薬学教育
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原著
シミュレーションと講演の組み合わせがもたらす教育効果の2群間比較による検証
上田 昌宏山田 諒串畑 太郎永田 実沙栗尾 和佐子安原 智久曽根 知道
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2020 年 4 巻 論文ID: 2020-028

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抄録

学習方略の適切な設定は,効果的な教育を行う上で必須であるが,方略を比較,検証した研究は少ない.今回,防災に対する意識を涵養するため,シミュレーション(HUG)と講演を組み合わせた学習プログラムをデザインしたが,学習環境の制限により,方略の順序が異なる2クラスでの実施となった.本研究では,順序違いが学習効果に及ぼす影響を検証した.プログラム前後に防災に関するアンケート調査を実施し,Fisherの正確確率検定を行った.その結果,HUG先行群では,災害現場での行動に自信を持ち,上位年次での災害研修への参加意欲につながることが示され,講演先行群では,災害支援への意欲が向上することが示唆された.どちらの方略でも,受講者が災害医療を考えるきっかけとなり,被災地の様子をイメージできることが示された.1回の測定だが,学習効果に違いが出たことから,学習目標に合わせた方略をデザインし,教育を行う必要があることが示唆された.

Abstract

The order of learning is considered essential for effective education, but few studies have compared and verified the order of learning strategies. This study examined the educational effect of using a different order of learning activities with pharmacy students. A class on disaster prevention divided the students into two groups and combined the Hinanzyo Unei Game (HUG), a disaster management game based on evacuation center simulations, with a lecture. Due to the learning environment’s constraints, one group experienced the HUG simulation before the lecture, and the other group completed the simulation after the lecture. Questionnaires on disaster prevention were conducted before and after the class. The results indicated that the group that experienced the HUG simulation first were more confident in their actions at the simulated disaster site and were willing to participate in disaster training during their senior year. In the lecture-first group, the students appeared to be more motivated in disaster support. Both strategies provided participants with an opportunity to develop awareness about disaster medicine and imagine a disaster area situation. This study was based on a single assessment, but the results suggest that educational strategy should be designed and taught in accordance with the learning objectives.

緒言

学習者の学習効果を高めるためには,学習方略を適切にデザインする必要がある.旧4年制での薬学教育においては講義,実験実習が中心であったが,薬学教育の6年制への移行,中央教育審議会によるアクティブラーニング導入の推奨により1),主体的・対話的で深い学びを促す方略が急速に普及し,大学教育での学習は多様な方略を採用している2).学習方法の検証は,幅広く行われており,それぞれ学習効果が報告されている.例えば,講演は一人の演者が大人数を対象として,多くの情報を系統だって提供することが可能な手法である3).また,学習者は,これまでの経験と講演内容を統合することで,理解の深化が期待できる.他方で,シミュレーション学習は,複数人の指導者が必要であるが,学習者の積極的な参加を促し,既存の学習内容を応用させ,理解を深めるとともに,メタ認知的側面が期待できる特徴がある3,4).既に我々は大学教育において,低学年次から防災に対する意識を涵養し,災害医療に対する学習の動機付けとするため,静岡県の開発した避難所運営ゲーム(Hinanzyo Unei Game, HUG)5) を用いた災害教育に取り組んでいる6).HUGは医療知識を問わず,被災地・避難所の状況を具体的に想像させることができるツールであるため,地域住民の訓練,福祉大学,他の薬学部においても,幅広く用いられており710),低学年次の学習においても導入可能な机上シミュレーションである.今回,さらに災害時の医療現場,薬剤師の役割を受講者にイメージさせるために,HUGに加え,災害医療を経験した薬剤師による講演を導入し,シミュレーションと講演を組み合わせた学習方略をデザインした.しかし,HUG実施には多くの人的・物的資源を要すること,および講演を行う外部講師の都合といった学習環境の制限を受けたため,2クラスに分かれての実施となり,学習方略の順序に違いが生じた.具体的には,講演による災害医療の経験談から薬剤師のふるまいや役割を認識した後に,HUGにより被災地を仮想体験する方略に対し,先にHUGによる避難所運営シミュレーションを行い,その後の講演で,仮想体験と災害医療の紐づけをし,理解を深める方略となった.同一集団内における学習方略の教育効果を比較することは,教育機会の差や心理的影響が生じる観点から,現在の薬学教育研究の領域では実施することは許容されておらず,薬学生を対象とした報告はない.そこで,我々は,学習環境上の制限から方略が異なってしまった学生の学びを確認する必要性があり,薬学生に対する講演とHUGを行う方略の順序の違いが学習効果にどのような影響を及ぼすかを検証した.

