薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
実践報告
がん化学療法を受ける患者に対する薬学実習生の着眼点の把握
―テキストマイニング法を用いた解析―
緒方 憲太郎安高 勇気知念 祥太郎中島 勇太佐々木 秀法吉川 千鶴子髙松 泰神村 英利
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 5 巻 論文ID: 2020-041

詳細
抄録

薬学教育領域において質的研究のアプローチとしてテキストマイニング法が用いられているが,薬学実習生が実習においてどのように患者を薬学的に管理しようとしたか,また何を大切と感じたかの報告は無い.本研究では実習生ががん化学療法を受ける患者を担当した場合に,これらがどのような傾向にあるかテキストマイニング法を活用して検討した.その結果,薬学的管理の目標では,多くの実習生は治療に伴う「副作用」を注視していた.また,実習では様々な面から患者のために「考える」ことが最も大切とし,中でも治療目標として治癒を目指す患者を担当した実習生では「目標」,「ゴール」が,延命・症状緩和を目指す患者を担当した実習生では「QOL」が特徴的な言葉として抽出された.実習生の着眼点を把握し,その視野を広げてやることで本実習では治療目標,治療効果および副作用などの様々な面から実習生を患者と向き合わせることができると考える.

Abstract

The text mining analysis method is often used in pharmaceutical education qualitative research to draw out words that characterize a key point or idea. There were no reports in Japanese on how pharmacy students practice pharmaceutical management and what they felt was important during their practical training using this method. This study used text mining to examine the trends among students who had charge of patients receiving cancer chemotherapy. The results indicated that many students responded with the words “side effects” in association with treatment in pharmaceutical management goals. During the practical training, they placed the most importance on “thinking” about the patient. Also, treatment “objectives” and “goals” were characteristic words from the students who had the charge of patients expected to recover. On the other hand, “QOL” was a distinct word from students in charge of patients receiving life extension and symptomatic relief treatments. It was concluded through the text mining analysis that students developed and expanded perspectives during their training to assist patients with treatment goals, treatment outcomes, and side effects.

緒言

薬学教育において2015年度より改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラム(以下,改訂コアカリ)1) が施行され,実務実習は薬学部で学んできた知識・技能・態度を基に臨床現場で「基本的な資質」の習得を目指し実践的な臨床対応能力を身に付ける参加・体験型学習との位置付けとなった.

福岡大学病院(以下,当院)では,2010年の6年制実務実習開始時から薬学実習生を1期最大32名,年間3 期受け入れており,1期実質53日間のうち26日間を病棟での実践実習に充てている.この病棟実習において実習生は代表的な8疾患(がん,高血圧症,糖尿病,心疾患,脳血管障害,精神神経疾患,免疫・アレルギー疾患,感染症)の患者の薬物治療に継続的に関わりながら改訂コアカリF:薬学臨床の(3)「薬物療法の実践」,(4)「チーム医療への参画」を学ぶ.チームとは「共通の目的のために共に行動する集団」であり,チーム医療とは「医療に従事する多種多様な医療スタッフが,各々の高い専門性を前提に,目的と情報を共有し,業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い,患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と一般的に理解されている2).当院の腫瘍・血液・感染症内科(以下,腫瘍内科)における病棟実習では実習生をこのチームの回診や治療に参加させ,その中で指導者が実習生に治療効果などを把握させることで,治療目標を意識付けさせている.すなわち『Pharmaceutical care』の定義3) に記されている“患者の保健及びQOL向上という明確な結果をもたらすために,はっきりとした治療効果を達成するとの目標を持って”薬物療法を受ける患者に向き合うことを実習生に意識させるべく実践している.また,実習生はカルテと患者面談からの情報だけで薬剤師として何をすべきか考えがちになるため,この実習では患者面談の時間以外に回診やカンファレンス参加の他,検査や処置および治療の際にも他職種と共に患者のもとに向かい,他職種からの情報も含めた患者情報が把握できるよう患者中心のスケジュールで構成している.

この実務実習をはじめとする薬学教育領域においても質的研究のアプローチとしてテキストマイニング法が用いられている.この手法は実務実習レポートや日誌の分析46),指導薬剤師の行動に関する分析7),実習生の感想文からコミュニケーションに注目した解析8) をはじめ,実務実習と薬学部授業や事前学習を含めた研究911) に応用されているが,実習生が実習においてチームの中でどのように患者を薬学的に管理しようとしたか,また実習生は患者と向き合う過程において何を大切と感じたかの報告は無い.本研究では実習生ががん化学療法を受ける患者を担当した場合に,これらがどのような傾向にあるか,また医療チームの一員として治療目標を意識するかテキストマイニング法を活用して検討したため報告する.

