薬学教育
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誌上シンポジウム:大学が主体となった薬剤師の質の向上を目指した実務実習の在り方を考える
臨床薬剤師の育成につなげる病院実務実習とは
室井 延之
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2021 年 5 巻 論文ID: 2020-024

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抄録

神戸市立医療センター中央市民病院における11週間の実習プログラムでは,臨床薬剤師の育成に向け段階的にプログラムを改定し,最前線で活躍する薬剤師と医師,看護師,その他のメディカルスタッフなどとのディスカッションを通して,薬剤師の職能を深く学ぶことを重点においている.指導については薬剤師レジデントがプリセプターとして学生を指導するとともに,レジデントには経験年数の近い薬剤師がメンターとしてサポートし,それを認定実務実習指導薬剤師が統括指導する.スタッフ全員が『ともに学び,ともに育つ』ことができる屋根瓦教育体制により疾患や薬物治療に対する理解を深めている.臨床薬剤師の育成にあたっては,実務実習教育と卒後教育とのシームレスな連携が不可欠である.

Abstract

The practical training program at Kobe City Medical Center General Hospital was gradually revised to train clinical pharmacists. Our program focuses on the deep learning of those in the pharmacist profession alongside other medical staff through case conferences. A pharmacist resident guides the student as a preceptor, and the resident is supported by a pharmacist with a few years of experience as a mentor. A certified practitioner provides overall guidance. The Yanegawara-style educational system deepens the understanding of diseases and pharmacotherapy. In order to train pharmacists who can demonstrate higher levels of clinical performance, a seamless integration between practical training and post-graduate clinical pharmacy practice is desired.

はじめに

平成27年度より薬学教育モデル・コアカリキュラムが改訂され(以下:改訂コアカリ),学習成果基盤型教育(Outcome-based Education (OBE))にシフトした.OBEにおける実務実習では,大学-薬局-病院の連携を前提に,医療現場での薬剤師の役割を体得するとともに,自主性をもち,臨床に係る実践的能力を培う「参加・体験型実習」を行うことを目標としている.学生にとって最も必要な事は,医療について深く学び,思い,考え,表現し,問題解決できる資質を身につけ,患者に安全で有効な薬物療法を提供することにより,医療における薬剤師の使命を実感することであるが,実務実習の中で,臨床薬剤師の到達目標をどこに設定し,どこまで行うかについては,今後議論が必要なところである.

本シンポジウムでは神戸市立医療センター中央市民病院(以下 当院)での実務実習プログラムを紹介し,臨床薬剤師育成に向けた薬剤師教育について議論したい.

参加・体験型の質の高い実習のための環境整備

薬学生に均一で質の高い実務実習を提供するためには,より一層,大学,病院,薬局が具体的に連携を深める必要があり,新たな実務実習では,大学が主体的に実習に関わり,実習を行う病院,薬局と連携することや,実習の枠組みが4期制に変更となり,病院と薬局で行われる実習に連続性を持たせることが求められている.さらに,すべての実習生が標準的に広く学ぶ「代表的な疾患」として,がん,高血圧症,糖尿病,心疾患,脳血管障害,精神神経疾患,免疫・アレルギー疾患,感染症が示されており,これらの疾患の患者に可能な限り関わることが必要とされている1).「病院完結型」から「地域完結型」医療への転換が加速度的に進められる中で,医療現場の薬剤師はそれぞれの地域において病院機能の役割を再確認し自分たちの役割を明確にしなければならない.そして学生に対しても病院のミッションに対して薬剤師がどう活躍しているかを伝えることが大切である.

病院のミッションを学生に伝える

当院は「地域住民の生命と健康を守る」ことを使命とする高度急性期病院であり,そのミッションは①救急医療の提供,②高度医療の提供,③臨床研究の推進である.薬剤部では,効果的かつ安全な薬物治療を提供できるよう外来ならびに入院すべての部門に薬剤師を配置し,薬物治療マネジメント等の直接的な支援を行っている.また,適正な医薬品情報提供や確実な医薬品の供給等の後方支援により診療をサポートしている.入院前の薬剤師の介入としては,入院前準備センターに薬剤師を配置し,常用薬の確認など患者の薬物療法に関する情報を正確に把握し的確に医師,病棟薬剤師と共有することで,入院医療をサポートしている.入院中は,一般病棟,ICU・救急病棟すべてに薬剤師を配置し,入院時面談,常用薬の再確認,入院中の薬学的管理,指導,有害事象のアセスメント,退院,転院先への情報提供等等,高密度な薬物療法を支援することで入院から退院まで薬物療法に関する情報が途切れぬよう取り組んでいる.退院支援としては,地域医療連携センターに専任薬剤師を1名配置して多職種からなるメンバーで院内外の部署と連携しながら退院・転院をサポートしている(図1).さらに高度な薬学的知識と技術を身に着け業務を実践できる人材の養成に力を入れている.

