2020 年 4 巻 論文ID: 2020-031
今日の大学入試改革は,高校教育および大学教育の改革と一体となって,高大接続を円滑化することを目的としている.そのなかで,大学入試センター試験に代わって2021年度入試から実施される大学入学共通テストでは,マークシート式問題で「思考力・判断力・表現力」を評価する工夫・改善がなされる.本稿では,まず大学入学共通テストのねらいを概観したうえで,「思考力・判断力・表現力」のなかでも明確な定義が難しい思考力に焦点を当て,多肢選択式の共通試験において扱うことのできる思考力とはどのようなものかを吟味した.そして,各科目での論理的思考や批判的思考を支える関連づけの技能に着目し,それらを習得知識とともに活用する問題,あるいは思考の成果としての深い理解を問う問題を工夫することで,思考する力を間接的に評価する方向を示した.
Current reforms in the university entrance examination aim at a smooth transition between high school and university, each educational reform simultaneously taking place today. As a part of the new entrance examination reform, the National Center Test will be replaced by the new Common Test from 2021 with an emphasis on the assessment of “thinking, judging, and expressing” skills through a multiple-choice format. Because thinking skills are the most elusive in definition among the three skills, this paper discusses the purpose of the Common Test and the unique characteristics of thinking skills as assessed by the multiple-choice test. The proposed direction is a need to focus on the subskills of connecting subject-specific information that support logical thinking and critical thinking, and the indirect assessment of thinking skills by requiring either the application of those subskills on acquired content knowledge or the demonstration of a deep understanding as the outcome of thinking.
2019年4月から,大学入学共通テスト(以下,新テスト)の本番に向けた作題プロセスがスタートした.もともと新テストは,これまでの大学入試センター試験(以下,センター試験)と違い,英語外部試験の利用と国語・数学での記述式問題の導入,および「思考力・判断力・表現力」に焦点を当てたマークシート式問題の改善に大きな特徴があった.しかし,周知のように前二者については,2019年11月,12月に相次いで見送りとなり,新たに設置された「大学入試のあり方に関する検討会議」において今後の方向が急ピッチで検討されているところである.したがって,新テストの当面の特徴は,マークシート式問題で「思考力・判断力・表現力」を評価する工夫が加わるという点である.
本稿は,新テストのねらいを概観したうえで,「思考力・判断力・表現力」のなかでも特に思考力について,その捉え方と評価のあり方を吟味し,大学入試での共通試験の意義と限界を共有することを目的とする.
まず,新テストとセンター試験の実施大綱を比べることで,新テストの特徴を確認しておく(表1).「第1 実施の趣旨」を比較すると,文言の移動や調整があってややわかりにくいが,新テストに「各教科・科目の特質に応じ,知識・技能のみならず,思考力・判断力・表現力も重視して評価を行うものとする」とある点が新たに加わったものである.この表現は,2017年7月に文部科学省が公表した「大学入学共通テスト実施方針」における「各教科・科目の特質に応じ,知識・技能を十分有しているかの評価も行いつつ,思考力・判断力・表現力を中心に評価を行うものとする」という表現よりも思考力等を後退させた印象があり,恐らく2017年と2018年に行われた試行調査の結果等を踏まえて,共通試験としての現実的なあり方をめざしたものと思われる.