方法

1.対象

2018~2019年度に当院で実務実習を行った福岡大学薬学部5年生全162名を対象とした.

2.病棟実習スケジュール

病棟実習は初日に実習生が1年次より繰り返し学んできた『Pharmaceutical care』や『Evidence based medicine』などをキーワードとしたオリエンテーションを行い,その後,必須である腫瘍内科と脳神経内科・外科を各6日間,その他の診療科での実習を13日間,計26日間実施した.腫瘍内科病棟実習のスケジュールを図1に示す.この実習において実習生は初日に担当患者(他の実習生と重複して担当しない1症例)の原疾患とその治療目標(治癒または延命・症状緩和)を含む患者情報を把握して「薬学的管理目標」を立てた.そして毎朝病棟のカンファレンスに参加し,その後,医師の回診(担当患者以外も含む)に同行した.その際,医師の診察後,可能であれば患者の了承と医師の指導の下に実習生も触診などを行い,主に治療前後の変化を確認した.また,担当患者に限らず予定があれば骨髄穿刺生検や腰椎穿刺などの検査やカテーテル挿入などの処置を見学し,がん化学療法施行に立ち会う際に投薬前後や投与中の確認を行い,担当患者であればそこで実習生は患者面談も行った.さらに週に1度医師,看護師,薬剤師,栄養士,作業療法士などで構成する多職種カンファレンスに参加し,それ以外の時間は患者面談と患者対応,他の医療スタッフへの提案・情報提供(処方提案等含む)に充て,1日の終わりに薬剤管理指導録を記録した.また,実習生同士で担当患者の情報を共有し,最終日には「この実習において一番大切だと思った事」を自由記載した.

図1

腫瘍内科病棟実習.腫瘍内科病棟での実習スケジュールと実習生への指示内容

3.調査項目

腫瘍内科病棟実習において実習生が担当した患者の原疾患(がん種)と治療目標,実習生が初日に作成した「薬学的管理目標」,最終日に作成した「この実習において一番大切だと思った事」を後ろ向きに抽出した.

4.解析法

テキストデータである自由記載「薬学的管理目標」,「この実習において一番大切だと思った事」を全体と担当患者の治療目標別(以下,『目標-治癒』,『目標-延命・症状緩和』)にText Mining Studio 5.0.2(NTT DATA Mathematical Systems Inc.)を用いて解析した.解析項目は,単語数,単語頻度解析,特徴語抽出,さらに「この実習において一番大切だと思った事」の共起解析を行った.なお,テキストデータの解析に際して,「患者」,「患者さん」を「患者」にするなど,類義語は同一単語に統一した.また,特徴語抽出にはχ2検定よりも有効な補完類似度を用い,図2に示す算式より算出した補完類似度を指標値に用いて解析した12)

図2

補完類似度の計算方法.

5.倫理的配慮

本研究は,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日通達,厚生労働省)に従い「福岡大学医の倫理委員会」に申請した結果,委員会より本研究は研究倫理指針に該当せずと判断され,研究倫理審査対象外となった.しかし,調査実施に際しては実習生に対し調査実施の目的,調査への参加は本人の自由意思であり不参加であっても一切の不利益は無いこと,途中でも参加の撤回ができること,調査は無記名で行い個人は特定されないこと,及び調査結果は学会などで公表する場合があるが個人は特定されないことを文書及び口頭で説明し,同意書を得た.また,患者への倫理的配慮として,実習生は知り得た患者情報の漏洩など無いよう,当院の規約を遵守する旨の誓約書を実習開始前に提出しており,さらに本研究対象の文書を含むすべての実習成果物には,氏名,生年月日などの患者の特定につながる記載をしないことを遵守した.

結果

1.担当患者の原疾患と治療目標

実習生が担当したのべ162症例の原疾患は非ホジキンリンパ腫が82例(51%),成人T細胞性白血病リンパ腫が30例(19%),急性骨髄性白血病が20例(12%),ホジキンリンパ腫,乳がん,慢性骨髄性白血病が各々6例(4%),多発性骨髄腫,肉腫,その他(胚細胞腫瘍,小細胞癌,中皮腫および原発不明がん)が各々4例(2%)であった.うち83例は「治癒」を目指し,79例は「延命・症状緩和」を治療目標とし,全ての症例においてがん化学療法が施行された.