方法

1.授業の概要

2018年度の2年次生232人を対象とし,HUGの実施と講演をそれぞれ受講するプログラムとした(表1).講演は,災害医療の現状と薬剤師の役割を知ることを目的とし,災害医療の経験がある薬剤師が,災害現場・災害医療の現状や災害時の薬剤師の役割・活動内容に関する内容とした.意図的な群分けを避けるため,他の授業で行われている出席番号による2群分けを適用した.出席番号が前半の群は先にHUGを実施してから講演を聞くHUG先行群とし,出席番号が後半の群は講演後にHUGを実施する講演先行群とした.なお,HUGと講演の順序以外は内容に差が出ないように配慮して行った.HUGは,1グループ当たり受講生5~6名に対してファシリテーターを1名の構成とした.ファシリテーターは,既にHUGを経験した3年次生がトレーニングを受けて担当した.本プログラムは両群とも同日に実施し,HUG先行群を午前,講演先行群を午後に実施した.

表1 本プログラムのタイムスケジュール
所要時間 HUG先行群(n = 113) 講演先行群(n = 112)
プレアンケート
20分 ゲーム説明
15分 図面確認・作戦会議
60分 避難所運営ゲーム(HUG)
25分 教員によるフィードバック
50分 休憩
プレアンケート
60分 講 演
ポストアンケート・解散
20分 ゲーム説明
15分 図面確認・作戦会議
60分 避難所運営ゲーム(HUG)
25分 教員によるフィードバック
ポストアンケート・解散

2.受講者アンケートの内容

両グループそれぞれにおいて,本プログラム開始前にプレアンケートとして,本プログラム終了時にポストアンケートとして,同一のアンケートを行った(図1).アンケート内容は,5件法を用い,災害時の対応(Q1, Q2, Q5, Q29),災害医療への参加(Q4, Q7, Q9, Q11, Q12, Q15, Q17, Q20–Q22, Q30),薬剤師の災害医療での必要性(Q3, Q10, Q25–Q28),被災地のイメージ(Q18, Q23, Q24),災害教育の必要性(Q6, Q8, Q13, Q14, Q16, Q19)とした.

図1

アンケート内容

3.受講者アンケート解析

2度目の受講者を除外するために,2017年度入学生を解析対象とし,未回答項目や複数回答した項目のあるような記載内容に不備のあるアンケートを解析から除外した.回収したアンケートの解析は,JMP Pro13.1(SAS Institute Inc)で行った.解析方法は,Fisherの正確確率検定を用い,有意水準を0.05とした.統計解析者は,本プログラムのデザイン,実施および,アンケートの回収に関与していない.各得点を平均値で議論することは必ずしも適切ではないが,視覚的に理解しやすいため,平均値 ± 標準偏差を算出した.

4.倫理的配慮

アンケート実施に当たり,アンケートの回答内容や回答の有無が成績等に影響を与えないこと,自分自身の判断のみで自由にアンケートに回答して良いことを説明した.研究目的に同意出来る場合は,アンケートへの協力を依頼した.プレアンケートはプログラム前に,ポストアンケートはプログラム後に実施し,授業時間への影響がないように配慮した.本研究は,摂南大学人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2014-48).

結果

授業を欠席した学生を除いた受講者はHUG先行群113名,講演先行群112名であった.アンケートの有効回答数は,HUG先行群のプレアンケート93名,ポストアンケート94名,講演先行群のプレアンケート104名,ポストアンケート106名であった.

アンケートの単純集計および各項目のプレアンケートとポストアンケートを比較したFisherの正確確率検定の結果を表2に示す.