令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱(2019年6月4日付通知より抜粋) | 平成32年度大学入学者選抜に係る大学入試センター試験実施大綱(2018年6月4日付通知より抜粋) |
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第1 実施の趣旨 大学入学共通テストは,大学(専門職大学及び短期大学(専門職短期大学を含む.以下同じ.)を含む.以下同じ.)への入学志願者を対象に,高等学校(中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部を含む.以下同じ.)の段階における基礎的な学習の達成の程度を判定し,大学教育を受けるために必要な能力について把握することを目的として,これを利用する各大学(以下「各大学」という.)が共同して実施するものである. 大学入学共通テストでは,各教科・科目の特質に応じ,知識・技能のみならず,思考力・判断力・表現力も重視して評価を行うものとする.各大学は,大学教育を受けるにふさわしい能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定することに資するため,それぞれの判断と創意工夫に基づき,これを適切に利用するものとする. 各大学は,大学入学共通テストが,各大学が共同して実施する試験であることを踏まえ,独立行政法人大学入試センター(以下「大学入試センター」という.)との緊密な連絡体制の下に,試験問題の作成を担当する大学教員の派遣や実際の試験実施業務の遂行等に責任を持って取り組むものとする. (中略) |
第1 実施の趣旨 大学入試センター試験は,入学志願者の高等学校の段階における基礎的な学習の達成の程度を判定することを主たる目的とするものであり,大学(専門職大学及び短期大学(専門職短期大学を含む.以下同じ.)を含む.以下同じ.)が,それぞれの判断と創意工夫に基づき適切に利用することにより,大学教育を受けるにふさわしい能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定することに資するために実施するものとする. また,大学入試センター試験は,これを利用する各大学(以下「各大学」という.)が共同して実施する試験であることを十分に認識し,試験の実施に際しては,試験問題作成を担当する大学教員の派遣や実際の試験実施業務を担当すること等,独立行政法人大学入試センター(以下「大学入試センター」という.)との緊密な連絡体制のもと,各大学それぞれが責任を持って取り組むものとする. (中略) |
第3 各大学における利用 1 各大学は,入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)に基づき,大学入学共通テストの利用方法を定めるものとする. なお,入学志願者が高等学校で学んだ多様な成果を評価できるよう,できるだけ多くの教科・科目を指定することが望ましい. (後略) |
第3 各大学における利用 1 各大学は,それぞれの判断と創意工夫に基づき,又は各大学の加盟する団体において協議されたところに沿って,大学入試センター試験の利用方法を定めるものとする. (後略) |
注:下線は筆者による.
一方,「第3 各大学における利用」では文言が大きく変わり,新テストでは「入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)に基づき」,かつ「できるだけ多くの教科・科目を指定することが望ましい」とされている.これらは,「大学入学共通テスト実施方針」と同時に発出された「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」において,入学者受入れの方針に沿った多面的・総合的な評価を行う,また大学での学習に円滑につながるよう高校学習の十分な評価を行う,といった要請がなされていることと軌を一にしている.高校教育から大学教育までを一体として改革しようとする今日の高大接続改革では,必然の流れといってよいであろう.
ところで,センター試験において思考力等を問う問題がなかったかといえば,決してそうではない.センター試験の作題にあたっても,基礎的事項の理解の程度を見るほか,思考力や応用力を見る問題を積極的に出題する方針がとられており,試験後に行われる高校関係者や関連学協会による試験問題評価委員会からは一定の評価を得てきた.
表2は,新テストとセンター試験でのマークシート式問題の作題ないし評価の観点を比較したものである.右欄のセンター試験の評価においては,②の「単に知識だけではなく,思考力や応用力等を問う問題も含まれている」を含め,いずれも5段階評価でほぼ5または4の評価を得てきている.もちろんさらに工夫・改善すべきことは当然だが,センター試験がいわゆる知識問だけで構成されていたわけでは決してなく,思考力等を反映した問題の作成にも意を砕いてきたことは確認しておきたい.
マークシート式問題作成の留意点1)(大学入学共通テスト) | 試験問題評価委員会の評価観点(センター試験) |
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① 出題者が問題文で示した流れに沿って解答するだけでなく,問題解決のプロセスを自ら選択しながら解答する部分が含まれるようにする ② 複数のテキストや資料を提示し,必要な情報を組み合わせ思考・判断させる ③ 分野の異なる複数の文章の深い内容を比較検討させる ④ 学んだ内容を日常生活と結びつけて考えさせる ⑤ 他の教科・科目や社会との関わりを意識した内容を取り入れる ⑥ 正解が一つに限られない問題とする ⑦ 正解を選択肢の中から選ばせるのではなく,必要な数値や記号等をマークさせる |
① 高等学校学習指導要領の範囲内から出題されている ② 単に知識だけではなく,思考力や応用力等を問う問題も含まれている ③ 出題内容は,特定の分野・領域や特定の教科書に偏っていない ④ 試験問題の構成(設問数,配点,設問形式等)は適切である ⑤ 文章表現・用語は適切である ⑥ 問題の難易度は適正である ⑦ 得点のちらばりは適正である |
注:1)「大学入学共通テスト実施方針策定に当たっての考え方」(p. 33)より.下線は筆者による.下線を付したもの以外はすでにセンター試験でも作題されている.なお,同考え方では「選択式でありながら複数の段階にわたる判断を要する問題とする」という項目も含まれていたが,これは問題作成の検討過程で削除された.