2.テキストデータの解析

1)「薬学的管理目標」

全単語数は2,646単語であった.単語頻度解析で全体の上位30語を抽出したところ「副作用(94回)」が最も頻度が高く,次いで「確認(56回)」,「患者(53回)」,「行う(44回)」,「治療(30回)」であった.これを治療目標別に見ても上位はほぼ同様の結果であり,上位10位までに9語が共通するほか,『目標-治癒』では「不安(10回)」,「便秘(9回)」が,『目標-延命・症状緩和』では「モニタリング(17回)」,「抗がん薬(10回)」が上位に抽出された(表1).また指標値を用いた特徴語抽出を行うと『目標-治癒』では「確認(9.317)」,「投与/検査値(5.878)」,「対処(4.939)」,「末梢神経障害(4.915)」,「下痢(4.89)」,「便秘(4.842)」,「不安(4.817)」,「伝える/出血性膀胱炎/ビンクリスチン(3.951)」,「聞く(3.927)」が,『目標-延命・症状緩和』では「行う(10.538)」,「モニタリング(10.294)」,「患者(7.648)」,「注意(7.306)」,「向上(7.11)」,「負担(5.086)」,「継続/アドヒアランス/QOL(5.061)」,「痛み(4.122)」が上位10語であった.なお,実習生1名あたりの平均文字数は81文字であった.

表1 「薬学的管理目標」の解析
単語頻度解析 特徴語抽出
全体(n = 162) 治療目標 治癒(n = 83) 治療目標 延命・症状緩和(n = 79) 治療目標 治癒(n = 83) 治療目標 延命・症状緩和(n = 79)
単語 頻度(回) 単語 頻度(回) 単語 頻度(回) 単語 指標値 単語 指標値
副作用 94 副作用 46 副作用 48 確認 9.317 行う 10.538
確認 56 確認 33 患者 30 投与 5.878 モニタリング 10.294
患者 53 患者 23 行う 27 検査値 5.878 患者 7.648
行う 44 行う 17 確認 23 対処 4.939 注意 7.306
治療 30 治療 16 モニタリング 17 末梢神経障害 4.915 向上 7.11
注意 25 13 注意 16 下痢 4.89 負担 5.086
モニタリング 24 症状 12 治療 14 便秘 4.842 継続 5.061
24 考える 11 11 不安 4.817 アドヒアランス 5.061
症状 22 不安 10 抗がん薬 10 伝える 3.951 QOL 5.061
考える 21 便秘 9 考える 10 出血性膀胱炎 3.951 痛み 4.122
抗がん薬 17 注意 9 症状 10 ビンクリスチン 3.951 疼痛 4.049
副作用モニタリング 16 検査値 8 対応 8 聞く 3.927 抗がん薬 3.208
不安 15 有無 8 化学療法 8 抑える 3.903 副作用 3.149
化学療法 15 提案 8 副作用モニタリング 8 有無 3.854 指導 3.135
予防 14 予防 8 痛み 7 提案 3.854 服用 3.11
対応 14 副作用モニタリング 8 指導 7 嘔気 2.964 対策 3.11
軽減 14 軽減 7 FN 7 面談 2.964 把握 3.061
薬剤 13 化学療法 7 薬剤 7 奏功 2.964 慢性 3.037
便秘 13 抗がん薬 7 観察 7 処方 2.964 鎮痛薬 3.037
観察 13 モニタリング 7 軽減 7 2.964 上昇 3.037
有無 12 可能性 6 改善 6 悪心 2.964 高血圧 3.037
提案 12 骨髄抑制 6 予防 6 フィルグラスチム 2.964 血液検査 3.037
FN 12 薬剤 6 努める 5 サポート 2.964 起きる 3.037
指導 11 観察 6 骨髄抑制 5 R-EPOCH療法 2.964 含める 3.037
骨髄抑制 11 対応 6 不安 5 変更 2.939 ステロイド 3.037
改善 11 努める 5 可能性 4 退院後 2.939 よる 3.037
努める 10 改善 5 有無 4 説明 2.939 EPOCH療法 3.037
痛み 10 FN 5 提案 4 腫瘍崩壊症候群 2.939 対応 2.171
検査値 10 指導 4 便秘 4 経過 2.939 FN 2.147
可能性 10 痛み 3 検査値 2 リツキシマブ 2.939 目指す 2.122
プレドニゾロン 2.939

上位30語

全体と治療目標別に見た単語頻度解析(左)と治療目標別に見た特徴語抽出(右)で上位30語を抽出した.