表2 プレ/ポストアンケート結果
No. HUG先行群 講演先行群
1 2 3 4 5 平均値 ± 標準偏差 p値 1 2 3 4 5 平均値 ± 標準偏差 p値
Q1 Pre 12 34 33 9 5 2.58 ± 1.01 0.0441 14 36 29 24 3 2.68 ± 1.05 0.6052
Post 6 23 40 21 4 2.94 ± 0.95 21 34 33 17 3 2.53 ± 1.06
Q2 Pre 3 7 15 40 28 3.89 ± 1.03 0.4140 0 7 22 42 35 3.98 ± 0.90 0.0225
Post 1 3 12 41 37 4.17 ± 0.85 2 4 12 35 55 4.26 ± 0.94
Q3 Pre 13 29 40 7 4 2.57 ± 0.97 <0.0001 14 37 37 14 4 2.63 ± 0.99 <0.0001
Post 1 10 22 53 8 3.61 ± 0.83 4 16 31 47 10 3.42 ± 0.95
Q4 Pre 9 18 36 23 7 3.01 ± 1.07 0.0719 15 14 49 22 6 2.94 ± 1.04 0.0101
Post 6 11 27 39 11 3.40 ± 1.05 10 21 28 37 12 3.20 ± 1.14
Q5 Pre 8 16 42 16 11 3.06 ± 1.08 0.0004 11 27 37 27 4 2.89 ± 1.02 0.0076
Post 4 9 26 44 11 3.52 ± 0.97 8 11 40 34 15 3.36 ± 1.06
Q6 Pre 1 1 16 39 36 4.16 ± 0.82 0.7633 1 7 22 45 31 3.91 ± 0.93 0.0927
Post 0 2 13 45 34 4.18 ± 0.75 3 1 15 49 40 4.15 ± 0.84
Q7 Pre 3 14 37 29 10 3.31 ± 0.97 0.1844 8 19 46 27 6 3.07 ± 0.97 0.0045
Post 3 7 29 39 16 3.62 ± 0.96 10 9 30 44 15 3.44 ± 1.10
Q8 Pre 0 2 16 45 30 4.11 ± 0.76 0.9701 1 7 26 43 29 3.90 ± 0.89 0.0637
Post 0 2 14 46 32 4.15 ± 0.75 3 3 17 39 46 4.15 ± 0.92
Q9 Pre 7 4 41 29 12 3.38 ± 1.02 0.3777 8 14 46 31 7 3.18 ± 0.95 0.0216
Post 6 5 29 36 18 3.59 ± 1.06 5 12 31 40 20 3.57 ± 1.04
Q10 Pre 1 0 15 38 39 4.23 ± 0.80 0.2659 2 2 19 39 44 4.16 ± 0.86 0.8930
Post 2 4 18 38 32 4.00 ± 0.95 3 3 23 40 39 4.04 ± 0.94
Q11 Pre 0 4 23 31 35 4.04 ± 0.90 0.3898 3 5 20 38 40 4.04 ± 0.97 0.9938
Post 0 5 17 42 30 4.03 ± 0.85 2 6 19 39 42 4.08 ± 0.94
Q12 Pre 3 7 26 42 15 3.63 ± 0.95 0.5209 5 12 46 30 13 3.34 ± 0.97 0.0684
Post 4 8 24 34 24 3.70 ± 1.08 6 6 34 44 18 3.61 ± 0.98
Q13 Pre 4 2 21 48 18 3.80 ± 0.93 0.3669 4 5 29 39 29 3.82 ± 0.99 0.7987
Post 1 4 28 40 21 3.81 ± 0.87 4 5 22 42 35 3.94 ± 0.99
Q14 Pre 0 1 19 45 28 4.08 ± 0.74 0.3252 2 4 27 47 26 3.88 ± 0.86 0.7614
Post 1 5 23 42 23 3.86 ± 0.89 3 4 20 50 31 3.96 ± 0.89
Q15 Pre 2 3 26 46 16 3.76 ± 0.85 0.1793 4 8 37 42 15 3.55 ± 0.93 0.1878
