによりクラス判定を実施することが多い.しかしこの方法は1回の試験でクラスを判定するため,運用上の種々の問題が存在する.これの解消に向けて,下級学年成績を用いた重回帰分析によって成績推定モデルを構築し,このモデルに基づき学生の推定点数を求め,これに基づきクラス判定を行う重回帰判定法を導入し,その評価を行った.本法の導入前後での成績分布の変化を検討したところ,下位学生の成績が向上している傾向が見出され,導入に先立ち行ったシミュレーション結果と一貫性がみられた.本法の導入により運用上の問題も解消したと考えられ,習熟度別講義におけるクラス判定に本法が有用であることが示された.

  • 土生 康司, 水谷 暢明, 宮田 興子
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 4 巻 論文ID: 2018-039
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/18
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    基礎系分野が臨床的課題の理解へ繋がる思考プロセスを体験するため,ジグソー法を応用したトライアルを実施した.4,5年次薬学部生21名を3班に分け,班別に化学,薬理学,病態・薬物治療学の講義を行った.各班から1名ずつ3名の班へ組み直し,各自の学習内容を伝達し合う協調的学習を行った.その後,個人及びSGDで講義内容を応用する臨床的課題に取り組み,このSGD前およびトライアル終了後にアンケート調査を実施した.講義が課題を解く参考になったという学生の評価がポストアンケートで上昇し,講義は課題に繋がる内容設定と考えられた.また,SGDにより課題を解けたという評価が高く,グループ学習の有用性が示された.実施後アンケートで高い満足度,学習意欲向上が認められたのに加え,自由記述の感想で臨床的課題と「有機化学」「考える」との関連が得られ,本トライアルの参加者が分野横断的な思考プロセスを体験できたと考えた.

  • 青江 麻衣, 江﨑 誠治, 朴 炫宣, 渡部 勇, 田中 静吾, 西中 徹
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-018
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/16
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    薬学部4,5年生の希望者を対象に,医薬品の構造式を中心とし,その特徴や性質,薬理作用など分野横断的な学習の促進を目的に,ゲーミフィケーションを活用したツールとして構造式かるたを開発した.この「かるた」を用いた教育手法として,事前学習を含めた講座対抗かるた大会を企画・運営し,大会後,アンケートを実施した.その主成分分析の結果,第1主成分は「かるた」と大会への印象が,第2主成分は大会への参加動機と事前学習が対応すると考えられた.5年生は事前学習の有無に関わらず,「かるた」及び大会への印象が良好な一方,4年生では事前学習は行われたが,相対的に「かるた」への印象は不良な傾向にあった.その要因として,実務実習によって分野横断学習に対する関心が増加したことが考えられた.また,「かるた」等への印象が不良な群も確認され,その要因には競争心の低さとの関連が考えられた.

  • 渡邊 卓嗣, 星野 祐太, 大友 眞菜, 菊地 未由, 大月 沢雄, 菅野 和彦
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-037
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
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    「薬剤師として求められる基本的な資質」の習得を目的として,5年次薬学生は改訂モデル・コアカリキュラムに準拠した病院長期実務実習の実践が求められている.本研究では,普遍的かつ質の高い参加型実務実習を遂行すべく,2種類の薬学臨床指導体制(チームアドバイザー制度および固定アドバイザー制度)を構築し,アンケート調査によりそれぞれの体制を評価・比較した.代表的8疾患の薬物療法に対する薬学生の主観的習得度は指導体制間で変化が認められず,職員の主観的指導度は4疾患において固定アドバイザー制度で高かった.また,薬学生の病棟および病院実習満足度はいずれの体制においても高い結果となり,職員の実習指導に係るストレス度や日常業務における支障度には差が認められなかった.当院のような一般病院における実務実習指導の体制整備に関するエビデンスの蓄積が,病院実務実習の均質化や普遍化に繋がるものと考えられる.

  • 渡部 俊彦, 伊藤 邦郎, 諸根 美恵子, 佐藤 厚子, 町田 浩一, 米澤 章彦
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-016
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
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    我々が2011年度~2013年度に行った調査により,東北医科薬科大学薬学部薬学科2年次に開講される免疫学の定期試験合格率が年々低下していることが明らかになった.我々は,この状況を改善するため学習心理学を取り入れた講義方法を考案し,実践した.学習心理学では,知識の修得には記銘・保存・再生の完遂が必要とされることから,免疫学の成績不振は,これら過程に不調が発生していると予想した.我々は,記銘の改善策として「プレ・ポストテストの実施」,保存の改善策として「問題を解く練習の重要性についての説明」,再生の改善策として「練習問題と解答・解説の配付」を行った.その結果,保存と再生の改善策を導入した2014年度は定期試験の平均点が前年度に比べ15点上昇し,定期試験の合格率は40.1%上昇した.また,2015年度からは保存と再生に加え記銘の改善策を導入したところ,2016年度以降の平均点は80点台にまで向上した.この教育効果は2019年度現在でも継続されており,この教育方法に高い有効性がある可能性が示唆された.

  • 青江 麻衣, 西中 徹, 江﨑 誠治
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 4 巻 論文ID: 2020-039
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/25
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    基礎学力向上を目的とした有機化学の予習動画を用いた講義型補講と問題演習型補講を実践し,各補講の教育効果を評価した.補講前の成績により学生を四分位で成績上位から第1~4群にわけた.その各群を,さらに補講受講者と非受講者に分類し,補講後の成績を比較した.予習動画を用いた講義型補講では,第3群で受講者の成績が非受講者より良好であった.また,予習動画を用いた講義型補講について実施したアンケートより,停止,巻戻し機能等の動画の特性を生かした語句があったことから,学生の理解度に応じた学習が個々に行われたことが考えられた.問題演習型補講では第2群で受講者の成績が非受講者より不良であったことから,この群では補講を受講せずに自己学習をした方が有効であったことが示された.本研究では,補講の学習方略や補講受講前の成績によって,得られる学習効果は異なることが明らかとなった.

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