新テストについては,先述の「大学入学共通テスト実施方針」とともに公表された「大学入学共通テスト実施方針策定に当たっての考え方」のなかで,表2の左欄に示すような作題の留意点が挙げられている.但しその半数(②④⑥⑧)は,すでにセンター試験においても工夫されてきたものである.新テストでは,いわゆる連動型の問題(連続する複数の問いにおいて,前問の答とその後の問いの答を組み合わせて解答させるもので,正答となる組合せが複数存在する)や,分野の異なる複数の文章の読解,他の教科・科目や社会との関わりを意識した内容等を含めることになった.
ここで着目すべきは,これらの作題の留意点から,新テストにおいて思考力等を問うための道具立てを読み取ることができるという点である.解答の仕方に関わる項目(①⑥⑦)は,単純な再認課題としない工夫であり,問題素材に関わる項目(②③④⑤)は,複数のテキストや資料,分野の異なる複数の文章,日常生活や他の教科・科目,社会との関連を取り上げて,情報活用力や知識の応用力を問うものということができる.
加えて,2019年6月に公表された「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」では,「高等学校における『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等を基に考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する」とされ,高校教育改革への寄与をも視野に入れた作題方針が示されている.
もっとも,こうした方向は,各教科・科目の「基礎的な学習の達成の程度を判定」するという共通試験の目的と齟齬をきたす虞もある.必要以上に問題設定の文章が長くなったり解答方式が複雑になったりすると,そのことの影響で,本来測ろうとしている基礎学力が十分結果に反映しないからである.また,複数の資料を活用する場合,教科・科目の知識や技能をほとんど要しない単なる読解や数値の読み取りの問題と化してしまうことがある.分野の異なる素材や他の教科・科目の内容等が入った場合には,当該の教科・科目の試験問題として適切かどうかも問われる.さらに,「思考」を要求する問題は解答に時間を要するため,全体の設問数が少なくなって出題領域の偏りや得点の信頼性の低下を招く可能性もある.
以上を鑑みると,共通試験にどこまで思考力等を重視した問題を入れられるかにはおのずと限度があり,思考力等をていねいに評価するのは個別試験の役割であるといわざるを得ない.
新テストで実際にどのような問題が出されるかを,2018年11月実施の試行調査から,生物と日本史を例にして示してみたい.試行調査では,各教科で作問のねらいとする主な「思考力・判断力・表現力」についてのイメージ(素案)が公表されており(図1・図3)1),いずれも「検討中」とはなっているが,各教科での思考力等を評価する大まかな枠組を知ることができる.
2018年の試行調査における理科の作問のねらい
理科については,図1にみられる通り,課題の把握,課題の探究,課題の解決の各局面に分けて思考力等を整理している.具体例として,生物の問題を図2に挙げる.この問題では,ある市長が「あなた」にリスの生息状況等の調査を依頼するという,一種のプロジェクト学習の場面を設定している.そのうえで,図1での「観察・実験等の結果を分析・解釈することができる」(課題の探究)に対応した設問が並んでいる.解答はいずれも6つの選択肢から1つを選択する単純な形式だが,この問題の難易度は比較的高く,問1の正答率は17%(正答選択肢は①),問2の正答率は31%(正答選択肢は②)であった.なお,試行調査には高校2年生と3年生が参加しており,生物では3年生の割合が86%であった.