Post 3 3 26 33 29 3.87 ± 1.00 1 6 30 46 25 3.83 ± 0.84
Q16 Pre 1 3 32 49 8 3.65 ± 0.73 0.0284 6 7 34 41 18 3.59 ± 1.00 0.2968
Post 1 5 28 37 23 3.81 ± 0.91 3 4 25 51 25 3.86 ± 0.88
Q17 Pre 2 4 26 43 18 3.76 ± 0.89 0.8248 4 6 32 40 24 3.73 ± 0.98 0.9457
Post 3 7 27 37 20 3.68 ± 1.00 3 6 29 40 30 3.83 ± 0.96
Q18 Pre 9 27 38 15 4 2.76 ± 0.98 <0.0001 16 38 29 23 0 2.58 ± 0.99 0.0003
Post 0 10 33 43 8 3.52 ± 0.80 10 17 42 31 8 3.10 ± 1.04
Q19 Pre 1 5 21 48 18 3.83 ± 0.84 0.5911 2 8 30 48 18 3.70 ± 0.88 0.3486
Post 0 6 19 43 26 3.95 ± 0.86 2 2 29 53 22 3.86 ± 0.79
Q20 Pre 2 4 29 42 16 3.71 ± 0.88 0.9540 4 5 37 44 16 3.62 ± 0.91 0.2487
Post 3 4 25 43 19 3.76 ± 0.94 3 9 24 47 25 3.74 ± 0.99
Q21 Pre 1 5 39 30 18 3.63 ± 0.89 0.3309 4 9 45 31 17 3.49 ± 0.96 0.9095
Post 5 7 32 36 14 3.50 ± 1.01 4 9 39 34 22 3.58 ± 0.99
Q22 Pre 5 12 41 24 11 3.26 ± 1.01 0.5121 10 12 52 18 14 3.17 ± 1.06 0.6677
Post 4 13 31 29 17 3.45 ± 1.07 7 13 45 27 16 3.31 ± 1.05
Q23 Pre 8 28 42 10 5 2.74 ± 0.95 <0.0001 15 24 39 24 4 2.82 ± 1.06 0.0159
Post 1 10 26 44 13 3.62 ± 0.89 5 13 47 35 8 3.27 ± 0.91
Q24 Pre 9 29 28 22 5 2.84 ± 1.07 <0.0001 15 21 42 21 7 2.87 ± 1.10 0.0034
Post 1 9 25 45 14 3.66 ± 0.89 3 20 35 38 12 3.35 ± 0.98
Q25 Pre 2 8 22 36 24 3.78 ± 1.00 0.7058 4 12 30 31 29 3.66 ± 1.08 0.5531
Post 0 6 22 37 29 3.95 ± 0.90 2 11 24 42 29 3.81 ± 0.99
Q26 Pre 2 9 31 40 11 3.53 ± 0.90 0.7474 3 14 38 38 13 3.43 ± 0.94 0.1617
Post 1 5 30 45 13 3.68 ± 0.82 3 5 42 36 22 3.65 ± 0.92
Q27 Pre 1 8 28 41 15 3.66 ± 0.89 0.1364 2 8 34 44 18 3.65 ± 0.88 0.4586
Post 2 1 35 42 14 3.69 ± 0.82 2 3 33 46 24 3.83 ± 0.84
Q28 Pre 0 7 27 41 18 3.75 ± 0.86 0.4211 1 5 34 47 19 3.76 ± 0.81 0.3060
Post 0 2 30 43 19 3.84 ± 0.77 4 2 33 44 25 3.80 ± 0.92
Q29 Pre 4 3 38 36 12 3.53 ± 0.92 0.5965 3 7 55 30 11 3.38 ± 0.84 0.9050
Post 3 7 32 36 16 3.59 ± 0.97 4 6 50 35 13 3.45 ± 0.89
Q30 Pre 2 9 37 32 13 3.48 ± 0.93 0.7262 5 12 41 35 13 3.38 ± 0.98 0.2079
Post 2 9 29 36 18 3.63 ± 0.97 4 5 46 31 22 3.59 ± 0.96