図1

入院医療から外来・在宅医療につなぐ薬剤師業務

病院医療の一連の流れの中で,薬剤師が個々の患者に対して,クリニカルクエスチョンを見つけ,ファーマシューティカルケアを行い,QOL向上にどう貢献しているかを示すことがOBEでは重要であると考える.

当院での実務実習プログラムの概要

当院における11週間の実習プログラムは,臨床薬剤師の育成に向け段階的に改定してきた.各期15名の実習生受け入れ,1グループ5名,の3グループに分けて実習を行っている.導入講義では,薬剤師として求められる「基礎的な資質」の基礎を学ぶようにし,講義と同時にスムーズな病棟導入のため,初期にプレ病棟実習を実施している.プレ病棟実習は3週目以降の病棟実習をよりスムーズに開始することを目的とし,シャドーイングを主とした期間である.その後の病棟実習は6週間と十分な期間をとっており,最前線で活躍する薬剤師と医師,看護師,その他のメディカルスタッフなどとのディスカッションを通して,薬剤師の職能を深く学ぶことを重点においている(図2).

図2

実務実習スケジュール

また,継続した薬物治療の管理を目的とした症例報告の作成においては,主病名,入院目的,既往歴,常用薬,アレルギー歴の患者情報と実際の指導内容をSOAP形式で記載することとしており,実務実習教育担当薬剤師のみではなく,病棟担当薬剤師,薬剤師レジデントとディスカッションを行うことで,より疾患や薬物治療に対する理解を深めている.

さらに,学生は実習期間中に一つの研究テーマを持ち,スタッフとともに医療薬学研究に取り組んでいる.研究テーマを考え,方法論を見つけ,実行して結果を出し,プレゼンテーションして伝えることは,臨床上の問題解決のプロセスを学ぶための最適の教育と考える.大学教育においては研究のみに使える時間が少なくなったと聞いているが,卒後教育につながる薬学部での研究も大切である.科学的に考えるプロセスを学ぶとともに,研究により地道な努力からの忍耐力,共同研究によるコミュニケーション力,ヒト・生命への興味・畏敬の念を養うことは,それが基礎研究であっても現場で働く際に患者の利益,医療の質向上へ貢献につながるものと考えている.

学生の指導については薬剤師レジデントならびに2年目の正規職員薬剤師がプリセプターとして学生を指導するとともに,薬剤師レジデント,職員薬剤師には経験年数の近い薬剤師がメンターとしてサポートし,それを認定実務実習指導薬剤師が統括指導する(図3).薬剤師レジデント,職員薬剤師が実習生の指導を担当することで,スタッフ全員が『ともに学び,ともに育つ』ことができる屋根瓦教育体制を実現している.初期臨床研修を効果的なものにするためのシステムとして,屋根瓦方式の指導組織体制の有用性が報告されている2,3)

図3

屋根瓦方式を活用した実習プログラム

当院の薬剤師レジデントプログラムは2年間のプログラムで構成されている.1年目は医療薬学一般コースとして,臨床薬剤業務に必要な知識・技能を修得し,2年目は医療薬学専門コースとして,さらに高度な臨床薬剤業務,チーム医療を実践できる能力を修得するプログラムである(図44).また,薬剤師レジデント制度と並行して,目標を持って高度な臨床業務に適応し,各自の多様性に対応できる実践型の新人教育プログラムも導入している.

図4

薬剤師レジデントプログラムの概要

次世代を担う臨床薬剤師の育成と組織づくり

6年制教育の中で,広く薬剤師としての人格を涵養し,患者を全人的にとらえることができる臨床薬剤師を養成するためには,卒後教育制度へのシームレスな受け渡しが不可欠と考える.実務実習においては『代表的な8疾患』,『薬剤師連携』の在り方が大きな課題とされているところであるが,受入施設が改訂コアカリについて十分理解し,学生の達成度を正確に評価・フィードバックできる体制を図るとともに,実務実習から卒後教育,そして専門薬剤師育成へのつながる教育プログラムや到達すべき目標設定等の整合性についても議論を進めていく必要がある.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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