2)「この実習において一番大切だと思った事」

全単語数は2,736単語であり,単語頻度解析では全体で「患者(137回)」,「考える(62回)」,「副作用(30回)」,「把握(27回)」,「薬/自分(25回)」が上位を占め,治療目標別の上位10語で9語が共通する他,『目標-治癒』では「問題(10回)」が,『目標-延命・症状緩和』では「情報(14回)」,「行う(11回)」が上位に抽出された(表2).治療目標別に特徴語抽出を行うと『目標-治癒』では「患者(13.29)」,「病態(6.175)」,「調べる/起こりうる(5.549)」,「起こる(5.483)」,「目標(4.648)」,「症状(4.515)」,「対処(4.439)」,「問題(3.889)」,「とる(3.747)」が,『目標-延命・症状緩和』では「病気(5.198)」,「確認(4.989)」,「起きる(4.505)」,「会話(4.297)」,「抱える(4.088)」,「分からない/姿勢(3.604)」,「目(3.396)」,「QOL/引き出す(2.703)」が上位10語であった.なお,実習生1名あたりの平均文字数は84文字であった.また,実際の記述には『患者の治療のゴールを把握し,薬剤師として自分に何ができるか考えること』,『薬剤師として患者のために何ができるか考え,それを実践すること』,『患者のQOL向上を目指して信頼関係を構築し,患者の心に寄り添った応対を行うこと』,『副作用のみならず,何が問題か考えること』,『カルテだけでなく患者自身から情報を得ること』などがあった.

表2 「この実習で一番大切だと思った事」の解析
単語頻度解析 特徴語抽出
全体(n = 162) 治療目標 治癒(n = 83) 治療目標 延命・症状緩和(n = 79) 治療目標 治癒(n = 83) 治療目標 延命・症状緩和(n = 79)
単語 頻度(回) 単語 頻度(回) 単語 頻度(回) 単語 指標値 単語 指標値
患者 137 患者 68 患者 69 患者 13.29 病気 5.198
考える 62 考える 27 考える 35 病態 6.175 確認 4.989
副作用 30 副作用 15 副作用 15 調べる 5.549 起きる 4.505
把握 27 症状 13 15 起こりうる 5.549 会話 4.297
25 把握 13 情報 14 起こる 5.483 抱える 4.088
自分 25 治療 12 自分 14 目標 4.648 分からない 3.604
症状 24 自分 11 把握 14 症状 4.515 姿勢 3.604
治療 24 問題 10 治療 12 対処 4.439 3.396
情報 23 知識 10 行う 11 問題 3.889 QOL 2.703
知識 21 10 知識 11 とる 3.747 引き出す 2.703
行う 20 起こる 9 症状 11 検査値 3.68 場面 2.627
できる 18 検査値 9 不安 10 評価 3.538 重要性 2.627
問題 18 行う 9 理解 10 3.538 伺う 2.627
理解 17 情報 9 できる 10 必要 3.472 経過表 2.627
検査値 16 病態 8 知る 9 想定 3.329 話し合う 2.627
知る 16 必要 8 確認 8 素早い 3.329 医療 2.627
不安 16 できる 8 問題 8 性格 3.329 対応 2.627
起こる 14 薬剤師 7 7 根拠 3.329 情報 2.627
必要 14 ゴール 7 検査値 7 向き合う 3.329 分かる 2.495
コミュニケーション 13 面談 7 聞く 6 つける 3.329 判断 2.495
ゴール 12 コミュニケーション 7 コミュニケーション 6 薬剤師 3.263 困る 2.495
聞く 12 知る 7 必要 6 面談 3.263 感じる 2.495
面談 12 理解 7 見る 5 ゴール 3.263 2.418
薬剤師 12 予測 6 予測 5 副作用 3.13 不安 2.352
12 状態 6 状態 5 持つ 3.054 問題点 2.286
予測 11 聞く 6 薬剤師 5 解決 2.846 得る 2.077
病態 11 不安 6 面談 5 カルテ 2.846 気持ち 2.077
状態 11 見る 5 ゴール 5 話す 2.637 良い 1.802
見る 10 5 起こる 5 予想 2.637 目線 1.802
確認 10 確認 2 病態 3 治療 2.504 毎日 1.802

上位30語

全体と治療目標別に見た単語頻度解析(左)と治療目標別に見た特徴語抽出(右)で上位30語を抽出した.

3)「この実習において一番大切だと思った事」におけることばネットワークを用いた共起解析

ことばネットワークを用いて「この実習において一番大切だと思った事」において頻出が一番高かった「患者」に注目した共起解析を行った結果,「患者」は様々な語と共起関係にあるが,特に「コミュニケーション」,「話」,「薬剤師」,「治療」,「状態」,「ゴール」,「検査値」,「病態」,「不安」,「起こる」,「症状」,「知る」,「聞く」と強い共起関係にあった(図3).