2018年の試行調査の問題例(生物)
歴史については,図3にみられる通り,大きく考察・構想と説明に分けて思考力等を整理している.日本史の問題例を図4に挙げる.この問題では,近現代史の授業での調べ学習の発表場面を設定している.特定の人物(夏目漱石)について4肢選択で問うた問1の正答率は29%(正答選択肢②)とやや難しく,歴史的事象の意義を問うた連動型の解答形式の問7は,正答率75%(正答選択肢①-⑤または②-⑦)と比較的易しい問題であった.日本史での3年生の割合は84%であった.
2018年の試行調査における歴史の作問のねらい
2018年の試行調査の問題例(日本史)
以上,わずか2例ではあるが,新テストの作題傾向が窺えるのではないだろうか.また,設問内容や解答形式と難易度との間に特定の関連がみられるわけでもないことがわかる.
さて,「思考力・判断力・表現力」のなかで,最も重要でありながら明確に定義しにくいものが「思考力」であろう.ここであらためて,多肢選択式の共通試験において扱う思考力とはどのようなものかを吟味しておく.
思考力の定義には様々なものがあるが,日本の学校教育との関連での一つの整理として,国立教育政策研究所による「21世紀型能力」の概念図を示す(図5).この図では,21世紀型能力が基礎力・思考力・実践力から構成され,この三者が入れ子構造になって相互に規定しあう関係にある.その中核となる思考力は,「一人ひとりが自ら学び判断し自分の考えを持って,他者と話し合い,考えを比較吟味して統合し,よりよい解や新しい知識を創り出し,さらに次の問いを見つける力」と定義され,「問題の解決や発見,アイデアの生成に関わる問題解決・発見力・創造力,その過程で発揮され続ける論理的・批判的思考力,自分の問題の解き方や学び方を振り返るメタ認知,そこから次に学ぶべきことを探す適応的学習力等から構成される」2).
「21世紀型能力」の概念図(文献2,p. 26)
ここでの思考力は,広義の問題解決プロセスを主体的・対話的・創造的に推進していく複合的な能力として捉えられている.一方,多肢選択式の共通試験では,受験者全員に同じ状況設定がなされ,限られた情報資源と特定の問い方に従いながら,短時間で解答を進めていく,という不自由な思考力を問うことになる.しかも競争試験であることから,高得点を挙げるための様々な方略を要する特殊な問題解決場面でもある.
ところで共通試験は,表1の左欄の「第1 実施の趣旨」にあったように,「基礎的な学習の達成の程度を判定し,大学教育を受けるために必要な能力について把握すること」を目的としている.このうち「大学教育を受けるために必要な能力」とは何かについて,高大接続システム改革会議では,「特に,内容に関する十分な知識と本質的な理解を基に問題を主体的に発見・定義し,様々な情報を統合し構造化しながら問題解決に向けて主体的に思考・判断し,そのプロセスや結果について主体的に表現したり実行したりするために必要な諸能力」としている3).思考力に直接関わる中段部分は,やはり問題解決に向けた主体的活動のなかで,特に「様々な情報を統合し構造化」する認知操作に焦点を当てている.この点で,表2の「マークシート式問題作成の留意点」にみたように,複数のテキストや資料,分野の異なる複数の文章,日常生活や他の教科・科目,社会との関連を取り上げるのは,様々な情報を統合し構造化する力を評価しようとする工夫ともいえる.
もともと,学びが進むこと(熟達化)とは,多様な問題解決の経験を重ねることで断片的な知識情報が有機的に構造化されていき,より深い理解を伴った知識体系になっていくことといってよい4).したがって,問題解決を推進する思考という働きは,知識情報の適切な関連づけや構造化を促進するものである.もちろん,先にみたように教科や領域によって思考の特徴は異なるが,論理的思考や批判的思考を支える関連づけの技能,たとえば情報整理,比較,分類,理由付け,類比,応用,帰納的推理,演繹的推理等はどの領域でも不可欠であろう.初等・中等教育では,これらの要素技能を高めるために「思考ツール」等が活用されている5).