Fisher’s exact test

プレアンケートにおける全ての項目で両群間に統計的な差はなかった(全項目,p > 0.05).両群ともに,平均値が2台の項目はQ1,Q3,Q18,Q23,Q24であり,平均値が4以上の項目はQ10,Q11であった.

1.プレ/ポストアンケートの比較結果

両群において,意識が大きく向上した項目は,Q3(HUG先行群p < 0.0001,講演先行群p < 0.0001),Q5(HUG先行群p = 0.0004,講演先行群p = 0.0076),Q18(HUG先行群p < 0.0001,講演先行群p = 0.0003),Q23(HUG先行群p < 0.0001,講演先行群p = 0.0159),Q24(HUG先行群p < 0.0001,講演先行群p = 0.0034)の5項目であった.

HUG先行群において,意識が大きく向上した項目は,Q1(p = 0.0441),Q16(p = 0.0284)の2項目であった.意識が低下傾向であった項目は,Q10(p = 0.2659),Q11(p = 0.3898),Q14(p = 0.3252),Q17(p = 0.8248),Q21(p = 0.3309)の5項目であった.一方,講演先行群において,意識が大きく向上した項目は,Q2(p = 0.0225),Q4(p = 0.0101),Q7(P = 0.0045),Q9(p = 0.0216)の4項目であった.意識が低下傾向であった項目は,Q1(p = 0.6052),Q10(p = 0.8930)の2項目であった.

考察

プレアンケートの単純集計の結果からは,両群間に統計的な差がなく,受講前のHUG先行群と講演先行群の受講生の災害に対する意識に偏りはなかった.両群ともに否定的な回答が多かった項目(Q1, Q3)から,いずれも受講生は,災害時の状況を想像できておらず,自分の行うべき行動を思い描けていないと考えられる.さらに,2年次では,医療・薬学的な専門知識を十分に習得していないため,災害医療についてのイメージができなかったものといえる(Q18, Q23, Q24).一方で,肯定的であった項目(Q10, Q11)から,災害時には薬剤師が必要と考えており,自身らが目指す職種への期待が高いと考えられる.

プレ/ポストアンケートの比較結果から,両群ともに,被災地のイメージに関する項目(Q3, Q18, Q23, Q24),災害時の貢献(Q5)が大きく向上している.HUGによって避難所の様子をイメージし,講演によって災害医療を想像でき,災害時に出来ることがあると認識できたものと考えられる.一方で,「Q10.薬剤師は災害時にも貢献できる職種だと思いますか?」に関して,統計的な差はないが,両群ともに低下傾向を示していた.受講前の薬剤師への期待が高い,あるいは好意的にとらえていた受講者が,プログラムを受講することで,災害医療に貢献することの難しさを感じたものと考えられる.その他の項目によってはポストアンケートで低下傾向を示しているものもあるが,概ね肯定的な結果が得られた.

HUG先行群は,HUGでの行動内容が,講演と関連付くことにより,自身の行動を省察できた群である.その結果,災害現場での行動に自信を持ち(Q1),医療・薬学的な専門知識を獲得した上位年次での高度な災害研修への受講意欲の向上をもたらしたと考えられる(Q16).一方で,統計的な差はないが,低下傾向を示した項目(Q14, 21)は,講演内容が印象に残らなかったことが反映され,講演直後に回答した受講者の意識が低下したものと推測される.HUG先行群は,50分の休憩が設定されており,講演先行群の受講者と情報共有が行われた可能性は否めないが,HUGやアンケートが事前知識を活用できるような内容ではないため,アンケート結果に大きな影響はないと考えられる.

講演先行群は,講演内容から得られた情報を活用しながら,HUGに取り組んだ群である.災害支援への意欲の向上につながっており,低学年次学生に対し,興味を持たせるのに適した方略と考えられる(Q2, Q4, Q7, Q9).その一方で,HUG先行群では有意に向上していた行動への自信は,消極的になっている(Q1).受講者は,講演によって得た学習内容をHUGで上手く活用できず,自身の知識,経験不足を感じたものと推測される.他の科目での学習あるいは参加型災害教育プログラムの実施による学習と訓練を繰り返し行うことが必要と考えられる.例えば,両群で示された災害教育への学習意欲を満たすために,学内外の参加型研修会への参加を促すことが考えられる.本学では,地震災害を想定した薬学部,看護学部を擁する枚方キャンパスの実働型防災訓練を,教職員,事務職員,任意の4年次以降の研究室に配属された学生と合同で行い,避難所運営訓練,救護所運営訓練,情報伝達訓練を提供している.医療・薬学的な専門知識をもった上位学年が,災害現場でのふるまいを経験でき,災害医療教育を6年かけて育んでいくことを目指している.

以上,シミュレーションと講演を組み合わせた学習方略を実施することで,順序違いの方略であっても,目的としていた災害医療を考えるきっかけとなり,被災地をイメージ付けできる教育効果が得られるプログラムであることが示唆された.さらに,HUG先行,講演先行のような方略を変えることで,受講者の学習効果に違いをもたらしたため,教育目標に合わせて順序まで含めた方略を選択し,教育を進めていく必要がある.ただし本研究は,1度の測定結果に基づいていることに留意しなければならない.同一の状況を意図的に作って繰り返し実施するには制限が大きく,積極的に検証を進めていくことは困難であるが,今後このような機会を得ることができれば,データを収集,蓄積していくことが望まれる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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