図3

「この実習で一番大切だと思った事」における「患者」に注目した共起解析.一番高頻度であった「患者」と共起関係にある語をことばネットワークで解析した.共起関係が強いほど太いエッジ(線)で表示される.

考察

実習生が自由記載した「薬学的管理目標」の全体での単語頻度解析で「副作用」が最も頻度が高く,次いで「確認」,「患者」,「行う」,「治療」であった.このことからがん患者を担当する多くの実習生は治療に伴う副作用の発現を念頭に置き,その確認を行っていくことを薬学的管理目標に設定していると考えられる.また,この他に「モニタリング」,「副作用モニタリング」,「予防」,「対応」,「軽減」,「便秘」,「FN(発熱性好中球減少症)」,「骨髄抑制」が抽出され,やはり副作用を重視している傾向が強い.さらに,治療目標別の特徴語抽出で『目標-治癒』では「末梢神経障害」,「下痢」,「便秘」,「出血性膀胱炎」,「嘔気」,「悪心」,「腫瘍崩壊症候群」といった具体的な副作用が抽出され,『目標-延命・症状緩和』では「モニタリング」,「負担」,「アドヒアランス」,「QOL」,「痛み」,「疼痛」,「副作用」など,治療に伴う負担や副作用,症状によるQOLの変化に着目していることが伺える.がん化学療法は効果を最大限に発揮し,ほぼ必発する様々な副作用を最小限に抑えることが理想である.よって薬剤師には副作用の予防や軽減に向けたマネジメントに最善を尽くすことが求められ,これが治療完遂につながるため大変重要な点である.全体的に実習生は担当した患者に起こりうる副作用に目を向け,安全面からがん化学療法を捉えていることがわかった.

がん化学療法を受ける患者は治療や副作用に対してのみならず,様々な不安と苦痛を抱えている13).今回,「薬学的管理目標」の単語頻度解析において「不安」が抽出され,また,ことばネットワークを用いた共起解析においても「患者」は「不安」,「コミュニケーション」と強い共起関係にあった.実習生が患者とコミュニケーションをとり,患者の様々な思いを共有し,共感する機会を得ることは貴重であり,「患者」という存在をより深く理解することにつながると考える.

実習生が担当した患者の疾患で多かった非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病リンパ腫では,治療後速やかに表在リンパ節の腫脹が軟化,縮小および触知不能となる場合が多く,回診の際,実習生が触診でこの治療前後を比較することで治療効果が実感できる.これにより実習生にがん化学療法を効果の面から捉えさせ,治療目標やそれに向けた患者の保健及びQOLの向上を意識させられると考える.なお,実習生には表在リンパ節の一時的な縮小を認めても全体の治療効果判定や予後には直結しないことを復習させる必要がある.しかし,悪性リンパ腫,白血病および胚細胞腫瘍はがん化学療法を中心とした治療を完遂することにより治癒を「目標」として目指すことができる場合があり,一方,そうで無い場合は「QOL」を重視した延命や症状緩和のための治療が実施される.この治療目標の意識を反映したためか「この実習において一番大切だと思った事」の『目標-治癒』の特徴語抽出で「目標」,「ゴール」が,また『目標-延命・症状緩和』の特徴語抽出では「QOL」が抽出された.なお,この全体での単語頻度解析で「副作用」,「症状」,「治療」などを「把握」して,それに対して「患者」のために何ができるか「考える」ことが一番大切だと認識していることがわかる.

本研究においてテキストマイニング法を活用して解析した結果,多くの実習生はがん化学療法を受ける患者を担当する際,治療に伴う「副作用」を注視した.また,実習後は様々な面から患者のために「考える」ことを最も大切とし,中でも治療目標として治癒を目指す患者を担当した実習生では「目標」,「ゴール」が,延命・症状緩和を目指す患者を担当した実習生では「QOL」が特徴的な言葉として抽出された.実務実習は実習生が患者から多くのものを学ぶことができる参加・体験型学習である.本実習では治療目標,治療効果および副作用などの様々な面から実習生を患者と向き合わせることで,多くの実習生は医療チームの一員として,薬の副作用だけでなく,治療目標まで意識できるようになることが判った.

本研究の限界として,実習生のテキストデータを全体のデータとして解析しているため,個人毎のデータ解析ができないこと,また,テキストマイニング法により傾向を把握したに過ぎず,他の教育法と比較したものではないことが挙げられる.

なお,本報告ではがん化学療法を受ける患者において検討したが,それ以外の疾患ではどのような傾向があるか今後も検討を重ねていきたい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2021 日本薬学教育学会
feedback
Top