知識情報の関連づけや構造化は高等教育でも重視されており,「深い学習アプローチ」と呼ばれて尺度化もなされている6,7).表3に具体的な尺度項目を挙げる.深い学習アプローチの対極にあるのは,知識情報がばらばらのまま記憶される浅い学習アプローチであり,アクティブラーニング型授業では深い学習アプローチが促進され,浅い学習アプローチが抑制されることが知られている8).学習アプローチと思考スタイル9) との関連を検討した研究では10,11),深い学習アプローチとより創造的で複雑な認知処理を行う傾向が相関し,浅い学習アプローチとより定型的で単純な認知処理を行う傾向が相関していたことから,学習過程で知識情報の関連づけを行うことは確かにより高次の思考を伴っているといえる.なお,この研究では表3に示したものとは異なった学習アプローチ尺度12) を用いているが,両者は概念的にも統計的にもきわめて近いことが確認されている13,14).
因子1 | 因子2 | |
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深い学習アプローチ | ||
できるかぎり他のテーマや他の授業の内容と関連させようとする | .746 | .076 |
自分がすでに知っていることと結ぴつけて,授業内容の意味を理解しようとする | .698 | .018 |
私は,授業内容の意味を自分で理解しようとする | .690 | –.023 |
様々な見方を考慮して,問題の背後にあることを理解することが,私にとって重要だ | .626 | .048 |
新しい考えを理解するとき,それらを現実生活と結びつけようとする | .615 | –.031 |
授業のための読書の際,著者の意味することを自分から正確にわかろうとする | .612 | .001 |
学術的な読書の中で新しい考えに出会ったときは,じっくり考え抜く | .574 | –.012 |
授業で学んでいることについて,自分なりの結論を導くための根拠を注意深く調べた | .536 | –.018 |
浅い学習アプローチ | ||
自分でテーマを考え抜かずに,教えられたことをただただ受け取る | –.153 | .643 |
よりよいやり方を考えずに,ただなんとなく学習してしまうことがよくある | –.049 | .598 |
自分がどこに向かっているか分からなくても,かたちだけで勉強を済ませる | –.037 | .554 |
授業内容を理解するのが難しかった | .173 | .510 |
私が学んできたことの多くは,無関係でばらばらなままになっている | –.038 | .509 |
私は,教えられたことに対して,自分で深く考えずに受け取る傾向がある | .025 | .503 |
授業のテーマは,何を意味しているのか理解できない複雑なやり方で示された | .110 | .481 |
因子間相関 | 因子1 | 因子2 |
因子1 | ― | |
因子2 | –.236 | ― |
以上を踏まえると,多肢選択式の共通試験においては正面から思考力を評価することは難しいが,思考の成果としての深い理解を問う問題や,要素技能としての関連づけを習得知識とともに活用する問題を工夫することで,思考する力を間接的に評価することはできそうである.また,そうした問題は高校教育へも深い学習アプローチを促すメッセージになり,大学教育に円滑につながる学習観を育てられるかもしれない.但し,最初は目新しくとも,解き方の対策がすぐに普及してしまうことが想定されるうえ,先述したように,問題が複雑になると基礎学力以外の要因を反映する可能性が高くなることから,本来の作題意図が実現される問題を作り続けることは至難の業である.この限界を共有しつつ,各大学の個別試験で入学者受入れの方針に基づく思考力評価をいかに行うかの検討が進められ,共通試験と個別試験の適切な役割分担がなされることが急務である.
センター試験と同様,新テストも50数万人の受験者に実施する全国一斉試験である.新型コロナウイルスへの対応で学校教育でも一気にICT活用が浸透しつつあるが,公平・公正を厳しく要請される共通試験では,少なくともしばらくは紙ベースでの集合実施を継続せざるを得ない.そしてこれまで同様,広い学力幅に対応した各教科・科目の試験をそれぞれ短時間で遂行し,かつ短期間の間に採点を完了して各大学に遅滞なく結果を送付しなければならない.
こうした制約のなかで,共通試験ではどのように思考力を評価するのか,あるいはどのような思考力なら評価できるのか.大学入学共通テストは,新学習指導要領下での2024年度以降の入試に向けて作題方針の見直しを行うことも必要になるであろう.時間的余裕が十分ないなかではあるが,高校や利用大学からのフィードバックも受けながら,共通試験の役割を踏まえた思考力評価の方針をさらに明確化し社会的理解を得ていかなければならないのである.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.